【イベント出店で損しないために】その6 すばらしいアンチャだぢ
【イベント出店で損しないために】その5 助けてくれる人、助けてくれない人 はこちら
時間は正午前。すでに気温は30度近く。
上からも下からも暑いこの会場に、狭いテントの一つ屋根の下、特に仲良くもない50代のおじさんとわたし。
隣を見れば、熱中症予防の給水車の前に水道局の二人が深く帽子をかぶって寄りかかっています。
「暑いのに申し訳ないなあ」
そう思ったわたしは、自分の商品である青いレモネードを四人分作り、みんなに分けてきました。
炎天下、思いがけない酸っぱいドリンクに水道局の二人は嬉しそうです。テントに来た例の恰幅のいいおじさんも「やっぱり飲んでみっどイメージわがるおんだの(やっぱり飲んでみるとイメージわかるもんだね)」と言ってくれます。「私がドリンク作るので、お金の計算とかお願いしてもいいでしょうか?」というと、「いよ(いいよ)」の一言。さっきのメガネの華奢な男性とは違う感じです。
ほっとした私が四つ目のドリンクに手をかけようとしたところ、白いビニール袋を持った父母会長が
「昼メシもてきたぞ〜(昼メシ持ってきたぞ〜)」
と、小走りでやってきました。
「どうだどうだ、もうけっだが? やっぱりこの場所でいがったの、ハハハ!(どうだどうだ、儲けてるか? やっぱりこの場所でよかったね、ハハハ!)」
特に私の反応を見るでもなく、弁当を机の上に置き、隣の恰幅のよい男性に話しかけます。
「こっちさはトイレで絶対人来っしの! 店もねし独占販売でやーちゃハハハ!(こっちになら人はトイレに必ず来るしね! 店もないし独占販売じゃないかハハハ!)」
隣で聞きながら、わたしは「この人にはそう見えてるんだなあ」と思いました。
時刻は午後1時。会長も去り、ご飯も食べ終わったころ、ちらりほらりとお客さんがきてくれるようになりました。
「レモネード一つください!」
「あ、レモネードと青いレモネードの2つで」
「これ3つで」
どんどん売れていきます。きのうはまったく売れなかったこともあり、人が来てくれるだけでとってもうれしかったわたしは、ほぼ全員におまけしました。隣では恰幅のいい男性が絶えずお金の計算をしてくれています。中には、
「遠くから張り紙見て、どういうのなかな〜って気になってたんです」
と言ってくださる方もいました。「やはり遠くからでも見えるように工夫することが大切なんだな……。届く人には届くんだ!」そう思った私は、「ありがとうございます〜! よかったです〜!」と、やっぱりこの方にもおまけをしました。
2日目は、きのうとは打って変わってどんどん売れていきました。いつの間にか、父母会から様子を見に来ていた会社の重役であろう男性も、センスを仰ぎながら「おいしよ〜!」と宣伝してくれています。この方、長身で体格の良い白髪の男性で、ぱっと見は永六輔のようでした。三人体制で販売していると、みるみるうちにカップの山は減っていき、20個、30個となくなっていきます。氷も2〜3回なくなり、その都度恰幅のいい男性が「お金くいれば買てくるぞ(お金くれれば買ってくるよ)」と自分の車を出して近くのコンビニまで氷を買いに行ってくれました。その間は白髪のセンスの男性がお金を管理し、わたしはドリンクを作り続けました。そのうちに使用したカップの数は100を超え、イベントの終了時間も近づいてきました。
夕方になり、太陽が少し黄色味がかった光で会場を照らしていました。先ほどまでの人数ではないものの、終了間際までちらりほらりとお客さんはきてくれます。うれしくて、うれしくて、隣にいた男性二人には感謝しかありませんでした。
「今の人だぢで最後だがもの(今の人たちで最後かもね)」
カップルの二人が嬉しそうに立ち去った後、恰幅のいい男性は言いました。
「本当に、暑い中、どうもありがとうございました!」
わたしは座りながら、立ちながら、何度も「ありがとうございます」と二人に言いました。年上で、父母会とは全然関係ないにも関わらず手伝ってくれて、車も出してお使いで氷を買いに行ってくれたおかげで、なんとかここまで走りきれたのです。本当にありがたいと思いました。数えれば、コップの使用数は114個になっていました。この中で20〜30個ほどはマドラー清掃や差し入れで使用しましたが、それを考えても昨日よりは大進歩です。前日の7杯から比べれば、カップの使用数だけで言えば16倍超えとなります(笑) 前日はマドラー清掃等も必要ないほど売れませんでしたから、とにかく人がきてくれて、助けてくれる人が隣にいたのは、とても心強いことでした。
「どれ、おれはそろそろいぐが。ご苦労さん」
「おれもいぐがな。しぇばの」
重役さんも恰幅さんも、サラっと挨拶して父母会のテントへ帰っていきました。最後におみやげのクッキーと飲み物を差し出し、ありがとうと頭を下げます。二人は自分が手伝って<あげた>という主張は一切せず、「おっ、わりの(おっ、悪いね)」とだけ去るなんて、なんとかっこいい二人でしょうか。本当にありがたかったです。
結局最終日の売り上げは35,000円ほどとなり、ドリンクの準備・保健所申請・備品の購入・氷の補充分・クッキーの製作のための施設設備費や材料費を除いても、1万5000円ほどの赤字ですみました。店じまいをしていると、午前中に設営を手伝ってくれた職員さんが手伝ってくれ、荷物を車まで運んでくれました。朝は会場についたかつかないかで、団塊親父たちに運ばれた荷物……今はだいぶ軽くなって、職員さんと私の二人で2、3往復して運んでいます。
車に荷物を詰め込んで、職員さんに挨拶をし帰路につきます。
車に乗り込み、安堵して、
「ふうやれやれ。結果良ければすべてよし!」
‥‥と、そんな風に考えられるわたしではありませんでした。
これは色々と数値を調べる必要があるぞ……。
来客者数、値段、商品設定……。
「家に帰ったら、なんの数字が必要なのかちゃんとまとめておこう」
車に乗りながらあれやこれやと考えを巡らせ、昨日はアクセルを入れてもなかなか登りづらかった坂道を、今日はスイスイと登り、わたしは2日目をなんとか終わらせたのでした。
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