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【読書感想】『翼』白石一文

愛にまつわる1冊。
読了後に残る感覚はまるで真綿でゆっくりと首を締められるような、
その苦しみと、しかし不思議な心地よさの交錯でした…。



「意志」を持って継続すること、それが「希望」の実現につながる。
かつて、ワタシはそんな風に信じていたんです。

しかし、その過程で手にしたさまざまなものを積み上げつつ
でも、何か違う…という違和感を抱きつつ。


ーーーー意志と希望

「意志」、それは初めに、
社会で上手く泳いでいく自分を作るために働きかける。

やがて、その力がついたら「意志」を減らし、
人生に於ける自分の「希望」の割合を増やすことが可能となる。

意志 の基準は「自分」であり、希望 の基準は「人生」。


自分の真実の人生に向かうこと。

それは素晴らしいことのように見える反面、そう決断するだけである種の苦悩の時間の始まり…これは物語の結末を知った、ワタシの穿った見方のような気がするけれど…。

主人公が見つけた 自分の真実の人生 は、「愛し合う関係である」と決断した相手と共に生きること。しかし、その希望にむかって行動するものの、
全てはスムーズにいくはずがない。

「希望」のために、今まで「意志」で築き上げてきたもの、それが自分の人生に沿わない、望まないものであれば手放す努力をする、…そのプロセスは丁寧に見え、しかし異様にも映る。

また、その 「愛し合う関係である」 相手は、これはこの物語の重要なポイントだと感じるのだけれど、「運命の人」とか、社会で使い古されているそういう次元の話ではない。

愛とは「愛する」という動詞である、などと言われているけれども、(確か、『7つの習慣』のコビー博士だったか…?)ここで語られているのはその手前の、「状態への決断」。

「愛し合う関係である」、それをやりきる。

自分と、自分の人生に向き合い、最良を求め、それを選択をし続けた人間の、心の声による確固たる決断。


表面だけなぞれば、妻と子供を手放し、愛する女性のもとに向かおうとする男の話、に見えてしまうけれど、

 いや、ここまでで大きな間違いをしてしまった…。
 実際の主人公は、その対象である女性なのだが

だけど、淡々とした男性の奥底にある決断や前提の強さが…、ワタシはそこに魅かれるんだろうな。

自分の希望に生きる様、その願い、希望、心の声は生前に、自分が決断した「愛し合う関係」である相手には届かなかった。…共鳴しなかった。

いや、届いたとしても、それは「絶望」だったのか…この辺りはまだよくわからないが、然るべき時に、然るべきタイミングで何かを感じるのでしょう。

それにしても、自分の内部を抉られる、まるで人生の哲学書のような、
…そんな1冊でございました。


このタイミングで読めて良かった。

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