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2023年版:有斐閣の編集者が新入生におすすめする本:経済学

こんにちは、有斐閣書籍編集第二部です。

3年前に好評をいただいたシリーズ記事「有斐閣の編集者が新入生におすすめする本」の続編として進めてきた本企画、今回は経済学編です。
編集部のハセガワワタベに話を聞いていきます。

いま、新入生におすすめする1冊目

——前回(2020年)の記事から時間が経ちましたけど、いまあらためて新入生や初学者に「1冊目におすすめ」できる本はありますか?

ワタベ:2021年に刊行された教養としてのグローバル経済ですかね。

――ほう、前回の記事で挙げられていた教養としての経済学とタイトルが似ていますね。

ワタベ『教養としての経済学』が好評だったので、それにあやかりたいと思ってタイトルをつけました(笑)。前回は一橋大学経済学部の先生方による多数執筆でしたが、今回は名古屋大学の齊藤誠先生の単著となります。

――しかし今回も「教養」なんですね。どんな本なんでしょう?

ワタベ:どちらも高校生向けに作られていますが、前回は経済学の考え方や学習法、キャリアという幅広い観点から経済学を学べる入門書に、今回は「グローバル経済」というタイトルですが、現実から学ぶ経済学の新しい入門書になっています。

――なるほど。タイトルを「経済学入門」にしなかったのはどうしてなんですか?

ワタベ:商業高校向けの社会科科目「グローバル経済」の教科書を作ろうというところから始まった教科書だからなのですが、詳しいいきさつは別のnoteの記事をご覧ください。

――そういえば「らしくない」というインタビューが印象的でしたね。

ワタベ:話を戻しますけど、さっきのコメントは書名よりも「現実から学ぶ」の部分を突っ込んでほしかったんですよ。

――あれ、そっちにこだわりがあったんですか。でも、とすると「そのココロは?」と言いたくなりますね。だって「現実から学ぶ」なんて、当たり前じゃないですか?

ワタベ:経済学部で経済学を学んだことがない人は、そう思われるかもしれませんね。例えば、経済学部の基礎科目である「ミクロ経済学」では、市場(しじょう)メカニズムの説明から始まることが多いと思います。需要曲線と供給曲線が交わる点で価格と取引量が決まるという、高校の教科書にも載っているおなじみのお話です。

――たしかに、私は別の学部の出身ですけど、教養科目でそんなふうに習いましたね。

ワタベ:でも、市場メカニズムを説明するときに、「公正取引委員会」にも触れている入門書は少ないように思います。現実には、企業の違反行動を取り締まる公正取引委員会のような公的な機関が重要な役割を果たしていますが、『教養としてのグローバル経済』ではそういった現実とのつながりを意識できるように丁寧に説明されています。

――なるほど。どうして「現実とのつながり」にこだわったんですか?

ワタベ:商業高校の生徒さんは「グローバル経済」の授業が、経済や社会を勉強する最後の機会になる可能性があるので、社会に入っていくときに必要となる内容の書籍にしたいというのが、著者のモチベーションとして大きかったそうです。結果として、類書には見られないイノベーティブな経済学の入門書ができあがったんじゃないかと思います。なので、これから経済学を学び始める方に、ぜひ手にとってほしい一冊です。

こんな本が出ています

——ありがとうございます。では、「1冊目」にかぎらず、「経済学の本を読みたい」「これから勉強してみたい」という人に、何かおすすめしてもらえますか?

ハセガワ:「現実から学ぶ」という意味では、『現実からまなぶ国際経済学』がおすすめです。新しい教科書シリーズのy-knotから今年(2023年)のはじめに刊行されました。

――「学ぶ」じゃなくて、「まなぶ」なんですね。

ワタベ:さっきから書名にこだわりますね。

——まあ、名前は大事ですから。

ハセガワ:「国際経済学」で「学」という漢字を使ったので、重ならないよう枕詞ではひらがなにしました。編集者的な工夫の1つですね。

――なるほど。結果的に柔らかい印象を持てる気はします。新しいシリーズの本なんですね。

ハセガワ:はい。y-knotの『現実からまなぶ国際経済学』は、現実の企業名商品名を出して理論の説明をしたり、基本的な貿易理論を現実の国際経済に適用するとどのように説明されるのか、またより現実を説明できるモデルを紹介したりと、工夫を凝らしています。昨今の米中の貿易摩擦や、新型コロナのワクチンと知的財産権の貿易ルールなど、ホットイシューも多く扱っています。理論の解説中心のテキストとはひと味違う、読んでいて現実の国際経済がわかる楽しいテキストになっていると思いますので、ぜひ手に取ってみてほしいです。

ワタベ:y-knotからは活かすゲーム理論というゲーム理論の入門書も刊行されています。現実の経済問題社会問題ゲーム理論を活かすことができるように、チャレンジングな工夫がたくさん盛り込まれた画期的な入門書となっているので、こちらもおすすめです。(近日中にnoteの記事を投稿予定です)

――「活かすゲーム理論」って、珍しい書名ですね。

ワタベ:やっぱり、そこはツッコミますよね。愛称として「イカゲーム」と呼ばれたかったという噂もあります。

――イカゲームで定着しちゃったら、それはそれで……

この本のここがおすすめ!

——ありがとうございました! 最後にもうちょっと詳しくすすめたい「これは!」っていう本はありますか?

ワタベ:先ほど「新入生におすすめする1冊」として紹介しそびれてしまったのですが、経済学を味わう(日本評論社)もとても良いと思います。

東京大学の人気講義をもとにした入門書ですが、経済学が現実に役立つことを実感できる内容で、かつ、経済学の専門分野それぞれの面白さをつまみ食いすることもできて、お得な一冊だと思います。

――ハセガワさんは、いかがですか?

ハセガワ:一昨年に出た、アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?――これからの経済と女性の話』(河出書房新社)をおすすめしたいです。

経済学における「女性の不在」を指摘し、経済学そのものを問い直して話題になった本です。ちょうどいま、『フェミニスト経済学』という本の刊行を準備しています(2023年9月刊行予定)。経済学の分析対象に、食事をつくる、家庭内で誰かの世話をするなどのケア労働が含まれていないことを批判し、ケアエコノミーを経済学に取り込んで分析しようとするのがフェミニスト経済学です。こちらも注目してもらえたらと・・・・・・!

――ありがとうございました。『フェミニスト経済学』、私も刊行が楽しみです!

ワタベ「食」でつなげたいわけではないのですが、最後に食べる経済学(大和書房)も紹介させてもらってもいいですか。いま、密かに推している経済書なんです。

――書名を聞いてお腹が空いてきたので、手短にお願いできますか。

ワタベ:であれば、『週刊エコノミスト』に掲載された書評を見ていただくのが手っ取り早いと思います(笑)。少しだけ付け加えさせてもらうと、本書を読んで、経済学の理解を深めるためのケースとして「食」の問題というのはピッタリだと思いました。「食」は誰にとっても身近なものだと思いますし、「市場の問題(失敗)」や「人間らしさ」についての理解力を深めるのにも最適だと思いました。何より読み物としてシンプルにおもしろくておすすめです。

――ありがとうございました。今晩は経済学に思いを馳せつつ、豚山に行ってこようと思います。

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