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令和5年のフットボール

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2023年3月の記事一覧

メモ:唐木順三「ドストエフスキーの生涯とその思想」

「今までのロシアに對する普通の見方は、ロシアにはルネサンスもなく、また宗教的改革もなかつた、自我の愛といふものがなく、従つてまた合理的な精神といふものをもたなかつた、西歐から見ればいはば後進國である、といふやうな類のものだつたと思ふのです。」『唐木順三全集』第8巻

日本ももちろん西欧とは異なる経験を経ている訳だけど、地政学的には日本の近代化は避けられなかったとは思いますが(丸山眞男「開国」も読ん

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柴田南雄『わが音楽 わが人生』岩波書店、1995年

柴田南雄『わが音楽 わが人生』岩波書店、1995年

柴田南雄の著作に触れたのは再発された『声のイメージ』だったけど、大阪万博に関する調査で集中的に読んだ。調査では、万博における現代音楽と邦楽器という、坂本龍一が武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」に感じた違和感と似たものを感じていたところ、ある種の解答を与えてくれたのが柴田の著作だった。
また、ウィキペディアによると69年に芸大を辞職しているとのことで、学生運動をどのように感じていたのかについても興

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大江健三郎

大江健三郎は『「雨の木」を聴く女たち』が最初に購入した本だったが、コンテクストが分からなかった。それで『死者の奢り・飼育』を読んでみたが、これもピンと来なかった。面白いと思ったのは『洪水はわが魂に及び』で、安部公房『方舟さくら丸』にも通ずる閉塞感とその回復の模索とでもいえるテーマだったのかと思う。
大江は平井和正の影響があったともいわれているが、饒舌で改行の少ない文章は筒井康隆に親しんでいたので面

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『限界芸術論と現代文化研究』 草稿

『限界芸術論と現代文化研究』 草稿

メモ
『限界芸術論と現代文化研究』(ハーベスト社)第2章 大衆文化論と文化研究の問題圏 の草稿

 まず言及するのが、鶴見俊輔もインタビューで語り、60年代に編さんした『大衆の時代』にも論考が収録されているアドルノと現代の文化研究の問題圏についてである。
 鶴見は2009年に行われたインタビューにおいて、「思想の科学」の活動がフランクフルト学派と相同性があると述べているが、それでは大衆文化の考え方

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今日の読書メモ:坪内祐三『『別れる理由』が気になって』講談社、2005年

今日の読書メモ:坪内祐三『『別れる理由』が気になって』講談社、2005年

坪内祐三の文庫本紹介が面白かったので購入していた。読み始めたところだが、最初から江藤淳の『成熟と喪失』における小島信夫の解釈が行き過ぎているとの文章は面白いと思った。
この本でも『一九七二』のような、1968年10月の出来事を時代の画期として記述しているところは、そんなに日本の出来事の意味が連関しているとは思えないのだけど、「学究的というか、マニアック的な読み方」と反省的に書かれる、小島信夫の「別

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限界芸術論と鶴見俊輔

...鶴見の議論において「民衆」や「大衆」は、初期の研究における「ひとびと」という概念から連続している。「ひとびとの哲学叢書」と銘打っている『夢とおもかげ』は「思想の科学研究会」における大衆文化研究の最初の成果であると考えられるが、この「ひとびとの哲学」とは、鶴見和子によれば「思想の科学」に「はじめて雑誌にあらわれるのが、1946年12月号」であり、それは「日本の民衆思想にどうやって近付くか」とい

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