140字小説×5(2022年から)
※この作品は私が2022年に書いた140字小説の中から5作を抜粋したものです。それ故、なるべく雰囲気をそろえたつもりなのですが雑多になっています。ご了承ください。
1.
あなた以外何もいらない、なんて言えません。その言葉は、あなたにも私以外何もいらないと言っているのと同じですから。
私には、とてもそんなことは言えません。私は知っているから。
あなたと私以外何もなかったら、あなたは幸せにはなれないから。
私には、あなただけでいいのに。
2.
君は一緒にいた時間があったことなんて信じられないほど遠い存在になったね。瞬く間に駆け上がって、振り返りもせずに突き放して、ステージに立っている。
君は武道館。僕は路上。あらゆる意味で手が届かないと、分かっている。
それなのに。
ああ、僕はまだ、君を歌っている。
3.
朝が君を連れていく。夜明けが僕たちを引き離す。夢が手招くその先に君の幸せと僕の不幸が待っている。
待って、いかないで、明けないで。
夢より魅力的になれなかったことを悔やんでも、僕の情けなさは変わらない。
暗がりの中で感じあった体温が離れてく。
僕を置いていかないで。
4.
蒸し暑い空気は陽が沈むとともにその姿を薄れさせていく。蝉時雨の中、縁側に腰掛けた君の隣。付き合いたての距離感じゃ何て言えば良いのか分からない。
足を忍ばせてやってくる夜の藍色が心まで染めていく。星々が煌めいて。
「今夜は一杯どう?」
目が合った君の瞳に、綺麗な月。
5.
ちりちりと華を咲かせる様を見つめれば、あなたは私の肩を抱く。暑いんだから近づかなくたっていいのに、なんて強がって。
ぼうっと浮かぶ情景は夢のように遠く褪せていく。胸の奥が嫌な音を立てて、思い出はちりちりと焼けていく。
あなたの笑顔は、見えない。
ぽとり。線香花火が落ちる。
(少しだけ)あとがき
楽しんでいただけたでしょうか。個人的には線香花火の140字がお気に入りです。
2022年のまとめなら年末に投稿しとけよというごもっともな意見が聞こえてきそうですが、作者が気まぐれなので許してやってください。
それでは、またいつかお会いできることを願って。
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