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【ショートショート】祈願せよ!人気漫画家御用達!折角神社!

 漫画家美木多(みきた)ホリネオは彼の担当編集者である小英画報出版の節路翔(せつろしょう)と都内のある町の商店街にある喫茶店マガタマでコーヒーを飲みながら新作の連載の打ち合わせをしていた。

「先生、先生のキャラクターはグッズも好調ですし、コラボ企画も多数持ち上がります。ただ…」

「皆まで言わないで下さい。分かってます。つまらないんでしょう。ストーリーが」

「いや、先生の物語はつまらないなんてことは無いです。愛、不屈、正義。ちゃんと我が少年ビッグマンモスのテーマに沿った作品ですし。でも、もっとこう、パンチの効いた内容であればもっと読者も喜ぶんじゃないかと」

「そうですか?パンチかぁ。結構この間のは過激にやったんですけどねぇ。段々と主人公が強くなるにつれて敵も強くなって最後は地球を破壊出来る所まで能力上がってしまったし。そんなの世界がお終いじゃないですか。しかも主人公と敵の能力が互角って矛と盾の話ですよ。結局派手にやっても面白くないとなぁ」

「いや、結構反応も良かったですよ!自信持ってください」

「でも昔の漫画みたいにネタの募集してる訳でも無いのに読者からストーリーのアイディアが沢山送られてくるんですよぉ。こないだ送ってきた小学3年生のアイディアなんて凄く良くてパクっちゃおうかと思いました」

「はい、沢山届いてます。巻末のマンモ情報館のイラスト投稿の5倍くらい。外部のライターさんに相談してみますか?」

「以前やって余計に私のアイディアの貧困さが浮き彫りになったので。私、映画も大好きだし本も沢山読んでるんですよ。絵なんて練習した事無いのにキャラクターのウケは良いんですよねぇ」

2人はしばらく黙って互いの空のコーヒーカップを見つめていたが節路が堰を切った様に再び話はじめた。

「そうだ、この先に漫画家さん御用達の折角神社(せっかくじんじゃ)と言う神社があるんですけど。神頼みしてみますか?」

「そんなの迷信でしょう?なんか御札とか買って、神社の人に写真お願いされて、人気漫画家の何々さんも来ました!とか売店に写真飾られちゃうんでしょう?売店の饅頭頬ばってる情報番組のリポーターの写真の横に」

「いえ、あそこは違います!あの手足塚藤平先生もヒット祈願した所です!」

「あの手足塚藤平先生がですか?我々の神様が神様にお願いしたんですか?」

「後、妖怪漫画でお馴染みの荒極しげお先生もです!」

「えっ?妖怪とか画いてる本人が1番そういうの信じてないじゃないですか?あの荒極先生がですか?」

「そうです!大ヒット!アニメ化!実写化!テレビゲーム!浮き輪にお弁当箱、ノートに筆箱、賽の目付き鉛筆に消しゴム!しかも匂い付き!」

「うーん、気晴らしに行ってみますかねぇ?」

「行きましょう!」

2人は喫茶店からそう遠くないその神社まで歩いた。
「折角神社この先」と書いてある看板がみえるとその先の長い階段を登って鳥居を潜った。
鳥居の側に宮司がいたので節路が少し話をすると早速写真をお願いされた。

「私、読んでますよ!“猛にかける!”大好きです!」

「ありがとうございます!」

美木多は自分の作品で無い物を言われたが笑顔で答えた。
毎日の様にテレビに出ている芸能人が「最近、出てませんねぇ?」と言われるのと同じ様な物でよく知らない同士の挨拶としては「~読んでます」は「景気どうですか?」「お天気良いですねぇ」の類だった。

「ここは手足塚先生や荒極先生もいらっしゃったんです!私、手足塚先生は子供の頃に“熱い氷河期”に感動しまして全集も揃えてますし、荒極先生は“隣の隣太郎”が大好きでして…」

巨匠2人については決して作品を間違わない宮司はそんな話を熱くしながら本堂まで2人を案内した。
そして宮司は本堂へ着くと急に真剣な顔になり話した。

「実はこの神社は神がいらっしゃいます。本当に」

それを聞いた美木多は手を前に出してなだめる様に言った。

「いえ、別に疑って来てる訳じゃないんです。文化としてですね、大事だと思ってますし」

宮司は美木多に顔を近づけると鼻息も荒くこう言った。

「いや、本当にいるんです!うちのカミさんが…アハハ!」

2人は愛想笑いをした後にとりあえずまだ何も決まっていない次回作のヒット祈願をしてもらう事にした。

「コースがございまして、2500円から25万円まで…」

美木多は驚いた。

「25万円ですか!?どんな方が祈願されますか?」

「政治家や起業家の方々です。あっ、手足塚先生は特別コースの30万円でした」

「30万円!凄い!」

「それを聞いた荒極先生は40万円の特別コース。その後すぐ作品の実写映画化が決まりました」

「40万円!すぐ実写映画化!さすがに高いからなぁ」

「30万円コースをケチった山肌先生は…」

「あのピストル自殺の?」

「そう、残念でした」

何故か祈願に来たのに大金を出さないと呪われるという説明を受けてしまい美木多は驚いていた。
しかし節路は

「先生、これは1つ30万円コースいっちゃいましょう!」

「いや、さすがにねぇ。そうだ、何か取材って事でそちら持ちの経費とかに…」

「いや、こう言うのは自腹じゃないと!愛!不屈!そして正義!」

「どれも関係無くないですか?あっ、不屈。不屈の精神で2500円で…」

「山肌先生は…残念でした」

「カードで大丈夫ですか?」

結局美木多は30万円コースの祈祷をしてもらい、節路の「また盛り上がってきたんでサッカーとかで良いんじゃないですか?後、転生するやつ」のアドバイス通りに新作を作る事に決めた。

 後日、節路が折角神社の宮司の息子である事を知った美木多ホリネオは別な出版社より「Sagi!」と言う漫画の連載を開始したのだった。










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