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狂乱の暗黒青春映画「ロード・オブ・カオス」

ロード・オブ・カオス、襲来

2021年3月26日

この日、日本である1本の映画が公開されました。

映画のタイトルは「ロード・オブ・カオス

1980年代から1990年代前半にかけてノルウェーで産声をあげ世界に狂気と混沌を知らしめたブラックメタル。その黎明期において中核的存在であり、ブラクッメタルというジャンルを形成したノルウェーのバンド「メイヘム(MAYHEM)」を中心に描かれたの純粋で無邪気な狂気に満ちた暗黒青春映画です。

ブラックメタルとは、ヘヴィメタルのサブジャンルの一つで「サタニズム」「ネオナチ」「個人主義」「ペイガニズム」「アンチキリスト」と悪名が付きまといその国の文化や地理的特徴、思想が複雑に絡み合い、無邪気さと狂気に満ちたプリミティブな音が特徴的なメタル。


ロード・オブ・カオスは3人の主人公によって狂乱の青春が描かれます。

メイヘムの創始者であり、ノルウェーを震撼させた「ブラックメタル・インナーサークル(またはブラック・サークル)」の創始者であるユーロニモスことオイスタイン・オーシェト(オイスタイン・アーセス)

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ユーロニモス(キャスト:ロリー・カルキン)
ロード・オブ・カオス公式サイトより引用


ブラックメタルの持つ過激さ、危険さ、そして死。メイヘムの不吉で死がつきまとうイメージを作り出したブラックメタルのアイコン的存在であるデッドことペル・イングヴェ・オリーン

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デッド(キャスト:ジャック・キルマー)
ロード・オブ・カオス公式サイトより引用


ブラックメタルを象徴する存在で、現行ブラックメタルにおけるテーマであるサタニズム、破壊、邪悪さ、ペイガニズム、ネオナチ、死のイメージを形成し、ブラックメタルの最重要バンド「Burzum(バーズム)」の創立者にしてメイヘムのベーシストであるヴァーグことクリスティアン・ラーション・ヴィーケネス(カウント・グリシュナック)

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ヴァーグ(キャスト:エモリー・コウエン)
ロード・オブ・カオス公式サイトより引用


ブラックメタルリスナーである私は原作「ロード・オブ・カオス〜ブラックメタル血塗られた歴史〜」は既に読んでおり、メイヘムやバーズムはもちろんのこと、エンペラー、ダークスローンなどノルウェーのブラックメタルシーンを作り上げ、本作で描かれる狂乱の暗黒青春を彩るバンドの曲も聴いていたため、本作の日本公開を心待ちにしていました。

ロード・オブ・カオスは過激で暴力的なシーンが多いことからR18指定の映画であり、痛みが伴う内容ではありますが、ティーン世代のもろく危うい残酷で無邪気な精神性をブラックメタルというカルチャーを題材にこれでもかと清く純粋に描かれています。

この映画に描かれているのは、単なる若者の暴走でも、狂気に満ちた昔話でも、愚かで虚しい黒歴史でもありません。

誰もが抱く「漆黒の純白さ」という矛盾に満ちた精神性、社会思想、アイデンティティが引き起こす過激で残酷な思想が描かれており、それは現代社会が抱える多くの問題の根底にある本質でもあります。

ショッキングで目を瞑りたくなるような想像を絶する事実の物語。

「若さゆえの過ち」は純粋さから引き起こされるもの。誰もが心の中に悪魔を宿し、誰もが残酷な一面を抱えて生きてます。

ブラックメタルの血塗られた歴史に記された事実を題材に作られた真実と虚構の物語であり、残酷で儚い、虚気に満ちた若者たちの青春物語「ロード・オブ・カオス」

ぜひこの狂気を映画館で感じてみてほしい。


個人の感想:「漆黒の純白さという矛盾した映画」

ロード・オブ・カオスはブラックメタルの歴史について記録したノンフィクション「ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史」を原作に映画化したもので、事実を元に構築された虚構の物語として制作されました。

誤解を招きそうな間違った例えで申し訳ないのですが、クイーンを題材にしたボヘミアン・ラプソディの伝記映画としての一面と、社会現象にもなった「ジョーカー」のスリラー映画の要素を足したような映画です。

そして狂乱の青春をA24作品のような、尖りまくった攻めの姿勢で制作された本作は、無邪気で脆い若者の危うさをこれでもかと残酷で暴力的に、そして清く純粋に描いています。

この映画はあくまでノンフィクションを元に制作された物語なので、ドキュメンタリーではないけど、事実をベースにした暗黒青春映画。

そこに描かれているのはドス黒く残酷で過激な若者たちの暴走であり、純粋で無邪気な青春を謳歌する若者たちの初期衝動に満ちた生き様です。

この映画を見てブラックメタルの本質は「サタニズム」でも「過激で危険な思想」でもなく、純粋で無邪気だからこそ生まれる「危うさ」とホンモノを求める「清純さ」が本質なのだと気づかされました。

もちろんブラックメタルが思想・哲学を重視しているジャンルであることは間違いなく、その系譜は多様な音楽性を持つ現代ブラックメタルにも受け継がれています。

しかし、ブラックメタルは決して「過激で危険な音楽」ではありません。彼らはアンダーグランドに根を張り、偽物だらけのシーンにホンモノのヘヴィメタルを見せつけるために生まれた「純粋な音楽」なのです。

その純粋さが「思想」に取り憑かれ、よりホンモノの過激さを求めてしまうのも「人間の持つ脆く危うい心」なのかもしれません。

ユーロニモスは作中では自身が抱いていた思想が自分以外の手で現実になっていくことに戸惑い葛藤し妬みます。

作中でヴァーグはユーロニモスの思想に感化され、偽物からホンモノになるために全てを破壊していきます。人生を壊しながら行き着く先は破滅。彼もまた若さゆえの過ちによって壊れてく若者の1人です。

デッドはユーロニモスからみてホンモノの匂いがする友人であり憧れの存在のように描かれています。彼の生き様がブラックメタルであり、破滅を求めて自ら死を選んだデッドはユーロニモスの根本に残り、彼の心に闇を産み落とすきっかけとなります。

ホンモノを求めて過激へと進む姿はブラックメタルに限られた話ではないし、思想を突き詰めた先にあるのは残酷なまで無邪気な暴力性であることは、世界中で起こる社会問題や歴史からも読み取れることです。

強いメッセージ性があり、単純に「ブラックメタルの物語」ではない人間の本質を突いた映画でした。

あまりにもピュアで、やり場のない怒りや虚しさ、嫉妬や妬みを強く反映したものであり、偽物に対して中指を立てる反逆の音である。

純粋だからこそ生まれた狂気であり、若いからこそ起きた衝動。残酷で混じり気のない漆黒の純白さが描かれた怪作です。


事実は"映画"よりも奇なり

実際に起きたブラックメタルの邪悪で血塗られた物語は映画よりも残酷で狂気に満ちた物語です。そして嘘でもお伽話でもなく「事実」であることがブラックメタルというシーンが一筋縄ではいかない部分になります。

デッド、ユーロニモス、ヴァーグの3人は確かにあの時代に存在し、そして映画のような青春だったのか、それとも事実はもっと殺伐としており、陰鬱な青春だったのかは分かりません。

ブラックメタルの物語をこの映画だけで完全に理解することは難しいのかもしれません。それはボヘミアン・ラプソディだけでフレディー・マーキュリーの人生を語るようなものです。

しかし、この映画はただの事実ベースの青春映画ではなく、生々しい苦味と、血生臭く匂いが漂います。

それもそのはずで、本作の監督を勤めたのはジョナス・アカーランド氏で彼は何を隠そうブラックメタルの父ともいえる最重要バンドの一つ「バソリー(Bathory)」のドラマーです。

ブラックメタルを形成するきっかけとなったバンドは数多く存在するが、特に高い影響力を持つのが「ヴェノム(Venom)」「バソリー(Bathory)」「マーシフル・フェイト(Mercyful Fate)」である。

彼はブラックメタルシーンの第一世代と呼ばれるシーンにいて、実際にデッドとも交友が会ったまさに生きる伝説で、彼によってドラマチックに人間味があり、狂気に満ちた虚構の物語が作られました。

ホンモノによって作られたホンモノの映画。それがロード・オブ・カオスにはあります。

ぜひ体験してみてください。

原作本も再販されたので興味がある方は読んでみることをオススメします。

【パーソナルデータ】
名前:Uto
職業:Webマーケティングコンサルタント/ライター
趣味:サウナ、アート鑑賞、一人旅、音楽Dig
特技:和太鼓

【連絡先】
メールアドレス:yy.edih.xx@gmail.com
Twitter:@hd2OimM


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