見出し画像

Vol.10 胡蝶蘭で、社会課題を解決!?―AlonAlonが生み出す仕事の“仕組み”とは?

世の中で生まれているあたらしい働き方、"Good Job!"を見つけ出す取り組み、Good Job! project。2017年までのアワードで受賞した団体の今を取材しています。
Vol.10となる今回取り上げるのは、千葉県で就労継続支援B型事業所としてオーキッドガーデン(胡蝶蘭ハウス)を運営するNPO法人AlonAlon(アロンアロン)。

画像1

高品質の胡蝶蘭を栽培・出荷していること、「苗のオーナー制」といったユニークな仕組みを持っていること、さらに利用者の工賃が高いことなどで注目を集めていますが、理事長の那部智史さんは、「我々は社会福祉がやりたいわけではない」と言い切ります。そうではなく、「AlonAlonでやりたいのは、社会課題をビジネスの力で解決すること」だと。それってどういうことなんでしょう? 那部さんに詳しく伺いました。(2020年10月7日収録)

障害者福祉の現状を社会課題と捉え、ビジネスの力で解決する!

——AlonAlonの事業について 、簡単に教えてください。
就労継続支援B型事業所として、AlonAlonオーキッドガーデンを運営し、主に胡蝶蘭栽培・出荷に取り組んでいます。

就労継続支援B型事業所は、就職することが難しい障害者の仕事の場所です。現在、全国で大体11,000の事業所があって、約3 0万人くらいが働いていますが、そこには、大きな問題が2つあると思っています。一つは工賃。二つ目は就職率です。今、就労継続支援B型事業所で働く人の工賃、いわゆるお給料はものすごく低いんですね。平均して月額16,000円位です。それから今、就労継続支援B型事業所から就職できる人は1.5パーセントぐらい。つまり、就労支援と言いつつ、ほとんどの人が就職できていません。

私自身は障害者福祉の仕事をするためにこの事業をやったのではなくて、こうした社会課題をビジネスの力で解決するということがやりたくてAlonAlonを立ち上げました。工賃が安い。就職できないという、障害者福祉の現状を社会課題と捉えて、それをビジネスの力で解決するための活動をしているのが、AlonAlonなんです。

*就労継続支援B型とは、障害や難病のある方のうち、年齢や体力などの理由から、企業等で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスのこと。(LITALICO 仕事ナビよりhttps://snabi.jp/article/15

——なぜ胡蝶蘭なのでしょう?
大きな理由の1つは、胡蝶蘭は付加価値が高いということです。付加価値の高い商品を生み出すことで、AlonAlonでは、現在、最高10万円の工賃を払うことができています。

画像2

左側がAlonAlonの胡蝶蘭、右側が一般の農園の胡蝶蘭、品質の差は一目瞭然

Good Job! Awardでは、「苗のオーナー制」(AlonAlonでは「バタフライサポーター制度」と呼んでいる)という制度が評価されました。

私たちはNPOなので、皆さんの共感が必要。共感いただけたら、バタフライサポーターになってくださいと呼びかけ、サポーターを増やしてきました。例えば、私が講演するときに、参加者の皆さんに必ず聞くことがあります。それは胡蝶蘭を買ったことがありますかという質問。買ったことがある人はほとんどいないです。次に、母の日やパートナーの誕生日などの記念日にお花を贈る人はいませんかと質問します。すると大体7割〜8割ぐらいの人が手を挙げる。そこで例えば、来年の母の日に1万円のお花を贈ろうと思っているなら、今年のうちに苗が1本1,000円なので10本買ってくださいという話をするんですね。胡蝶蘭は半年で出荷できるので、母の日の半年前に苗を10本買っていただく。その10本の苗を、AlonAlonが半年かけて育て、一本1万円で売れる胡蝶蘭10本にします。そのうちの1本を、お花屋さんで買うと1万円くらいするようなアレンジメントフラワーにしたり、一本立てだけの胡蝶蘭にしたりしてお母さんに送ります。残りの9本は企業に販売して、その売り上げ利益が障害者の工賃になります。これが、受賞した「苗のオーナー制」(「バタフライサポーター制度」)のビジネスモデルなんです。
*詳しくはこちら https://www.alon-alon.org/owner

当日展示_仕組み図

企業の課題も解決!お花の経費削減と、障害者雇用の同時達成の提案

さらに、そこから先の話があります。今おかげさまで2,000人のサポーターがいるんですが、そのうちの、だいたい14%くらいのサポーターさんが、うちに電話をかけてくるんですね。どういう電話かというと、法人向けのカタログを送ってくれという。彼らが、自分が勤めている会社の社長さんとか部長さんとかお花の注文をしている人にカタログを渡して、どうせ買うんだったらAlonAlonの花を買ったらどうかと、無償で営業してくれるんです。そのおかげで、半年で100社ずつ新規のお取引先が増えてきました。現在2,000社の慶弔のお花を販売しています。するとその100社のうち1社ぐらい、ものすごくたくさんの花を注文してくれる会社があるんです。そういうのは、とても大きな会社なんですね。ここで、法定雇用率の話が出てきます。

*法定雇用率とは、障害のある人の雇用を促進するために民間企業や国などの事業主に義務づけられた、雇用しなければならない障害のある人の割合のこと。(LITALICO 仕事ナビよりhttps://snabi.jp/article/133

実は、半分くらいの企業が法定雇用率を達成できていません。どうやって法定雇用率を達成するかということが課題になっている。
なので、この大きな会社の社長さんに、「お花を買うのを止めましょう。代わりにAlonAlonの入所者を、そちらの社員にしませんか。AlonAlonで農園の一部をお貸しするので、自分の会社のお花を自分たちで作りませんか」という話をするんです。AlonAlonで1、2年働いている人は、胡蝶蘭栽培の技術を身につけた職人さんになっていますから、企業は彼らを雇い、農園も借りることで、自社で慶弔用の胡蝶蘭を栽培できるようになる。さらに、障害者雇用もできる。つまり企業にとっては、お花の経費削減と、障害者雇用が一度に達成できることになる。

画像4

日本で唯一の就労率50%。環境を変えずに、就職できるという仕組み。 

―利用者の皆さんは、環境を変えずに、企業の社員として働くことができるんですね?

そうなんです。そのままオーキッドガーデンで、企業で花を育てる仕事に就ける。今、うちのB型事業所の就労率は50%です。実際にこれまでに就職した会社としては、イオン銀行や、ベルシステム24、帝人、スイスのチューリッヒに本拠地があるChubb 損害保険株式会社など。6社と契約していて、そこにどんどん就職しています。

そして、その先もあります。帝人さんなんですが、AlonAlonの農園を一部貸しても、グループ会社のお花を全部は賄えないということで、我々がプロデュースして千葉県我孫子市に農園を作りました。そこで我々は、栽培指導をしたり、胡蝶蘭の販売をサポートしたりしています。
*帝人ソレイユ株式会社 ポレポレファーム https://www.teijin-soleil.com/

まとめると、バタフライサポーターから、お花の法人取引に移り、そのお花の法人取引の中でも、たくさん注文していただける会社に関しては、貸し農園でうちの利用者が就職するというビジネススキームを持っている。その中でも、うちの農園だけでは足りないというところは、新規の農園のプロデュースという形で、新たな展開をしています。

今後は、物流費の大幅削減へ

現在、胡蝶蘭の物流センターは東京、横浜、名古屋、大阪、福岡にあります。AlonAlonオーキッドガーデンと帝人さんの農園は関東圏なので、将来的には、名古屋、大阪、福岡でも、自社農園を作りたいという会社を見つけて、全国の物流の適正化事業というのをやりたいと考えています。例えば、いま、帝人さんでいうと、我孫子の農園で胡蝶蘭を作っています。でもお客さんは、全国にいる。例えば福岡の博多にいるお客さんに、帝人の胡蝶蘭を納品しようとすると、我孫子から東京の物流センター、東京の物流センターから福岡の物流センター、福岡の物流センターから博多のお届け先というふうに、ものすごくコストをかけて運んでいるんですね。それが、もし九州に農園ができたら、トレードによる物流ができるようになる。農園間でトレードができれば、帝人さんのラベルを、他の福岡で作った胡蝶蘭に張り替えて、福岡から出荷することができる。これを全国的に展開することによって、物流費の大幅な削減ができます。そういう事業体をこれから考えています。

親亡き後の、障害者の生活基盤を作りたい

さらに2020年より、NPO法人AlonAlonとしての3つ目の福祉事業がスタートしました。「AlonAlon Base」いわゆるグループホームです。が、家賃ゼロのグループホームなんです。家賃ゼロなので、お金がなくても、身1つで入ってもらえます。それでうちのB型事業所で一生懸命働いてもらう。うちは、新入りでも初月から大体40,000〜50,000円の工賃をお支払いしています。そうしたら、その50,000円を持って一般的なグループホームに移ることができる。それでまた1、2年働いて、胡蝶蘭の栽培技術を磨けば、大企業に就職できます。そうなったら今度は、みんなが羨ましがるような高級なグループホームも我々が用意して、そこに入っていただくことができるようにしたいと思っています。障害を持っているとしても、頑張れば頑張った分だけ生活レベルが上がるというシステムを、グループホーム事業の中でも取り入れようとしています。就労率1%と言われている就労継続支援B型事業所の利用者を、胡蝶蘭職人に育て、一流企業への就労をバックアップし、親なき後の生活基盤を提供したいんです。

うちの事業所に来る人は、年齢としては若い人、特別支援学校を卒業してすぐの人が多いですが、老若男女います。今年就職した人のなかには、60歳の人もいました。まったく植物の栽培経験がない人もいますが、共通して言えるのはお花が好きということです。グループホームができたことで、遠くからいらっしゃるという方の問い合わせが増えました。グループホームは、今後も増やしていきたいと思っています。

画像5

― Good Job ! Award 2017への応募のきっかけは?
胡蝶蘭の温室を作り、B型事業所をはじめたのが2017年。その年にアワードに応募しました。たまたまFacebookで見たのがきっかけだったと思います。始めた年だったので、片っ端からいろいろなところに応募していました。受賞後の変化としては、メディアの取材依頼がいっぱいきましたね。新聞にテレビや雑誌。新聞に関しては、大きな新聞は全部出ています。うちは、PR会社も契約しているので、PR会社をとおしてプレスリリースを配信したり、記者と懇談をしたりもしています。

大事なのは、障害者の成功と事業の成功のベクトルを一緒にすること

―AlonAlonが、一番大事にしていることは?
一番大事にしているのは、社会課題をビジネスの力で解決するということ。障害者の存在というのは社会問題ではありません。障害者の福祉というのは、社会問題の解決ではないと私は思っています。問題なのは、障害者が受け入れられないような社会だと考えています。要は今の障害者福祉のあり方、制度ですね。例えば、なぜ障害者は工賃が安いまま、何十年もずっと放置されていたか。これには、国の報酬制度が関係していると思います。今の報酬制度では、事業所に、障害者を何人入れたかによって、報酬が高い低いが決まる。障害者がどれくらい稼いでいるかというのはあまり評価の基準にないんですよ。だから、テーブル1つで内職作業をしているようなB型作業所も多い。反してうちは、何千万円もかけて温室を作ります。なぜかと言うと、われわれはその社会問題=工賃が安すぎるということを、解決しようとしているからです。

就労率が1%しかない原因も同じです。障害者の人たちが何もできないからではない。障害者福祉の事業者は何人利用者がいるかによって、国からの報酬が決まるから。就職して出て行ってしまうと報酬が減ってしまうからではないでしょうか。
つまり事業者の成功と、利用者の経済的な成功・自立の成功の、利益が相反しちゃってるんですよね。この利益の相反が社会課題。われわれがこの社会課題をどうやって解決するかというと、単純です。障害者の人たちの成功と、我々の事業の成功とのベクトルを一緒にする。彼らの幸福の延長線上に、事業者の事業の成功を並べるんです。

画像6

一つ一つの仕事を大切に、働きがいを生み出す

AlonAlonに一人の女性が体験に来たことがありました。その人は、自分が所属している事業所では手がつけられないと言われているということでした。だからどこかの部屋で作業せずに過ごすことが多いと。でもうちでは、しっかり働くことができて、働きがいがあるって喜んでくれました。
どんな違いがあるのか。例えば、何をやっているかわからないような単純作業の内職の繰り返しでは働きがいを見出せず、作業を投げ出してしまう人も多いと思います。我々は、一つ一つの仕事について、お花の栽培という全体から見て自分が何をやっているのかがよくわかるような仕組みをつくり、働きがいを生み出しています。

働きがいっていうのは障害のある人にとっても、もちろん重要です。それは働く環境でもあるし、将来的な不安がないことでもあるし、ちゃんと給料がもらえるということでもある。

農業の作業所というと、ビニールハウスのところが多くて、ビニールハウスの中は夏場40度とかなっちゃうんですね。だけど胡蝶蘭は25度から30度でないと花がつかないので、職場環境は常春です。真夏だろうが真冬だろうが25度から30度。そういう意味でも職場環境はとても良いと思います。

それから、働くモチベーションが高くなるような工夫もしています。例えば栽培工程を細分化して、簡単な作業から難しい作業まで細かく分けています。だから、胡蝶蘭栽培が初めての人でも簡単な作業から始めることができるし、できたという達成感が得られる。そうした作業と、できたという達成感を積み重ねることで、自己肯定感がどんどん高まるようなプログラムを意識しています。

加えて、簡単な仕事をする人の隣には、難しい作業をやっている人の仕事場を配置しています。そうすると、新入りの人たちにも、簡単なことから取り組んでいって、だんだん難しいことができるようになれば工賃が上がるんだよっていうことが伝わります。そうすると、将来的には僕はこっちをやりたい、こっちの難しい仕事をしたいよねっていう気持ちが起こるようになる。頑張れば就職の可能性も高いことも知っているから、就労への意欲もある。まだ設立して3年ではありますが、辞めた人はほぼいません。

画像7

障害を持つ子の親の心を折れさせないように、保育園を作る

―今後、AlonAlonがチャレンジしたいことは何でしょうか?
1つは、作物を広げていくこと。実は、2019年9月に房総半島を直撃した台風15号で、大打撃を受けました。長期停電により、その時に育てていた苗5000株がダメになってしまったんです。約五千万円の被害でした。すぐにクラウドファンディングを始め、たくさんの方に支援いただいて、また苗を買い、事業を継続することができましたが、その経験から栽培作物が1つなのはリスクがあるなと思うようになりました。そこで、今、新たな農作物栽培にも取り組もうとしています。その一つがマンゴーです。今年のものづくり助成金をいただきましたので、それをもとに、まずは関東でマンゴーができるかどうか研究していこうと思っています。

また先ほどもお話ししましたが、これから各地に、提携する大企業の農園を作っていくというのもチャレンジの1つです。

それからもう一つチャレンジしようと思っているのは、保育園を作ることです。なぜ保育園か。実は私の息子は、重度の知的障害を持って生まれてきました。その子とのこれまでを振り返ると、最初に親として心が折れそうになったのが保育園なんですよ。当時も待機児童の問題が解決していない状態です。その中で障害を持っている子を受け入れてくれるような保育園は、皆無でした。
私自身は、障害者の人たちが障害を持っているからといって自動的に不幸になるとは思わない。ただ親の心が折れてしまったら子供は100%不幸になります。だから我々は、親の心を折れさせないように、まずは、第一難関である保育園の問題を解決したい。障害を持っている子たちも受け入れる保育園を作ろうと思い、今、動いています。もちろん、障害のある子だけではなくて、すべての子供たちが通えるインクルーシブな保育園です。
AlonAlonのこれまでの事業によって、特別支援学校を卒業して、B型作業所で手に職をつけることができて、そのことによって就職までできるよということがふんわりとみんなに認知されてきていると思います。なので、次は、保育園で子供を受け入れて、親御さんたちとも接することによって、将来的に安心してくださいというビジョンを見せたい。障害を持つ子の親御さんたちは、子供が小さい頃からその将来に不安を抱えています。ビジョンを見せることでそれを少しでも解消してあげて、心を折れさせないようにすることを、我々ができればいいなと思っています。

画像8

(構成、text:井尻貴子)

画像9

NPO法人AlonAlon
HP:https://www.alon-alon.org/
FB:https://www.facebook.com/alonalon.orchidgarden

●『Good Job! Award受賞団体のその後』バックナンバー

■ Good Job! project をご支援ください
「Good Job! project」は、展覧会やアワードを開催することで先駆的な活動を普及・発信し、セミナーや合宿をひらき知見共有と異分野の実践者たちがつながる機会づくり、基金による応援、そして障害のある人と地域をつなぐ協働事業を進めています。プロジェクトの継続と発展のためにぜひご支援ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?