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アーティストになりたかった自分が経営者になった今(Vol.01)

今まで、ものづくりの内容ばかりでしたが、ここで今後のyuhakuはどうなるのか、どう考えているのかをお話したいと思います。

まず、経営観など1mmも持たずに独立した自分でしたが、今では経営もデザインと考え、最優先で取り組んでいます。
経営観ゼロの自分がそう変われたのは、周りの友人・知人らに影響されたというのが一番でしょう。
そこの話はまたいずれさせていただくとして、今回は現在に至るまでの戦略のお話をします。

まず、ブランドを確立するためにしたことは、革製品のブランド比較とポジション確認です。
まず既存のブランドを以下のようにカテゴライズしてみました。

①ワールドワイドなハイブランド
②職人気質を前面に打ち出すブランド
③手頃な価格でマスを狙うブランド
④手作り感を売りにするブランド
⑤個性を全面に打ち出すブランド etc...

この様に様々な切り口のブランドが存在します。
そこで、どこを目指したいのかを考えました。
自分では①の「ワールドワイドなハイブランド」が理想でした。
しかし、これはあまりにも大きく高い目標で、1代で到達することは至難の業。しかも、そこまで大きく展開したいわけでもなく、ビジネス優先なものづくりはしたくありませんでした。

次に何を理想とするかを自己分析してみました。

●ブランドの持つ世界観。(店舗、ショッパー、店員の制服などの視覚的ブランディング)
●もの以上の価値を感じさせるブランディング。ホスピタリティ≒信頼
●エレガントかつデザイン性の高い商品(クラフト感のような無骨さが無く、洗練されている)
●歴史的背景からの信頼

最後の「歴史的背景からの信頼」はそれこそ1代では得ることが難しく、日々コツコツと積み上げていくしかありません。
他の3点についても実現させるにはかなりの資金が必要になったりしますが、残念なことに資金は全くありませんでした。
しかし、資金も信頼もが無いからと諦めるわけにもいきません。

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そこで弱者が強者に立ち向かうには!!と考えたのが
ロゴを見なくてもどこのブランドであるかが分かるようなアイコンは確実な武器となる。
他ブランドとの差別化。その中でも大きな企業が立ち入らない領域を狙う必要あり。
●突飛な事をしても、望まれない差別化はNG。→お客様に望まれる差別化を。
の3点です。

1つ目の点を例えるならLouis Vuittonであればモノグラム、BottegaVenetaであればイントレチャートのように、
「ブランド=〇〇〇」と言える強みが必要不可欠だと考えました。
「ブランド=〇〇〇」を生み出せれば、そのアイコン一つにより、識別される強みがあります。
また、特定の商品(革製品)に限らず、インテリアや食器などにも転用できていくでしょう。
ロゴビジネスのブランドとは異なり、Louis Vuitton=モノグラム、Bottega Veneta=イントレチャート、ETRO=ペイズリー柄。
この様なイコールを生み出しているブランドは非常に強みがあります。

次に、2つ目と3つ目のクロスポイントとして、技術や育成が必要であり、更には感性も必要とするアート性の高い分野は、大きな企業が立ち入らない分野であると同時に望まれるものの一つであると辿り着いた結果が、

yuhaku=手染めのグラデーションでした。

当時はメンズにおけるキレイめな革小物としては黒、焦げ茶が中心で、稀にブラウンやネイビーというものしかなかった時代でした。
グラデーションには濃い色~明るい色が存在し、受け入れられやすいと考え、その色を百貨店の売り場に加えていこうというのが、作戦でした。
ただ、色という特徴だけでなく、プラスアルファの購買につながるフックとして考えたのが、クオリティと使い勝手の考慮です。
デザイナーズブランドでは、正直、作りは二の次で、デザインとコストを重視しているケースが多い中、作りのクオリティを自分に考えられる最上のものとし、使い勝手も考慮し、幾度となく試作を重ねました。
ここで活きたのが独立当初のオーダーでの製作経験でした。
オーダーする方の要望の殆どは、世の中に無いもの、もしくは良い機能の集合体のような商品だったりします。
正直なところ無茶振りも多い中、それを形にすると、これが非常に優れたものだったりするのです。
このアイデアを更に自分のものとし、昇華させるで、使い勝手のよいものとなっていきました。

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しかし、これ程に考え自信のあった商品にも関わらず、最初に入った新宿伊勢丹MENS館(現在もそうですが、その当時は今以上に圧倒的な売上を作り出すナンバー1の紳士用品売り場)ですらほとんど売れませんでした。
ここで、何が足りなかったのか、何が問題だったのかを考えました。
そこで思い至ったのは、類似する商品が周りに無さすぎたためだと考えました。
男性の革小物の概念がまだ、黒、焦げ茶という中で、グラデーションのブルー、ワイン、パープルなどは、候補としても考えられなかった時代だったのでしょう。
しかし、そう時をおかず、ありがたいことに同じ売場の中の競合となる他ブランドが色味のある商品を打ち出し始めてきたのです。

これは、単純に新色を新作として出すことが競合他社にとってコスパが良かったからだとも捉えていますが、そうしたことで、革小物の購入を検討して売り場に来た人の頭の中に「色物も男性が持ってもOKなんだ」という感覚が芽生え、より急速に売上が向上していきました。

一般的に男性は、新しいものに手を出すことに躊躇する人も多くいますが、グラデーション=アンティークっぽいという感覚から、色を引き立てるためのグラデーションとして表現した事で、女性の目にも止まり、男性へのプレゼントとしての需要が生まれたこともプラスとなりました。

ただ、初めてブランドとして打ち出した際には、「自分のブランドなので自分の好きな色を打ち出したい」や「圧倒的な技術力を見せつけてやりたい」という傲慢な欲から、グラデーションの中にムラを入れた個性の強いグラデーションを作っていました。しかし、その時代には望まれない差別化になってしまっていると途中で気づき、個性ではなく美しさを表現したグラデーションに変更したことでも売上が飛躍的に伸びました。

後に、脳科学的に、変化がないことには関心が薄れ、突飛なことでは不快に感じるという人間の本能の中、美しさを表現したグラデーションは中庸な存在であり「心に響く≒望まれる」ものであったと知りました。

競合の少ない分野を見出し、そこで戦っていける武器を持つことは「弱者が強者に勝つ法則」を論じているランチェスター戦略にも、勝つための法則として同じようなことが書かれており、本能的に考え行動していたことは間違っていなかったようです。

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また、余談ですが、最初から色(グラデーション)1本で攻めようとは考えてはいませんでした。
なぜならデザインでいくつも大ヒットという成功を体験していた自分を否定するように思えたためです。
デザイナーとしても認めて欲しい欲求が邪魔していたのです。
しかし、最もやりたい事を実現するための過程として、やらないことを選ぶことは重要な見極めであると自分に言い聞かせ、一歩一歩目標に向かうため、小さくとも着実な成長を喜び、糧としています。

自分のやりたいことは時期を待とう。ブランドとしての立ち位置や時代の変化を読み取り、その時また打ち出していこうと考え直しました。

では次回は、職人育成と経営のバランスに関してお話します。


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