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【展覧会】あるがままのアート −人知れず表現し続ける者たち−

さまざまなアーティストたちの特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」が、2020年7月23日(木・祝)から9月6日(日)まで、東京・上野の東京藝術大学大学美術館で開催されています。

出展アーティストの特徴は、専門的なアート教育を受けず、従来の美術の枠組みや流行に左右されることなく、独自の手法で作品を制作していること。作品が生み出される環境も人によってさまざま。自宅で作品に向き合う人もいれば、福祉施設のアトリエで制作している人もいます。

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こういった作品を言葉で表すとき、フランス人の画家、ジャン・デュビュッフェが考案した「アール・ブリュット」、または、その言葉をイギリスの美術批評家、ロジャー・カーディナルが英訳し紹介した「アウトサイダー・アート」という言葉が良く使われます。

近年、インクルーシブ社会の実現が求められるなか、国内では「アール・ブリュット」や「アウトサイダー・アート」の枠組みのなかで、障害のある作家の表現活動が紹介されることが多く見られます。特に日本では福祉の世界のなかで「アール・ブリュット」=「障害者による表現活動」として認識されていることも。

はっきりとした境界線や、既存の言葉の枠組みのなかでアーティストによる表現を括るのことは難しい。ときに言葉だけが一人歩きしてしまうことも。

同展の監修を務める館長の秋元雄史さんは、今回の展覧会で大切にしているのは作品を「美術として評価する」ことだと話しています。作品として優れているものをしっかりと展示すること。アーティストの背景に焦点を当てるのではなく「作品の良さ」に主眼を置く。その言葉の通り、会場の作品は一度見たら忘れられないような強いエネルギーを感じるものばかりでした。

展示されているのは、アーティスト25名による、約200点の作品。これだけの規模感の展覧会はなかなか貴重だと思います。また個人的には、日本の美術教育の現場である東京藝術大学で開催されていることも大切なことだと思いました。

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作品を鑑賞していて面白かったのは、どの作品も日常生活の積み重ねから生まれているということ。あっと驚くような素材を使った作品がたくさんありました。長 恵(ちょう めぐむ)さんの作品は、空き箱など日常で手に入るものに、何体もの独特な表情をした「天子(てんし)」が描かれています。作品の側面を見ると「愛媛県産 キウイフルーツ」の文字や、コストコのピザ箱が使われていることに気が付いて、日々の生活と表現することが正に直結していることにハッとさせられます。

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いくつかの作品にはNHKのEテレで放送中のドキュメンタリー番組「no art, no life」「人知れず表現し続ける者たち」の映像も連動して紹介されています。映像を見ることでアーティストの創作の様子や日常生活を感じ取ることができるのも良いなと思いました。

誰もが見たことのあるものを使って、驚くような手法で、考えられないような時間をかけて完成させる。日常のあらゆる場面に潜んでいる表現の可能性に気が付くこと、自分にとっての非日常な発見の数々に感動を覚えます。

なかでも目を奪われたのは金崎将司さんの作品。大きな石のように見えるこの立体物は、雑誌やチラシを糊で貼り重ねること1年半(!)という気が遠くなるような月日を経て完成したそう。幾重にも重なった紙は、まるで日々の営みを蓄積した地層のようも感じられます。

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なかには、アーティストのまっすぐな思いに胸を打たれる作品も。渡邊義紘さんは、落ち葉を折り紙のように折ってつくる「折り葉」の動物たちと、ハサミの切込みで動物の輪郭を見事に表現する「切り紙」の動物たちの二通りの作品を制作しています。創作の原動力になったのは、お母さんの喜ぶ顔が見れるのが嬉しい、という思いから。そういったシンプルな気持ちが、長い時間、繰り返し繰り返し、創り続けることを可能にするのだと思いました。

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何かを好きだという気持ちを持ち続けること。何かを大切に愛でること。そんな愛着に基づいた行為から生まれた杉浦 篤さんの作品。何枚も並ぶ古写真は、杉浦さんが家族や友だちと撮った記念写真の数々。約20年間もの間、触り続けたことで色は変色し、角は取れて丸みをおびています。ただ経年劣化により古くなったものとは違う、独特な雰囲気。特に大切なものが写っている部分ほど良く触れるので、表面は剥がれ、写っていたものの痕跡は見当たりません。ただきっと、写真と共に過ごした時間は身体のなかへと染み込み、かけがえのないものへと変化しているのだと感じました。

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2013年にヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で見た澤田真一さんの作品も展示されています。海外のアートフェアで作品が販売されるなど、国内外からも注目されているアーティストの一人です。

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コロナ禍での開催の判断。運営面で苦労する局面も多々あると思います。
でも、先行きが見えにくく、何かと不安を感じることが多い今だからこそ、こうした表現に触れることで気持ちが救われることもある。目の前の作品たちはどんな理屈や言葉を並べても説明しきれません。誰もが持っている欲求や執着、そんな本能的な感情が昇華され、どの作品も生きることは表現することと真っ直ぐに繋がっていることが体現されていました。

この展覧会では、会場に直接来ることが難しい人に向けて、遠隔操作ロボットを活用した「ロボ鑑賞会」や、360度写真で展示室を見ることができる「バーチャル展覧会」などのスペシャルコンテンツも充実しています。展覧会は事前予約制なのでご注意ください。

特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」

会期:2020年7月23日(木・祝)~9月6日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8)
入場無料
https://www.nhk.or.jp/event/art2020/

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