『Hookah Haze』感想編:生きていくということ
『Hookah Haze』(フーカーヘイズ)をクリアしました。
全エンディング開放、全実績解除含めておおよそ13時間前後といった具合です。エンディングのパターンや実績解除の条件はそれほど複雑では無く、ある程度意識しながら進めていればそれらを満たすことは可能でした。
因みに「Hookah Haze」を日本語に訳すと「水タバコの靄(もや)」という意味になります。
当記事は、『Hookah Haze』の感想編の記事です。
『Hookah Haze』の感想をいくつかの観点から述べていきます。
※紹介編の記事はこちら
■紫などを基調としたビビットなビジュアルに引き込まれる
まず、作品全体の特徴として目に付くのが紫や青、ピンクなどの色を基調としたビビットなビジュアルです。
私が最初に魅力を感じた要素の一つがこのビジュアルでした。ネオンのような儚さとおしゃれさが同居している感じが好きですね。
登場するキャラクター達も同様に紫や青、ピンクを基調としています。
Hookah Hazeの店内には、主人公の炭木トオルの趣味の一環でアクアリウムが置いてあり、それもまた店内の非日常感を演出します。
■ゲームの雰囲気に合うBGMの良さ
数あるゲームの中でもBGMが良いゲームはたくさんありますが、『Hookah Haze』もそのうちの一つに入るだろうと思っています。
タイトル画面で流れる「Tokyo Dreams」をはじめ、PVでも流れている「Haze Talk」など。全体的に落ち着いた雰囲気のBGMが多く、中には和風テイストの曲(Takeyabu)やポップな曲(Smile)などバリエーションが多かったです。
「Va-11 Hall-A」や「Coffee Talk」と同様に、お客さんとの会話パートの一部では自由にBGMを変更することが出来るので、好きな曲をBGMにしながらゲームを進める事ができたのも良かったですね。
また、隠し要素として、雨が降っている時にBGMをOFFにすると雨が降る音が聴こえるようになるのも面白いポイントでした。雨の音をBGMにしてゲームを進めるのも、雨の日の落ち着いた雰囲気が出て良かったです。
サントラはゲームの発売日と同時に音楽配信サービスで配信されています。下記から聴く事が出来ます。(リンク先はPrimeMusic)
■ストーリーについて
『Hookah Haze』、プレイする前はどんなストーリーになるのだろうと思っていました。「NEEDY GIRL OVER DOSE」っぽい雰囲気があるから病み系?それとも「Va-11 Hall-A」や「Coffee Talk」のような落ち着いた感じ?などなど。とにかく遊んでみない事には分かりません。
最後までプレイした感想としては、
「思ってたより話が重い、そしてバッドエンドとグッドエンドの落差が大きい。何よりTRUEエンドがあって良かった」
でした。
ストーリー上、3人のキャラクターごとにグッドエンドとバッドエンドが用意されています。
※一度いずれかのキャラクターのグッドエンドのルートに入ると、その他のキャラクターのグッドエンドには行かない仕様になっていました。
そして、そのバッドエンドとグッドエンドの分岐点が何かというと、キャラクターとの好感度だとか出したフレーバーが本人の好みに合ってたかどうかだとか、炭交換に失敗したかどうかだとか、そういった事ではありませんした。
では何が分岐点になるかというと、
キャラクター毎のストーリー上、一度だけ現れる選択肢でした。
各キャラクターに用意されたストーリー上で、一度だけニ択の選択肢が現れます。
その選択肢のどちらを選んだかでバッドエンドになるかグッドエンドになるかが決まります。
たった一度の選択で明暗が分かれてしまうというのが辛い(ストーリー上の演出として良いという意味で)。
特に明月院こころのバッドエンドについては本当に辛かった。
各キャラクターのエンディングについては次項で述べます。
■以下、ネタバレあり
■各キャラクターのエンディングについて振り返る
常連になる3人のキャラクターのバッドエンドとグッドエンドについて思う事を述べていきます。
※ここからはネタバレがあります。
■愛上あむ
愛上あむの選択肢は明らかにどっちが正解か分かり易かったので、最初に選択肢が出た時点でグッドエンドに向かう事ができました。その分、実績解除の為にバッドエンドの選択肢を選ぶのが辛かったのですが…
バッドエンドを選んだ直後のあむの突き放すような悲しんだ態度が辛かったです。
・愛上あむのグッドエンドについて
愛上あむのグッドエンドのルートで、彼女は「Hookah Haze」の店長になることを決意します。もういなくなってしまった炭木トオルの意志を継いで。
亡くなる前のトオルが、自身に残された期間を使って、あむにシーシャの事を伝授するというのが良かったですね。
そして、あむはトオルの事を思い出しながらシーシャの勉強を続ける。ストーリー開始時はシーシャの事を全く知らなかった事を考えると凄い前進です。
・愛上あむのバッドエンドについて
愛上あむのバッドエンドのルートでは、トオルが自身の病の事を愛上あむに打ち明けなかった事で、あむは自身が信用されていなかったのだと思い、店に来なくなってしまいます。
それがきっかけで心にぽっかり穴が空いてしまった愛上あむは、その心の穴を埋めるためにコンカフェの怪しい客の誘いに軽々しく乗ってしまう。
本当に「あの時、病の事を打ち明けていれば」という気持ちになりました。
しかもこの時点でトオルは亡くなっているのだから、トオルはこの事を知る由もない。この後のあむの事を考えると本当にお先真っ暗なのではないかと思ってしまいました。
■明月院こころ
明月院こころについては、一見良いと思えるような選択肢を選び、その直後もいい感じで自然ながれでストーリーが進行したのですが、実はその選択肢がバッドエンドに繋がっていた、という流れでした。バッドエンドも個人的に三者の中では一番辛いもので…グッドエンドとバッドエンドの落差がありすぎました。
・明月院こころのグッドエンドについて
捨て子として育ってきた炭木トオルと、元の家族をみんな失ってしまった明月院こころ。その二人がお互いにとってのたった一人の"家族"になります。家族といっても結婚とかの話は明言はされておらず、トオルの余命の事も考えると、あくまでお互いの気持ち上での"家族"でしょうか。
そして、こころは自信の精神疾患(PTSD)と向き合う事を決め、トオルに付き添ってもらいながらカウンセリングを受ける事を決意します。
最後のシーンではトオルが亡くなった後、家族たちのお墓参りで「トオルの生きていけなかった分まで生きていく」と吐露するのでした。
トオルとこころ、お互いがずっと一人で生きてきたからこその共通項があったのだと思います。その二人が互いに支え合っていく"家族"になる。
そして「トオルの生きていけなかった分まで生きていく」。
ストーリー上のこころの台詞で、以下の台詞がありました。
上記のような発言をして生きていく事に希望を持てていなかったこころが、トオルに出会った事で生きていく意味/目的を見つけたのはとても大きい事だと思います。こころが前を向くきっかけを与えたという点でグッドエンドに相応しいストーリーでした。
このグッドエンドについては後述する「余談」の項でも少し触れます。
・明月院こころのバッドエンドについて
個人的に一番つらかったのが明月院こころのバッドエンドでした。
選択肢を選んだ時点だと特に問題は起きず、直後も自然な流れでストーリーが進んでいったので正解ルートだと思っていたのですが、最終的にはかなり悲しいバッドエンドとなり、辛い気持ちになりました。
あんなに親しくなったトオルの事をショックによる記憶喪失で忘れてしまうというのがとても辛いです。
しかも彼女は直前までトオルが亡くなった事を知りませんでした。「Hookah Haze」のSNSが更新されなかった事が心配で店に来て、その時にトオルが亡くなった事を知る。(せめてトオルが事前に事情を説明していれば…とも思う)
あの時の彼女のショックを受けた表情がとても辛い。
そして気を失って病院で目が覚めた時には「Hookah Haze」の事もトオルの事も忘れてしまっていた。
ある時に彼女がトオルに対して訊いた「大切な人に忘れられた経験とかってあります?」という質問が頭をよぎります。
バッドエンドではその質問を想起させるかのようにこころがトオルの事を忘れてしまうのです。
本当にグッドエンドとの落差が激しい…
■古森くるみ
くるみの選択肢についても、あむと同じく分かり易い選択肢でした。多少迷う事はありましたが。ただ、グッドエンドとバッドエンドの内容が対照的過ぎてこちらについてもバッドエンドの内容は見ていて辛いものがありました。
他者の一つの言動や選択で人ひとりの人生を大きく狂わせてしまう。とてももったいないです。
・古森くるみのグッドエンドについて
くるみは、自身のぬいぐるみ制作の才能をずっと認める事が出来なかった所属企業を退職し、マネージャーを雇ってぬいぐるみ作家として独立しました。トオルが見抜いた古森くるみのぬいぐるみ作家としての才能がようやく活かされるルートです。
雇ったマネージャーも、くるみに対しては理解があり、コミュニケーションが苦手なくるみの支えになっているようです。
個人的にはくるみに対して理解のあるマネージャーの存在が大きいなと感じました。トオルが亡くなった事に関する事情も知っているようでしたし。
最後のシーンでは人形作家やぬいぐるみ作家が一堂に集まるイベント(ワンフェス?)に招待されて出展するところが描かれます。
元々所属していた企業の上司も出展したくるみのブースに訪れ、「おまえの才を引き出せてやれなくてすまなかった」と、くるみの才能に気付けなかった事を悔やみます。(直後にマネージャーさんに「今更気付いても遅いですからね」と言われてしまいますが)
所属企業に縛られていたくるみが、ようやく自身の才能を開花させる舞台に立てたという点で、とても良いエンディングだと思います。
・古森くるみのバッドエンドについて
グッドエンドとは対照的なルートになりました。トオルの助言でそのまま会社に残り、後に転職したようなのですが、そこでも上手くいかず。
彼女は自身の部屋に閉じこもり、人形を作る事を辞めてしまいます。
彼女はグッドエンドのように独立して自身の裁量でやりたい事をやる方が向いていたのかもしれません。
「彼女はもう二度と、人形を作れないだろう」というナレーションが彼女の人形作家/ぬいぐるみ作家としての人生の終わりを告げています。あの時のプレイヤーの選択ひとつでこうも明暗が分かれてしまうのが辛い。(せめて時間が掛かってもいいから作家として復帰してほしい)
■物語全体の真エンドとしての「TRUE ROUTE」
全てのグッドエンドを観た後に解放される「真エンド」に繋がるストーリー。作品全体を通しての真エンドです。
これがあって本当に良かったと思います。
どの人物のグッドエンドでも、主人公である「炭木トオル」は亡くなっていました。しかし、この「TRUE ROUTE」では、炭木トオルが3人のヒロインたちの強い説得により、辛くても病気の治療を受ける事を決意します。
通常ルートではどんなグッドエンドでもそこに炭木トオルはいなかった。
それでもこの「TRUE ROUTE」では、主人公である炭木トオルも救われる。
最後の最後でようやくという感じですね。
また、通常ルートだとヒロイン3人が相まみえるシーンは基本的にないのですが、このルートだと3人が協力してトオルの事を説得しようとしたり、お店の掃除をしたりするので、そういった3人の掛け合いが観れるところも通常ルートにはない魅力です。
■余談
・減っていく薬
Hookah Hazeのストーリーの14日間、一日の始まりには下記のように「DAY"○○"」と書かれたメモ帳のカットが映ります。
その端っこに移る薬のシート。
この中の薬が一日経つごとに徐々に減っていくんですよね。
観ていて苦しい…この薬は痛み止めと聞いていますが、徐々に死に近づいているような感じがして辛い。ストーリーの進め方によっては追加の薬を貰って5日間延長する場合もあるんですけどね。その時もまた薬が減っていくもんだから辛い。
・明月院こころとクォーターライフクライシス
明月院こころのルートの終盤で「あのさ、生きていたくないと思ったこと、ある?」という台詞から始まる一連のシーン。あのシーンのやりとりについて、共感した人は少なからずいるのではないでしょうか。
前述した下記の台詞があるシーンです。
ここで、「クォーターライフクライシス」という概念があります。
明月院こころは作中の時点で27歳です。
ちょうど、このクォーターライフクライシスを起こしやすい年代に合致します。
こころの場合、「理想と現実のギャップに違和感を感じたり、同年代や周囲の人と自分を比べて落ち込んだり」といった原因ではないので、厳密にはクォーターライフクライシスとは違うのかもしれません。
しかし、「自分らしさを見失って自身はどう生きていくべきなのかさえ分からなくなる」という点ではそうなのではないか、と思っています。死を意識している点ではもっと深刻なのかもしれないです。
誰しも「死にたいわけではないけど生きていきたいとも思わない」という時期は一度は訪れるかもしれません。もしくは「いなくなってしまいたい」とか。
こころがクォーターライフクライシスだと決めつけたいわけではないのでこれ以上は述べませんが、私も過去に似たような時期があったため、この件について触れました。
何より、グッドエンド、真エンドでは、こころが前を向いて生きていくことを決めたので良かったのだと思います。
■最後に
『Hookah Haze』、ビビットなビジュアルで、かつ「Va-11 Hall-A」や「Coffee Talk」ライクとも位置付けられる作品なので気になっていました。なので、今回プレイできて良かったです。
ストーリーは思っていたよりも重く、ゲーム性というよりはストーリー
で勝負する作品、という印象です。
※ゲーム性にあたるところの「シーシャのミックス」や「炭交換の成否」は実はストーリーの進行に一切影響しないらしい
ちなみに私個人の最推しは「明月院こころ」でした。
見た目とは裏腹にしっかりしてるところとか、ちょっと共感できる部分があったりとかが好きです。ちょっと暗い一面がありますが、そこも共感できる人は多いと思います。
余談ですが、開発も販売もインディーゲーム会社ではなく大手企業です。
(開発:アクワイア、販売:ANIPLEX)
なので、厳密にはインディーゲームではなく「インディーゲームライク」に分類されるゲームであり、作り込みにおいてはインディーゲームに比べてやや綺麗すぎる印象があります。そこで多少好みが分かれるかもしれません。
私自身、大手の企業が出した作品となると、若干「Va-11 Hall-AやCoffee Talk、はたまたNEEDY GIRL OVER DOSEの流れに乗ろうとしているのでは」という思考がよぎってしまいます。インディーゲーム特有の"個性"が感じられないというか。
それでもBGMもビジュアルもストーリーもしっかり作りこまれているので、気になっている方はぜひ遊んでみてほしいです。
以上。ここまで読んでくださりありがとうございました。
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