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タイトルでずっと避けていた本を読んでみたら実はかなり面白かった

僕にはずっと避けていた本がありました。
それは、ピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』です。

この本を読まないでいた理由はとてもシンプルです。僕の読書に対する考え方とこの本の主張が全く異なるからです。僕は、ある本について語る場合には、その本の内容を理解しなければならないと考えていました。内容を完璧には理解できなくとも、最低限一度は読むべきであり、でなければ正確にその本について語ることなどできないと考えていました。そのため、僕の考え方の対極に位置するこの本を避けていました。

しかしながら、結局読みました。しかも結構楽しみながら読みました。

そこで、この本の面白かった点について書いていきたいと思います。

まず、著者のピエールは本書の冒頭で「読んだ、読んでいないの区別はハッキリしているのか?」という問いをいきなり投げかけます。ピエールに言わせると、「読んだ」「読んでいない」の区別は結構不正確であるとのことです。

例えば、一度も開いたことがない本は良いとして、ざっと読んだことがある本はどちらに属するのか?また、誰かからある本の噂を聞いたことがあったり、ある本の書評などを読んだことがある場合、それはどうなのか?さらに、一度読んだけど忘れてしまった本は「読んだ」ことになるのか?このように聞いてきます。確かに、よくよく考えると両者の境界線は、曖昧なのかも知れません。これが面白かったポイントの一つです。ちなみに、「読んでいない」本の範囲について、様々なケースを用いながら第一章で考察されます。

もう一つ面白かったのは、本書の教養の定義です。ピエールは、教養について次のように述べます。

教養があるとは、しかじかの本を読んだことがあるということではない。そうではなくて、全体のなかで自分がどの位置にいるかが分かっているということ、すなわち、諸々の本はひとつの全体を形作っているということを知っており、その各要素を他の要素との関係で位置づけることができるということである。(中略)したがって、教養ある人間は、しかじかの本を読んでいなくても別にかまわない。彼はその本の内容はよく知らないかもしれないが、その位置関係は分かっているからである。つまり、その本が他の諸々の本に対してどのような関係にあるかは分かっているのである。(pp.33~34)

教養については、このあとも表現を変え何度も出てきます。この定義を僕なりにやや抽象化して言い換えると、教養とは、「全体を構成している個々の要素を、要素同士の関係から位置づけることができる能力」です。

この世には膨大な数の本があり、全ての本を読むのはほとんど不可能と言って良いでしょう。それぞれの本は、この世の全ての本という全体を構成しています。この世の全ての本という、いわば全体図の中に、例えば目の前にある本はどこに位置するのか、そしてこの本は他の本とどのような関係あるのか。これを把握できる能力がピエールの言う教養なのだと僕は解釈しました。

ここでピエールが言いたいのは、それぞれの本は独立しているのではなく、互いに関連し合っているということだと僕は思いました。もちろん、関連の度合いにも強弱はありますが、本の全体図を形作っているという点では、互いに関連し合っているということだと思います。

また、ピエールはある本一冊を全体と見たときにもこの考え方は適用できると言います。すなわち、本一冊を全体と見たときに、自分がどこに居るのか、その位置を把握できるかどうかが、教養があるかどうかに関わってくるのだと言います。

ここからは僕の解釈ですが、これは、例えば「今、第○○章の○○頁を読んでいる」ということではないと思います。つまり、第○○章の○○頁という形式面ではなく、今自分が読んでいる章は、本の中でどんな役割を果たしているのか、さっき読んだ章とこの章はどんな関係があるのか、ということを把握できるかどうかだと考えました。

このように捉えて僕のこれまでの読書を振り返ると、確かに、章同士の関係やそれぞれの章の役割については、ほとんど考えていませんでした。だから、読んでいて「今何の話をしているんだ?」と迷子になることがあったのだと思います。

以上が読んでいて面白かったポイントになります。

本書では、「読んだ、読んでいない」の境界線の問いから始まります。そして「読んでいない」に注目し論じていきますが、「読んでいない」を突き詰めていることで、そもそも「読む」とはどういうことなのかも問われているように思いました。

つまり、「本を読む」という行為の当然視している曖昧な部分を、浮き彫りにしているということです。一般的な読書術の本では、この部分は問われず、そこでは「いかに読むか?」が中心的な問いです。

そのため、本書は大半の読書術の本とは毛色が異なると思います。

当初、読まないと決めていた本なのに、読んだら結構面白く、長々と書いてしまいました。もしこの記事を読んで、興味を持って頂けたなら是非読んでみてください。

ここまで読んで頂きありがとうございました!





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