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障害者が利益貢献する仕事を創り出せているか。エスプールプラスのビジネスを検証する

貸農園での障害者雇用事業で成長したエスプールプラスが物議を醸し出した。共同通信が1月9日に「障害者雇用『代行』急増 法定率目的、800社利用」と報道。これに対しエスプールは11日、コメントで「一方的な意見に偏ったもの」とし、同社のサービスを「事実上の障害者雇用代行ビジネス」とする指摘を否定、障害者は就職企業で「企業価値の向上に間接的に携わっている」とした。

エスプールプラスのビジネスモデルでは、障害者が企業価値を生み出す仕事を作り出せているか。もう少し掘り下げて検証したい。

エスプールプラスの親会社、エスプールの2022年11月期の決算資料によると、この障害者雇用支援サービスは売上高69億円で前年比19.7%増。運営する貸農園「わーくはぴねす農園」は、全国に37拠点。農園の新設は続いている。

エスプールプラスのホームページ内の「仕事をお探しの方へ」では、「野菜作りを通じてそれぞれの能力特性を活かしながら、無理なく働くことができる」「『楽しく、やりがいをもって、夢中になれる仕事』として、3100人以上が活躍」と述べられている。

また、「事例紹介」の1社は、「障害者を農園で雇用して法定雇用率を達成する考え方が議論を呼んだが、本業での採用や定着が困難だった。東証プライム上場企業でCSRの観点からも、法定数字の遵守は喫緊の使命。本業の利益には直接結びつかないが、『SDGs事業で農園は会社に貢献できる』という考えのもとで、農園を開設した」と述べられている。

エスプールプラスのホームページ内の「わーくはぴねす農園求人サイト」では、農園で働く障害者の求人は、パート・アルバイトで給与は時給900円台。体験実習を経て、企業と面接し、就職する。企業と雇用契約を結べば、給与は月額12万円。

エスプールプラスでは、農園で働く障害者のサポートスタッフの募集もある。パート・アルバイトで給与は時給1000円台。「50代・60代活躍中」「ノルマに追われずゆったりと仕事をしたい方対象」「福祉の資格・農業の経験は不問」などという文字が並ぶ。

エスプールのコメントによると、「栽培された野菜の活用は多岐に渡り、社員食堂での活用や、一部小売業のクライアントでは販売も行われている。子ども食堂への寄付など社会貢献にも役立っている」とされている。

エスプールプラスのホームページで紹介されている障害者の声の一つでは、「就職してからいじめに遭って居場所をなくし、長年ひきこもった後、農園の体験実習を経て就職した」ケースも紹介されている。

農園を企業に貸し出しての障害者雇用は、「農園型障害者雇用」と呼ばれる。この点では、エスプールプラスとAlonAlonのやっていることは一見そう変わらない。

だが、後者は出発点から当事者中心主義が徹底している。就労継続支援B型事業所として始まり、胡蝶蘭栽培技術を指導し、「社内で雇用は大変だから」という企業ではなく、本業でお花を多く使う企業にアプローチしている。

農園での障害者雇用であっても、本気で障害者が農業で利益貢献して自立できる取り組みが確立され、運営や雇用の質が透明化されれば、ネガティブな見方は減っていくのではないか。

2022年12月の改正障害者総合支援法の成立過程で、国会の付帯決議の1つとして「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」という一文が入った。

運営企業だけでなく、利用企業の意識や人権感覚も問われている。

働く障害者に、労働や貢献度に見合った対価を適切に支払っているか。就労継続支援事業所でない一般企業で月額12万円という金額はやはり引っかかりがある。

加えて、サポートスタッフの賃金も低すぎるのではないか。福祉業界の職員の賃金が低すぎることは長年の課題だ。

その労働は、本業での貢献につながるビジネスモデル設計になっているか。社会貢献の意義だけを中心に押し出した「企業価値向上への間接的な貢献」では、説得力が弱いのではないか。

農園型障害者雇用とは別に、「農福連携」という、農業で障害者を活用する農林水産省の事業もある。

特定の事業を批判して終わり、とするのではなく、農園型障害者雇用や、農福連携のあり方をめぐる議論が活発化する機会につなげたい。

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