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「どうする賃上げ2024」第1回    ~「賃上げ5%って、5%上がるの?」~


1.はじめに

 1月24日、経済界と労働組合の代表が賃上げについての考えなどを説明し合う経団連主催の「労使フォーラム」が行われました。春季労使交渉(いわゆる春闘)のスタートです。 

 大手企業では、高水準の賃上げ実施を経営者が早々に表明していますが、今年の焦点は中小企業にどこまで波及するかが、今後の日本経済を左右すると言われています。

 しかし、物価や物流費が上がり、今後金利も上がるかもしれない中、どう賃上げ原資を確保していくのか、中小企業の経営者の皆さんは悩まれていることと思います。

 また、大手企業との給与格差が広がっていくと、人手不足の中で、優秀な人材の採用がさらに難しくなってしまうかもしれません。がんばっている社員に報いていきたいとお考えの経営者の皆さんも多いことでしょう。

 そこで「どうする賃上げ2024」として、数回にわたり賃上げについて皆さんと考えていきたいと思います。第1回は、新聞記事に踊る数字について考えるとともに、基本的なことをおさらいします。

2.賃上げ率は、何に対しての率なのか?

 連合は「5%以上」の賃上げ目標を掲げています。全員一律に5%上がるのか、例えば20万円の給与の人が、5%=1万円の賃上げになるのかと言えば、そう単純なものではないのです。数字を鵜吞みにして右往左往しないでくださいというのが、今回のポイントです。

 そもそも「何に対して5%」なのか? 全社員(あるいは組合員)の平均給与額であったり、35歳のモデル賃金であったり、企業によって異なります。それをもとにいくら上げるかを交渉し、賃上げ原資を計算し、個々の社員の賃上げ額(配分)を決めていく企業が多数でしょう。

3.定期昇給について

 そして、ご存じの通り、賃上げは定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)とに分けられます。連合の方針でも「賃上げ分(ベースアップ)は3%以上」で、残りは定期昇給相当分としています。

 定期昇給は、一般的には1年に1回行われる給与改定であり、人事考課による昇降給や、現在は少なくなってきましたが年齢や勤続年数が1年加わることによる昇給を指します。労務構成が変わらないのであれば、定期昇給では人件費は大きく変わらないと言われています。
 
 人事給与制度が整っているところは、制度に基づいて行われますが、制度が整っていない企業の場合は「定期昇給相当分」としての昇給を行っています。

 当然ですが、人事給与制度は、企業によってそれぞれです。

 また、定期昇給と定義している給与改定の範囲もそれぞれです(例えば、昇格や昇級に伴う昇給を含むか、含まないかなど)。

 従って、単に「定期昇給率2%」と言っても、その実態は千差万別なのです。


図1:定期昇給

4.ベースアップについて

 ベースアップは、給与の「ベースを上げる」ということで、一般的には「給与表(昇給のシステム)の書き換え」と言われています。定期昇給と異なり、人件費の増加につながります。

 具体的には、定期昇給で3,000円上がるところを5,000円上がるような仕組みに変えていくということです。この2,000円分がベースアップであり、人件費増となります。

 ベースアップについても同様で、「ベア3%」と言っても、全社員一律に給与額に3%分を上乗せしている企業は少ないと思われます。

 何に対して賃上げをするのか? 基本給なのか、手当類も含むのか? 全員一律なのか、特定の層に配分するのか? それぞれの企業の人事戦略に沿って、経営者あるいは労使双方が意思をもって給与改定を行っているのではないでしょうか。

 つまり、「5%賃上げ」と報道されていても、その具体的な内容については説明されていないので、実態はその企業の社員でしかわかりません。企業により制度や事情はそれぞれですので、公表する数字の基準も明確とはなっていません。


図2:ベースアップ

5.おわりに

 日々「○○社、□%の賃上げ」と見出しが出ると、経営者も社員の皆さんも数字のみに目が行くかと思います。大切なのは、その企業がどういう意図で、どういうふうに賃上げを行ったのかであります。

 数字に必要以上に振り回されず、自社のポリシーをしっかり持って賃上げを考えていただきたいと思います。

 次回は、ベースアップについて具体的に考えてみたいと思います。

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