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こだわる・解く②

わたし、「わからない」という状態のままでいるのが嫌いです。
持前の負けず嫌いに拍車がかかると、ごりごりやってしまいがちです。
さすがに、年齢を重ねてきて、全く興味の湧かないことに関しては、そこまでの労力を注ぐことはしなくなったけれども。

製薬メーカー主催のイベント代理店時代のこと。
講演会終了後、多い時は1,000名近く、だいたいは500名前後の参加ドクターに、アンケートをとるのが主催者の希望。
アンケートの内容は、会の運営や講演内容について評価をしていただき、ご意見を募るというもの。
わたしの担当していたクライアントはがん領域のチームがほとんどで、参加ドクターは勉強熱心な若手からベテランまで、層が幅広い。
皆さん、臨床と研究と勉強に超多忙にも関わらず、とても熱心な方が多くて、開業医向けの生活習慣病関連の講演会アンケートなんかだと、フリーコメントの欄の記入はほぼないのと正反対で、6割以上は何かしらのコメントを書いて下さる。
そのコメント欄には、内容に触れたものも多くて、海外の症例も日常的に触れている方々なので、英語の専門用語が速筆・達筆でしたためられていることがほとんどだった。
・・・話が逸れるけれども、こういうのを目の当たりにして、がん治療に携わるドクターへの尊敬の念が強まってしまったわたしなのでした。だってお手紙を読ませていただいているようなものなんだもの。

講演会が終了すると、今はコロナのせいであり得ない話になってしまったけど、「情報交換会」という名称の立食懇親会に参加の先生方は移動する。
参加ドクターがお帰りになるまでの間に、当日回収してくれた受付スタッフ数名に、回収したアンケートの枚数を何度か数えてもらう。
未記入の無効分は省いてもらう。
余裕があれば、右下とかにナンバリングを書いていってもらう。
これでクライアントには、回収アンケートの有効件数を速報としてお知らせすることができる。

当時のわたしのルーティンは、自腹でそのまま会場となったホテルに1泊し、身体を休めて翌日、静かなオフィスでアンケートに目を通すこと。

・ナンバリングに間違いがないか?
・無効なものをカウントしていないか?
・運営評価の項目に、急ぎの対応が必要なクレーム的な内容がないか?

何度も何度も目を通す。
急ぎで報告を入れた方がいいものがあれば、ピックアップして速報のメールを送るようにしていた。
わたしの担当していたクライアントは、アンケートに、運営の詳細についても評価項目を挙げていたので、運営代理店としてはクレームの種を速報で見つけることができて、ビクビクする反面、ありがたいことだった。
それから、集計のための入力が誰でも単純に進められるように、わたしの下ごしらえが始まる。
下ごしらえ。
それはフリーコメント欄の解読作業。

わたしはこの作業が実は大好物だった。
達筆すぎて判読不明な文字を、辛うじてわかる前後の単語から推測して、先生が本来書きたかったことを掘り起こしてあげる作業。
専門用語の略語や、英単語も、アルファベットのクセ字って、日本語以上に千差万別で、ちんぷんかんぷんなものにいくつも遭遇する。前後から推測して、グーグル先生に聞いてみる。
このやりとりで、どれほどグーグル先生と仲良しになれたことか・・・
(今思えば、これが検索のセンスを上げる訓練だったのかも!)

内容で、複数の参加者から共感を得たり、刺激を与えたポイントがある場合は、何度か似たような単語に遭遇するので、最初は全く不明でいったんやり過ごしたところが、急に日の光が差したように、クリアになる瞬間があって、それも気持ちがいい。
急いで戻って、補足の書き込みをし直す。

直筆の持つパワーってあるんだと思う。
何度も何度も目にしているうちに、先にも書いた通り、お手紙を読ませていただいているような気持ちになるのだ。
たかがアンケート。
されどアンケート。
これが直筆でなかったら、そこまでわたしも熱意を持たなかっただろうし、変態じみた愛着も湧かなかっただろうと思う。

この作業のおかげで、どれだけ新薬や既に販売されている薬剤の適応追加承認が待たれているかの期待感、メーカーに寄せる期待感を肌で感じたし、ドクターの真摯な態度に希望と信頼を持てたし、なぞる程度でしか理解していなかった薬効をほんの少しだけど専門的に理解できたりした。
直接わたしが何か、ということではないけど、充実感を味わうことができる時間だった。

ある程度諦めがつくまでやり遂げて、お客様へ、
・有効回収件数
・急ぎの報告事項
・ざっと見た個人的な所感について報告
・集計結果を送るおおよその目安日の案内
のメールを送って、この日を終える。

コピーをとって、原本を月曜の早い時間に主催者へお渡しする。
あとは、ひたすら入力するアルバイトの子たちにお任せし、入力されたデータと原本を私自身もチェックして、体裁を整え、グラフ化して、納品する。

こだわる・解く

「わからない」ことが「わかる」に変わるその瞬間は、いつも楽しい。

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写真は先日行った奥入瀬渓流。狐の嫁入り。晴れているのに小雨で緑がきれいだった瞬間。

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