幼少期、葱はキューピー人形の味がした。
私は、葱が大好きだ。実は、小学生くらいの頃は葱が大嫌いで、よけて食べていた。なぜ嫌いだったかというと、キューピー人形の味がしたから。
これを言うと、共感してくれる人がほぼいないのだが、幼少期の頃は、葱が、キューピー人形の味がしたのだ。本当だ。嘘ではない。
キューピー人形を食べたことあるのか?と思われたかもしれないのだが、幼い頃にキューピー人形をしゃぶっていたことがある。その味と全く同じ味なのだ。
葱を口に入れるたびに、キューピー人形のことを思い出した。口がきゅっとなって少し眉間に皺がよる。なんとも言えない、味。美味しくない。
母親に「キューピー人形の味がするから葱は嫌い」といえば、「ゆか、キューピー人形食べたことないやん」と返される。
あるのだ。キューピー人形を口に入れたことが。
でもそんなことを言えるはずがなく、とにかくキューピー人形の味がする葱が嫌いだった。
高校生くらいまで葱は食べなかったと思う。ラーメン屋さんに行っても、うどん屋さんに行っても、「葱抜きでお願いします」と伝えていた。
そんな私が、初めて葱料理を自分から注文する瞬間があった。
大学生の頃。サークルの帰りに、友達と「来来亭」という京都にある背脂醤油で有名なラーメン屋さんに立ち寄った。
そこの数量限定メニューに「葱ラーメン」というラーメンがあった。
私はサークルが楽しかったからか、テンションが上がっていて、「葱ラーメン」を注文したのだ。友達と「何これー」と言って笑っていたのも大きいかもしれない。今もだが、お調子者なので、面白そうなことに飛び込むのが好きなのだ。
いつもと同じ「葱ってキューピー人形の味がするから好きじゃないんだよね」というセリフを吐いて、友達に「意味わからん。なんで注文したん」とつっこまれながら葱ラーメンを待つ。
届いた。葱ラーメン。マジで葱もりもり。ほぼ葱。
お調子者の私でも流石に、戸惑う。約18年間、葱はキューピー人形の味だと言い張ってきたので、口を入れるまでに時間がかかる。
ゴクリ。
意を決して、大量の葱をまずはスープに浸し、少しでも葱本来の味を隠そうとする。5分ほど置いて、いざ、口の中へ。
シャキシャキシャキ。
軽快な音が、口の中で鳴る。
シャキシャキシャキシャキ。
あれ………キューピー人形の味がしない……….!!!!
そう、キューピー人形の味がしなかったのだ。
なんなら、美味しい。なんだこれは。葱ってこんなに美味しいのか!?!?
むしろ私が食べていた葱はなんだったのか?
という衝撃を受け、箸を進める。
葱、美味しいぞ。今まで「葱抜きでお願いします」と言っていた数年前の自分を殴りたい衝動に駆られる。
これがきっかけで、私はすっかり葱の虜になってしまったのだった。
それからというもの、外食に行けば「葱何ちゃら」料理があれば、必ず頼んでいる。
大学生になってからガラッと変わり、葱料理を貪る私をみて母はいつも、「葱、キューピー人形の味するんちゃうん?」と言ってくる。
よく覚えているな、凄まじい記憶力。
もうしないよ、キューピー人形の味。
でも、あの時の味の記憶は一体、なんだったんだろう。
本当に、当時は葱が、キューピー人形の味だったのだ。
葱が、キューピー人形の味がするという経験をした方。
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