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『仕事ができない部下を持つ上司にオススメ』もし部下が発達障害だったら 著者:佐藤 恵美【読書記録】

どんな書籍か?

タイトル

もし部下が発達障害だったら

著者

佐藤 恵美

読み終えるまでの平均時間

2時間4分

なぜ、読もうと思ったのか?

後輩に発達障害の可能性がある人が居るので理解を深めるために。

本の種類

Kindleunlimited

感想

タイトルと内容の一致度【100】
読みやすさ【90】
内容の満足度【90】

『自分の特徴を知って、それをどう活かして生きていくか』ASD.ADHD.聞いたことあるけど詳しくはわからない。そんな人にオススメです。人口の約5%くらいに発達障害の可能性があります。消して少なくない数です。人と違う、仕事ができない、それは発達障害という個性だと考えると関わりやすくなると思います。私はHSP気質で今回のASD.ADHDと非常に似ています。なので、発達障害の人達のことは少し分かります。まず、自分が発達障害なのではないか?と仮説を立てて調べてみると少しは生きやすくなります。

どんな人におすすめできる本か?

・仕事のできない部下を持つ上司
・なんか生きずらいなと思う人
・発達障害について知りたい人

読むとこんな変化が感じられます。

・HSPと発達障害は似ている
・私の部下はほぼ確実に発達障害だと思う
・発達障害の人を教育することで会社全体が良くなっていくと思う

いつ読み返すべきか

・発達障害について詳しくなりたいとき

気になった部分抜粋

「おまえ、なぜ何度言っても同じミスを繰り返してばかりなんだ? 発達障害なんじゃないか? 病院に行って調べてもらってこい」

さらに、こうした言葉が上司から出るということは、本人の苦しみはもちろん、職場の周囲も困り果て疲弊し、どうしてよいか分からず、職場全体の健康が失われてしまっているのではないかとも危惧されます。職場における発達障害は、もはや個人の課題だけではなく、組織全体の課題になっていると言ってもよいでしょう。

実際には、発達障害の診断を受けた人の中には、診断によって「ほっとした」「納得した」と言う方も少なくありません。それまで長い間、「なぜ自分はうまくいかないのだろう」「なぜ皆のようにできないのだろう」と悩み、自分を責めてきたけれども、「自分は悪くなかった」「そういう理由だったのだ」と自分自身を理解できることは、大きな救いにも、新たな道を踏み出す一歩にもなるからです。 自分を知り、理解するということは新たな一歩を踏み出すためには最も重要なターニングポイントになるのです。

診断名がつくかどうか」ではなく、「自分の特徴を知って、それをどう活かして生きていくか」 だと思っています。

筆者は、職場のメンタルヘルスを専門とするクリニックと、クリニックに併設するEAP(Employee Assistance Program)サービスを提供する機関に身を置くカウンセラー(ソーシャルワーカー)です。そこで培った心理・社会的支援の視点で、職場の発達障害についてお話しします。

本書の特徴は下記の通りです。 ①心理・社会的な支援者の立場で書いています ②発達障害と言われる人たちの中でも、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠如/多動性障害(ADHD)の特徴を持つ人を対象として書いています ③診断の有無にかかわらず、いわゆるグレーゾーンの人たちを想定しています ④すでに職を得て仕事をしているけれども、うまくいかない状況にある人たちを想定しています ⑤上記の人たちを職場でマネジメントする立場の人に役立つ内容です ⑥職場における具体的なエピソードや事例を多く用いています。

しかし本来的には、「異動」という その場しのぎの対処だけでなく、Mさんをどうマネジメントするのか、というところが課題であると言えます。

発達障害は脳機能の発達のアンバランス

さて、私たちの脳には、たとえば見る、聞く、言葉を話す、書くなどの機能、考える機能、感情をつかさどる機能など、実にさまざまな機能があります。また、論理的・科学的思考もあれば、直感や創造性、空間の把握など、考える機能もいろいろです。 人の顔が皆違うように、こうした脳の複雑な機能にもまた、それぞれ少しずつ違う特徴があります。それが時に「個性」と呼ばれることもあるでしょう。しかし、 これらの脳機能の発達のアンバランスさが生まれつき顕著であるために、社会生活に様々な困難をきたしてしまうのが発達障害です。

生まれつきの脳の特徴からくるということがなかなか理解されず、親の育て方の問題や本人の努力不足であると誤解されてしまうことも少なくありません。 発達障害は、生まれつきの脳の機能の発達のアンバランスさからの特徴ですから、乳幼児期や学童期にもそれに起因する行動の特性は現れています。乳児期であれば、あやしても笑わないとか、触られるのを嫌がるなどが見られます。幼児期や学童期には、同じ遊びを何度も繰り返す、おもちゃの配列にこだわる、他の子どもに関心が無い、極端な偏食、集団行動ができないなどが見られることがあります。   基本的に、その特徴は成長しても、大きく変化することはありませんが、特徴の程度が強くない場合や、成長するにつれてうまく対処する方法を編み出すなどして、次第に特徴が目立たなくなる場合があります。 乳幼児期や学童期に、養育者が育児のしづらさを感じることがあったり、学校では少し変わった子どもだと思われることがあったりしても、相談機関や医療機関を訪れることなく、診断や支援を受ける機会を得ずに青年期や成人期を迎えることもあります。   しかし、環境変化があった場合、 特に就職して社会に出ると、周囲からの要求される水準や質が変わるため、それまで目立たなかった特徴が職場の対人関係や業務遂行における「トラブル」として顕在化してくることがあります。 そして、トラブルの連続の中で、ストレスが増大した結果、抑うつ状態となり医療機関を受診するケースも増えています。

ASDの主要な特徴は、「社会的なコミュニケーション・対人関係の持続的な難しさ」と「限定された反復的な行動、興味、活動」です。つまり、 対人関係がうまくできないことと、行動や興味などにおいて独特のこだわりを示すことが、障害の中核的な特徴です。 ADHDは、「不注意」と「多動性および衝動性」によって特徴づけられます。 注意を継続できない、集中できない、落ち着きがなく、待つことができない、ということが、障害の中核的な特徴となります。 また、ASDとADHDが併存している場合もあります。

昨今、「大人の発達障害」という言い方がよくされますが、それはあたかも大人になってから発現した障害であるかのように聞こえてしまうかもしれません。しかし、前述のように、発達障害は生まれつきのものですから、大人になってから障害が生じるということはなく、「発達障害を持った人が成人に達した」という意味です。

苦手なことをカバーするために、後天的に身に着けた機能を「代償的機能」と言います。発達障害の特徴によって、なかなかうまくできないことがあった場合に、それを補うために独自に編み出し、獲得した自分なりのスキルです。

このような代償的機能は、苦手なことを自分なりにカバーしようとして獲得したやり方ですから、 本来の特徴を抑えることや、代償的機能を動員することは、本人が自覚している以上に多大な労力を要し、ストレスがかかったりします。 「過剰に適応」しようとして「適応できなくなる」というのも、こうしたことが影響していると考えられます。

人が健やかに生きていくためには「忘れる」という機能はとても重要です。 もしも毎日、すべての出来事を克明に記憶できるとしたら、そのストレスは、はかり知れません。たいていの場合、嫌なことがあっても、リアルな場面や感情は一晩眠ればおおむね薄れますし、1~2週間もすれば思い出すこともなくなるでしょう。 しかし、 発達障害の特徴を持つ人は、特に嫌な場面の記憶をリアルに覚えていて、時にそれがフラッシュバックするという体験をよくすることがあります。

ASDに見られる特徴   ① 人との関係が苦手

② 感情のコントロールが苦手

③想像することが苦手   今、目の前に起こっていないことや、新しいこと、経験したことのないこと、明確に教えてもらっていないことを想像することが苦手です。ですから、先を見通したり、見当をつけたり、ほかに応用して考えたり、試行錯誤することが困難になります。 逆に、想像力を必要としない、手順や方法が明確に決まっていることや、枠組み通りに行うこと、ルールに乗っ取って考えることはスムーズにできますので、そうしたやり方を好む傾向にあります。

このような特徴を持っていると、 決まっていた事柄や手順が急に変更になったりすると、大変狼狽してストレスに感じますし、決まったことが頻繁に変更される職場や曖昧な言い方をする人などに対して、ネガティブな感情を抱いてしまう ことになります。

④ 曖昧なこと、目に見えないものが苦手

③ の 想像 する こと が 苦手 という こと に 密接 に 関係 する 特徴 です が、 目 に 見え ない もの を とらえる のが 苦手 です。 目 に 見え ない もの とは、 他者 や 自分 の 感情 や その 度合い、 疲労 感 や 困り 感 などの 感覚、 物事 の 文脈 による ニュアンス や 程度 など です。

⑤関心事が狭くて深い

自分の興味があることに対して、非常に熱心に打ち込みます。 特に狭い領域を掘り下げて知識や情報を得たり、物を収集したりするなど、長い時間をかけて没頭します。 逆に、興味がないことは、全く関心を向けることができません。関心がないことに対しては、やらなければいけないと分かっていても、本人の自覚なくやる気が下がってしまいます。

⑥ 一点集中で物事に没頭する

⑤にも通じることですが、ひとつのことに没頭する傾向にあります。ひとつのことに集中して取り組もうとするため、作業にまとまった時間が必要だったり、それを阻害されるとストレスを感じてしまいます。 複数のことに頭を切り替えながら、同時並行に物事を進めることが苦手である とも言い換えられます。

⑦ 手順ややり方などへのこだわりが強い   手順ややり方、ルールなど、あらかじめ決まっていることや自分の中の決まりごとに従ってやらないと気が済まない、そのやり方を容易に変えられない、それに従って行動したいという欲求が強い傾向にあります。これが、「こだわり」と言われる特徴的な行動です。

⑧感覚の敏感さ   光や音、感触や味覚や臭覚、天候や気温、などに敏感な場合があります。これを感覚過敏と呼びます。 窓からの太陽光や蛍光灯の明かり、パソコンの画面が眩しく感じられて、ブラインドを閉めたがったり、照明が明るすぎると訴える場合もあります。

⑨特異的な時間
時間 の 感覚 が 特異 的 な 場合 が あり ます。 時間 の 経過 の 感覚 が つかみ にくく、 自覚 以上 に 時間 を 費やし て しまっ て いる こと が あり ます。

⑩睡眠リズム・生活リズムが乱れやすい

人間には体内時計がセットしてあり、約 24 時間を周期とした「概日リズム(サーカディアン・リズム)」と呼ばれています。 ASD・ADHDはともに体内時計が乱れやすく、概日リズムと社会的な活動を可能にする昼夜のサイクルがズレやすい ことが多くの研究でも指摘されています。

⑪ワーキングメモリ機能が低い

ASD・ADHD両者ともに、ワーキングメモリ機能の低さが指摘されています。ワーキングメモリとは、頭の中に情報を一時的に保ちながら、同時に処理・作業する過程を言います。記憶の一時置き場のようなイメージです。この置き場が狭いため、 一時置き場の記憶を踏まえながら情報処理していくのが苦手です。 この機能はあらゆるところに影響します。たとえば、相手の話を聞く時は、今相手が話し続けていることを、一時置き場に置きながら、同時に情報を処理していくという作業が必要です。しかし、ひとつのセンテンスや全体の話が長くなればなるほど、一時置き場はすぐにいっぱいになってしまうので、言われていることが途中で分からなくなったり、忘れたりしてしまい、話の趣旨を的確につかむことができなくなってしまいます。

ADHDに見られる特徴   ①不注意

必要なことへ注意を向けること、また、その注意を維持することが苦手です。他のことが気になり、手元のことがおろそかになったり、他者の話に注意を向け続けられなかったりします。向けるべきところへの注意が散漫になるので、 作業の細かなところでのケアレスミスや、約束を忘れる、時間に遅れる、頻繁に忘れ物や失くし物をする、なども生じる ことになります。 あれこれに注意が散漫し、ひとつのことへの注意が続かないため、物事の遂行が完了しないこともあります。周囲が雑然としていたり、人の出入りが激しくて騒がしかったりすると、さらに注意が散漫になる危険があります

②多動・衝動性が目立つ

不注意と並ぶADHDの中核的な特徴と言われています。落ち着きがなく、じっとできず、離席や雑談が多くて集中力が続きません。子どもの場合は、じっとしていられないなどの体の動きの多動が目立ちますが、大人になると子どもほどには目立たなくなります。 しかし、 成長して多動が消失したのではなく、体の多動は目立たなくなっていても、頭の中の体多動は依然あります。 思いついたことをすぐ行動に移したり、あれこれ気が散ったり、よく考えずに思ったことをすぐ口に出してしまう、独り言が多くなる、などの形で現れます。

没頭している業務があると、なかなか別の業務に手がつけられませんし、行動の転換が苦手ということや、「ここまでやりたい」とか「ちゃんと納得してから次の作業に移りたい」などの 自分の中のルールやこだわりから、ひとつの作業が終わるまで次の業務に移ることができない ため、結果的に複数の業務が「後でやろう」と「先延ばし」になってしまうことがあります。「先延ばし傾向」などとも言われます。   また、発達障害の特徴がある人は、想像することが苦手なので、 業務においても直感的に先を見通したり、全体像を把握したりすることがうまくできません。そのため、先の工程や全体像と照らし合わせながら、目の前の業務の注力を加減することができず、不要な細かいところまでやってしまうのです。 それが自分の中のやり方としていったん定着すると、たとえそれが非効率だと分かっても、なかなかそのやり方を変えることができません。

一番避けたいのは、注意してくれる上司や先輩を敵視してしまうことです。敵視して上司や先輩を避けてしまうのではなく「自分はそういうことを理解するのが苦手で申し訳ありません。こういう時にどうすればいいのか教えてください」と真摯に具体的な行動を教えてもらおうとするほうが、益があります。

「取引先にはこのように挨拶しなさい」と具体的にやってみせることや、「打ち合わせや会議中にはスマホは一切取り出さないでください」「先輩が荷物を運んだ時には必ず自分も手伝ってください」など、何をどうすればいいのか、何をしてはいけないのかを明確に示します。

その時に心掛けたいのは、やり方を具体的に示すのに加えて「会議や打ち合わせ中は、皆で議題について集中して考えようという場だから、途中で私用のスマホを見ることは、議題について真剣に考えていないように見られてしまいます。それは会議をしている他の人に失礼に当たります。ですから、会議中はスマホや携帯を見たり応答したりしないでください。もし何かの理由で出なければならない場合は、一言、断ってから短時間で終わってください」など、理由を解説できるとなおよいと思います。

本人への指導の仕方ですが、本人の現状認識と実情にズレがある可能性もありますので、タイムレコードを見せながら、勤怠状況を本人ときちんと共有しつつ、たとえ5分であっても遅刻はいけないことであると伝えましょう。遅刻3回で半日欠勤と同じ扱いにするなどのルールが職場にあるなら、それを改めて説明してください。もしも、眠れない、睡眠のリズムが乱れているなどの問題がある場合は、医療機関に相談するように促すことが必要です。   面談をする際には、落ち着いた場所と時間を確保し、周囲を気にすることなく生活状況を話せる環境下で話を聴くほうがよいでしょう。また、最初の面談のあと、次の面談の約束日時を明確にしておくことをお勧めします。一度は面談して注意はしたけれども、その後改善がみられないままズルズル…という状況に陥ると、結果的に「放置」という状況になる危険があります。必ず次の面談を約束しておき、結果を追えるようにします。

④メンタルヘルス不調で休復職を繰り返す   Dさん 44 歳は、 37 歳の時に初めてうつ病と診断されて約半年間休職しました。その時は管理職になったばかりで、部下に仕事を振り与えられずに一人で抱え込み、仕事量が膨大になってしまい、突然、会社に行けなくなりました。

「うつ病」や「適応障害」などの診断書が出て、休復職を繰り返している人の中で、発症の背景に、発達障害の特徴傾向によって生じる職場でのストレスが隠れている場合があります。 職場と離れれば自分のペースで生活できるため、症状は軽減・消失しますが、職場に戻ると再び同じ轍を踏んで不調がぶり返してしまいます。

休復職が複数回になればなるほど、次第に仕事に自信を失ってしまったり、周囲に対する引け目から、職場にいることそのもののさえもストレスに感じるようになってしまいます。 休職を繰り返す前に不調に陥った経緯や背景を多角的に振り返り、自分にとってストレスだったり、苦手だったり、多大に労力を費やしているようなことは何だったかを把握することが大切です。

[上司はどうしたらよいのか] 主治医や産業医の指示の通りに、業務軽減を実施しているにもかかわらず、何度も不調を繰り返している部下の場合、本人も気づいていない仕事上のストレスがある可能性があります。本人も気がついていないので、主治医や産業医も把握することが難しいと言えます。 上司や同僚のほうが、本人の仕事ぶりを客観的に見ることができますので、仕事の進め方や成果物の傾向、職場のコミュニケーションなど、業務上から気がつくところをピックアップしてみてください。

発達障害の特徴を持つ人はどうしても意識が「叱られた」ということだけに向いてしまい、そのことをずっと引きずってしまう傾向があります。そうすると、前述のような恐怖心だけが増し、「どうすれば適切だったのか」という学習を妨げてしまうことになります。「叱られた」ということではなく、「どうすればよかったのか」に意識を向けるようにしましょう。

[上司はどうしたらよいのか] 「こんな重大なことはすぐに報告すべきだろう」とか、「この程度のことはまず自分で調べるべきだろう」などの「べきだろう」は、いずれも「上司から見て当たり前の感覚」を前提とした言葉です。

上司の感覚とは全く異なる感覚を持っている人に、いくら「べきだろう」を並べても意味はありません。むしろ、相手は意味が分からないまま追いつめられ、上司や周囲に対する恐怖心や不信感を募らせてしまうことになります。

報告・連絡・相談は、「いつ」言うのかというタイミングの問題だけでなく、「何を」「なんのために」「どのように」「誰に」を適切につかんでいることが必要です。

もうひとつ重要なことは、報告・連絡・相談のタイミングを部下に委ねるのではなく、構造的に情報をキャッチできるように工夫する方法です。

本人を叱責したり、急かせたりするだけでは改善しません。どの事務作業がどんな進捗なのかを定期的に把握し、本人が勝手に他者に仕事を振ってしまわないように管理しなければなりません。

発達障害の特徴を持つ人は、「耳から聞いた情報を理解する、処理する」ということが苦手であることが少なくありません。耳から聞いた情報を処理するのは苦手でも、文字や図や動画のように、目から入ってくる情報を処理することは得意であることもあります。このような人を「視覚優位」である、と言います。   逆に、耳で聞いて情報処理することが得意な「聴覚優位」な人もいます。人の話や説明を耳で聞いて理解することに長けている一方で、人の顔を覚えたり、本や書類を読んで理解することが苦手なこともあります。

知っておきたい「 合理的配慮」 とは   これまで「業務の工夫や調整」あるいは「(事例に対する)上司の対応」と書いてきたところは、いわゆる「業務上の配慮」と言われ、事業主が健康上の問題を抱える労働者に対して講じるべきものです。実際にうつ病などで業務調査が必要な場合には産業医等が主治医による診断や本人の症状の状態に基づいて、業務の質や量による心身の健康へのリスクを鑑み、本人の上司と相談しながら、業務を行う上で必要な配慮が行われています。 これは、法律上の「安全配慮義務」に紐づくものです。「安全配慮義務」とは、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、使用者において配慮する義務のことです。 平成 20 年3月施行の労働契約法第5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と明文化されています。

「合理的配慮」とは、障害のある人から何らかの配慮を求める意思表示があった場合に、日常生活や社会生活で受けるさまざまな制限をもたらす原因となる社会的障壁を取り除くために、個別の状況に応じて行われる配慮を言い、事業所の自主的な取り組みを促しています。 障害のある人とは、知的障害、身体障害、精神障害に加え、発達障害のある人も含まれます。そして、障害者手帳を持っている人だけでなく、社会的なバリアにより日常生活や社会生活に制限を受けているすべての人が対象となります。 ですから、「発達障害」の手帳がなくても、本人から配慮を求める意思表明があれば、職場の負担が重すぎない範囲で、配慮することが求められるのです。

うつ病などの二次障害を見逃さない   通常、うつ病などのメンタルヘルス不調が疑われる部下に対しては、その時点で受診を促し、治療医による医学的な判断を仰ぎ、健康上の問題とそれを根拠とした休職や業務上の配慮の必要性について確認したうえで、それらを講じる必要があります。 上司が、部下のメンタルヘルス不調を疑う時には、業務遂行の様子が「以前とは違う様子である」と気づくことが重要な対応のスタートになります。 「以前はよく皆で談笑していたが、最近は全く人の輪に加わらなくなった」とか、「以前はなかった顧客からのクレームが相次いでいる」とか「最近は業務に自信がないとか、辞めたいとか言うようになった」などです。

「あなたの仕事ぶりをみていて、いくつかの改善してほしいことについてはすでに話してきていますが、なかなか難しそうですね。きっと、あなた自身もこうしたい、こうできたらいいと思うことがあっても、思うようにいかないところがあるのではないかと思います。そういう状況が長くなると、知らず知らずのうちにストレスが高じることもありますから、一度病院で相談してみるのはどうでしょうか」

本人の自己理解が最も大切   発達障害の特徴を持つ人は、自分自身の特徴について的確に理解することがとても大事です。「自分はこういうことにこだわる傾向がある」とか「聞き取ることが苦手だ」などを知っていることによって、いたずらに自分を責めたり、防衛的な気持ちから周囲に攻撃的・他罰的になったりすることなく、自分が最もうまく働ける方法を工夫したり調整したりする方法を見つけていける出発点になるからです。

コンサルテーションとは、異なる専門性を持つ人から問題のとらえ方や対応方法について指導や助言を受けることを言います。職場に産業医や看護職などの産業保健スタッフがいる場合は、彼らから、当該部下のマネジメントの方法について助言を受けることもひとつです。しかし、精神科医以外の産業医や産業看護職は、発達障害に対する臨床的な見地が少ない場合もありますので、精神科医やカウンセラーからコンサルテーションを受ける機会を持つことも有益です。

なおコンサルテーションを受ける際は、以下を参考に要点をまとめるとよいでしょう。 ・当該従業員の職場で問題となっている点(困っている点) ・社歴 ・仕事のやり方 ・職場の人間関係 ・勤怠 ・本人からの訴え ・心身の状態で気づく点 ・これまで行ったマネジメント

特にグレーゾーンだと思われるような人たちに対して職場として必要なことは、発達障害という診断が医療機関において明確にされるかどうかではなく、 どうすれば仕事がうまくいくかという観点で本人と職場がいかに有益な話し合いができるかどうかなのです。

大切なことは「配慮」をできるだけ「特別なことにしない」ことです。 「特別なことにしない」とはどういうことでしょうか。ひとつは「配慮することによって、本人の生産性が 上がる」というアウトプットを意識することです。上司は部下にアウトプットさせることが業務ですから「その部下に必要な方法でアウトプットさせることである」ととらえれば、配慮もマネジメントのうちであると腑に落ちることができると思います。

また、もうひとつは配慮の恩恵が本人だけでなく、できるだけ全体にとっての利益につながるような方法をとることです。「余計な手間」が「みんなにもいいこと」になるという工夫です。

マルチタスクが求められる職場は「できないことをできるようにする」という発想が前提となりますが、できることや得意なことをなおざりにして、できないことや苦手なことに注力するやり方は、発達障害の特徴がある人にとっては、根本的に誤ったマネジメントと言えます。







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