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上司と部下の関係性が良いことに、デメリットがある?-非倫理的行動を防止するための監視や罰のメカニズムを受けない可能性-


LMXにまつわる面白い論文を、同級生に教えてもらったのでこちらをまとめようと思います。

Journal of Organizational Behaviorは、組織行動に関する研究を扱う学術雑誌で、そこに掲載されていた論文になります。

論文名:Mo, Ruo, and Meena Andiappan. "The brothers are
watching: The peer monitoring mechanism of rivalry in reducing cheating
behavior at work." Journal of Organizational Behavior (2024)


この論文は、競争(rivalry、ライバル関係)が個人に非倫理的な行動を促し、不正行為を促進するという一般的な見解に一石を投じるものです。

競争(ライバル関係)において、他の社会的関係や第三者との関係を軽視してきた点に着目し、職場における競争(ライバル関係)が従業員の不正行為に与える影響をLMX が調整するかを確認しています。

調査の結果として、ライバル関係(rivalry)によって、同僚による監視(peer monitoring)の認識が高まり、その結果、職場での不正行為(workplace cheating behavior)が減少することが確認されました。

さらに、この効果は、従業員と上司のリーダー・メンバー交換(LMX)関係が低い(高い)場合に、ライバル関係が同僚による監視の認識に及ぼす影響が強く(弱く)なることが確認されました。

概念モデル

リサーチクエスチョン


職場において、競争(ライバル関係)が従業員の不正行為にどのように影響を与えるのか。またその過程において同僚による監視の認識がどのような役割を果たすのか。また、この影響がLMX によってどのように変化するのか。

重要な概念の定義


ライバル関係とは、「2 つの行為者間の一連の事前の相互作用の上に構築された、知覚された継続的な関係」です。組織における関係の複雑さを考慮すると、ライバル関係にある者は、自分自身の利益だけでなく、相手が自分の行動にどう反応するかも気にしています。

具体的には、ライバルは継続的な関係にあり、一発勝負の見知らぬ者同士ではなく、お互いをよく知る者同士であることから、ライバル関係を超えた対人関係のダイナミクスを活用することで、行為者の行動に対して相手がどのように反応するかを予測する傾向があると本論文で述べています。

LMX は、職場における競争(ライバル関係)が従業員の不正行為に与える影響を調整する要因として機能すると仮説を立てています。

具体的には、LMX が高い従業員は、

・上司からの支持が強いため、同僚による監視の影響を受けにくくなる
自己の地位や権力感が高まり、その結果として、社会的な周囲の状況や制約に対して敏感さが低下

これにより、同僚による監視をあまり意識せず、競争(ライバル関係)が不正行為を抑制する効果が弱まると考えられます。

LMX、同僚による監視(peer monitoring)、不正行為、チームの信頼、利己的志向について、尺度を用いて測定しています。

仮説

仮説は3つあります。
仮説1:職場における競争(ライバル関係)は、同僚による監視の認識と正の関係がある
仮説2:職場における競争(ライバル関係)は、同僚による監視の認識を介して、不正行為と負の関連がある
仮説3:LMX は、同僚による監視の認識を介して、職場での不正行為に対するライバルの負の間接効果を緩和し、その負の効果はLMX のレベルが低い(高い)ほど強く(弱く)なる

調査

これらの仮説検証のため、方法論として、3つの調査が行われました。

調査1A は、アメリカに居住するフルタイムの労働者308 名を対象に、アンケートを実施した。同僚をすべて挙げてライバルであるかどうかを評価し、同僚による監視の認識、職場での不正行為について尺度を用いて測定しました。

調査1B は、ライバル関係と同僚による監視の認識との因果関係を調べ、交絡メカニズムとして利己的認知を除外することで、調査1Aの結果にさらなる証拠を提供することを目的としました。利己的認知が、同僚による監視の認識を覆い隠す可能性があることを考慮しています。調査1B では、ライバル条件と非ライバル条件に分けてシナリオを提示し、自分に置き換えたときに何を感じるかを作文しました。作文のあと、同僚による監視の認識、職場での不正行為、利己的志向について尺度を用いて測定しました。

調査3は、中国南部の製造業229 名を対象に3 回に分けてアンケート調査を実施し、T1 でライバル関係、LMX、チーム信頼を測定し、T2 で同僚による監視の認識を測定、T3 で不正行為の頻度を測定しました。

結論として、3つの調査を通して、3 つの仮説はすべて支持されました。

まとめ

職場における競争(ライバル関係)にさらされることで、同僚からの監視に対する認識が高まり、その結果、従業員の職場での不正行為が減少することが明らかになりました。

この不正行為に対するライバルの間接的効果は、リーダーと自分との関係の認識によってさらに調整され、LMXが低い (高い)場合、ライバル関係とピアモニタリングの認識との関係は強く(弱く)なる。

つまり、高いLMXは、従業員のパフォーマンスを動機付ける建設的な関係ダイナミクスを示す一方で(Graen & Uhl-Bien, 1995)、非倫理的行動を抑制するメカニズムを曇らせる可能性があることもわかりました。

LMXの高い従業員は、リーダーからイングループメンバーとして扱われるため、 非倫理的行動を防止するための監視や罰のメカニズムを受けない可能性が高いことが考えられます。

LMXの高い従業員に対するイングループの好意から生じるバイアスに対抗するために、リーダーは複数の部下からフィードバックを求めるなど、正義原則の遵守を示す行動をとることが重要です (Sherf et al.、2021)。


LMXがマイナスに働く可能性もある、ということを示した論文ですね。とても面白かったです。

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