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グローバルとローカルで、君はどっちへ行く?

第1子を出産して復職した後、自分の中でいくつかの価値観の変化を感じ、同時に会社から思ったような評価が得られなくなって、転職も視野に入れながらモヤモヤの中を模索していた頃、私はそれまで読まないようにしてきたビジネス書にもしかしたら何か手がかりがあるかもしれないと、何冊かを手に取りました。

ビジネス書を読まないようにしていた理由は、それまでは本は娯楽として、息抜きとして楽しみたいという気持ちが強かったこと、そしてそしてそれ以上に、自分のキャリアの核になる分野を見定められていなかったことにあると思います。要するに何を読んでいいかわからなかったのです。

ですが、キャリアの壁にぶち当たり、何かしらの学びが自分に必要であることは痛感していました。突破口になる可能性を模索したくて、MBAのクラスを単科受講してみましたが、小さいこどもを抱えてフルタイムで働きながら課題をこなし、講義に出るのはものすごく大変でした。何か良い方法がないかと考えているうち、ふと、本こそ誰でも安価にアクセスできる知の宝庫だということを思い出しました。それに本ならば移動や休憩、またこどもが寝静まった夜などに少しずつ読むことができます。

最初に読んだのは、冨山和彦氏の『なぜローカル経済から日本は甦るのか: GとLの経済成長戦略』でした。第1子出産前後に私の上司だったマネージャーが社内SNSでレコメンドしていたので、手始めに読んでみようと思ったのです。私自身、社内でのキャリアを国内中心からグローバルビジネスに転換したいと考えていましたが、取っ掛かりが掴めずに模索していたということもあります。

本の趣旨は、とても大雑把にまとめるとこういうことでした。

ビジネスの大半は、その地域で売り上げてその地域に還流されるローカルビジネスである。グローバル経済圏で活躍している一部の巨大企業(典型的な例はGAFA)が収益拡大し利益を上げても、それが地域の小さな経済圏に還元されることはない。

私にはこの話はとてもすんなりと腑に落ちました。冨山氏によれば、私が働いている通信業界も本質的にはローカルビジネスであり(通信会社におけるグローバルビジネスとは、ローカルビジネスを全世界で行うことに他ならない)、GAFAのように、サービスや商品の規格と調達プロセスを完全にグローバルに単一化し、全世界に展開することができるビジネスとは構造が異なります。

ローカルビジネスは、その国/地域/都市で雇用を生み出し、調達を行うので、生み出された利益はその地域にそれなりに還流されます。特に日系の大企業は、最近では日本社会の高齢化に対応するよう求める政府の要請に応えるかたちで雇用年齢を引き上げており、その雇用維持・創出機能を期待されています(いつまで期待に応えられるかは別として)。これは日本というローカル経済圏への利益還流の分かりやすい例と言えるでしょう。しかしGAFAのようなビジネスモデルでは、もちろん雇用や調達を生み出すものの、個別の地域経済圏への貢献や利益還流は少なく、”グローバル経済圏“で働く人たちの間で還流される部分のほうが大きいというのです。

この話を読んだとき、果たして私はそういうグローバル経済圏で働きたいと思うのか、それとも特定の地域に根差したビジネスに携わっていたいのか、どちらだろう?と考えました。そして後者だなと直感的に思ったのです。

暮らしを豊かで潤いあるものにする仕事。それが私が就職活動をしていたときに掲げたテーマでした。かなり考え抜いた末のテーマだったので、今でもはっきりと覚えています。その背景にあったのは、身近な人に喜んでもらえる仕事がしたいという私のシンプルな希望でした。だからこそ通信事業者というインフラ産業を選んだのです。

そのことに思い至り、私は転職についての迷いをひとつ消すことができました。つまり、GoogleやAmazonはそのサービスによって人々の暮らしを便利で豊かなものにするとしても、企業体としての彼らに、私の生まれ育った日本という国の社会や経済の発展まで見据えてそれに寄与するインセンティブはない。私は仕事(=企業活動)を通じて、単に提供する商品やサービスによって日本社会に貢献したいだけでなく、雇用や調達、そして雇った社員が働きやすい環境を作ることなども含めて、さまざまな側面で日本という社会の発展に寄与できる企業で働きたいのだということでした。その観点で見れば、私の勤め先はいわば日本に利益還元することを社会的使命にしているといって過言でない企業です。こうしてGAFAは私の転職先の候補から消えたのです。

このときはまだ、自分が近いうちに起業してパラレルキャリアを目指すことになるなどとは思ってもみなかったのですが、この冨山氏の著書をきっかけに考えたことは、のちに起業する際にもコアとなる大切な価値観になりました。

また、このような考えのもと、結果的に私は転職活動をほとんどせず、今の会社にとどまることを決めたのですが、その背景には人事部内でかねてから希望していた異動が叶い、人事の領域でグローバルな仕事にアサインしてもらえた、という出来事がありました。さらにはアサインされたグローバル人事のチームは、その後の事業再編によってグローバル事業を統括する会社へと移されました。転職活動を経ず、日系資本の会社にとどまりながら、外資系カルチャーでスタッフも非日系ばかりなグローバル人事部というパラレルワールドに身を置くチャンスが回ってきたのです。日本社会に利益をきちんと還元しながら、環境面でリアルにグローバルに働ける。しかも、唯一自分に専門性があると言える人事のフィールドで。まさしく千載一遇のチャンスでした。

一縷の望みをもって、面談のたびにグローバルというキーワードを言い続けたことが、時の経営判断とたまたまタイミングが合って、願ってもない(いや願ったけど)結果に結びついたことに驚きつつ、希望は「言い続ける」こと、そして自分の希望について「考え抜く」ことは無駄ではなかったと改めて思ったのでした。

グローバル人事部の仕事には今はついていくのがやっとですが、いずれ自分なりに腹落ちしたと感じられたらまとめて書いてみたいと思います。

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