豆腐怪談 70話:霧の中から
小雨が降り続いている。
「霧が出てきたな。しかし…」
小雨が降る日は見慣れた山々は霧の中へ消え、代わりに白い世界に包まれる。その筈だった。
小雨の向こうで視界の先にある山々はグレーの空の下で鬱蒼と濃緑の塊を誇示したままだ。
逆に普段は霧に包まれることがない麓の住宅街に霧がどこからか流れ込み、住宅街の道路を覆うようにゆっくりと広がりながら迫る。
ここに住んで10年以上は経つがこんな景色は初めて見た。
「なんだか気味が悪いなあ」
昼間だからまだ明るいが、それがかえって不気味であ