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ゼロから始める伊賀の米づくり15:機械化以前の米作り

前回、春が来る前の圃場の石拾いについての書いたのですが、その途中で祖父の作業場の整理も行っていました。

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元々、大工であり木材の卸しも営んでいたらしい祖父の作業場は、祖父が亡くなって8年ほどですが手付かずのまま放置されていました。

祖父の他界から8年後。今度は父が他界し、それを機に実家の米づくりを継いで行ってきたわけですが、米づくりの作業と並行して、祖父の作業場の整理も行ってきていたのでした。

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大工であり、木材の卸しも営んでいたらしい祖父の作業場は木材や工具で溢れていましたが、ふと、天井近くの梁に目をやると、何か見覚えのあるような三角柱型の器具が見えました。

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『あ、これは田植えの時に使う道具じゃないか』

遥か昔、小学校時代に田植えの実習があったのですが、その時にこのような道具を使ったような記憶があリました。

調べてみると、『田植え定規』と呼ぶそうです。

現在のように機械化される以前は、田植えの際にはこれを並べ、

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この指差ししている白い突起を目印に、手で苗を植えていきました。

植えるたびに三角を転がし、少しずつバックしながら進むのです。

せっかくなので、埃をかぶっていたこの田植え定規を洗ってきれいにしてやることにしました。

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全部で6つ。こうしてみると、まだまだ現役で使えそうな雰囲気です。

すると、例によって祖母が声をかけてきました。

『これ、どうしたんや?田植え機やないか』

「あぁ、おじいさんの作業場にあったから出してみた。昔はこれ使ってたんやな」

『そうやぁ。私らが小さい時はこれに紐を張って暑い時期にやってたわ。腰も痛くなるし早く帰りたかった』

「機械になったら、だいぶ楽になったんやな」

『そうやなぁ。そういえばこれ(田植え定規)を使ってやってた時、田んぼの向こうの方で火事になってるのが見えてな。えらいこっちゃ!となって田植えを放り出して見に行ったこともあったな』

「へぇ、そんなこともあったんか」

『これを使ってた頃は、キヨジさん(曽祖父)は他からも農地を引き受けて米やら作ってたわ。牛で田んぼを耕して、その後はこれを使って田植えをして……。家の前の公民館は、近所中の牛が集まって爪切りをしてたりもしたなぁ』

「それは大事やな。」

『そんな昔のもんが出てきて、思い出されたわ』

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曽祖父も祖父も父も、それぞれのやり方や思いでこの家や土地や田んぼを守ろうとしてきたわけですが、そんな中で話好きな祖母は未だ健在で、このように昔話をしてくれることがあります。

当時の景色は自分にとっては想像するほかありませんが、祖母にとっては自分が生きて体験してきた現実の風景です。

この家の先人たちの積み重ねがあってこそ、今の自分がこうして継いで米づくりをやれているありがたさを感じます。

また、先人たちがやってきただろうプロセス(苗を植え、水を管理し、穂を収穫する)を自分もやることを通して、彼らと重なるような、そんな感覚を得ることができます。

耳で聞いただけ、頭で理解しただけではわからない、体験を通じて初めて共有できる感覚が、ここにあるのだと。

もちろん、先人たちのやってきたことをそのまま自分が継いだり、次世代に受け渡すことは難しいし、時代に合わない部分もあるでしょう。

ただ、連綿と継がれてきたこのプロセスは意識し、大事にしていければと感じた時間でした。


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