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「障害者雇用=コストと思った瞬間から差別が始まる」胡蝶蘭農園AlonAlonの当事者中心主義

貸農園での障害者雇用事業で成長したエスプールプラスが物議を醸し出した。共同通信が1月9日に「障害者雇用『代行』急増 法定率目的、800社利用」と報道。これに対しエスプールは11日、コメントで「一方的な意見に偏ったもの」とし、同社のサービスを「事実上の障害者雇用代行ビジネス」とする指摘を否定、障害者は就職企業で「企業価値の向上に間接的に携わっている」とした。

報道でエスプールの株価は10日・11日の2営業日で23%の急落となったが、11日のコメント発表で過度な先行き不透明感が和らいだことから、12日は6.89%急反発した。

「エスプールショック」を受け、エスプールプラスだけでなく、障害者の農園全体が「雇用率達成代行」とネガティブに見られるのを懸念する向きもある。

そうしたなか、AlonAlonオーキッドガーデン(千葉県富津市)は、胡蝶蘭農園での障害者の就労支援事業を展開してきた。代表者の那部智史さんは、重度知的障害のある子供を抱えたのをきっかけに、障害者の厳しい現実を変えるべく、2017年に創業。利用者の多くには重度知的障害がある。障害者の所得向上を掲げ、就労継続支援B型事業所では珍しく工賃10万円を実現。現在では多くの報道機関に取り上げられ、全国に約3000人のサポーター、3253社の取引企業(2022年8月時点)が存在する。

AlonAlonが企業に農園を貸し出すことで、栽培技術を身につけた障害者がその企業の正社員として就職し、贈答品となる胡蝶蘭を育てる、ということが増えている。那部さんに聞いた。

那部智史さん(Facebookプロフィールより)

――突然ですが、「障害者雇用代行ビジネス」報道に伴い、エスプールの株価がストップ安になるという事態が波紋を呼びました。 エスプールプラスのビジネスモデルには障害者雇用支援者の間でも意見が分かれています。 この事態を那部さんはどう見ていますか。

那部智史(以下、那部):長谷さんのnote拝見しました。「農業」と同様に「サテライトオフィス」も同じ指摘がなされております。こちらはあまり議論されておりません。法律的には問題がないとの判断がなされておりますが、農園・サテライトオフィスで働いている障害者社員が企業に利益貢献するような仕事をしていないことが問題とされております。健常者社員でも企業に利益貢献していない人は沢山いるとは思いますが、今回の善悪の分かれ目は「障害者社員が会社に利益貢献する(又はするような)仕事をしているか?」ではないかと考えます。

――AlonAlonではこれまでに、障害者雇用の相談に来た企業に「社内で雇用が難しいため、農園での雇用を考えている」というケースはあったのでしょうか。仮にそうしたことがあった場合、どのように対応されていましたか。

那部:AlonAlonの場合は沢山お花を注文する企業に対して「利用者を御社の社員にして経費削減しませんか?」と提案してますので、そのようなケースはありません。経費削減が主な目的です。

――「社内で雇用が難しい」と考える企業にではなく、お花を沢山使うニーズがある企業にアプローチされているんですね。(注釈・詳しくは過去のインタビューも参照に)AlonAlonは、根底にあるメッセージや、情報発信の仕方を見てきて、当事者中心主義で運営され、支持を広げてきたという印象を受けます。

那部:私は、障害者雇用といえども営利を目的とした企業に就職するには企業における「貢献」が絶対に必要であり、障害者雇用を「コスト」だと一瞬でも思われた瞬間から社内における障害者差別が始まると考えております。よって、AlonAlonでは胡蝶蘭を沢山使う企業にのみB型の利用者を就職させるのです。お花代(経費)削減をする社員は障害者といえども差別されずに誇りある会社員人生を歩めると思っております。

――「障害者雇用=コストと思った瞬間から差別が始まる」とは、私も共感します。こうした感覚が多くの企業に浸透すれば、と思います。このたびはご協力ありがとうございました。


AlonAlonは今回の報道を受けて、「AlonAlonが進める障がい者雇用について」と題した10ページの資料を作成した。資料では、「雇用された障がい者は労働しているのか?」と問題提起、そこで共同通信の記事全体を引用し、「大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は社員に無料で配布するケースが多い。」という箇所にマーカー付け。AlonAlonのサポーター制度、事業の「胡蝶蘭栽培を通して新たな労働力を創る」という意義、また2020年以降に自前の農園では栽培数が追いつかなくなり、パートナー企業と共に新たな胡蝶蘭温室開設や物流の整備を進めたこと、胡蝶蘭以外にもマンゴー栽培への参入などが伝えられている。

AlonAlonは2022年12月28日のフェイスブック投稿で、2022年の就職実績は転職1人を含めて最多の6人となったことを発表。現在の定員は20人で、利用者の就職などで入れ替わりがある。別の投稿では、利用者が、より評価される企業に転職することもあるという実態も伝えられており、AlonAlonもこれを奨励している。

2022年12月20日には、以下のように投稿している。

「障がい者雇用で会社の利益が減った」
一瞬でもそう思われた瞬間から社内における障がい者差別が始まります
そのような環境では誇りある人生を歩むことは恐らく無理
AlonAlonでは「障がい者雇用で会社の利益が増えた」
そんな会社にのみメンバー(利用者)の就職を進めるように努力しております。

AlonAlonフェイスブック

2022年12月の改正障害者総合支援法の成立過程で、国会の付帯決議の1つとして「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」という一文が入った。

農園での障害者雇用であっても、本気で障害者が農業で利益貢献して自立できる取り組みが確立し、運営や雇用の質が透明化されれば、ネガティブな見方は減っていくのではないか。利用企業の意識や人権感覚も問われている。

エスプールショックをどうみるかは、自分がどういう社会で生きていきたいと考えているか、直接的に言えば、障害のない人とある人が共に生き共に働く社会を目指すか、それともそれを理想論に過ぎないとみなすかで、個々の立場性が出やすいとみられる。そしてここが難しいが、前者の立場であっても、ふとしたことで後者に転じうることがある。

粘り強く色々な立場の人と対話し、社会に対して働きかけていきたい。

1月16日続報「障害者が利益貢献する仕事を創り出せているか。エスプールプラスのビジネスを検証する」

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