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豆腐怪談 34話:パレット

某輸送会社のドライバーKから聞いた話。

得意先のA工場から海沿いのC工場にあるA工場の大量のパレットの回収の依頼があった。


パレットというのは荷物を乗せるための荷役台である。スノコ状の台の上に荷物を乗せ、ビニール等でパレットごと巻いて輸送中に動いて崩れてしまわないように固定させる。そのパレットの足と足の間にフォークリフトの爪を入れ、持ち上げて移動する。
これが一般的なパレットの使い方だ。
パレットの素材にもよるが、パレット一枚でおよそ1トンの移動が1回で可能であり、製造業や物流業では必ずあると言っていいほど欠かせない存在だ。
配達先で梱包を解かれ荷物を下ろしたパレットはそのまま取引先の片隅に積まれた後、まとめて回収されることが多い。

A工場のパレットは、よく見る木製の安くて年季の入ったパレットだ。しかしこれもA工場の財産の一部であるので、しばしば回収依頼の仕事をKは受けることがある。
回収先のC工場には既に連絡済であるらしく、快くA工場パレットが積まれている場所を教えてもらった。

Kは首に巻いたタオルを潮風になびかせ、フォークリフトで移動していた。山育ちのKには潮の香りというのは、いつでも新鮮で好きな匂いだ。
A工場パレット山はすぐ見つかった。
屋根付きの野外倉庫の一角だった。
荷物がないのでパレットを数台ごと一気に積み、次々と空のトラックの荷台に上げていく。


最後のパレット山に取り掛かろうとした時だ。Kはそのパレット山に違和感を感じて、リフトを操作する手を止めた。
「何かいるのか?」
Kは目を眇め、パレット山を見る。パレットとパレットの間、パレット台と足の間に何か見えた。

そこには巨大な人らしき“何か”の半透明な顔が、パレットの中の影に潜んでいた。半透明なソイツの顔はパレット台を数台貫通させるぐらいデカい。
無表情なソイツの口は歯はなくもぞもぞと動きっぱなしである。巨大な目は、穴のような真っ黒で虚ろだった。その焦点の合わない目でこちらをじっと見ている。
そして、Kはパレット山の周囲の土に目を下ろす。海に通じる小道から、このパレット山まで何かを引きずった後がこびりついていた。

コイツは海からやってきたな…
そう直感したKには、明らかにヤバいものに見えた。
「どうすんだよ、これ……」
Kはリフトの上で頭を抱えた。
正直言うと、これをパレットごとトラックの荷台に乗せたくない。見た目も怖い、そして運転中に見えない荷台の中で何かをやらかしてくれそうで不安しかない。

しかしスズメバチが巣が作っていたのならともかく、まさかオバケがいたのでパレットを回収できませんでした、とパレットを回収しないわけにもいかないだろう。

「ハァ〜、載せるしかないかあ」
しばらく考えたのち、Kは意を決してリフトでパレット山を運び出すことにした。
パレットの足と足との隙間に爪が入る。ガクンと、パレット山がひと揺れした。積んだパレットを崩さぬようにリフトをゆっくりと動かす。中にいる“顔”に刺激を与えないように…。

ソイツは無表情で虚な目でKをじっと見ながらパレットから落ちることなく、トラックの荷台に積まれてしまった。

Kは道中で顔野郎が何やるかと危惧していたが、意外と何事も起きずに、あっさりと山の中にあるA工場に着いた。
A工場側の指示に従いパレットを荷台から下ろす作業に入る。
海からきた顔野郎は、まだパレット山の中にいた。顔野郎は無言のまま、山の中の景色に向けて虚な目を向けている。
見えないフリをしてKはパレット山にリフトの爪を入れ、顔野郎ごと荷台から下ろし始めた。
その時だった。

「ききききぃぃぃ……」

パレットの中から声が聞こえた。
リフトのエンジンが響く中、その笑い声がKだけにはっきり聞こえてしまった。
パレットの中で顔野郎は、凄まじい歓喜の笑みを浮かべていた。

「オレはとんでもないものをA工場に持ち込んでしまったかもしれない」
Kは後悔したが、既に遅かった。


後日、A工場に大きな落雷があったと風の噂で聞いた。


【終】

※豆腐怪談シリーズはTwitter上でアップしたものを訂正&一部加筆修正などをしたものです。

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Photo by Reproductive Health Supplies Coalition on Unsplash

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