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<ラグビー>2023ラグビーワールドカップ(開幕第4週)

(どうでもよい「話の枕」です。関心ない方は飛ばしてお読みください。)

 「らんまん」の登場人物たちは皆、功成り名を遂げ、高い社会的地位に就いているが、肩書も何もなかった若かりし頃を再現するように、未だ在野の研究者である万太郎の家に集合し、皆で手分けして万太郎の植物図鑑の完成を助ける。そこには、高い社会的地位に伴う有償の喜びではなく、分け隔てがない友人たちと共同作業を行うという、無償の大きな喜びがある。これこそは、人が社会を作る動物であることの根源的な理由だと思う。

 そして、そうした人の輪、あるいは集団を意識せずに作り出す、あるいは友人たちを巻き込んでしまう万太郎は、神話的な意味でのトリックスターそのものなのだ。そして、この生きているトリックスター(生き神様だ!)と同時代に生き、かつ交流した人たちは、困ったことも多々あっただろうが、その千載一遇の貴重な機会を得られたことは、人としての最上の幸運であったのだ。

 (ところで、私は文学士を既に持っているので、このブログに多々投稿している人文科学系(文学、詩学、自由律俳句、芸術、哲学、神話学、心理学、歴史学、文化人類学、スポーツ文化論)の論文をもとに、どこかの大学が客員教授に採用して、さらに文学博士の称号をくれないものだろうか?)


1.RWCプールマッチ結果

9月27日

ウルグアイ36-26ナミビア(HT12-20)


 ナミビアのキャプテンであるヨハン・デイゼルは、フランス戦のアントワーヌ・デュポンへの危険なタックルで、6試合の出場停止処分となった。この処分は妥当と思うが、どこかで開催国かつ優勝争いをするフランスの大黒柱を入院させたことに対する、制裁措置の匂いが拭えない。

 つまり、デュポンやティア1国選手が同じことをやっても、出場停止処分は1~2試合に減らされた気がする。イングランドのオウウェン・ファレル、アイルランドのジョナサン・セクストンのように。引用したリンク先では、この処置を「ティア2国選手に対して、デュポン・タックス(デュポン税)を払わせた」というSNS上の意見を紹介している。

 ナミビアは先発7人交代。ウルグアイは4人交代。両チームとも、強度の高い試合が続き、かなり疲れている。もしティア1チームと対戦したら、どちらも100点ゲームで負けたろう。

 試合は、前半はラッキーなトライ(ウルグアイのノッコンやスローフォワード見逃し?)もあり、ナミビアがリードしたが、後半に入り、シンビン2枚とレッド1枚がナミビアに出て、数的劣勢な中でウルグアイが逆転。そのまま点差を拡げて逃げ切った。ウルグアイは、これでRWC通算4勝目。ナミビアは26戦全敗となり、RWC初勝利が遠い。

9月28日

日本28-22サモア(HT17-8)

 日本は、負傷のセミシ・マシレワに代えて、バーバリアンズでプレーしている山中亮平をスコッドに入れた。ハイパントに強く、ロングキックを蹴られる山中を入れることで、日本はキッキングゲームにさらに対応できることになった。しかし日本は、FBにロマノ・レメキを、22番SOに李承信をそれぞれ入れたが、せっかく招集した山中亮平をメンバー入りさせていない。実にもったいない。なお試合前にSH流大が急遽欠場となり、9番には斎藤直人、21番には福田健太(初キャップ)が入った。

 サモアは、オールブラックスの3番PRチャーリー・ファウムニアとSOリマ・ソポアガが、それぞれ怪我で欠場するが、それ以外はベストメンバーを揃えた。好調のSHテーン・タウマテイネがチームをけん引する。試合前に急遽キャプテンの4番LOクリス・ヴイが欠場し、19番のスティーヴン・ルアトゥアが4番で先発、19番にはブライアン・アライヌウエセが入った

 試合は、前半から日本がサモアのアタックを止める強固なディフェンスで流れを支配した。また31分にサモアが、36分に日本が、それぞれシンビンになったが、日本が17-8でリードする。後半に入ってからは、サモア11番WTBベン・ラムがレッドカードになったこともあり、54分までに25-8と日本がリードを拡げて、勝利へ前進した。

 しかし、62分に14番WTB松島幸太朗のボーナスポイントとなるトライがTMOで取り消された後から、それまで良かったディフェンスが、リザーブに交代したことも影響して突然緩くなってしまった。そして64分と77分にサモアのシンプルなアタックから2トライを献上して、28-22まで迫られる展開となった。幸いに、残り時間の少なさとサモアのハンドリングエラーに助けられて、どうにか日本は逃げ切ったが、ボーナスポイントを取れなかったことはプール2位争いに少なからず影響することとなった。

 MOMはFBに入って攻守に躍動したレメキ・ロマノだったが、6番FLマイケル・リーチを筆頭にしたFWの奮闘と、一本しかミスしなかったSO松田力也のゴールキックが勝利をもたらしていたことを称えたい。

9月29日

オールブラックス96-17イタリア(HT49-3)

 オールブラックスは、ナミビア戦でレッドカードをもらったPRイーサン・デグルートが、裁定の結果2試合の出場停止処分となった。この結果予選プールマッチは欠場するが、決勝トーナメントへの影響は避けられた。この結果、現時点のオールブラックスの左PRは、オファ・トゥンガファシとタマイティ・ウィリアムスの二人体制になっている。

 オールブラックスは、19番LOのリザーブに入ったサムエル・ホワイトロックが、偉大なリッチー・マコウの持つ最多キャップ記録148を抜いた。現在34歳で、13年間かかかって達成した記録となるが、今大会で引退となる見込みなので、決勝まで進むとすれば、さらに3試合を積み上げて152になる。なお、現在のトップは、元ウェールズ代表LOアルンウィン・ジョーンズの170キャップ。

 他のメンバーでは、怪我で欠場した4人がようやく戻ってきた。12番CTBジョルディ・バレット、6番FLシャノン・フリッゼルに加え、18番PRにタイレル・ローマックス、20番FLにキャプテンのサム・ケーンが戻った。また4番LOにブロディー・レタリック、7番FLダルトン・パパリイ、21番SHキャメロン・ロイガード、22番SOダミアン・マッケンジーと才能あふれる選手が揃っており、今大会初のベストメンバーになっている。

 イタリアは、先週のウルグアイ戦から主にBKのポジション変更をしている。SOのトンマソ・アランがFBに、FBのアンジュ・カプオッツォは14番WTBにそれぞれ移動し、12番CTBパオロ・ガルビシは本来のSOに戻った。12番CTBにはルッカ・モリシが入っている。SHは、ガルビシの兄弟アレッサンドロがメンバー外となり、ステファン・ヴァーレイが先発に戻った。リザーブは、FW戦を予想してFW6人+BK2人にしている。

 ゴールキッカーを務めるアランは、これまで13回蹴って全て成功しており、ディエゴ・ドミンゲスの持つイタリアのRWC得点記録を抜くまであと5点となっていたが、PG3点とコンバージョンの2点を合わせた5点を追加して記録を達成した。

 ベストメンバーのオールブラックスは、14トライ・13コンバージョンという大勝を得た。また54分の、21番SHキャメロン・ロイガードがインゴールに入ったトライが認められていれば、100点の大台に載せるところだった。

 イタリアは、スクラムとラインアウトのセットプレー、ブレイクダウン、さらにキッキングゲームの全てでオールブラックスに圧倒されたが、後半に2トライを返して意地を見せた。(この2トライを取られたことに対して、「オールブラックスは弱い!」と言う人がいるが、クラウリー監督以前のイタリアならその見方は正しいかも知れないが、今のイタリアはフランスとも好勝負ができる強さを持っている。だから、2トライを取っても不思議でない。このことよりも、フランスがウルグアイに27-12のわずか15点差で勝ったことの方が、よほど「弱い!」と驚くべきことだろう。なぜなら、試合前に100点ゲームも予想できたのだから。)

 オールブラックスは、SHアーロン・スミスがハットトリック、NO.8アーディ・サヴェア(MOMに選ばれる)、14番WTBウィル・ジョーダン、16番HOダン・コールズが、それぞれ2トライを記録するなど、オールブラックスらしい、そしてラグビーの理想的かつエンターテイメントとしての真価を発揮した、素晴らしいラグビーを見せてくれた。これこそ、ラグビーの楽しさ、面白さだった。一方、大半のプレーをミスなくプレーし、怪我やシンビンなどがなかったものの、キックオフのダイレクトタッチ、タッチキックのノータッチ、いくつかのアタック時のノッコンについては、準々決勝に向けての反省材料となっている。

 個々の選手では、怪我から復帰のシャノン・フリッゼル、ジョルディ・バレット、サム・ケーンらが良いプレーを見せ、また不調だったウィル・ジョーダンとこれまで見せ場が少なかったダミアン・マッケンジーの二人がそれぞれ良いプレーを見せた。新鋭SHキャメロン・ロイガードは、引き続き好調でいくつかの見せ場を作っていたので、今後が益々楽しみとなった。

9月30日

アルゼンチン59-5チリ(HT24-0)

 南米対決(ダービー?)。アルゼンチンはここで完勝して、最後の日本戦へ弾みを付けることとなったが、後半途中までは、単純なFW中心のアタックを、チリのフィジカルに強いディフェンスに止められて、なかなか得点できなかった。またBKのラインアタックが機能せず、得点はモールからが大半を占めていた。一方、ブレイクダウンでも劣勢な場面が見られたが、先発に起用された100キャップを達成したSOニコラス・サンチェスは、MOMに選ばれる安定したプレーでチームに勝利を導いている。エディー・ジョーンズに見せたい「ベテランの真価」である。

 チリは、フィジカルに強いディフェンスと、9番、10番、12番、15番のランニングスキルだけが武器だったが、さすがにこれだけでアルゼンチン相手に勝つのは至難の技だった。今大会で悲願のRWC初出場を果たしたが、初勝利ははるかに遠かった。

フィジー17-12ジョージア(HT0-9)

 実力が拮抗した同士による予想通りの接戦となった。フィジーは、得意のランニングプレーをジョージアに止められる一方、反則から得点を重ねられて、前半をリードされる。しかし、後半51分のトライで7-9と迫り、65分のPGで10-9とようやく勝ち越した。しかし、シンビン2枚の規律の悪さから、特にセットプレーで劣勢となり、完勝とはならなかった。「勝ったことが全て」となった。

スコットランド84-0ルーマニア(HT42-0)

 スコットランドは、先発13人を代えるBチームで臨んだ。5番LOグラント・ジルクライストがキャプテン代行となり、SOはベン・ヒーリーが入った。

 大敗続きのルーマニアとしては、少しは良いところを見せたいが、またまた大敗となってしまった。ルーマニアが、前半に連続してシンビン3枚を出した規律の悪さに加え、タックル成功率60%、タックルミス70回という惨状で、文字通りのスコットランドのアタック練習にしてしまったのが、大敗の原因だろう。ルーマニアのこの惨状は、大会参加資格を問われても仕方ないものとなっている。

 スコットランドは、12トライ12コンバージョンで大勝し、来週のアイルランド戦に向けて弾みをつけた。14番WTBダーシー・グラハムは、5トライの荒稼ぎで、好調ぶりを見せつけた。来週のゲームで、もしアイルランドに勝ち点を与えずに、スコットランドがボーナスポイント付きの勝利を挙げれば、アップセットの準々決勝進出となるが、果たしてどうなるか。

10月1日

オーストラリア34-14ポルトガル(HT24-7)

 オーストラリアは、いくら2027年大会を考慮したとしても、マイケル・フーパー、クエード・クーパー、バーナード・フォリー、ジェイムズ・オコナー、ノア・ロレシオ、サム・ピートらをスコッドに入れていたら、少なくともフィジーには勝っていたと思う。これは全てコーチの責任というしかない。

 オーストラリアは、引き続きHOデイヴィット・ポレキをキャプテンにした。また、完敗したウェールズ戦から、CTBをサム・ケレヴィ(リザーブに下がる)とジョーダン・ペタイアのコンビから、ララカイ・フォケティとイザエア・ペレセに交代させた。

 オーストラリアはポルトガルに先制トライを取られたが、その後相手のシンビンもあり、前半を24-7とリードする。しかし後半に入り、シンビンを続けて取られて数的劣勢となってしまう。ポルトガルが必死に攻めるが、オーストラリアはTMOの判定にも助けられて逃げ切った。オーストラリアにとっては勝利したことが唯一の収穫となった。

南アフリカ49-18トンガ(HT21-8)

 トンガのNO.8として大活躍してきたヴァエア・フィフィタは、前戦のスコットランド戦の終盤に受けたレッドカードから、4試合の出場停止処分となってしまった。この南アフリカ戦と最後のルーマニア戦に欠場となるのは、トンガとして大きな痛手となった。一方、19番LOに元オーストラリア代表アダム・コールマンが入り、ラインアウトを中心に活躍した。ここにイズラエル・フォラウが入っていれば、もっと良い試合ができたと思う。

 南アフリカは、怪我が癒えてスコッドに戻ってきたアンドレ・ポラードをSOで先発させた。これまで唯一のSOとしてプレーしてきたマニー・リボックは、23番のリザーブに下がっている。また、激戦となったアイルランド戦から先発12人を交代・ローテーションしている。SHはアイルランド戦で唯一のBKリザーブだったコブス・ライナッハが先発する他、14番WTBには本来SHのグラント・ウィリアムスが継続して先発する。

 また、NO.8にジャスパー・ウィーゼが残った関係で、NO.8が本職のデュアン・ファルミューレンは7番FLに入った(今大会後に引退する見込み)。また怪我から復帰のエベン・エツベスは4番LOで先発する。リザーブは、最近の南アフリカにしては珍しく、トンガとのFW戦は余裕と見たのか、FW5人+BK3人にしている。6番FLシヤ・コリシは、キャプテンとして50試合となった。

 試合は、トンガがアタックしてもなかなかトライを取れない中、37分に151kgの3番PRベン・タメイフナがようやくトライをした一方、南アフリカがまるでイングランドのヘディングトライを再現するようなラッキーなプレーなどで、前半を21-8とリードする。

 後半も南アフリカのディフェンスは崩れずにリードを拡げていき、そのまま実力差を見せて完勝した。トンガは、勝負が決まった後の52分と72分にトライを返すのが精一杯だった。南アフリカは、10番アンドレ・ポラードと22番マニー・リボックが、ともにゴールキックを確実に決めて、準々決勝進出を決めた。おそらく、フランスと対戦することになるだろう。 

2.その他のニュースなど

(1)日本代表次期監督選考問題とエディー・ジョーンズ関連


〇元ワラビーズ選手は、ディーンズの再任を期待

 大言壮語とメディアとの軋轢、それに加えて無謀なだけのチームの若返りを強行した一方、今大会で惨敗かつ連敗のワラビーズ監督エディー・ジョーンズは、大会開始前に日本協会と次期監督就任について連絡を取っていたという報道が流れているほど、2027年のRWC開催まで契約しているワラビーズ監督の座が危うくなっている。

 そうした報道を反映して、元ワラビーズLOのピーター・フィッツシモンズは、現在パナソニック・ワイルドナイツの監督をしている元クルセイダーズ監督のロビー・ディーンズは、2003年にグラハム・ヘンリーとのオールブラックス監督争いに敗れた後、ワラビーズ監督に就任したが、期待したほどの成績(75戦44勝の勝率58.67%だが、歴代監督と比べて勝率は高い方だ)を上げられずに解任された経緯があるものの、ジョーンズの後任候補として推薦している。

(以下私見)
 ちなみにディーンズ以降のワラビーズ監督たちの勝率をみると、イーワン・マッケンジーが勝率50%,マイケル・チェイカが勝率50%,そしてNZ人のデイヴ・レニーが36.40%となっており、ディーンズの数字は低くない。なお、ジョーンズの前回の監督時代の勝率は57・89%でディーンズより低く、また現在は12.5%と悲惨なものとなっている。一方、ジョーンズが2003年RWC母国開催で準優勝したのが高く評価されている。

 現在のワラビーズ不振の一番の原因は、人材発掘の失敗にあると思うが、一方現在日本代表に入っているオーストラリア人、ジャック・コーネルセン、ベン・ガンター、ディラン・ライリーは、全てディーンズがオーストラリアで埋もれていた人材を発掘してワイルドナイツで育成し、優れた日本代表にした成果である。

 そのため、もしもディーンズが解任されずにそのままワラビーズを指導していたら、コーネルセン、ガンター、ライリーらはワラビーズの中心選手になっていたことが容易に想像できる。また、もしそうなっていれば、今回ジョーンズが、無理やり2027年大会を見据えた若手スコッドにする必要性を予め排除できていただろう。

 しかし、ディーンズが解任された理由は「外様でライバルのNZ人だから」ということも背景にあったため、また同じような理由で解任されるかもしれないことを考えると、ディーンズにとっては、再任しない方が無難ではないか。そして、現在のアルゼンチンの飛躍を支えたオーストラリア人マイケル・チェイカを監督に呼び戻す方が、より自然ではないかと思う。

〇プラネット・ラグビーでは、ジョーンズ再任を悪手と論評

 プラネット・ラグビーのオピニオン欄では、日本代表次期監督候補について論じているが、ジョーンズについては、過去の栄光を思い求めても既に時代状況が激変しているとして、再任は悪手と論じている。そして、同じく候補に挙がっているフラン・ルディケについては、テストマッチレベルでの活躍を期待するには時期尚早であり、また彼が成果を発揮できるためには、ブルズやスピアーズのように長期間を要するため、次回RWCまでの4年間では短すぎると論じている。

 その一方で、次期日本代表監督として最も適任なのは、実績及び能力ともに折り紙付きのロビー・ディーンズであると、強く推薦している。また次点として、イタリアの強化に大成功したキアラン・クラウリーを推薦しており、高額の給与に加えてオーストラリア協会に高額の違約金を支払う必要のあるジョーンズよりも、余程経済的かつ現実的選択と述べている。

(2)南半球が再び北半球を再び凌駕するためのスティーヴ・ハンセンの見方


 元オールブラックス監督スティーヴ・ハンセンは、今回のRWCで南半球勢が再び北半球勢を凌駕するためには、オーストラリアについてはスーパーラグビーのチームを3~4チームに縮小する、南アフリカ勢が抜けた後を埋めるためアルゼンチン(ハグアレス)を入れる、ヨーロッパ勢のようにU20の高いレベルの多くの試合がないので、これを増やすようにする等の意見を述べている。

(3)エディー・ジョーンズは史上最高の名将???


 日本では、何故かエディー・ジョーンズの人気が非常に高く、この記事のように「史上最高の名将」という誉め言葉を多用しているが、名将という言葉の定義は別として、実際に勝率でどのくらい優れているかを見てみると、以下の引用元からは、65.88%となっている(オーストラリア監督として53.97%、日本代表監督として70.83%、イングランド監督として72.84%。日本時代の勝率が高いのは、格下のチームとの対戦が多かったことも影響している。また今シーズンは9戦2勝で勝率22.2%)。

 一般的に「史上最高のラグビーのコーチ」というのであれば、例えばスクラムを3・4・1で組むなどの現在のラグビーの基礎を作った、南アフリカのステレンボッシュ大学教授ダニー・クレイヴンを無視するわけにはいかない。彼がいなかったら、RWCで見られるようなスリリングなラグビーは、長く出現しなかったかも知れないのだ。

 次にラグビー史に名を残すのは、ウェールズ及びブリティッシュアンドアイリッシュ・ライオンズ監督として、1960年代後半から70年代初頭にラグビーのプレーを近代化及び改革したカーウィン・ジェイムズが筆頭に挙げられる。また、ライオンズの監督としての実績なら、スコットランドのイアン・マギーカンと、NZ人としてウェールズ復活に貢献したワレン・ゲイトランドの二人を挙げねばならない。ここに名前を挙げたコーチたちは皆、史上最高という冠を付けるか否かは別としても、名将という名に相応しい名コーチたちだ。

 また、ジョーンズと同じオーストラリア監督を見れば、1987年RWC時のアラン・ジョーンズが勝率70%、1997―2001年の黄金期のロッド・マックイーンが勝率79.7%と、それぞれジョーンズのオーストラリア時代の勝率53.97%を凌駕している。そして、世界最強のオールブラックスの監督を見れば、1991年RWC時の監督アレックス・ワイリーは勝率86.2%、2011年RWCはアシスタントコーチ、そして2015年RWCは監督としてRWC史上初の連覇を果たしたスティーヴ・ハンセンは、86.9%の高い勝率を誇っている。

 一方、RWCだけに限定すれば、ジョーンズは2003年と2019年に別のチームで準優勝し、2007年にアシスタントコーチの一人として優勝しているが、ハンセンの2回連続の優勝と比較して、ジョーンズの方がより優れているとするには、この実績は十分ではないだろう。そもそも、優勝チームとその監督は長く記憶されるが、準優勝チームと監督はそうではないから、準優勝と優勝とはかなりの差がある。そもそもハンセンはRWCを連覇しているのだから、これ以上の実績を持つコーチは、現在まで世界にいない唯一の存在だ。

 従って、ジョーンズを、これまで沢山いた「名コーチ」の一人と称えることは可能だが、さらに「史上最高の名将」とまで持ち上げることは、いくらジョーンズを熱烈に信望しているからといっても、正直「過剰広告」と言われても仕方ないものがあるだろう。

(4)ルーマニアはラテンか?


 いちいち細かいことにケチを付けたくはないが、やはり違っているものについては、「王様は裸だ!」と言わねばならないと思っている。このサンスポのコラムは、今回のRWCでラテン系諸国が活躍しているという趣旨だったが、フランス、イタリア、スペイン、南米諸国をラテンとするのは自然だと思うが、ルーマニアをラテンと言い切ってしまうことには、実際に住んでいた者としては、「それは違う!」と声を上げたくなってしまうのだ。

 私がわざわざ書かなくても、歴史をちょっと調べればわかることだが、念のため書いておくと、ルーマニアの地はもともとダキアと呼ばれて、古代のケルト人やゲルマン人、それにスラブ人が住んでいた土地だった。しかし、当時のローマ帝国領内へ、ダキアの地からドナウ川を越えて侵入することが多かったため、時の皇帝トラヤノスがダキア占領を行った(ローマに有名なトラヤノス戦勝記念塔がある)。そして占領後は、ダキアにいた住民を再侵入防止のためヨーロッパ各地に散在させた一方、ヨーロッパ各地からの移民をダキアの地に移住させた。その結果、「ローマ人の国」という意味になるルーマニアという地名ができた。

 こうした歴史から、イタリア語とかなり共通するというルーマニア語が誕生することになったが、ルーマニア人の顔を見れば、ドイツ等からのゲルマン人、ロシア・ウクライナからのスラブ人、ギリシャからのギリシャ人、そしてギリシャを通過してきたアラブ人、トルコや中央アジアからのアジア人等によって、かなり雑多に混血していることがわかる。もちろん、ロマと呼ばれるジプシーやユダヤ人も多く居住している他、ルーマニア西部のハンガリーとの国境地帯は、ハンガリー語を話すハンガリー人が住んでいる。

 だから、簡単にルーマニアをラテンと言い切ることには非常に無理がある。ある人のたとえ話では、ルーマニア人の感情の沸点の低さと激しさはラテンだが、冷血かつ執念深さはゲルマンと言っていた。だから、ドラキュラのツェペシュ公や独裁のチャウセスクが生まれた一方、多くの優れた芸術家(特に音楽、演劇、バレエ)を輩出している。

 最後に、ルーマニアの我が家が、国立ラグビー場とラグビー協会及びオリンピック委員会まで徒歩で10分と近かったことから、ラグビー協会事務所やテストマッチを見る機会が数回あった。私が、そうしたことから得た感想は、ルーマニアのラグビーに近い存在を強いて言えば、フランス南部のFW中心の荒々しいラグビーだと思う。それはジョージアのような圧倒的なFW中心のラグビーというのではなく、なにか古代ローマ帝国軍と戦った原始的な中部ヨーロッパ蛮族の寄せ集め軍団のような(そうカエサルに反抗したウェルキンゲトリクスのイメージだ)ラグビーというのが、もっとも相応しいと思う。そして、これは決してラテンと言われるようなラグビーではなく、むしろゲルマンのラグビーだと思う。

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