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2019年のニットの色を決める/アランニット制作日記 7月後編

 形を選ぶと、次は色だ。アトリエにあるニットの多くは、クリーミーな白い糸で編まれたアランニット。白さが特徴のニットを、染料で染めてゆく。

「このニットはそもそも、後から染めるってことを想定して作られてないんです。赤いニットが欲しかったら、最初から赤い糸を買ってきて編みますよね。それを後から染めようとすると、それぞれ染まり方が違うんです。どこのウールを使っているかによって染まり方が違ったり、糸の太さなど紡績方法によっても違ったりするんですよね。

 だから、『なんとなくこんな色になるだろうな』と思いながら染めに出してみても、思った以上に染まってしまったり、全然染まらなかったりすることもあります。同じブランドや似た質感のウールだと他の人が編んでも同じ色に染まることが多いので、過去に染めたニットの端切れをサンプルとして、こうやって残してあるんです」

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大きなニットを小さく編み直すときに出たハギレも再利用して。色を確認するテストピースとして使っている。

 染めの作業はアトリエではなく、工場に出して染めてもらっている。まずは7月のうちに「サンプル」を工場で染めてもらって、そのあとで「量産」してもらうのだという。しかし、YUKI FUJISAWAで扱うニットはヴィンテージで、いずれも一点限りのものだ。そこで言う「サンプル」とは一体何を指すのだろう?

 「そう、私の場合は扱うニットが全部一個一個違うから、染めても必ずブレが出るんです」とゆきさんは言う。

「でも、そもそもニットがその染め方に耐えうるかどうか、チェックする必要があるんです。ヴィンテージにはどうしても個体差があるので失敗することも多くて、物によっては糸の経年変化が進んでいて染めると破れてぼろぼろになってしまうこともあります。

 悲しかったのは、濃い色に染めたニットに箔を載せてみたら、箔が全部変質してぼろぼろになったことがあって。染料と箔の相性が悪いと、化学変化してしまうんです。それは一個ずつプリントしてみないとわからないことなので、そのためにも、試し書きのような形で『サンプル』が必要で、それがクリアできると他の『ヴィンテージ』も染めに出して、量産に入るんです」

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2015年の幻のコレクションより。サンプルのみで実際の販売は実現しなかったネイビー色。

 今年はどの色に染めるのか。過去に染めたサンプルの端切れだけでなく、カラーチップをテーブルに広げて、ゆきさんは頭を悩ませている。

「ニットは2011年ぐらいからほそぼそ取り組むようになって、最初は2、3着だけ作ってみたんです。そこから次の年は50着、100着、150着と、ちょっとずつ増やしてきたんですけど、自分の中では『もう十分作ったな』という感覚があって、それで去年はニットをやらなかったんです。最初の頃は自分の手で染めていて、途中から工場さんで染めてもらうようになって――もう自分で作りたい色は一通り作り終えたなと思ったんです」

 今年、再びニットを取り扱う上で、ゆきさんは新しい試みを行ったのだという。Instagramを使って、「今年は何色がいいですか?」とアンケートを取り、意見を募ったのだ。回答として上がったのは、ピンクや水色、生成りや緑など、過去に取り組んだ色が多かった。ただ、一番多い回答は、これまで扱ったことのない紫色だった。

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「これまで私が好んで使ってきた色がいくつかあるんですけど、紫というのは考えてなくて新鮮に感じました。これまでは自分が表現したいものを受け取り手のお客さまに渡してきた感覚があったのですが、今はもっと着用してくれている人たちの声を聞きたい気持ちで。なので、一色は皆が着たい色を入れてみよう、と。

 今年の3月に『'1000 Memories of' 記憶のWorkshop』というのを開催して、参加する方に1番大切な「記憶」として写真や手紙を持ってきてもらい、箔に写し取るというワークショップを開催したんです。そのとき、その写真や手紙にまつわる皆さんの記憶を聞かせてもらって。そのワークショップが経てから『もっと皆の話を聞きたい』というモードになったのか、作り方の気持ちが変わってあのワークショップを開催するに至ったのかな…。だから今は寄り添いたい気持ちが強くて、それで今年はお客さまにアンケートを取ることにしたんです」

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2019年3月に原美術館で発表した '1000 Memories of' 記憶のWorkshop より

 そうして一つは紫に染めると決めたものの、紫という色にもかなりの幅がある。

「スミレや藤の花のようなやさしい紫色にしようと思いながらも、柔らかいと可愛いくなり過ぎるし、濃すぎれば主張の強い色ですし、どの塩梅にするかすごく迷ってます。性別を問わず着られるというのがYUKI FUJISAWAの中の一つのテーマとしてあるので、そこをうまく乗り越えたいです」。何度もカラーチップを繰りながら、ゆきさんは迷い続けていた。

 アトリエにお邪魔した1週間後、メールが届いた。「色、ようやく決まりました!」という言葉とともに、1枚の画像が添付されていた。そこには少し暗めの青紫色と、濃いめのネイビーが写っていた。

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【アランニット制作日記 8月】 へ続く

words by 橋本倫史


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