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なぜ海外映画の日本版ポスターは酷評されるのか─ベネフィットセリングで社会のレベルを上げる

このnoteは何?
マーケティングエージェンシーFICCのBX事業部にて、「ブランドとはなんなのか? どうすればブランドを豊かにすることができるのか?」それをみなさんと考えるnoteを書いています。記事をまとめたマガジンはこちら→本当の価値を生むブランディング戦略(仮題)

海外映画が日本で公開される際、その邦題や日本版ポスターが酷評されることは多々あります。「ダサい」とか「要素がうるさい」とか、そんな声があがるようです。俳優の斎藤工さんの「ブロッコリー」発言が話題になったこともありました。

私自身はあまり映画にこだわりはない(先日のゴジラキングオブモンスターズも批評家たちが『人間が描かれてなくて怪獣ばっかりやった』と言うなかで『これは人間の映画やぁ…』とたくさん泣いたくらいのレベル)のですが、

マーケティングのある視点から見ると、日本版ポスターにはあるコミュニケーション方法が採用されていることがわかります。

この記事では、日本版の映画ポスターを例にして、私たちの社会のレベルを上げるコミュニケーションの方法についてまとめます。いや、もう答えはタイトルの通りなんですが。

日本版ポスターが酷評される理由
→フィーチャーセリングのコミュニケーションをしているから

なぜ日本版は酷評されるのか。そのヒントになるのがフィーチャーセリングというコミュニケーションです。フィーチャーセリングとは、機能や製品特性の訴求によって商品を売ること。

カメラを例に取ると「何倍ズームできます!」「◯◯カメラ賞を受賞しました!」「12軸手ブレ補正機能付きです!」などといった機能を消費者にアピールすることです。

日本版のポスターには、このフィーチャーセリングががっつり使われています。ではここで、本国版と日本版のポスターを比較してみましょう。例えばこれ。2014年公開の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のポスター。

なんだか日本版と本国版でだいぶ様相が違いますね。では、日本版に追加されている要素を細かく見てみましょう。

上の1枚で違いをまとめてみました。構図が変わっているなどの要素もありますが、目立つのは5つ。

1. モノクロだったのがカラーに
2. 豆粒ほどだった鳥人が主役級のサイズに
3. ぽいことを言っている謎ポエムが追加
4. 受賞(予定)歴を記載
5. あらすじを説明

これは、謎ポエムを除いてぜんぶ、この作品の機能的な面を説明する要素です。作品が伝えたいテーマには関係なく、受賞(予定)歴による権威付けであったり、鳥人を大きくしてわかりやすく面白そうなフックにしたり。

ちなみに、他のデザインのポスターもありましたが、日本語版ほど機能説明的な要素が入ったポスターはない印象です。

フィーチャーセリングのなにが悪いのか

フィーチャーセリング、ある面では必要です。映画の世界観推しだけでは、それほど多くの人が見に来てくれないかもしれませんから。
・受賞しているから安心して観られる
・知っている役者が出るから安心して観られる
・あらすじを見て、から安心して観られる
という人たちは多くいることでしょう。そんな人たちに向けて、フィーチャーを伝えていくことは大切でしょう。

が、ある面では悪者になってしまいます

この手法によって映画を見ようと思った人たちは、果たしてその映画の本当のターゲットなのでしょうか。

出演俳優が誰かとか、「全米が泣いた」とかに惹かれて見にくる人は本当のターゲットなのでしょうか。映画の製作者は、俳優を見にきてほしいのでしょうか。「全米が泣いた」から見にきてほしいのでしょうか。違うはずです。映画のなかで語られるテーマを見にきてほしいはずです。

というか、そのテーマを見たいと思う人がちゃんと見にくることが、映画の伝えたいことがきちんと伝わるし、価値が伝わるのでは無いでしょうか。届くべき人にきちんと届く。これが、私たちが目指すべきことなのではないでしょうか? 届くべきでない人に届いてしまった結果、見当ちがいな受け取られ方をする。届いてしまった人は不幸せになる。

とするならば、私たちは将来的にはフィーチャーセリングから抜け出さなければなりません。ではどうするのか。どうすれば届くべき人に届くのか。

フィーチャーセリングを抜け出してベネフィットセリングを手に入れる

以前、以下の記事でもご紹介しましたが、

フィーチャーセリングとは違ったコミュニケーションの軸があります。ベネフィットセリングです。フィーチャーセリングは機能を伝えるのに対し、ベネフィットセリングは「ベネフィット」を伝えます。これが、本当に届くべき人に届く方法だと私は思います。

ここでいうベネフィットとは、「ある製品を欲しい本当の理由」のこと。例えば、ドリルを買った顧客が本当に欲しいのはドリルではなくて穴である、という話がありますよね。

ベネフィットとは、この穴のことではありません。ドリルを買って掘った穴によって得られるもの、これがベネフィットです

▼もし掘った主が父親だったら:子供の工作の手伝いができて頼りになる父親でいられる
▼もし掘った主が部長だったら:部下の工作の手伝いができて頼りになる部長でいられる
▼もし掘った主がネズミだったら:壁に穴が空いて逃走経路ができて安心

例を読んでいただくとわかるとおり、ベネフィットとは顧客の解釈の先に生まれるものです。メリットを得た主が、自分自身の持つ社会的ロールなどの要素に照らし合わせて、そのメリットをベネフィットとして解釈します。

フィーチャーセリングの限界:消費者は自分の欲しい機能に自覚的でない(場合が多い)

フィーチャーセリングにはもうひとつ問題があります。それは、消費者が自分の欲しい機能を正確に自覚するのには限界があるということ。以下の例、太字部分はよく売り場や広告などで使われているフィーチャーセリングの謳い文句ですが、あなたはどれがいいのか選ぶことはできるでしょうか。

▼(かっこよく料理をつくってもてなしてモテる自分でいるために必要な)フライパンはマーブルコートがいいのか? ダイヤモンドコートがいいのか?
▼(親に喜んでもらうためのプレゼントとしての)万年筆はカートリッジ式がいいのか? コンバーター式がいいのか?
▼(子供の運動会での活躍をしっかり捉えていい保護者でい続けるための)ビデオカメラの優先すべき機能は5軸手ブレ補正なのか? 4Kなのか?

だから、消費者はフィーチャーセリングによって本当に欲しいものを選び取ることはできません。本当に得たかったベネフィットに寄り添ったコミュニケーションが必要になるんです。

冒頭のバードマンのポスター。バードマンの価値を本当に享受すべきだった人は、「鳥人」「アカデミー賞9部門ノミネート」みたいな情報から、「あ、これは自分が観るべき映画だったのだ」と思えるのでしょうか。

むしろ、観るべきでなかった人が「え、鳥人ほとんど出なかったじゃん、関係なかったじゃん」という感想を持ってしまうのではないでしょうか。

届くべき人に届き、残るべきものとして残るために。

ここまで映画ポスターの例で述べたとおり、フィーチャーセリングによって、観るべき人が観るべきものに出会うことはなかなかないのではないかと思います。その映画を観ることで本当に何を得るのか、ではなく機能的な側面でしか判断することができないから。

消費者も、機能だけを伝えられても、自分が本当に必要なものがなんなのかはなかなかわかりません。フィーチャーセリングばかりの世の中では、消費者は自分の抱える不和を解消できない、または解消するのに時間やお金などの労力をさらにかけなければならなくなってしまいます。

本当に届くべき人に届いて、その結果残るべきものとして残る。そんなものが増える社会をつくるために、もっとベネフィットを伝えるコミュニケーションをつくっていけたらと思います。

上に置いたのは、中国で公開された際の『千と千尋の神隠し』中国版ポスター。売り上げ何億!みたいな言葉がなくたって、その魅力は十二分に伝わりますよね。

・・・

以上、ベネフィットセリングの重要性についてをお伝えしました。このnoteが入っているFICC BX事業部のマガジン「本当の価値を生むブランディング戦略(仮題)」では、今後もブランディング戦略において重要なエッセンスをまとめていきます。ご興味あればぜひ。

それから、BX事業部では以下の仲間を募集中です。
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適宜交流会なども行っていますので、一緒にブランドの可能性を探っていきたい、そんなかたはぜひご一報ください。おしゃべりしましょう!

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