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紫式部 源氏物語・冒頭の掴みの妙

みなさん、こんにちは。
私は常日頃より読みやすいよう現代語意訳源氏物語を志しておりますのは、読んでくださる皆さまには周知のことでございましょう。
ですが、さすがさすがの紫式部さま。
源氏物語のあまりに有名すぎる冒頭は、なかなか現代語訳にはハードルの高い一節だと思います。
何故ならばこの冒頭部分をしくじれば、訳者の力量を問われるわけで、平凡ではありきたり。
訳者という立場では、突っぱってどこまで我を許容されるかという審判が待ち構えているわけです。

いづれの御時にか 女御 更衣 
  あまたさぶらひたまひけるなかに
いとやむごとなき際にはあらぬが 
  すぐれてときめきたまふありけり

この有名な冒頭をそのまま訳すと概ねこのような感じになります。

いつの御世のことでしょうか
女御や更衣がたくさんお仕えしておられるその後宮で
とりたてて身分が高いわけではありませんでしたが
それはそれは帝に深く愛された更衣がおりました

紫式部さまの綴ったお言葉にはリズムがあって読み手もすんなりと受け入れることができる素敵な文章だと思います。
そしてきらびやかな平安の宮中で物語が展開してゆくドキドキ感を煽る効果が感じられます。
この私の素直な感想を私の源氏物語訳に反映させようと試行錯誤して出来上がったのが、以下の通りです。

世に優れた天子(=帝)が出られると古からの伝説では、瑞兆として鳳凰が現れると伝えられています。そして、天下は天子の徳を映したように平和であるのだそうな。この帝もそのような御方であったのでしょう。
名を桐壺帝(きりつぼのみかど)と仰せになりました。
それは泰平の平安の御世に華やかな王朝絵巻がくりひろげられた時のお話でございます。

帝と桐壺更衣の恋物語、敵役の弘徽殿女御の愛憎は先に書き連ねてゆくことでしたので、このようにまとめました。
 Once upon a time・・・
 昔、昔・・・
の手法だと私は考えております。
ですが、平安時代は現代の我々とは価値観や倫理観が乖離しております。それゆえにきらびやかに憧れを誘う言葉を散りばめるべきだと思いました。
まさにおとぎ話のオープニングのような。
そうしてこの意訳に決めました。
なんとも難しいものですね。
オリジナルの作品ではないので、作者の意図を尊重しなくてはなりませんし、新しい読者も引き込まねばなりません。
私の書く源氏物語が古典が見直されるキッカケになれば、光栄この上ないことです。


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