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デザイナーは代表の良き参謀であれ

野球でキャッチャーのことを「女房」と表現します。投手の能力を引き出すのは、リードするキャッチャーの腕にかかっていることを比喩したものです。投手の能力とコンディションを把握し、打者の特性を理解し、試合状況を読み、試合の流れを作っていく、チームの参謀役です。スタートアップにおける代表とデザイナーの関係も、これに近いものだと思っています。投手→代表 / 打者ユーザー / 試合状況市場 / 試合事業 と置き換えることができます。

形にできることがデザイナーの特性なので、代表というパートナーが頭の中に描いているビジョンやロードマップを理解して、思考して、具現化する、という作業の繰り返しです。頭の中で考えてることを引き出したり、相手の持っていない意見や疑問をぶつけたり、ときには強引に引っ張ることだってあります。ただ受け止めるだけでは足りません。お互いを支え合い、共に未来の形を作っていく、重要な共同作業なんです。この共同作業には信頼関係がないとうまくいきませんし、参謀たる者の心得も必要です。

経営者・リーダー・上司としても置き換えられますし、デザイナーだけでなく別職種にでも置き換えられるものだと思います。また、代表との信頼関係という軸で書きましたが、夫婦とか相方とか全てのパートナーとの関係構築に当てはまるものだとも思います。

(1) 信頼関係を作る

相手のことを正しく理解する

当たり前のことだけど、パートナーのことを知らないで女房役なんて務まりません。性格や人間性、好きなこと、好きじゃないこと、異性のタイプ、ビジネスマンとしての考え方、生きる上で大切にしていること、影響を受けた人物、最近のマイブーム、最近の悩み、未来の目標、来年はどうなっていたいか、自分に対して思っていること、◯◯さんに言いづらいこと、議論するときの出方、浮かない反応のときに考えていること、明日に言いそうなこと、今みんなに伝えなきゃと思っていること、などなど...

組織の代表として、組織の生みの親として、仕事のパートナーとして、チームメンバーとして、親友として、田舎から夢を追って東京に出てきた1人の少年として、できる限りの側面において理解を深めるところから関係性がはじまると思っています。もちろん他人なので全てを理解することは不可能ですが、その努力に終わりはないはず。

相手の理解に有効なのが「雑談」です。最近話題になっていることや、こないだ食べた美味い寿司の話でも、内容はなんでも良いです。様々な角度で会話のキャッチボールを繰り返ししているうちに、相手の新たな一面が見えてくると思います。


相手に共感し、常にフラットな立場で意見する

事業や経営に関わる話をするときには、必ず2つの視点からコミュニケーションすることを心がけました。「もし自分が代表だとしたら◯◯と判断したい気持ちは理解できますが、ユーザーの視点では△△という感情があるので☆☆が良いです」といった感じです。

社長業ってすごく大変な仕事なので、それに共感して、相手の立場になって同じ目線で考えることは大事だと思っています。人間はどうしても自分の立場を優先したくなるもの。デザイナーのポジショントークにならないよう、会話をするときには、自分の立ち位置や視点を常にフラットにすることを意識しました。


命を削る想いでアウトプットする

代表とアウトプットに対しての議論をする時は、簡単に意見を曲げないようにしてきました。これはあえて意識的にやっているわけでもなく、頑固になっているからでもないです。考えて考えて考え抜いて命を削る想いで作っているので、ちょっとやそっとの意見でそう簡単に曲がってしまうような、弱いデザインではないからだと思っています。

というのも、デザインには正解がないので、何が正しいか判断が難しいからです。数学のような絶対解が存在する概念とは異なり、最適解を見つけだす作業なので、経験がないとなかなか難しい領域なんです。判断するときには不安になるし、熟練したデザイナーでない限り、デザインに対するフィードバックは意図せず軽はずみになってしまうものなんです。

考え抜いた末に生み出したものならば、なぜこの大きさでここに配置しているか、誰がどんな感情を持ってこれを使うのか、このデザインがどんな風に世界を変えていくのか、を問われてもすぐに打ち返すことができるはず。タフで奥行きのある論理で出来たデザインだからこそ、相手を安心させられるものになるはずです。そしてこれは同時に、僕らデザイナーが出来ることは、ただの平面の色や形を変えるだけじゃなくて、人々の幸せを創ることだ、というメッセージにもなります。だからアウトプットは常に真剣勝負だと思っています。
(たまに手を抜いてしまうとときがあるので、自戒の意も込めて。。)


結局はデザインのプロセスと一緒

信頼関係の構築もUXとかデザインと原理原則は同じです。以下は僕が考えているデザインのプロセスですが、これはまた別の機会に詳しく書いてみようと思います。


(2) デザイン経営は二人三脚

デザインを重視したスタートアップの組織作りや経営は、代表とデザイナーの二人三脚じゃないと出来ないと思います。デザインという抽象的な概念を理解したり、良し悪しを判断していくことはそれくらい難しいことだと思っているからです。


高度な判断能力や柔軟性が求められる

KPI至上主義で数字ドリブンな組織であれば、数字だけで経営判断をすれば良いのですが、ビジョンドリブンだと判断基準はとても抽象的になってきます。もちろん組織として定量目標は最低限必要ですが、理念や価値観を重視するデザイン経営には、直感や空気を読むといった、感性、経験、状況把握能力など高度な判断能力が求められます。
(このあたりの内容は良書に書かれていることなので詳細は割愛します)

デザイン思考を持った経営者であれば、事業の成長とともにデザイン経営への理解はどんどん深まっていくはずです。コンシューマー向けサービスの経営者にはこのタイプが多いので、初めのうちは役割や権限などを明確に決めずに、柔軟に変化させることを優先した方が良いと感じています。弊社の場合も代表にそのポテンシャルがあったのですが、はじめから全てを理解して実行できるわけではありませんでした。彼も僕もそこに向き合い続けたことで、徐々にリーダーシップが身についていった気がします。
(このへんも良書に書かれているので、詳しく知りたい方はぜひ!)

お互いの信頼関係だけあれば、全てはうまくいく

強い信頼関係さえあれば大抵の他人とはうまくやっていけます。代表とデザイナーの関係も同じくで、極論、信頼関係以外のことは必要ないと思います。お互いを信じられている状態があれば、多少の価値観がズレていても、役割がハッキリしていなくても問題ないです。信頼していれば、共感する状態が作りやすいし、価値観やビジョンも一致していくからです(そもそも価値観が合っているから信頼できるというのもあります)。

弊社の場合、僕と代表で上記のような役割や権限は明確に決まっていません。組織規模やフェーズが進むにつれて、不便になるケースもありますが、今のところ致命的なレベルではないです。むしろ決めてしまうことで、柔軟な動きができなくなったり後戻りできなくなるリスクの方が大きいと感じています。

もしうまくいかない場合には、地位や権力への欲求、実行スピードへの不満、価値観のすれ違いなど、何か別の要因があるはずです。本質に向き合っていれば、それ以外のことはノイズにしかならないので必要ないと思います。

僕が何かを進めるとしても、それは彼も進めたいと考えていることが多い気がします。もちろん重要な決断の場合は彼の意見も参考にしたいし、判断を委ねるときもあります。基本的に僕が判断できないものは、彼にも判断できないレベルのものが多いので、共同で穴を潰していく作業になることが多いです。2人とも判断材料を失ってしまったときには、他の意見を参考に判断することもあります。重要な判断は必ず2人以上、もしくは別の角度からの意見を聞いてから判断することが多いです。


デザインに関連するイニシアチブはデザイナーがしっかり握る

役割や権限が無いフラットな状態でも良いですが、多少の力学が働いた方が、物事はスムーズに運びます。デザインに関連するものはデザイナーがきちんと主導権を握っておくことが、お互いにとってベストな形の一つだと思っています。

象徴的な例として、弊社では2年半前と1ヶ月前の2度CI,VI(企業ロゴとサービスアイコン)をリニューアルしています。組織を象徴する大切なシンボルなので、最終意思決定の役割と権限は代表にあると思っています。ただ、どちらの場合もデザイナーから課題感を共有したことがきっかけでプロジェクトが始まり、決定もほぼデザイナーで行いました。1度目の時は最終案を絞る段階で、議論の末に向こうが折れる形で僕が推した最終案で決定し、2度目のときに至っては最終完成形を見せたうえで変更しようと思っていることを伝えると「へえ〜、いいっすね〜」くらいだったので、もはやどちらに役割と権限があるのか分からない状態です。

というのも、数年前から雑談などを通じて変更するときのイメージとキーワードをずっと共有していたので、改めて具体的なフォルムなどを伝える必要がなかったからです。仮に賛成が得られなくても、納得せざるを得ない明確な論理を持っていたし、お互いの時間を取らない形で進めるのが最善だと判断できました。これは信頼関係があったからこそだと思っていまし、彼の柔軟さと理解の深さに感謝すべきだと感じています。


(3) 優れた代表はデザイナーを育てる

過去の記事で「社長を育てる」と書いてきたので、偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、むしろこちらが育ててもらうことの方が圧倒的に多いです。


デザイナーは「この代表とうまくやっていけるか?」だけを見れば良い

スタートアップなどの小さな組織や、一緒に何かを作れるパートナーを探しているデザイナーは、相手(代表)を見て、「この人とうまくやっていけるか?」だけで判断すれば良いです。その他のことは大抵なんとかなるし、というか、それくらい自分でなんとかする気持ちがないとやっていけないから、そこで迷う時点でやめた方がいいです。

僕が今の代表をパートナーに選んだ理由は「直感的にいいやつだと感じたから」、シンプルにそれだけでした。今でも他の人に「代表ってどんな人なんですか?」と聞かれたら「いいやつ。めっちゃいいやつ!」と答えています。もちろんJOINを決断した理由は、事業の成長や組織の可能性を感じたこともありますが、一番大きな理由は代表との相性でした。その相性は直感的に感じたものなので言語化が難しいのですが、振り返ってみるとそう感じるきっかけになった印象的な出来事があります。

入社前にサシで飲み行って熱心に口説いてくれて、チームのこと、過去の人生体験、生きる信条、プロダクトの未来、など色んな話をしました。そのなかで、仲間がどんどん増えて可能性が広がり大きな夢を実現していくスタートアップの様子を「まるで漫画のワンピースみたいなんですよ!」と彼が伝えてきました。まあまあドヤっていたので、きっと彼の中では決め文句の一つだったんだろうけど、僕はワンピース読んだことないので、その言葉が全く刺さりませんでした。なんだったら、そんなに自信満々にドヤって言うような素晴らしい事でもないし、いい歳こいて少年漫画の話ってこの人大丈夫かよ?くらいに思ってました。

「読んだことないんであんま良く分かんないすね〜」と僕なりにやんわり流したつもりだったのですが、そのあと何回も「あれはまさにワンピースみたいな出来事で」「ワンピースでいうとあのシーンみたいに」「このチームがワンピースっぽいんですよ〜」といった具合で何かとワンピースの話を持ち出してくる。はじめは、この人あんまり人の話聞いてないのかな、と不安に思っていたのですが、一生懸命に話す姿を見ていて「聞いてないんじゃなくて、僕に伝えることだけに集中していて、その情報が頭に残ってないんだ」ということに気付きました。その瞬間、彼のまっすぐでひたむきな姿が愛おしく思えてきてしまって、この人なら喧嘩してもすぐに仲直りできそうだなとか、何かを成し遂げられたときに一緒に喜べそうだなとか、彼と一緒に何かに向き合っている自分の姿がパッと頭に思い浮かんできました。なんだったら、しょうがないから人肌脱いでやって、ワンピースじゃない口説き文句が言えるような男にしてやるかという気持ちすら起こりました。

後になって気づいたのですが、僕は一緒に真剣に向き合えるパートナーを探していて、心地よいと思える相手を見つけたかったんだと思います。


僕が今の代表とうまくやっていけている理由

僕の一方通行かもしれないけど、今の代表とはとても相性良く仕事ができています(彼には僕以外のチーフとも向き合う必要があります)。その理由をがんばって10個出してみましたが、言語化してみると改めて腹落ちできたので残しておきます。

どうしても譲れない部分が似ているのと、譲りたい部分の相性が良いからだと思います(向こうがどう思っているかはわからないですが)。

・本質にしか興味がないので、個人の感情の優先度が低い
・青春を追い求める子供っぽいところが一緒
・お互いのことにそんなに興味ない
・人にあまり見せない繊細な一面を持っている
・打算と誠実さのバランスが似ている
・細かいけど大雑把な性格が似ている
・色んなことに妥協したくない
・僕が2歳上で年齢が近い
・僕は長男、彼は末っ子なので、適度な甘え方の居心地が良い
・自分に持っていない明らかな強みをお互いに持っている

お互いに我の強い人間なので、意見が食い違うこともあれば、落ち込むこともたくさんありました。ただ、問題が起こっても本気で取り組めば必ず乗り越えられるし、それがあるからこそ今の方が信頼できているので、やっぱり「この人とうまくやっていけるか?」だけを見ておけば間違いないと思います。パートナーを選ぶってそういうことだと思います(お互い独身なので生活のパートナーを決めることが次の課題です...)。


代表は永遠のライバル

弊社の代表のデザイン思考は、彼の素晴らしい人間性のおかげだと思っているので、心から尊敬しています。彼は私利私欲で物事を判断しないし、他人の意見に耳を傾ける素直さを持っているので、常に正しいあるべき姿を考えることができる人間です。デザイナーとして、1人の人間としても大きな気づきや学びを与えてくれる存在なので、僕自身がデザイナーとして成長できているのは、間違いなく彼のおかげだと思っています

彼はサービスに対する思考が誰よりも深いので、僕的には彼そこが真のチーフデザイナーだと思っています。彼に何度かそのことを伝えているのだけれど、彼は毎回よく分からないことを言って話を濁してくるので(彼が話しを濁すときは決まって本心を言いたくない照れ隠し)、あまりその話を深掘りしないようにしています。

だからこそ僕は彼よりも常に高い視点でデザインに向き合っていたいし、彼にない視点で常に気づきを与えられる存在でいたいので、僕にとっての今の代表は永遠のライバルなんだなと思っています。

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