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コロナ以降の在宅勤務導入初期を振り返る 先駆的企業の光と影も

今から2年前、日本でコロナ拡大が本格化し、在宅勤務導入が始まった頃のことを備忘録的に書いています。

筆者は2021年7月に「コロナ禍で障がい者雇用はどんな影響を受けているのか―当事者に聞いた」という記事をミルマガジンに寄稿しました。

障がい者のテレワーク導入がなかなか進まなかったケースがあった一方で、好事例も発表されています。コロナ前から発達障がい者の戦力化でメディアにも注目されていたIT会社は、2020年2月中旬以降、テレワーク勤務を導入しており、 同社においても在籍社員46名を対象にテレワークを導入し、障がいの特性に合わせてオフィス勤務と同様の業務を行えるよう環境を整えました。また、テレワーク支援金の支給など費用面でのサポートも行っています。

障害の有無問わず、日本では在宅勤務導入の遅れが問題視されていたなか、グローバルIT・セールスフォースも在宅勤務をいち早く導入しました。2020年2月25日付けのプレスリリースでは、「新型コロナウイルスの社内外への感染拡大抑止と、当社社員とその家族の安全確保のために、 2月26日~4月30日の期間において、社員の働き方に関してテレワークや時差出勤を推奨する」と発表されていました。

障害者雇用で採用された社員も、在宅勤務になったことが判明しています。(「もう4ヶ月くらい出社していない」ある障害者採用の社員による2020年6月22日ツイッター)

2021年2月9日には米国本社から、日本含む世界各国のオフィスでリモートワークを恒久化する計画が発表されました。

同社がアピール材料にしているGreat Place To Work主催の「働きがいのある会社ランキング2021年版」では、この取り組みが評価され、2位にランクインしました。

働きがいランキング2021 2位

Great Place To Workより引用)

しかし、東京地裁で係争中の障害者雇用訴訟において、2020年3月にメンタル悪化から復職を目指す社員への通勤訓練が行われていたことが発覚しました。根拠となったのは厚生労働省の復職の手引きでした。

復職を求めた際は、私に基礎疾患があることを知っている産業医から、新型コロナウイルス感染症がまん延する状況下でも、通勤訓練が必須だとして強要されました。通勤ラッシュの電車で感染の危険に怯えながらも、1週間ほど通勤訓練を行いながら、会社に「新型コロナの問題が収まるまでは、別の方法で復職可能か判定して欲しい」とお願いをしてきましたが、聞き入れられませんでした。
耐えかねて労働組合を通して通勤訓練の中止を申し入れたところ、今度は会社代理人弁護士による退職勧奨が始まりました。
原告からのご報告より)

障害者雇用訴訟で会社側は、「2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されているので、3月に通勤訓練の指示をしたのは妥当だ」と主張しています。

しかし、社員全員が在宅勤務に切り替えられるなか、通勤訓練を行う必要性はあったのか。障害者雇用支援に携わる専門家は、批判的な見方を示しており、水面下でジャーナリズムに「一連の問題に関心を持つ人が増えることになるよう」依頼しているのが現状です。同社の在宅勤務導入の先駆性を評価していた人々からしても、これには疑問符がつくのではないでしょうか。

「誰一人取り残さない」を理念とするSDGsの取り組みとも全く逆行するのではないでしょうか。

原告はこれに再反論しています。

同社は外向きには、訴訟に発展した問題やそれを受けての社内外向けの対応について、係争中を理由にコメントせず、回答の結びの言葉で「平等と多様性が私たちをより良い企業にすると信じていますので、私たちはより平等で、包括的で、持続可能で、より良い世界を目指しています」とコメント。

同社の築いてきた「障害者に寛容」「フレキシブルで働きやすい」という発信は、果たして信じられるものなのでしょうか。

ところで、これは雇用の例ではありませんが、2020年2月に既に障害者の就労系福祉サービスである就労移行の在宅利用を求める声も上がっていました。以下、筆者が2020年3月にミルマガジンに寄稿したコラムより。

発達障がい者の就労支援会社の代表は2月17日にブログで、「コロナウイルスが拡大するなか、障がい者の福祉サービスである就労移行支援事業所では非常事態でも在宅利用が認められないのは時代錯誤」と述べました。

同氏はブログで、「福祉行政は動きが遅い。都も大阪市も、在宅訓練は不可。政府はリモートワークなどを奨励しているが、障がい福祉の場合は『通所』しないといけない。こういう緊急時は柔軟な運用が必要だ。特に就労移行支援は制度としても在宅利用は不可能ではない。今後は地球環境の変化で、災害やリスクが多発する中で労働者は働かなくてはならず、在宅訓練が必要だと思うのだが、制度は時代の二歩も三歩もあとを行くのを痛感した」と述べました。

同社は首都圏・関西で就労移行支援事業所を運営していますが、新型肺炎の影響が拡大してからは、予定していたイベントも中止し、見学・説明会の開催も最小限にとどめ、会議ツールZoomによるオンライン説明会を開催しています。

同氏がブログで声を上げた後、厚生労働省から各自治体に2月20日付で、事業所が在宅でのサービス提供が可能な場合には、必要に応じて、在宅でのサービス利用を認めるなど、感染拡大防止の観点から柔軟な対応を適宜検討することを要請する通達が出ました。

これを受けて、同氏は2月24日、「在宅利用が認められるきっかけに?」という件名でブログ投稿。「当社としても社員と利用者双方に過度に負担をかけない形を模索するが、小規模業者だからこそできる、現状に即したサービスを模索していきたい」と述べました。しかし、同氏が自治体に確認したところ、川崎市は可、横浜市・大阪市は検討中、東京都は不可と、判断が分かれました。同氏は2月27日のブログで「この段階で柔軟に対応できないのか」と行政の対応を批判しました。

その後、同年4月7日に緊急事態宣言が発表。同社は4月6日から、利用者、場合によっては社員も、在宅でサービスを行える「完全オンライン化」を開始したことがブログで発表されました。

2022年3月現在では、多くの就労移行支援事業所で在宅訓練が導入されています。


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