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豆腐怪談 37話:老婦人

それは地方の某駅前にある、年季の入った4階建てのテナントビルだった
テナントがいくつか入ってるとはいっても、服装品の階では半分以上はシャッターが閉まっていたり、ある階は100均ショップでフロアの半分以上を占めていていたぐらい、そのビルはさびれていたそうだ。
古い建物故の薄暗さに加えて、経費節約の為か、売り場の隅が薄暗く、さらに寂れた感じを強めてしまっていたとか。

そのテナントビルの端にある階段に至っては昼間でも薄暗かったそうだ。
1階から最上階まで上がることができる唯一の階段だったが、当然その階段を利用する客は少ない。
階段は防犯のために警備員や店員が定期的に巡回していた。


服装品売り場の3階と、休憩スペースと小さな本屋がある4階を繋ぐ、その階段の踊り場でベンチに座る小柄な老婦人の姿をよく見たそうだ。
それは白髪を優雅にまとめ、品のいい服を着た老婦人だったという。
彼女は開店前から消灯寸前まで、何も喋ることもなく、そこから動くこともなく、そこにただ俯いて座っていた。たまに顔を壁に向けて、頭だけを階段から出していたりすることはあったそうだが。
あきらかにこの世の人ではなかったが、座っているだけで何もしない存在でもあった。
店員や警備員は気味が悪いと思いながらも、彼女はそこにいるだけの存在として関わり合うことを避け、そして受け入れていた。

ある朝のことだったという。
準備中の店員が階段を早足で駆け上がっていると、あの老婦人が踊り場の真ん中に立っていた。
珍しいこともあるもんだと不気味に思いながら店員がその横を通り過ぎたその時、かすれた声が聞こえたそうだ。
「あと、一年と2ヶ月」
店員は思わず振り向いたが、老婦人は煙のように消えていた。
その4日後にこのテナントビルが駅拡張工事のために一年と2ヶ月後に閉店、そして解体と決定された。


「それですね、あのテナントビルが解体された今、その幽霊はどこにいると思います?実はですね、ウチの現場事務所の階段に夜になると座っているんですよ」

その老婦人の幽霊の話を聞かせてくれたのは、駅拡張工事に携わるゼネコンの若手社員だった。
工事現場事務所の階段にあの老婦人が現れるそうだ。

彼女はテナントビルにいた時と同様、ただ階段に座ってじっとしているだけらしい。目撃者も多いそうだ。
そこで怪談の類が好きな彼が情報を収集したところ、あのテナントビルの階段の話にたどり着いた。
ならば必要以上に彼女に怯えることはないなと、彼が考えた矢先のことだった。

数日前、若社員が階段を降りていると、あの老婦人が階段の下に立っていたという。そしてすれ違いざまにつぶやいたそうだ。

「あと、4ヶ月」

工事終了予定日までは一年以上もある。
では4か月後とは何を差しているのだろうか
「あのお婆さんは何をカウントしたんでしょうね?」
大きな事故とか悪い事が起きる日とかじゃないといいんですが、と彼は不安をのぞかせた。

【終】

※豆腐怪談シリーズはTwitter上でアップしたものを訂正&一部加筆修正などをしたものです。

ヘッダー引用先
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

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