見出し画像

「肩をすくめるアトラス」より、7の名言

「聖書に次いでアメリカ人が人生で最も影響を受けた本」として有名な「肩をすくめるアトラス」。

読んでみて、グッときた言葉がいくつかあったので、忘れないようにまとめておきます。

※ネタバレ有りです。


それはわたしの問題であって、あなたの問題じゃないわ。 P91

鉄道会社を経営する主人公のダグニーが、鉄鋼会社のハンクにレールの納品時期の前倒しを依頼するシーン。当然、ハンクからは価格アップを要求され、本当にそれだけの代金が支払えるのかを心配されます。その心配に対するダグニーの答えが上記の言葉です。
一見突き放した言い方ですが、ダグニーの仕事に対する自信と覚悟が窺える非常に格好良い台詞です。
(ちなみに、P194でハンクも同様の台詞を口にします。この二人は後に不倫関係となるのですが、このような二人の思想の類似性を示す描写が何度もあるので、惹かれ合うことに必然性を感じます。)


あなた自身の快楽のためじゃなくて、ただわたしを喜ばせようとして贈り物をしてくれてたんなら、叩き返していたわ。 P399

ハンクがダグニーにネックレスを贈るシーン。ハンクは贈り物をするのは「僕の一方的で不謹慎な自己陶酔にすぎない」と言いますが、それに対しダグニーは”驚きと絶望、憤りと同情”をこめながら上記の言葉で反論します。
一切の自己犠牲の感情無しに贈られたプレゼントだからこそ、ダグニーはハンクからのプレゼントを100%受け入れるのです。人間の合理的な利己主義を鋭く肯定する、見事な台詞だと思います。


自分の求めているものがわからない人間に、お金が幸福を買い与えることはありません。何に価値をみいだすべきかを知ろうとしない者に価値基準を与えはしないし、何を求めるべきかを選択しようとしない者に目的を与えることもない。愚か者に知恵を、臆病者に賞賛を、無能な者に尊敬を買い与えはしないのです。 P445

「金は諸悪の根源だ!」という声に対する、とある人物の反論。
お金は所詮道具にすぎず、「精神の産物」を奪うことは出来ても「優れた精神」を奪うことは出来ない点を指摘し、優秀な人が正当に評価されるためにお金は必要であると主張します。
台詞の本筋からはズレますが、幸せになるためにお金を使うには自己理解と知性が必要だなーと改めて思いました。


ただ、何も試さないで、じっとして投げやりな人生をすごすのは罪悪だと思うだけです。 P708

景気悪化により職を失った浮浪者が、仕事があるかどうかは分からないのに新天地を求めて移動します。その理由がこちら。
ダグニーはこの言葉を聞いて、”もっとも深遠な道徳的発言”だと感じます。
浮浪者は仕事を失っても誇りは失っておらず、ダグニーはそんな浮浪者を見て見下すことなく対等に(ある種のリスペクトさえ持って)会話をするのです。このシーンは物語の上ではなんてことの無いエピソードなのですが、立場の違う二人が同様の精神性を持って交流しているのがなんとなく痛快で、印象に残っています。


己の人生とその愛によって私は誓う
私は決して他人のために生きることはなく
他人に私のために生きることを求めない
P785

物語の後半、能力が正当に評価されるユートピア(ゴールト峡谷)にダグニーが訪れるシーン。その場所の中心施設では、上記の言葉が掲げられていました。
この物語の一貫したテーマであり、筆者の思想が端的に表現されていて、なるほどと思いました。自分勝手に生きろ、ということではなく、知性、合理性、社会性を備えた上で自分のために生きることは素晴らしいことだし、道徳的でもあるという主張です。この主張には賛否ありそうですが、自分の人生を肯定する勇気がじわじわ沸いてくるような、ポジティブな思想ではないかと素直に思うのです。


わたしの命が、戦わないであきらめるには尊すぎる無上の価値だと知っていたから。 P960

業界や政界から何度も不当な扱いを受けてきたダグニーに、ある人物が「どうして耐えてこられたのですか?」と質問しました。そのときのダグニーの答えがこちら。
めちゃくちゃ格好良い。もし自分が戦うべきときに戦いから逃げそうになったら、このダグニーの台詞を思い出して勇気を貰おうと思います。


苦しみは戦って追放すべきものであって、人の魂の一部として、存在の観念を覆う永久的な傷として受け入れるべきものではない P1033

不当な法律が優秀な人間を支配するようになった社会で、その社会と戦い続けた人物の言葉。
苦しみをそんな風に捉えるのは相当に難しいことだと思いますが、この人物のような強さを手に入れたらそう思えるようになるのでしょうか……。非常に示唆に富んだ言葉だと感じるので、腹落ちするまでこの言葉を思い返してみようと思いました。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?