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この日常を美しいと思える心。映画「すばらしき世界」

今日はアカデミー賞の発表ということで、note主催の#映画感想文という企画があったので、映画について書いてみようと思う。
 
胸がときめくアカデミー賞を見るためだけに慌てて入会したWOWOWで、アカデミー賞の発表を視聴しながらこの記事を書いているので、ちょっと上ずっているかもしれないが、年に一度の特別の日、ご容赦願いたい。

さて、わたしの趣味の一つが映画鑑賞だ。
 
片田舎で育った私は、映画を見る機会はさほど多くなく、小さな劇場に遅れてきた2本立てのハリウッド映画を観に行って、入れ替え制ではなかった劇場に丸一日こもって同じ映画を何回も見たものだ。
 
できたてのレンタルビデオ屋さんでリバー・フェニックスの映画を観てうっとりしたりもした。

引っ込み思案で目立つタイプではなく、家も裕福ではなかった田舎暮らしの私にとって、映画は夢のような世界を見せてくれた。

わたしが英語を習いたいと思ったのも、リバー・フェニックスみたいなかっこいい金髪の俳優さんに会いたいという不純な動機だったし、実際それで小学校から英語を習い始め、英語が得意になって大学受験も成功。英文科に進んだ。わたしの人生はリバーフェニックスによって動いたのだった。
 
そこからなぜか英語ができる人材が欲しいということで就職した会社が、入社してからまったく英語が不要だったことが判明し、そのまま営業職として仕事をするのだが、たまたま転職した先が映画コンテンツを扱う会社で、映画に関わる人や映画好きな人たちと仕事をし、相変わらず英語に関係ある仕事ではなかったけど、その代わりに映画にどっぷり浸かった仕事ができ、映画俳優の取材などの仕事も経験することができた。小さいころに、ハリウッドスターにくっつけるからという理由であこがれていた、同時通訳者の戸田奈津子さんも、トム・クルーズの来日の際に拝見することができ、トム・クルーズよりも戸田奈津子さんをガン見していた。

そんな映画の世界で、憧れだったさらに映画の魅力に取りつかれた。
 
映画は田舎に住んでいたわたしが見ていたハリウッドの夢物語だけでなく、
さまざまなジャンルがあって、「ミニシアター」という小規模公開で、予算が低かったり地味ではあるけれど、クリエイティブな試みをしている映画や、心の奥にある感情を揺さぶるようなものや、トリッキーで面白い映画などたくさんあることを知った。
 
けれど結婚して出産し、子どもが小さいころは、なかなかゆっくり映画を見る時間が取れなかった。

育児に必死で、息子と一緒に昆虫や恐竜のDVDをみたり、映画館に行くにもクレヨンしんちゃんとか、ドラえもんとか、ポケモンとか、子どもと一緒に観られるものしか行っておらず、自分のしたいことをする余裕もなかった。

おかげでクレヨンしんちゃんの映画は大人が見ても見ごたえがある作品だと気づけたし、自分一人では見ないピクサー作品に涙したり、それはそれでいい経験をしたとは思っている。
 
忘れないうちに言っておくが
クレヨンしんちゃんは下品というのはただの風評被害だ。

とにかくこの2作は見ておいてほしい。

「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」
「爆睡!ユメミーワールド大突撃」
  
子どもを持つ人なら号泣の2作だ。
 

さて、本題から逸れまくっているが、こんな育児まみれのわたしも
ここのところ、息子の中学受験も終わり、少し育児が落ち着き、最近やっと自分の見たい映画を見られる時間が少しずつ戻ってきた。
 
この3月は見たかった映画を観るぞと一人で映画を何本か見に行った。
amazonプライムやネットフリックスなどでも気になっていた作品を見た。
 
歳を重ねたせいか、若いころより「人生そのもの」を描いている作品にグッとくるようになった。

その中で最近のベストは
役所広司さん主演の「すばらしき世界」だ。

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(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
 
西川美和監督の作品は未見だったのだけど、事前の評判も高く、是枝裕和監督の助手をしていたりして作品の方向性が似ていると思ったし、なにしろ役所広司さんである。演技は間違いないはずだ。

もと暴力団で、長いこと刑務所で服役していた男が、
社会に出てからの話。
 
良くも悪くもとにかくまっすぐすぎるこの男。
愛を知らないまま育って、愛を教わったのがヤクザだったのだから
その愛情表現は、ヤクザ流になってしまう。
本人は悪気がないのに、カッとなってやらかしてしまう。
 
被害に遭っている人を助けるために、暴漢をボコボコにして、
純粋な目でほほ笑むけど、やっていることは暴行罪だ。
何が悪いのか、本人にはわからない。

そして世の中はその法律に基づいて、さらに前科者のレッテルを貼って
彼を裁く。
 
困ってる人を助けただけなのに。
 

すごくわかる。主人公の気持ちも、見て見ぬふりをする人の気持ちも。
 
なんでも犯罪になってしまう今日は
巻き込まれたくないから、みんなが他人の振りをする。
他人の振りをしている自分を指さされているようで、胸が痛い。
  

うっすらおかしいと思うことを
おかしいと思いながらスルーして
声を上げると叩かれて。
叩かれないように息をひそめる。
 

正義ってどこにあるのかな。
 

見ているほうは、もどかしい。
こんなに純粋な男なのだから、なんとかうまくいってほしいのに
うまくいかないのだ。
 
誰か助けてやってくれ、と祈るような気持ちで見る。
 

そのうち、彼を理解してくれる人がぽつぽつと現れ
観ているこちらもほっとする。
けれど世の中そんなハッピーエンドでは終わらないかもね、
という余韻のあるエンディングだ。
 

けれどこの映画の中の男が
幸せだったのだろうと思わせる終わり方だった。
 
 
なんだかんだで世知辛いこの世の中でも
すばらしき世界と思える瞬間があったりなかったりするけど
 

自分がこの世の中で幸せを感じられるかどうかは、
自分で決められるのだと思う。

 
いろんなことがあるけれど、


この世を美しいと思える心を
持っていたいなと思った。


そして、
人はやっぱり、人と関わりたい生き物なのだと思う。
  

この映画はいろいろと考えさせられるので
いま何か感想とか答えが出るというより、
人生について、世の中について考えるテーマを与えられたという印象で、何かにつけてこの映画を思い出して、何かを感じるのだと思う。

 
そういう意味ではとても長く余韻の残る映画だと思う。


役所広司さんはやっぱり圧巻。
さまざまな映画に出ているけど、西川監督の渾身のオファーだったということで、本作の彼はひときわ凄みがある。
 

役所広司さんは、映画絡みの仕事をしていたころに、日活の撮影所にお邪魔したときにいらして、挨拶をさせてもらった記憶があるのだけど、わたしみたいななんだか分からない一般人にも、あの笑顔で「お世話になります」って深々とお辞儀をしてくれた人だ。絶対いい人に決まっている、とそれ以来ずっとファンだ。
 
そして、最近出まくりの仲野大賀さんも良かった。
わたしの中では「今日から俺は!!」の人のいいオバカ役のイメージだったのだが、本作では主人公に対して「見ないふりをする第三者」と「彼の魅力に引き込まれて支援してしまう近親者」の間にいて、うまく視聴者をナビゲートしてくれていた。
 
西川美和監督作品がもっと見たくなり、「ゆれる」「夢売るふたり」などを見たが、なんだ、すっごく前からとんでもない映画を撮る人なんだなと思った。これらの作品の感想も追って書いていこうと思う。
 
きっと私が彼女に追いつけていなくて、良さが分からなかったのだろう。
 
いろんな経験や思いをした人ほど味わい深く見られる作品だ。
 
次は、西川美和監督の「朝が来る」を見てみようと思う。
素晴らしい体験をありがとうございました。


ブログチャレンジ13日目達成!
今日もお読みいただきありがとうございました!

#すばらしき世界
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