「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記)第22房:さよならだけが人生だ

 出会いがあれば、それはすなわち別れることである。
 別れることは必然だ。
 人は誰しもが別れていく。

 ――さようなら。

☆   ☆   ☆

 春眠暁を覚えず。
 有原くんはここ最近ずっと寝坊している。
 起きられない。起きたくない。夢を見続けたい。

 なにがある訳ではない。
 髪をばっさり切って、施設に辞める旨を伝えて、自分ができることをただやっていく。
 いわゆる日常。
 ようやく日常。
 人生をサボり続けてきた有原くんは、もう随分と日常から遠ざかっていた。

 真っ当に真っ直ぐに真面目に生きよう。

 まずは自分を振り返る。
 もともとグループとかの人間関係が苦手だったこと。無理にあくせく動くのが嫌いなこと。人前に出るのが苦手なこと。
 自然が好きなこと。音楽が好きなこと。誰かと一緒にいると安心すること。体を動かすのが好きなこと。昔キッチンで働いていたこと。

 なんだ、できることあるじゃん。

 無駄に虚勢をはって、格好つけて、悪ぶって周囲を威嚇して、ずっと自分を守ってきた。

 もうやーめた!

☆   ☆   ☆

 春だ。
 キャラを変えるんじゃない。
 もとに戻るだけだ。

 有原くんは一人になった。
 ただこれでいい。
 さよならだけが人生だ。

 行け。歩け。ゆっくりでいい。

 死ぬにはもう遅すぎる。

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