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宇治抹茶の茶摘みは美しかった(茶園見学1)

少し時間が経ってしまったが、5月初旬、宇治抹茶の茶摘み作業を見せてもらった。訪れたのは、宇治市内で数種のてん茶を栽培する茶園 清水屋さん。宇治で茶の栽培・製茶業を始めたのは今から300年以上前という、歴史ある茶園だ。摘み子さんによる”手摘み”と、年に一度だけの収穫(”一番茶”のみ使う)にこだわり、高品質の抹茶を作りつづけている。茶摘みで忙しい時期にも関わらず、まずは取材を受け入れてくださったことに感謝。

今回の同行者は、世界一周の旅を終え先日帰国した写真家のさやかちゃん。オンラインのティーショップを始めるために仕入れ先を検討中だ。私といえばお茶は日頃から好きで飲んではいるが、知識としては全くの素人。そんな素人目線で感じた茶園見学について、3回に分けて書いてみたい。

お寺にお茶屋さん、和菓子屋さんなど、京都はお茶に触れる場が多い。加えて、こちらで知り合った人の多くがお茶を習っていたりお茶に関わる活動をしていたりして、お茶との距離感の近さを感じること多々。実際にうちから最寄駅の間にも表千家の会館やお茶の教室があったりもして、”茶の湯”へアクセスしやすい環境がある。

宇治といえば、今では国内外ともに有名な抹茶の産地。「宇治抹茶使用」と書かれたスイーツはコンビニや土産店に溢れ、新商品をすかさず試すようなファンも多いが、抹茶がどうやって抹茶になるのかというのはあまり話題にのぼらないのではないか。抹茶の原料は「てん茶」と呼ばれる茶葉(花粉症の時期に登場する「甜茶」とは全くもって別物である)。これを石臼などでひいて粉末にしたものが抹茶だ。

清水屋の清水大嗣さんに案内してもらい、寒冷紗(黒い遮光カーテン)で覆われた茶園に入ると驚いてしまった。寒冷紗から落ちる無数の木漏れ日によって、ピンと背筋を伸ばした新芽が文字通り”輝いて”いたんである。私もさやかちゃんも、これにはしばしうっとり。

また、この日は最高気温30度予報の夏日だったが、内部はひんやり。この栽培法は緑茶のなかでも高級な玉露と同じなのだが、新芽が芽吹いてから寒冷紗や本簀(藁などを編んで作った覆い)で日光を遮ることで、新芽が薄く柔らかく、また濃い緑色に育つという。このことは3回目で詳しく触れるが、成分的には渋みの元であるカテキンが抑えらる一方、旨味の元であるテアニンが多く生成される。

そもそもの疑問で、摘む新芽とはどの部分か?というこだが……      これ(↓)が古葉(ふるは)と呼ばれる葉で、ベースとなる部分。

対してこちら(↓)が、古葉から出てきた新芽の部分。毎年摘むのはこちらで、古葉は摘まずに残しておく。二番茶以降も摘む茶園では、この部分に生えてくる芽を何度か摘む、ことになる。

そんな”キラキラ”空間を奥へ進むと、5〜6人ほどの摘み子さんグループがいた。みんな和気藹々とおしゃべりに花を咲かせながら、それでも手を止めることなく新芽をサッササッサと摘み取っていく。近寄って見ると、芽を摘んだところから香りが立ち上ってきて、そのなんともピュアな”青い”香りにワアッと声をあげてしまった。

「写真を撮らせてください!」とお願いすると、「こんなおばさん撮ってなんになるの〜やだわぁ」「毎年この時期が楽しみなのよ〜」「私なんて手が小さいからちょっとずつしか取れないの。ほら、◯◯さんは早いのよ」などと、たちまち笑い声が上がってきた。そんな絶えることのない陽気なおしゃべりと手際良く運ばれる所作は、なんとも惚れ惚れする光景だった。

摘み手さんは昔から女性の役目。理由を尋ねると「小さく小回りがきくので、女性の手が向いていると言われますね。それに、根気のいる作業なので、女性の方が性格的にも合っているのかも」と大嗣さん。なかには40年間毎年手伝いにきてくれる方もいるというから、茶栽培が地元で愛され、人々の暮らしの一部になっているのが伺える。

手作業だと、茶の葉を傷つけず、酸化を避けられる(茶の葉は切れたところから酸化してしまう)。また、人が選んで摘むので、古葉や茎が入り込むのを最大限防げる。逆に、機械ではそこまで低い位置まで摘むことができず、上の方だけさらう形になり「茶層が取れない」という。だから、手摘みだと上から下まで摘む幅が広いので、茶葉全体にグラデーションができ色の深みが出るそう。つまり、見た目にも味にも質の良いものができるということ。

とはいえ、長時間の茶摘み作業は重労働。実際、全国的には機械摘みが主流になっているし、ここの摘み手さんも減っているというのも事実。けれど、こうした長時間の重労働が、忍耐強く、また朗らかな女性たちによってこうして受け継がれてきたことに、女性の懐の深さを感じずにはいられない。

おまけ。茶園の入口(↓)。東南アジアで見たような光景にほっと和んだ。


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