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ある北国の、人口5,000人の町の広場で生まれた、子どもたちのまなび

あけましておめでとうございます。
年末年始にかけて、上士幌町の教育委員会の事業の一環で、中学生の学習支援を行うために、数週間滞在していました。

上士幌町では中学生を対象に12月25日(金)~28日(月)、1月8日(金)~10日(日)の7日間の日程で、生涯学習センター「わっか」において「上士幌町まなびの広場」冬期講習を開催いたします。

ぼく個人は、夏以来2回目の訪問でしたが、今回は運営にかなり深く入り込ませて頂いたこともあり、とても多くの気づきがありました。同じような状況の自治体が北海道にはたくさんあると思うので、この期間での気づきをシェアしたいと思います。

そもそも上士幌町ってどんな町?

上士幌町とはどんな町?の解像度を上げるために、少し上士幌町のデータを整理してみました。
参考:上士幌町第5期総合計画https://www.kamishihoro.jp/files/up/0001/00000935_1332488805.pdf

[人口]
人口は5,000人くらいで、小学校・中学校・高校がちょうど1校ずつあるような、北海道のよくある自治体のモデルです。ちなみに、北海道の自治体の中に高校が1校しかない自治体は84あり、全体の約47%にものぼります。今後も、北海道の多くの自治体がこのような規模になっていくことが考えられますね。

[地理・気候]
十勝の北部。気温は冷涼で、冬は-15℃を刻む日もあるが、雪は降らない。晴れの日が多く、とても過ごしやすいです。滞在中は、ほぼ毎日晴れていて、夜は流れ星が見られるような夜空が広がる最高の景色でした。

[財政]
上士幌町は、いち早く「ふるさとチョイス」などの、ふるさと納税代行サービスに注目し導入した自治体としても有名です。2019年度には約16億円程度のふるさと納税による歳入がありました。子育て・教育にもそれらの税金は活用されています。

<子育て・教育>
日本の未来を担う子どもたちの育成や教育に活用させていただきます。
【2020年度事業】認定こども園10年無料化/子育て世代の住宅助成/小中学校への教職員配置/プログラミング教育支援 等
出所:https://www.furusato-tax.jp/city/usage/01633

[産業]
農林業を基軸に、町民の賑わいの場や雇用を支える商工業、ぬかびら源泉郷などの温泉やスキー場、ナイタイ高原牧場や大雪山国立公園の豊かな自然、北海道遺産にも登録されている旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群などの資源を活かした観光業があります。また、昭和 49 年(1974 年)に第1回上士幌熱気球フェスティバルを開催して以来、「北海道バルーンフェスティバル」として開催しており、「熱気球の町」として知られるようになり、例年多くの観光客が訪れています。

[教育]
ふるさと納税による財政的な余裕もあり、様々な行政からの支援が受けられるような状態です。加えて、GIGAスクール構想に向け、十勝管内では最速に近いスピードで町内の中学生1人1台のGoogle Chrome Bookの整備が既に完了しました。また、塾が町内にないこともあり、希望者は行政負担でスタディサプリを契約可能で、自学自習も行いやすい環境が整えられ始めています。

「まなびの広場」とは、どんな事業か?

「まなびの広場」は、上士幌町の中学生の「家庭学習の習慣づけ」を主たる目的として、立ち上げられた事業です。「テクノロジーと対話の融合」というコンセプトのもと、カタリ場を北海道で運営するNPO法人いきたすの大学生が札幌から訪問し、スタディサプリを用いて学習をサポートする自習室を運営しています。毎朝1日の目標を大学生と一緒に立てて、振り返りを大学生と一緒に帰宅時に行う、そんな「教えない自習室空間」を、長期休暇限定で、町内の生涯学習センターの施設の中で開校しました。(↓実際の自習室の様子)

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この期間中には、ドローンを使ったワークショップや、数学の面白さを知るワークショップなど、様々な面白い教材に触れ、世界を広げる時間も提供したりもしています。

町に大学生がいないような町では、こうした大学生との交流やワークショップとの出会いが、中学生にとっては良い刺激になるようでした。僕自身は、このなかでのワークショップを含む、全体の企画・運営のプロマネをさせて頂いてきました。

どんな中学生が来てくれたのか?

上士幌中学校の生徒数は、141名(令和元年時点)です。その中の、約20名程度の中学生が、今回の「まなびの広場」に足を運んでくれました。

中学生は、それはもちろん様々な子がいましたが、多くの子たちは、勉強に対しては熱心でないものの、素直で、人懐っこくて、ステキな子たちでした。普段から、中学校の先生たちや保護者の皆さんが愛情をもって接して、のびのび育ってきたことが伝わるような子たちでした。

大学生という、保護者でも、先生でもない、この期間限りの絶対安全な存在の価値

まなびの広場では、大学生は、保護者でも、先生でもない、この期間限りの絶対安全な存在として、中学生とかかわりを持ちました。

言い換えれば、中学生たちがいつも求められている(例えば偏差値といったような)評価軸や、いつもの"キャラ"を全て取っ払って、一人のまっさらな人間として向き合い続けました。

自分は勉強が苦手だから、大人と勉強するとできないことを怒られるかもしれない。
自分は小さい時からこういうキャラだから、こんなこと聞いたら変になったと思われるかもしれない。

そんな他人からして見たらそれはそれは小さな、本人からして見たらすごくすごく大きな「かもしれない」を取っ払って、大学生の皆さんが7日間関わってくれました。

そもそも、事業の目的が「家庭学習の習慣化」ということは、元々中学生たちの家庭学習時間が短いということです。そのような子たちが、場所を作って、スタディサプリを与えれば、自律的に集中して勉強するようになるでしょうか?

もちろん、答えはNoです。
スタディサプリを見てもわからないけれど、とりあえず親から言われたからそこに居てぼーっとしている子もいれば、宿題のワークをやると言いながらも友達と話しこんでしまう子もいます。

だから、一緒に声をかけて、隣に居てくれる誰かが必要なんです。
便利な道具があれば、勉強するようになるほど、人は強くないです。

だけど。
「え、そんなに頑張ったの?すごいじゃん」
「今日は頑張ってたところのテスト作ってみるから一緒にやろうぜ」
「5分間一緒にバスケしたら、そのあと一緒に勉強しような」

こんな小さな声掛けをしてくれる人がいたらどうでしょう?

こんな小さな声掛けのおかげで、中学生の何人かは自分たちのペースで学びに向き合ってくれていました。自分から、「ねぇ、テスト作ってよ!!」と言ってきた子もいたくらいです。

テクノロジーだけでもダメ。勉強を教えられるプロをたくさん集めるのは資金的に難しい。だから、「テクノロジーと対話の融合」なんだと思います。
(下図は、デジタルハリウッド大学の佐藤教授のPPT資料を引用しています)

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しかし、これは、学校の先生や保護者の方々が、日常で生徒達と向き合ってくれているからこそできること、ということを忘れてはいけません。よく勘違いした学生が「どうして先生たちは、おれらみたいなコミュニケーションをしないんだ」と甚だ勘違いをした発言をしていますが、では「30人の生徒相手に、毎日やってみれば?」と言ってあげたくなります。そもそも3rd Placeと学校の時間の役割は大きく違うのです。

少し脱線しました。笑
本当は、もっと学校の先生や保護者の皆さんとこの期間中に会話出来たら、嬉しかったなぁと個人的には思っています。

学校・家庭か?普段の関係性を解き放ってくれる3rd Placeか?

客観的に見ても、中学生にとって、開けた町の施設の"広場"で、「勉強のためだけの場所」と決められていないからこそ、生まれた"まなび"があったはずです。

・自分の話をとことん聞いてくれる誰かが、自分にだっていること
・案外大学生や町の大人も、身近な存在だということ
・ドローンや数学など、意外に面白いものが世の中にはあるということ
・自分にも応援してくれる人がいて、無限の可能性があるってこと

勉強だけでなく、大学生との対話やワークショップからこんなことを学んでくれていたら嬉しいなぁと思います。

中学生の中には、参加予定じゃなかったけれど、たまたま遊びに来ていて、大学生と話すうちに、毎日楽しんで自習しながら帰るようになった子もいました。そんな子たちにこそ、特に4つ目のことを学んでくれていたら嬉しいなぁと思います。

誰にだって、同じような境遇の人生を歩いてきた先輩や、「その気持ちわかるよ」と言ってあげられる先輩がいます。絶対にいます。町の中にそういった先輩がいなかったとしても、世界中のどこかには絶対に居ます。

個人的に、このまなびの広場は、少しでもそういった子どもたちと、自分の少し先を歩く大人のサンプルとの出会いのきっかけを作れる場になればいいなぁと思っています。そして、どこに生まれ育ったとしても自分の人生に無限の可能性を信じて歩んでいってほしい。

でも、これも上述の通り、普段の学校や家庭のコミュニケーションがベースにあるから、できるのです。つまり、学校や家庭も、3rd Placeも、どちらもあるから上手くいくんだと思うんです。

「どちらか」ではなく、「どちらも」あることによって、生徒達が、いまこの瞬間を生きるうえでの可能性が開かれる瞬間の萌芽が、確かにこのまなびの広場にはありました。

辺境から世界に繋がるのは、案外簡単で、案外難しい。

少し違う視点で、振り返ってみます。

"Zoom"が一般用語化したいま、どこからでも世界に繋がるのは、もはや簡単だとおもっている方々もいるかもしれません。かく言う僕も、半年前までそうだと思っていました。

だけど、辺境から世界に繋がるのは、案外簡単で、案外難しいなぁと感じました。

「世界に繋がる」という行為は、慣れれば慣れるほど、ハードルが下がり、うまくできるようになっていきます。

YoutubeやTiktokで面白いと思った動画を探すのと同じように、
TwitterやInstagramで誰かをフォローするのと同じように、
「あの大学生とまた話したい」と思ったら、ZoomでもMeetでも繋げばいいんです。
「こんな人と話してみたい」と思ったら、調べて大人と一緒に連絡してみればいいんです。

だけど、これを「いいからやってみようぜ」と言い出すはじめの一歩。
これが一番難しい。

やった人からすると、言葉にするだけの、簡単な一歩目。
やったことがない人たちからすると、「自分たちなんかにできるんだろうか?」「やって本当に良いことがあるんだろうか?」と二の足を踏んでしまう、難しい一歩目。

ここに、自分たちのような外部から関わる人たちの価値を感じました。

風の人だけでも、土の人だけでも変わらない、子どもたちの日常のリアル

僕らのような外部から関わる人たちは、子どもたちと関わる中で、「こういうことやってみましょうよ!」と新しいアイデアを思いつき、提案することができます。これは、現地の人たちからすると"現状を変える"という点から正直迷惑になることも多いと思います。ですが、子どもたちのはじめの一歩を一緒に歩む一助にもなるはずです。

元信州大学名誉教授であり、農学者だった玉井袈裟男氏(1925〜2009)が立ち上げた「風土舎」の設立宣言を引用します。

風土という言葉があります
動くものと動かないもの
風と土
人にも風の性と土の性がある
風は遠くから理想を含んでやってくるもの
土はそこにあって生命を生み出し育むもの
君、風性の人ならば、土を求めて吹く風になれ
君、土性の人ならば風を呼びこむ土になれ
土は風の軽さを嗤い、風は土の重さを蔑む
愚かなことだ
愛し合う男と女のように、風は軽く涼やかに
土は重く暖かく
和して文化を生むものを
魂を耕せばカルチャー、土を耕せばアグリカルチャー
理想を求める風性の人、現実に根をはる土性の人、集まって文化を生もうとする
ここに「風土舎」の創立を宣言する”
(玉井袈裟男)

現地にいる人(土の人)だけでは、子どもたちの日常が見えているがゆえに、「そうはいっても実態はこうだから…」と現実志向の場づくりになりがちです。子どもたちの未来を想っているからこそ。

外部に居る人(風の人)だけでは、理想を追い求めすぎて、実態に沿っていない「そうはいっても世の中はこう変わっているから…」と机上の空論的な場づくりになりがちです。子どもたちの未来を想っているからこそ。

どちらの人たちも、子どもたちの未来を想っているんです。
だから、大人も子供も関係なく、風の人と土の人も混ざって、この町の子どもたちの学びのはじめの一歩を応援するための方法を、年がら年中話し続ける、まさに"まなびの広場"が、町に常にあったらどうなるんだろう?

はじめの一歩、いや半歩に徹底的に寄り添う。これはきっと土の人。
「こんなこと今までやってたんだ!じゃあこんなこと一緒にやらない?」
「最近頑張ってたから、ちょっと一緒に休もうか!」

はじめの一歩、いや大股一歩を一緒に寄り添う。これはきっと風の人。
「めっちゃ面白い人連れてきた!良いから話してみようぜ!」
「●●君と一緒にめっちゃやりたいことあって!ついてきてよ!」

そして、子どもたちからも同じような言葉が発せられるように。
まさに共に学び、共に創る、そんな場。

そんな場で育った中学生は、どんな大人になっていくんだろう。
僕の中でも未来に向けた想いが広がっていきました。

頭を使い、手を動かし、足を運ぶことでしか、子どもたちの日常は変わらない。

人生に善し悪しのルールなんてありません。
中学生の子たちは、普通に、そのまま生きていても、きっと幸せな人生があります。
ただ、普通に、そのまま生きていたら知らなかった未来も、きっとあると思っています。

そんなことみんな気づいているはずです。
だから、あえて言います。
"構想"や"アイデア"だけで子どもたちの日常は決して変わりません。

風の人も、土の人も、それぞれ得意分野を活かしあいながら、混ざり合いながら、頭と手と足を動かすことでしか、子どもたちの日常のリアルは変わっていかないのです。

この冬、子どもたちに散々「やってみれば?」と言いました。
自分も「まずは、やってみる」を突き進みたいと思います。

今回改めて大切さに気付いた「世界に繋がる、地元ならではの学び場」を、北海道中、そして全国に創っていきたいです。
力を貸してくれる人を、本気で募集しています。
どんな形でも、協力してくれる方は、ご連絡ください。
https://twitter.com/yshimamoto0326

気づけば僕は、いつも現場の生徒達から学ばせてもらっています。
本当に感謝。今回の機会をくださった皆さんにも感謝。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。



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