お年玉
土曜日、市川は質屋にいた。
前日、アルバイトとして働く動物園で、初めてうさぎのエサやりイベントという大役を任された。
うさぎの扱いは難しかった。柵の中から捕まえるのは一苦労だ。捕まえたかと思えば、赤い瞳でじっと見つめられるとどうすればいいのか分からなかった。
その更に数時間前の、とあるバイト先で得た戦利品をお金に替える。
ポケットにパンパンに入れた戦利品を質屋の川崎という男に渡す。
ずっとサングラスを掛けて、ガムを噛みながら接客している態度は気分がいいとは言えない。
ガラス扉越しのカウンターから、奥の部屋へ戻った男が再びカウンターへ戻ってきた事が、査定の終わりを告げる合図だった。
市川はこうやって手に入れたお金の事をお年玉と呼んでいた。
3万4000円だった。
こんなもんか。と思うと同時に、
なぜか一部のネックレスにお米がへばりついていた事を思い出し、クスリと笑った。
何を買うかはすぐに思い浮かんだ。
新しいコンタクトレンズを買いに行こう。
元々視力が悪く、学生時代からコンタクトをしている。
しかも右目だけ青色のカラコンというヘンテコな状態で長い時間を過ごしてしまっていた。
長く使い過ぎて交換時期の過ぎたコンタクトレンズ、そのせいで腫れた赤い目。
お金を握りしめたその足で、眼科へ向かう。
遠くの気球をみたり、目にボワッと空気送り込まれ、戦利品はコンタクトレンズに変わった。
今回はしっかり両目の、それも赤色のカラーコンタクトレンズを購入し、腫れずに赤い目を手に入れた。
その日、少しだけうさぎの気持ちに近づけた気がした。
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