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自分が都会で働き続けたいか考えるとき、他人の意見を気にしちゃいけない

今回の日経COMEMOのお題「# ずっと都会で働きますか

春先の私は、自社のリモートワークが本格的に定着するなか、
このまま都会に住んで働き続けるかどうか迷い
コロナで郊外移住は進むのかどうか
に関するネット情報の記事や意見を片っ端から読み漁っていました。

これはCOMEMOのお題に対する回答でもあり、当時の悩める自分自身に対するアドバイスでもあります。

その内容とは

「あなた自身がずっと都会で働きたいかどうか考えるときに、他人の回答を気にしちゃいけない」

です。

場所決めで本当に必要なこと

コロナ禍とは関係なく、元来、人の働く場所や住む場所は

・自分にとって好ましい条件を満たした場所であるか
・その土地に暮らしながら生計を立てることができるか

この2つを考慮して決めればいい話ではないでしょうか。

もちろんこのご時世、引っ越し先で生計を立て続けられるかどうかに
自社にリモート勤務が導入されるか、されたとしてこの先も続くかどうか」を検討すること自体は大事な話だと思います。


でもいま、自分の働く場所や住む場所を考え直している人々のなかには、この最低限考えればいい上記の条件を通り越して

「周りが引っ越しすると言っているから、自分も引っ越したほうがいいのだろうか」
「周りが引っ越さないと言っているから、自分も引っ越さないほうがいいのだろうか」

つまりは「自分がどうしたいか」より「他人がどうするか」ばかりを気にしていませんか。

だから他人が移住が進むのかどうか喧々諤々議論してる記事が気になって読んでしまったりしていないでしょうか。

少なくとも、春先の私自身はそうでした。
結論からいうと、私は都内から千葉の郊外型ニュータウンへ引っ越しましたのですが。
当時の自分を振り返ると、その決断をするまでにいろんな人のいろんな意見の記事やSNSを読んで読んで読んで、読み漁って悩んでいました。

そして3つのことに気付いたのです。

1.ぶっちゃけ未来予測は無意味
2.他人の語る都会/郊外のメリット・デメリットが自分と同じとは限らない
3.予想の異なる陣営への非難合戦


理由1:ぶっちゃけ未来予測は無意味

情報収集を始めて真っ先に気がついたこと。
それは都会から郊外への人口移動が進むかどうかのテーマについて
論者の予想が真っ二つに分かれている」ことです。

下手をすれば、コロナウィルスが今後どう流行するかといったテーマよりも予想の振れ幅が激しいのでは・・・。

かつその予測には、合理的な未来予想というよりも
論者の立場に応じたバイアスがかかっている
と感じたのです。

例えば、これまで都内の物件を値下がりしない安全な資産として売り込んできた不動産業者は
都会からの人口移動は起きない!」と主張していました。

方や郊外や田舎への移住を支援する新ビジネスを手掛けている会社が
このように移住希望者が増えている!」と主張していたり。

そしてそれぞれの根拠は自社サービスを利用する顧客へのアンケートだったりする。
いやそれって回答結果に自社の顧客層というバイアスがかかるじゃないですか、と。

厳しい言い方をすれば、データから中立に未来予測を弾き出すのではなく、自社のビジネスにとって有利になるようデータを作り出している。
そんな疑問が湧き起こる情報が多かった。
賛否どちらであれ自分が引越しをするかの決断をするかに有益だと思える情報は、皆無とまでは言いませんが非常に少なかったです。


また
・歴史的に見て都市化の進行は不可逆
・リモートによって新しい働き方が可能になった

などなど、移住をするかの前提条件に対する議論も決定的といえるものは、正直ありませんでした。
私はテクノロジー(情報工学部門)を専門に学つつも、かつ学生時代を奈良・京都という歴史的な背景が深い街で過ごした関係で、理系の割に文系ともいえる歴史の知識も持ち合わせています。


だからこそ、例えば下記で横石氏が解説されているように
「コロナ前にリモートを徹底的に試した企業が【やっぱり物理の出社必要だよね】と一度結論を出した」
ことは深く考慮すべき点だと思いました。

アメリカでYahooやIBMが10年前くらいにリモートワークを試していましたが、うまくいかないということで諦めていました。イノベーションを生み出すためには、みんなが同じ場所に1分1秒でも長く集まって身を置くこと必要がある。ここ数年でGAFAの人たちは、価値を生むためにはそれが必要だと気づいた、ということがあったわけです。


一方で、過去文明とともに都市化が加速してきた事実をもって
「今後も東京の都市化が加速する」ことを断言するのは危険です。

なぜなら、古都育ちの人間として
歴史上、繁栄する都市の移動は起きてきた
ことを身に沁みて知っているからです。

奈良・平城京は1000年以上前には都でした。
が、現在においては、独特の風情を残しているとはいえ衰退の岐路に立つ一地方であることに変わりはありません。
飛鳥京に至っては、そこに都がかつてあったと言われなければ、ただののどかな田舎の村にしか見えないと感じるような土地でしょう。

いやいや、奈良が都だった時期なんて1000年以上前のこと。私たちが生きているうちに東京がどうこうなるか論じるには極端すぎる例でしょうか?

では、地方といえども独特の地位を保ち続ける古都・京都が、実はたかだか100年ほど前に、一度激しい衰退の危機に陥った歴史をご存知でしょうか。

当時,京都は,明治維新で都の地位を失い,人口の3分の1が減少,約34万人から約23万人となる深刻な人口減少に直面しました。
 社会経済へのダメージは甚大で,京都は都市衰退の危機にひんしました。この,歴史上,京都の最大の危機ともいえる状況に際し,京都の町衆は,自分たちの手の及ばない都市の栄枯盛衰の運命としてあきらめ,時代の転換の激しい流れに京都の未来を委ねることはしませんでした。
 まさに「自分ごと,みんなごと」として危機感を共有し,自ら行動を起こしました。変化を恐れず,むしろ先取りする進取の気概と挑戦心,あるいは海外のものを積極的に取り入れ,独自に進化させるグローバルな視野と柔軟な創造性を持ち,京都のまちを挙げて困難に立ち向かいました。

京都が現代においても有力な都市である理由。
それは1000年もの間、都だった栄光を何の努力もせず享受し続けているからではなく、むしろその地位を失う危機に際してしっかりと立ち向かってきたからこそ、今日における京都の地位があるのです。


歴史的事件をきっかけにした人口流出。既に東京は現在の方式で統計が取られた2013年以降初めて人口の転出超過が発生しています。


あくまで私個人の予測でいえば、もし東京が明治維新での京都のような大量の人口流出が起こっても、危機感を持った住人たちの努力により、一定の魅力ある都市の地位を保ち続けるだろうと思っています。
でも可能性が少ないことと、完全にありえないと考えること別です


逆説的なようですが、東京の人々が
「東京とて何かのきっかけで衰退することがありうる」と強い危機感を抱くほど、東京は今後も魅力ある地位を保つ可能性が高い。

逆に「首都・東京が衰退するなんてありえない」とあぐらをかいている人々が多いほど、人口流出の発生と共に一気に衰退へ向かうシナリオが発生する可能性が高まる。
歴史的事実を鑑みると、このようにも考えました。

・・・色々と長く語ってしまいましたが、つまりはどんな記事を読んでも
「これだ!」と言えるような信憑性の高い未来予測がされているとは言い難かったのです。

言い換えれば、自分の働く場所や住む場所を決めるに当たって確度の高い未来予測を入手しようとこの手の記事を読み漁ることに、あまり意味はありませんでした。

「未来はどうなるか分からないことだけが分かった」って感じです。

理由2:他人の語る都会/郊外のメリット・デメリットが自分と同じとは限らない

もうひとつは、いろいろな人が都会や郊外に上げるメリット・デメリット論。
人々が語るメリット・デメリットとして挙げているものが、自分にとっては全く当てはまらない、そんな場面が多かったです。


例えば、色んな人と対面で会うチャンスが多い東京は、ビジネスで有力なキャリアを築くための機会に優れている、というメリットの主張。

私は就活の際、周囲の反対を押し切って関西から東京へ上京しました。
東京に出て毎日たくさん開催されているテクノロジー系の勉強会に参加して、いろんな知見を得られるようになるのが夢でした。
多くの同級生、特に女子は地元に残るなか、ろくに知り合いもいない中で東京への就職を決めました。

そして東京に出たからこそ、持病持ち女性がビジネス・テクノロジーの世界で東京で対面で人に会う機会が平等に入手できないことに気付いていました。

起立性低血圧だから立食形式の多い勉強会・交流会には体力的におちおち参加できやしない。
体に無理を通して参加して、人脈を広げようともがいてみた時期もありました。
しかし、9割方が男性で占められるテックの世界では、若い女性であれば嫌でもセクハラ的危機にさらされるリスクが高まるのが現実でした。
あるいはキャバクラといった夜のお店を楽しみたいがために、端っから女性に声がかけられない。そんな夜のお店で重要なビジネスの会話が決まっていたりする。
つまりは、最初から人的ネットワークに参加する機会が与えられていないこともありました。

男性でもタバコ部屋問題という人的ネットワーク形成の障害に悩まされる話があります。
喫煙者同士が喫煙室で重要なビジネスの会話や決定を行い、そこに参加できない非喫煙者がキャリア上の不利益を被る・・・というやつです。

病気や性別を理由にタバコ部屋問題と同じロジックの現象が、何重にも膨れ上がって降りかかり、「東京にいることのメリット」が私には同レベルに感じられないことに気づきました。

他人の語るメリット・デメリットは、立場が違えば見方が全く異なるもの。

他人が「こんなメリット・デメリットがあるからこうすべきだ!」とか「こうなると思う」という意見に惑わされず
あくまで自分自身の立場でメリデメを考える必要があると言えます。

理由3:予想の異なる陣営への非難合戦

私が今回のテーマに対して他人の回答を気にしちゃいけないと主張する理由の3つ目。
それは、都会派・郊外派それぞれの判断をした人が反対の人を攻撃するような記事が少なくなかった、ということです。

あくまで私の立場や想いから都会(東京)を出ることを選んだのであって、他の人の結論が都会(東京)に残る、であっても全くおかしくない。
むしろ立場が違うなれば違う決断をして当たり前ですし、それに対してとやかく言う権利は誰にもありません。

私自身、今回郊外への移住を選んだのは一度東京で数年を過ごし、自分にとってのこの場所における可能性と限界を十分確認できたからです。
もしコロナ禍が上京直後に起こっていたら、私自身東京に残る選択をしたと思います。
あるいは私が健常な体力を持つ男性であったら、この業界ではやはりまだまだ東京にいるメリットも大きいと感じ、残り続けていたことでしょう。


しかし、そうやって私が郊外移住を念頭に情報収集をしたところ。
このご時世に郊外移住をする人を「恵まれた金持ちインテリの戯言」だと罵倒するような記事やコメントに出会い、正直言ってかなり凹みました。

でもね、よくよく自分自身の立場を整理すると
私が郊外移住に魅力を感じた理由は、恵まれた立場だったからどころか上述の通りむしろ業界的マイノリティ=弱者だったからです。

それに私自身、元は現場仕事が大事なネットワークエンジニアであり、身内の男性は皆工場勤務である人ばかり。
物理でしかできない仕事の大切さを分かってないなんて、誰にも言われる筋合いはない。

その私の立場や想いを全く知らぬ誰かが、私が郊外に移住したいという選択の一点でもって何らかのカテゴリ(今回であれば、金持ちのインテリ)と十把一絡げにレッテルを貼り、そしてそれを非難する意見。
正直言って読むだけ無駄どころか、自分が自分らしい選択をするにあたってノイズでしかなかった。


たまたま私が郊外移住派だからこちら側の非難記事が特に記憶に残っているだけで、逆に都会残留派からすればその判断を非難されているように感じた記事もきっとたくさんあるでしょう。

自分が本当にしたいことを無視して、このような他者からの攻撃的な意見によって自分の判断軸がブレてしまうことは、非常にナンセンスなことではないでしょうか。


iPhoneを生み出したスティーブ・ジョブスのこのスピーチが、まさにこのような他者の意見に左右されることへの警鐘であると感じます。

あなた方の時間は限られています。
だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。
ドグマにとらわれてはいけない。
それは他人の考えに従って生きることと同じです。
他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。
そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。
あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。
ほかのことは二の次で構わないのです。


【ずっと都会で働きますか】の答えを考えるときに必要なこと

結局のところ、自分が住む場所を決めるにあたって必要だったのは
冒頭に挙げた通り

・自分にとって好ましい条件を満たした場所であるか
・その土地に暮らしながら生計を立てることができるか

であって、そこから導き出された結論が

「あなた自身がずっと都会で働きたいかどうか考えるときに、他人の回答を気にしちゃいけない」

ということでした。


あえてコロナの時代に改めて考える必要があるとするなら。

働く場所や住む場所を選ぶにあたっての、社会における「前提条件」は常に変わる可能性があることではないでしょうか。
テクノロジーの発達によってリモート勤務が可能になったように。


定年まで一生働ける会社。老後まで一生住む家。
そんな一生安泰な場所を探して絶対安泰なものを探し続けるのではなく。
今後も続くであろう時代の変化に合わせて、必要であれば柔軟に新しく住む場所を変えたり働き方を考え直し、変化させること。
それが必要な時代なんだと思います。


【ずっと都会で働きますか】
その問いに一人ひとりが自分の答えを考えることは、とても意義があることです。
でもその答えを考えているとき、私のこの記事を含め、世間があーやこーやと議論している他人の回答を気にするのは非常に危険です。


というわけで、もしこの記事を読んでいる方が
まだ自分なりの【ずっと都会で働きますか】の答えが出てないのであれば。

この記事を含めて、今すぐあなたのブラウザで開かれている「移住が進むかどうか」系議論ページを速攻閉じ。
そこで論じられた内容も全て思考の外に置いて。

「あなた自身がどうしたいのか?」
を、考えることを強くオススメします。


#日経COMEMO #ずっと都会で働きますか

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