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豆腐怪談

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Twitter上で投稿しているSS怪談 #豆腐怪談 シリーズです。 これを一部訂正&加筆修正などしたものを、まとめて土日にnoteでアップしていていましたが、今はお休み中。 日常…
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2020年6月の記事一覧

豆腐怪談 47話:同じ傘の下

リサイクルショップで食器棚を買ったついでに、傘を買った。たまたまレジの横に陳列されていたのが目に入ったからだ。 外側の色はブラック、内側はターコイズブルーと白のチェック柄、そして柄にもスカイブルーの縞模様が入った、良く言って個性的、もしくは変な傘だ。 おれはいつも500円ぐらいの安い傘を買い、壊れたら買い替えていた。しかし最近は壊れる前に傘をよく盗まれてしまう。そこで個性的な柄ならかえって盗まれないかもしれないと、思いついてあえて変な柄の傘を買ってみることにしたのだ。 そし

豆腐怪談 46話:夢の視界

Bさんはたまに同じ内容の夢を見ることがあったという。 「夢そのものはそんなに怖い夢じゃないですよ。むしろいい夢です」 Bさんは短い顎髭をさすりながら話してくれた。 夢の舞台はいつも同じだ。 ふと目を開けると、いつも小高い丘の上にBさんはいる。 丘というよりは崖に近い急斜面の頂上が近いかもしれない。その頂上の大きな樹の下にBさんは立っているんだそうだ。 「そして僕は自分ではない誰かの体になっているんですよ。それとも自分の意識が誰かの中に入り込んでしまっているかもしれません」

豆腐怪談 45話:ひとりではいけない

夜19時以降は、この部屋で一人で残業してはいけない。 規則にはもちろんそんな項目はないが、長いこと職員に共通された不文律だった。 モニタの向こうは壁だ。一番端の島の席から後ろを振り向いて、反対側の壁にある時計を見る。白い光に照らされた時計の針は9時を過ぎていた。このだだっ広いオフィスは一部を除いて薄暗い。 この部屋で光を放つのは自分の島にだけ灯っている蛍光灯と自分のモニタ。そしてキーボードを叩く音と時計の秒針が回る無機質な音だけがある。 この部屋で夜に一人で残業してはいけ

豆腐怪談 44話:地下鉄駅の通路

よく利用する地下鉄駅の3番入り口から改札までの通路は古臭く、そして薄暗い。 その通路の天井の照明はLEDだが、構造上の理由なのか、それとも壁のタイルが古くて色映えがしないせいなのか、どうしても薄暗いと感じてしまう。 掃除はマメにされているが、壁と床にはところどころ黒か白か何かの液体が流れたような跡が消えずに残っている。タイルもヒビ割れがあったり、色味が微妙に違うタイルで取ってつけたかのように補修されていた。 そんな古い通路に“彼”はよく佇んでいた。 照明と照明との中間点

豆腐怪談 43話:羽虫

「あーーもう!虫が鬱陶しい!!」 虫が触るムズムズした感触に我慢しきれず、手を振りますように払った。 とても小さい羽虫に朝からたかられるようにまとわりつかれてしまっていた。どこか近くに巣があったのか、原因が全く分からないが、いま羽虫が大量発生している。 窓を網戸にしても、その羽虫共は小さすぎて易々と網戸をくぐり抜けてしまう。 羽虫どもは服の中へ、髪と髪の隙間へ、耳たぶのはざまへ入り込む。痛くはないが、もぞもぞと動く感触が鬱陶しくとても気持ち悪い。 更に腹立つことに、奴らは

豆腐怪談 42話:天井のエアコン

曇天の中のおぼろげなだが眩しい円を見上げる。途端にゆっくり視界が回り、頭痛が攻めてきた。 ここのところの急な気温変化か湿気か、それとも低気圧爆弾到来のせいなのか。ともかく気分が悪くなってその場でうずくまってしまった。ともかく横になりたかった。 診察した医師だか看護師は、少し安静にしてれば治るといったような事を言って、何かの栄養剤らしき飲み物をくれた。いまその医療従事者は会議だかなんだかで席を外している。隣のベットは空いていて、医務室にいるのは一人だけ。 その医務室はカーテン

豆腐怪談 41話:廃工場

「何か怖い話ィ?変な話ならあるぞ。ただしこの話は又聞きだがな」 と前置きした某輸送会社のドライバーKは話し始めた。 某県の山中にな、数年前まで機械部品の製造工場があったんだ。詳しくは言えんが某車メーカーの2次下請けやってた工場だ。 名前はとりあえず、仮にS工場としておこうか。 そこはウチの会社のお得意さんでな、そこの出荷担当の人とよく雑談したもんだった。 あ、そうそうその出荷担当の人の名前は、ンー、そうだな鈴木さん(仮名)にしておこうか。 その製造工場が廃業してから、その鈴

豆腐怪談 40話:踏切

ある日、田舎の実家に用があったので久々に戻ることにした。 その途中、なんとバス停から歩いていたら突然の豪雨に遭遇してしまったのだ。 「あーくそ!傘持ってこりゃよかった!」 真っ黒な雲が一斉に雨となって落ちてきたように、真っ暗だ。まるで日没前後の暗さだ。視界が密集した雨粒の灰色カーテンに覆われたようにはっきり見えないのが、更に苛立ちと不安を募らせる。 「くそ!くそ!」 雨宿りする場所もなく、ひたすらら歩くしかない状況に毒づくしかない。 豪雨は容赦なくシャツごしに身体を叩き続

豆腐怪談 39話:映る足

「また映ってる…」 げんなりした己の声が部屋にむなしく響いた。 そうつぶやいた時には既に“それ”は消えていた。 “それ”を見るようになったのはいつ頃だっただろうか。 この家に引っ越して1年ぐらい経った時だろうか。ともかく引っ越した直後ではなかった。 いまや3日に1回は見ているかもしれない。もっと多いかもしれない。しかし慣れることはきっとないだろう。 はじめて“それ”を見たのはある夜の就寝前だった。 パソコンをシャットダウンした直後、真っ暗になったモニタに映った自分の後ろに、

豆腐怪談 38話:猛禽類

「それにしてもいい天気だな」 空を見上げた。山の谷間、木と木の間から見える青空に小さな雲がひとつ浮かんでいる。 渓流釣りにはもってこいの良い日和だった。 この川に来たのは初めてだ。車を止めた空き地から少し川を上がったところに、釣り糸を垂らすのに丁度良い日陰があった。 深い緑色の葉越しに降り注ぐ日光は穏やかで、岩と石が転がる川辺に立つ身を暖めてくれる。鳥の鳴き声だろうか、ピイピイと陽気な鳴声が耳に軽やかに入ってきた。 川は幅は狭いが、爽やかで透明な水を豊かに流し続けている。魚

豆腐怪談 37話:老婦人

それは地方の某駅前にある、年季の入った4階建てのテナントビルだった テナントがいくつか入ってるとはいっても、服装品の階では半分以上はシャッターが閉まっていたり、ある階は100均ショップでフロアの半分以上を占めていていたぐらい、そのビルはさびれていたそうだ。 古い建物故の薄暗さに加えて、経費節約の為か、売り場の隅が薄暗く、さらに寂れた感じを強めてしまっていたとか。 そのテナントビルの端にある階段に至っては昼間でも薄暗かったそうだ。 1階から最上階まで上がることができる唯一の階

豆腐怪談 36話:雨上がりの跡

「やあっと、雨やんだかあ」 ここ数日間にわたり降り続けていた重苦しい雨が、今日の夜明け頃に明けた。 早速、雨で中止していた日課のウォーキングを再開することにした。 雨上がりはまだ朝の風が湿気を含んでいて重い。道路は乾いた箇所とまだ濡れている箇所でマーブル模様を描いていた。 いつものコースの終盤、自宅近くの歩道を歩いていると、車道の真ん中に奇妙な雨跡を見つけた。 「何だこれ?!これは…人間の足跡かな?」 30センチほどだろうか、男の大きな裸足の足跡があった。それも車道の真ん中

豆腐怪談 35話:全くだ

梅雨もまだだというのに、もう夏みたいな気温だ。いや真夏はもっと暑いが、体感気温的には完全に夏だ。 そんな日のことだった。 先の用事が早く済んだため、次のお得意先を訪問する予定時間までまだ1時間も余裕がある。 自分一人なのをいいことに、大きな公園の雑木林に囲まれた駐車場の片隅で仮眠を取ることにした。駐車場の自販機で水を買い、木陰の下に車を停める。運転席側の窓は半分、他の席の窓は外から手を突っ込まれない程度に開ける。 今の時期が真夏と違うのは、クソ暑いがそれなりに涼しい風があ

豆腐怪談 34話:パレット

某輸送会社のドライバーKから聞いた話。 得意先のA工場から海沿いのC工場にあるA工場の大量のパレットの回収の依頼があった。 パレットというのは荷物を乗せるための荷役台である。スノコ状の台の上に荷物を乗せ、ビニール等でパレットごと巻いて輸送中に動いて崩れてしまわないように固定させる。そのパレットの足と足の間にフォークリフトの爪を入れ、持ち上げて移動する。 これが一般的なパレットの使い方だ。 パレットの素材にもよるが、パレット一枚でおよそ1トンの移動が1回で可能であり、製造業