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『名前のないことば辞典』制作秘話②

2021年2月に刊行した遊泳舎7冊目となる書籍『名前のないことば辞典』。「わくわく」「もじもじ」「だらだら」といった擬音語や擬態語などのオノマトペ、感嘆詞を、ユニークな動物たちのイラストとともに楽しめる「絵本のような辞典」です。

本書の制作陣である、著者の出口かずみさん、デザイン担当の荒木純子さん、編集者の谷口香織さんの3名による鼎談を、全3回にわたってお届けする企画。

第2回目となる今回は、コロナ禍でのリモート打ち合わせの強みや、意識した本全体のリズム感とバランス、そして妥協しない本づくりにまつわるお話です。
第1回はこちら

リモートで週1の会議を欠かさない。コロナ禍ならではの本づくり

谷口 ちょうど緊急事態宣言になったときに、そこで出口さんが絵を存分に描けるかなと思ったら描けなくて。なんとか出口さんが描ける方向に持っていくために、子どもをダシに使って「出口さんがんばれー」っていう動画を送ってみたりとか。

出口 そうそう。あれはやられる。

荒木 可愛かったですねー。保存しきれなかったのが悔やまれます(笑)。

谷口 あの描けなかったときの心境はどんな感じでしたか?

出口 まだピンときてなくて。自分の中で固まってなかったんです。

谷口 最初のラフはすぐ届いたけど、「じゃあこの方向性でいきましょう」というところから、なかなか進まなかった感じですよね。最初は私も細かく言わずにざっくりとお願いしていたので。その後、オノマトペの一覧をカテゴリーに分けて、動物ごとに合いそうな単語をピックアップしていきました。たとえば犬は恋がテーマだから、このオノマトペが合いそうだな、という風に。 

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本書では、メインとなる個性豊かな動物たちが章のタイトルとなっている


出口 谷口さんにカテゴリーを分けてもらったのは良かったです。そこから私は絵が浮かぶものを選ばせてもらって、そこに例文を一言添えたりして、ようやくリズムがわかってきました。

谷口 今回、絵だけじゃなくて例文も出口さんにお願いしたいと思っていました。大人が知ってる出口さんの面白さが、あの例文の一言で出せるのではないかと。言葉の意味の文章は私が書いてるけど、例文の1行のインパクトは出口さんならではで、お願いして大正解でした。

荒木 基本週1でリモート会議をしてたじゃないですか。谷口さんがスケジュール管理をしっかりやってくれたから、自分たちのリズムができてきて、ちゃんと少しずつ進めていけたのも、個人的にはとても新鮮でした。自分だけでやってたらあんな風には進められないから、毎週の会議が楽しみでした。

出口 各々がこだわりを言い出したら、谷口さんは「通常の本づくりだとこうするんですけど、ここはなんとでもなります」とか言ってくれる。寛容だし、遊び心を持ってくれている感じがやりやすかった。

谷口 私は二人のセンスを絶対的に信じていたので、できるだけそれを活かせるものにしたいと思っていましたね。


ドリフの「雷様」にも役割がある。本全体のリズムに対する意識


谷口 今回の本で特にこだわったポイントはありますか?

荒木 私は本全体のリズム感と、全体を通してのバランスですかね。出口さんの面白さをずーっと出しすぎず隠しすぎず、そのへんのさじ加減というか……。

出口 私との付き合いが長いからかもしれないですね、それは。

谷口 今まで純子さんはわりと短めな本を作ってたから、今回の長い本でも、読者が飽きないように間に遊びページを挟んだりしてリズムを作ってくれたのが良かったです。しかも、純子さんの中でなんとなくの答えを持ってるから、こちらは思いついたことをどんどん投げられるというか。投げたものを純子さんがよしとすれば大丈夫だから、そこがすごくやりやすかったです。

荒木 なんとなく、でこぼこした本にしたいなー、というのが最初に頭に浮かんだんです。パラパラめくって気になるページを読むっていう楽しみ方もあるけど、全部を一定の温度やリズムにしない方がいい気がして。前後に行ったり来たり、1枚絵でもその中で気づくものがあったり、広がりがあると楽しそうだなと想像してました。ページ数が多いので、時間をかけてゆくゆく色々見つけてもらえたらいいなと。

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辞典形式の本編の合間を、遊び心の効いた様々なページが彩っている


谷口 緩急は大事ですよね。ドリフでいうと、出口さんはメインのコントで、私が書いたコラムは雷様みたいな役割だと思っています。面白いものと面白いもののあいだにそうじゃないものが入ると、周りの面白さが引き立つような気がするので。

荒木 雷様(笑)谷口さんの文章、すごく好きです。

谷口 ただ、私もコラムが書けないゾーンに入っているときがあって。出口さんと純子さんの世界観がすごくよくて、私のコラムがそこに追いつけるか不安だったんです。書かなくてすむように、コラムが載ってなくても大丈夫な方向に持っていこうと思ったときもありました。でも純子さんは、「絶対あった方がいいですよ」と言ってくれて。それでも私が書けない理屈をブーブー並べてたら、ただでさえ絵の進行が遅れていた出口さんが「私が絵を足しましょうか」って言ってくれて。

荒木 あははははは(笑)

出口 どの口が言ってるんだと(笑)

谷口 私も気持ちは純子さんと同じで、絶対にコラムがあった方がいいと分かっていました。でも書ける自信がなくて。そういう誰かが悩んでいる時期は励まし役や慰め役がいて、3人のバランスがすごくよかったです。

お互いのストイックな仕事ぶりに「ネジを締め直す」ことの大切さ


谷口 純子さんはとにかくストイックですよね。ちょっとの妥協もしないで、細かいところまで積み上げていってくれました。普通だと上がってきた絵に対して「別の絵にしてください」ってなかなか言いにくいじゃないですか。それが×じゃなくて△で、△の場合は別にそれでも間違ってはいないから。でも、純子さんは「こっちの方がいい」と細かいところまでどんどん詰めて、出口さんも絵でそれに答えてくれました。へんに気を使いあって、間をとった折衷案にすることってあるんですが、今回はそれがひとつもなかったです。

出口 純子ちゃんのこだわりポイントが分からないこともありました。そういうときは「何がだめなんだろう……でも別にまあ純子ちゃんがいうことだからそうなんだろうなあ」と思って描きました。たとえば「猫の表情が違う気がする」とか。

谷口 そう! でも実際その通りなんですよね。

荒木 ほんとにいろいろすみません(笑)。まだキャラクターがそこまで定まっていなかった最初のころの絵と、性格が決まってきてからの猫の雰囲気が違っちゃってたときですね。

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ストイックと称されて恐縮する荒木さん


出口 実は私は最初から「これだけの量だから全部を一生懸命描いてたらもたないだろう。ぜーんぶ適当に描こう」と思ってました。

荒木・谷口 あっはっははは(笑)

出口 でも、今回はペンとコピックで描いているので、絵の具に比べると作業的には楽でした。だから何か言われても「あ、わかりましたー」って感じで修正してました。

谷口 最後の最後は本当に間違いさがしみたいに、犬の顔の色を塗ったとか塗ってないとか、隅々までチェックしましたね。純子さんはただでさえ文字修正を反映したり、レイアウトで詰めるところがあったり、カバーも決めないといけなかったり、めちゃくちゃ大変な時期のに、細かいところまで見てくれてて、あの集中力はすごかったです。

出口 本当ですね。

谷口 そのお陰で自分もピリッときました。ゴールが近づいてきて、ちょっとゆるんでた部分があったから、ネジを締め直せて良かったなあと。

荒木 いやいや、むしろみなさんのおかげで自分のネジを締め直せたんです。校正のときは、遊泳舎のお二人も本当に細かく見てくれて、今までそういう経験をしたことがなかったから感動したんですよ。「もうめちゃくちゃ見てくれてるー!」って。出口さんも、絵の中で「ここのお団子描き忘れてた」とか言ってて、「出口さんってこんなにそれぞれの動物を描き分けてたのか」と、それもびっくりしました。それで、私もちゃんと見ないといけないと思いましたね。

最終回につづく


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