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小さな私のジュエリーボックス。


たくさんあった。

好きなもの、可愛いもの、大切なもの。


それらは物で、物質で、お金で買えるもの。

お金がなければ買えないけれど、

お金があるなら、割とすぐに手に入るもの。


小さな私は、大切にした。

メ○ピアノのTシャツ、メ○ピアノのポシェット。

小学校の同級生にもらったまめゴマのマスコットは淡い初恋とともに、ボックスにしまってあった。


青いリンゴの香りがする練り消しケース。

キャラクターものの筆箱、下敷き。

キラキラするラメが惜しげも無く使われている鉛筆セット。



プリキュアが描かれたティッシュ一つでも、子どもには宝物だった。

あまりに純粋で、あまりに愚かだった小さな小さな私の宝物。

ちっちゃな手のひらに与えられる、色とりどりの煌めく宝石たち。

真珠に癒しのエメラルド、エーゲ海の如く深いサファイア

真っ赤に輝くルビー。


小さな私でも思った。

私は、世間から見ればきっととても

とても恵まれている。


だけど、と小さな私は呟く。

だけど、だったらどうして?


どうして、そう。

どうして私は、寂しくていつも泣いてるんだろう。

手のひらいっぱいに握りしめる綺麗な宝石。

身に付けるもの、与えてもらえるもの、

口に入れるもの。

全てが標準か、それ以上。

恵まれている。幸せだと人は思うのだろう。


じゃぁ。

小さな手のひらに爪を立てる。

じゃぁ私は幸せで

いなければならないはずなのに。


どうして、これほど泣いているんだろう。


ピアノの音が頭の中で鳴り響く。

プールの水音が、耳の奥に残る。

陽を浴びて反射する水面に慰められる。


ぽちゃん、ぽちゃ。

ポロンポロン、と響くメロディー。


イカロスの最期を歌い上げながら、私は泣く。


私は、いけない子だ。


太陽に翼をもがれ

空から真っ逆さまに落ちていったイカロスは、

死ぬ前に誰を思っただろう。


高名な発明家だったという父親のダイダロスか。

彼は、父親に大切にしてもらったのだろうか。


小さな私は、

死ぬ時、一体誰を思い浮かべられるだろう。

きっと何も思い出したくないと

駄々をこねて、天使様を困らせるに違いない。


だって、思い出したい記憶なんてどこにもない。



手のひらに収まる、小さな私のジュエリーボックス。

大切な人。大切な記憶。大切なモノ。


欲しかったのは。

宝石じゃない。

欲しかったのは、

綺麗な衣装じゃない。

欲しかったのは、

欲しくて欲しくてたまらなかったのは

きっと、一生小さな私は貰えない。


諦めきれなくて、駄駄を捏ねる子どものように

小さなあの子は泣き続けた。


美味しいお菓子もいらない、服もいらない、靴も何もかも。

引き換えに『  』を心ゆくまでくれるなら

きっとあの子はなんだって差し出したろう。


大事な鉛筆セット。可愛いポシェット。

ラメが綺麗なカードの束。女の子らしい、可愛い筆箱。

ブランドのリュック。


あれこれ欲しいと言う前に全て、あの子の手のひらにあったモノ。

感謝しなければいけないよ、と大人は言うのだ。

そしてそれは道理でもある。正しいことだ。



だけどあの子は、ただ一つだけ

どうしても貰えなかった。

そしてどうしても諦めきれなかった。

どうしたら貰えるのか、それは

学校でも教えてくれなかった。

考えて行動しても、それと正反対のものが返ってきた。


あの子は、分からないと泣き叫んだ。


手のひらいっぱいに

世の女の子が欲しがるものほとんどあるのに

どうして私は、他の子のように

笑えないんだろう。


ーーー幸せって、なんだろう。


あの子は、考えた。

手のひらにある宝石たちは、相変わらず

綺麗なまま、輝いたまま。


無残なほどまで煌めいて美しい。




貰えないのなら。


諦めてしまえばいい。



小さなあの子が小さな手を振りかざす。

手のひらいっぱいの宝石たちが、

砕け散って粉々に、散らばってゆく。

あの子の手のひらにあっても

あの子にとって宝物の意味をなさないのならば

持っている意義はない。



小さなあの子のジュエリーボックス。

二度と開けられることはなかった。


パンドラの箱の最期に、残ったのは?

希望だったと言うではありませんか。


小さな私のジュエリーボックス。

あの箱にも、

あの子が私に託した小さな希望が

カケラでも残っていたのでしょうか。

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