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おばあちゃんと私と海。
高校3年生、大学受験を控えた夏。
周りのクラスメイトは、志望校を決めて、学校帰りに予備校へ行ったり、
図書室で勉強をしていた。
理系クラスに進学した私は、進路がなかなか決められずにいた。
理系は得意ではなかった。
リケジョに憧れて理系クラスに入った。
当然周りは理系が得意な人ばかりで、50点なんてきっと1回もとれなかった。
授業は進むスピードも、内容も難しくて、他の科目もあるのに、
いつも満点取る人なんかに追い付くことなんかできなかった。
苦手なのに、理系に進学するの?
そんな思いから進路を一から考え直していた。
リケジョになりたい。
という思いの裏には、理系の科目で良い点をとって、周りから「すごい!」
と言われたいと思っていたのかもしれない。
頑張ればなんでもできるし、1番になれると思っていた。
しかし、上には上がいる。
「スーパー」リケジョにはなれない。
私にも限界というものがあることを悟った。
「もしもし。今ひま?海連れてってくれない?」
「おお、今仕事から帰ってきたとこだよ。グッドタイミング。」
学校から帰るとすぐに、おばあちゃんに電話した。
受験期だから、本当なら皆みたいに勉強しなきゃいけない。
そう思いつつ、気づけばおばあちゃんに電話していた。
海岸堤防があってちょっとゴミも多いが、人目を気にせずに叫べる
お気に入りの漁港だ。
海へ行くまで、私は進路のことをぼんやりと考えつつ、これから海へ行けるんだというワクワクした気持ちでいた。
海へ着くや否や、堤防に手をついて、水平線に向って叫んだ。
「あー!」
すると、おばあちゃんも車から降りて、
「あー!」と叫んだ。
その連呼した感じが楽しくて、おばあちゃんと顔を見合わせてゲラゲラと
笑った。
人目も気にせず大声で。進路の悩みを吹き飛ばすように。
「私はどうすればいいのー!」と海に叫ぶと、
「私も知りたいわー!」とおばあちゃんが応えた。
ただ、本当にどうすればいいのかわからない。誰に聞くにも答えはない。
その鬱憤を晴らすために、わたしはモヤモヤしたら必ず、おばあちゃんと
海に行くことにしていた。
おばあちゃんがいてくれたおかげで、わたしはひとりじゃなかった。
ここにいてもいいんだ、という安心感。
海。広くて、ずっと先まで続くもの。
海だからこそ、2人の存在がより浮き彫りになる。
海でおばあちゃんと2人で叫んで、泣いて、歌って、
そして大声で笑っている。
今でも海岸に行くと、当時のことを思い出す。
鍵はさしたまま、車から降りる。
懐かしい気持ちで、堤防に手をついて夏の海風を感じる。
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