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豆腐怪談

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Twitter上で投稿しているSS怪談 #豆腐怪談 シリーズです。 これを一部訂正&加筆修正などしたものを、まとめて土日にnoteでアップしていていましたが、今はお休み中。 日常… もっと読む
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「豆腐怪談」マガジン目次

これはTwitter上で不定期連載中の「豆腐怪談」シリーズを訂正&一部加筆修正しアップした記事をまとめたマガジンです。 日常から不意に怪異が顔を覗かせるそんなSS怪談。 1話~10話 豆腐怪談 1話:間違えた      豆腐怪談 2話:ツナギ        豆腐怪談 3話:猫バンバン      豆腐怪談 4話:落ちる音       豆腐怪談 5話:お局様        豆腐怪談 6話:祖父と孫       豆腐怪談 7話:下からの音      豆腐怪談 8話:黄昏時の海  

豆腐怪談 70話:霧の中から

小雨が降り続いている。 「霧が出てきたな。しかし…」 小雨が降る日は見慣れた山々は霧の中へ消え、代わりに白い世界に包まれる。その筈だった。 小雨の向こうで視界の先にある山々はグレーの空の下で鬱蒼と濃緑の塊を誇示したままだ。 逆に普段は霧に包まれることがない麓の住宅街に霧がどこからか流れ込み、住宅街の道路を覆うようにゆっくりと広がりながら迫る。 ここに住んで10年以上は経つがこんな景色は初めて見た。 「なんだか気味が悪いなあ」 昼間だからまだ明るいが、それがかえって不気味であ

豆腐怪談 69話:夜明けの手

年に2~3回ほど強制的に夜明け頃に起こされることがある。 それは何の前兆もなく不意にやってくる。疲労による浅い睡眠中だろうが、連休中の満ち足りたお気楽睡眠中だろうがお構いなしに起こしてくる。 季節も冬だったり初夏だったり特に法則性はない。 今まさに、強制的に起こされた。 違和感を覚え、まだ微睡む中、まず小鳥のさえずりが耳に入る。そして誰かが手に触れる感触を知覚した瞬間、完全に覚醒した。 ああ、またアレに起こされた。 自分は横向きに寝ていて、体の下から布団の外へ伸ばした右

豆腐怪談 68話:張り紙禁止

「もう10年以上は前の話ですがね、無許可のチラシを貼るバイトをやっていたんですよ。そのチラシというのがちょいといかがわしいやつでして、見つかり次第はがされても文句が言えない内容です。バイトの詳細は今も言えませんから、根掘り葉掘り聞くのは勘弁してくださいよ」 そう言って、知り合いTは肩をすくめた。 「そのバイトは悪い先輩経由で紹介されました。当時は食うための金もちょいと事欠いていまして、とにかく金が欲しかったんです。なァんにも知らん無知な学生とはいえ、無茶したものです」 バイ

豆腐怪談 67話:夢の川

ここ十年以上も、似た夢をよく見る。同じ夢と言っていいかは細部が違うから微妙だ。 私は夢の中である川岸を歩いている。川岸まわりの風景は夢を見る時期によって違う。 その夢を見始めた頃は、その川は街の中を流れていた。 整備された川岸の遊歩道みたいなところを歩きながら、私は川を見る。 街の中なのにその川は渓流のように狭く、水の流れは早かった。川の上流から赤い何かが流れてくるのを見えた私は、何だろうかとそれを見ようと屈んだ。 立ち上がった途端、そこで視界が場面転換したかのように変わる

豆腐怪談 66話:荷台

「ヨーオ、見つけた見つけた。アンタを探していたぞォ。怖い話だか変な話だかを仕入れた後に限って、変な話マニアのアンタになかなか会えないときたもんだ」 某輸送会社のドライバーKは失礼するぜと、自販機コーナーの椅子に座った。 アンタのところは新型ウィルスの影響ってあるかい。まあアンタ自身は見たところ健康そうでなによりだ。 こちらとら新型ウィルスのせいで仕事が少なすぎてヤバかった時があったンだ。 俺がある商社へ荷物を運びに行ったときにな、見慣れない某県ナンバーのトラックがいたんだよ

豆腐怪談 65話:追いかけてきた

「オレが学生の頃の話です。まだ陸上をやってた頃でした」 あの時と体格はだいぶ変わりましたけどね、とNは体脂肪の少なさそうなシャープな体を指さした。 ご謙遜をと言いたかったが、本人は本気でそう思っているようなのでツッコミを入れるのはやめた。 Nは某政令都市郊外にある大学の出身だ。今も走るのが趣味の彼は当時は陸上で中距離走をやっていたそうだ。 Nは試験など部活が無い日が続く時は、朝に軽いジョギングなどをしていた。当時は走らない日がしばらく続くと落ち着かなかったらしい。 Nは学

豆腐怪談 64話:そこじゃない

知り合いHが家賃が安いという理由で事故物件に住んでいる。 老人の孤独死があった部屋だそうだ。発見当時はひどいことになっていたらしい。 「事故物件つっても犯罪があったわけではないし、この部屋はこのとおり完璧にリフォームされてきれいな部屋になってるだろ?それに駅とスーパーが近くて、照明付き、最新の2口IHに、エアコン付きでこの家賃だ。引っ越す理由もない」 俺の知らん過去なんか知るか、と知り合いHは全く気にしていなかった。 しかも笑いながら発泡酒をあおる。図太いお人である。 「

豆腐怪談 63話:後ろ姿

友人の話 「先月2回も親戚の葬式で受付係やったんだよね。しかも同じ家で」 親戚と言っても彼女から見れば遠縁だという。友人が故人たちに会ったのも子供の頃に1回だけ。 そんな縁の浅さにも関わらず、同じ市内に住んでいるし、とにかく人が足りないからとお通夜へ引っ張り出されてしまった。 「まずね、90越えたお婆さんが亡くなったの。長年連れ添ったお爺さんはそれはもう気の毒なぐらい落ち込んじゃってたみたい。で、その人は化け物かってぐらい健康だったのが、その3週間後にポックリ後を追うよう

豆腐怪談 62話:屋上の社

某駅ビル喫茶店の窓際の席で、景色を眺めるのがすきだ。地上では見えないものが、ここからなら見える。 よく通る道沿いにあるビルの屋上に小さな社があった。これはここからじゃなかったら決して知ることがなかったものだ。 そのビルはいかにも昭和のビルらしい年季の入ったビルだった。その屋上の隅に小さな社が鳥居と柵に囲まれて鎮座していた。 そこに社がある理由は部外者の自分には分からない。昔そこに神社があったかもしれないし、ビルの所有者が勧請した邸内社ってものかもしれない。 手入れはされてい

豆腐怪談 61話:水が溜まる場所

一昨日から降っていた雨が、やっと今日の昼に止まった。 よく通る山道の交差点は、水が溜まりやすいのか大雨が降った後によく大きな水たまりができている。 山の斜面からガードレールの下をくぐって水が流れ込んでいるらしく、雨が止んで1日が経ってもその水たまりは残っていることが多い。しかもそこだけへこんでいるのか、ゆっくり通っても水しぶが上がってしまう。 昼過ぎにその交差点が見えた時、その水たまりは雨が止んだ直後とあっていつもより大増量で水を湛えていた。 見えた時点であの水たまりを避

豆腐怪談 60話:湯舟

最近入浴剤に凝り始めた。 凝ったといってもネットやドラッグストアで手に入るような入浴剤を日々試してる程度だ。 以前は入浴剤なんて全く興味が無く、風呂はお湯だけ張って体が温まったらすぐ出るを繰り返していた。 それが、ひょんなことでどこかの温泉を模したらしい入浴剤に貰ってしまった。捨てるのも勿体ないなと軽い気持ちで湯舟に入れたら、これが暖かくてで血行が良くなったと思うぐらい快適だった。 おかげでいまやどっぷりと入浴剤の沼に浸かり続ける日々だ。風呂だけに。 普段は円形のブロック

豆腐怪談 59話:呼ぶ声

最近山に登るのが楽しいんですよね、とその人Gさんは言った。 山に登ると言っても日帰りで行ける、または一泊する程度のハイキングに毛が生えた程度だがその気楽さで山を楽しむのがいいという。 山友達もできた。山友達のFさんとは仕事で知り合った仲だ。 Gさんに言わせるとFさんは寡黙だがいい人だ。 彼は本格的な登山が趣味でそれを中心に一年間のスケジュールを決めるという人だったが、登山と言えるかどうか微妙なGさんとの山登りにも付き合う幅の広さがあった。Gさんも経験豊富なFさんにいろいろ教

豆腐怪談 58話:トンネルのジェットファン

「ア?怖い話か変な話はないかって?アンタ前もそれ聞いてきたよな」 某輸送会社のドライバーKは缶コーヒーを飲むのを止め、やがてああと声を上げた。 「そういや、あの話はしてなかったな。怪談のド定番、トンネルの話だ」 Kはニヤリと笑って話し始めた。 高速道路のトンネルや地下の自動車専用道路の天井に、飛行機のジェットエンジンみたいなやつがぶら下がっているのを見たことあるだろ? オイ、そんなのがあったかな?という顔をするな。 え?高速は滅多に利用しない?そうか… ともかく飛行機のジ