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紹介制の味覚こと(海南)チキンライス

「チキンライス、大好き!!!」
「あれ多分地球で一番美味しいよ」
「わかる…わかるめっちゃわかる!」
高校生のとき、目の前で繰り広げられていた話題である。

チキンライス。ケチャップ風味のあれだと思って、かつ私はその様相の「チキンライス」がとても好きなので話題を共にすることにした。
ところが、程なくして話の方向性が予期せぬものになっていったのである。

「チキンの風味が美味しいよね〜」
「そうそう、パラパラのご飯にしみてね」
「てかあの柔らかいチキンがまず天才!」 
「ね、でっかいやつ!チリソース合わせるのが好き!」

ん!?
でっかいチキンのチキンライス??チリソースのチキン??立て続けに私の中のチキンライス・ボキャブラリーと遠いワードが並んだ。
そういえば彼女たちは帰国子女だった。海外生活の長い彼女たちは、もしかしたら全く違う食べ物を指しているのかもしれない。
意を決して問うてみることにした(大げさ)

「待ってごめん、ケチャップのピラフみたいなやつだよね?オムライスの中の…」
「え!!ちがうよ!シンガポールチキンライス!」

やっぱり違った!
この世の中にケチャップ以外のチキンライスがある…だと…!

「やばいそれ知らない、ケチャップのやつしか食べたことないや、どんなやつ?」と尋ねると、友人2人は私よりずっと驚いていた。
「ユウ今週末うち来な!!お母さんに作ってもらうから一緒に食べよ!!マジでマジでマジで美味しいから!!」
なんということだ…そこまでの食べ物があるなんて!せっかくなので是非お邪魔して、「チキンライス」と邂逅することになった。

して週末。
初めてお会いする友人のお母さまは優しくてお綺麗で、ちょっぴり緊張したけど朗らかに話してくださってすごく嬉しかったのを覚えている。

お昼に出してくださったのが、まさにそのチキンライスだったのだが…

わーーっと歓声を上げてしまった。
たしかに、私の知る「チキンライス」とは全く違う!まず色が白い。ケチャップの赤ではないのだ。こんもりと盛られたご飯の上に、大きめに切られたプルンプルンの鶏肉が乗っている。パクチーとチリソースと薄切りのキュウリが添えられて、見るからに美味しそう!なるほど、チキンとライス、チキンライスだ。

ひとくち頂くと、その味わいにトキメキが止まらなかった。友人の言うようにご飯には鶏の風味がしっかり乗っており、仄かな塩気と生姜の香りが合わさって本当に美味しい。チキンがまた、柔らかくてとてもとても美味しいのだ…お母さま曰く作るのはとても簡単で、鶏とご飯を一緒に炊くだけよ、なのだそうだ。それでこんなに美味しい食べ物ができるなんて!

あまりに嬉しそうに食べるもんだから友人も笑っちゃって、すごく楽しいお昼だった。
それが私の、人生ではじめてのチキンライスだった。

大人になってからは、エスニック料理を好んで食べて来たからかそのタイプのチキンライスを目にする機会がぐんと増えた。海南チキンライスと表記されることが多い気がするし、目にしたり食べたりするたびにその友人とのお昼ご飯を思い出して嬉しい気持ちになった。

そしてつい先日のことである。
昨年引っ越して来た町にはもともと親しい友人がずっと暮らしていたのだが、その子が近所の美味しいチキンライス屋さんを教えてくれたのだ。
これは行かねばなるまいと夫に声をかけたところ、なんと夫も10数年前の私と同じ「ケチャップのやつ?」というリアクションを返して来たのだ。そして私の返事はこうだった。
「今週末行こう!!マジで美味しいから!!」
奇しくも私の応答も高校生のときチキンライスを教えてくれた友人と同じで、それに気づいて一人でウケてしまった。

そして週末、初めてのチキンライスに夫は見るからにうっとりしていてとても良かった。本当に美味しい物を食べる時の、一口一口を大事に食べているあの感じ。なんと喜ばしいことだろう、あなたも、私も!きっと彼もまたチキンライスを超絶美味しいものとして誰かに紹介するのだろう。

あぁ、クチコミ、人づて、そういうものの良さたるや。途方もなく嬉しくて、こんなにも愛おしく、そして、とびきり、美味しい!

チキンライス、大好き。

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