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舞台 「萎れた花の弁明」 観劇レビュー 2023/12/16


写真引用元:(公財)三鷹市スポーツと文化財団 演劇担当 公式X(旧Twitter)


写真引用元:(公財)三鷹市スポーツと文化財団 演劇担当 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「萎れた花の弁明」
劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
劇団・企画:城山羊の会
作・演出:山内ケンジ
出演:岩谷健司、岡部ひろき、J.K.Goodman、岡部たかし、石黒麻衣、朝比奈竜生、村上穂乃佳、原田麻由
公演期間:12/8〜12/17(東京)
上演時間:約2時間(途中休憩なし)
作品キーワード:会話劇、風俗、性欲、コロナ禍
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


岸田國士戯曲賞受賞経験もある山内ケンジさんが主宰する演劇ユニット「城山羊の会」の新作公演を観劇。
「城山羊の会」の公演は、2022年11月に上演された『温暖化の秋 -hot autumn-』を観劇したことがあり、その作品の主演はNHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインを務める趣里さんだった上、第74回読売文学賞・戯曲シナリオ賞を受賞している。
今作は、岡部たかしさん、ひろきさんといった親子など、舞台俳優を中心とした俳優陣で上演された。

物語は、今作が上演された劇場である「三鷹市芸術文化センター」の建物の前のバス停付近で繰り広げられる会話劇となっている。
劇場のバス停付近にいた木原(岩谷健司)は、どうも性欲が溜まっている様子である。
彼が遭遇した劇場の支配人である森元隆樹(森元隆樹)にも、新米の劇場の職員である佐藤オサム(岡部ひろき)にも性欲について話題を持ちかける程だった。
木原は、いつも通っているラブホに行き、その日は新人の望月(石黒麻衣)が担当であった。
木原はいつものように性欲を発散させるべく指圧を求めるが、望月は先日から店が健全店になったために、そのような行為は出来ないと頑なに断り続け...というもの。

上記の通り、今作はおじさんの溜まった性欲に関する会話劇である。
まだ『温暖化の秋 -hot autumn-』しか「城山羊の会」を観劇したことがない私だが、山内さんの創作する作品は、謙遜しがちで周囲に同調する日本人の特性をかなり忠実且つリアルに会話劇に落とし込むイメージがあった。
そして今作もそのイメージから外れることはなかったのだが、前作と比較すると若干コントによっているように感じられた一方で、どこか間延びしているシーンも多々見られた。
コメディとして観劇するにはもっとテンポが欲しかったという印象だったし、『温暖化の秋 -hot autumn-』のような硬派な会話劇よりはグダっているシーンが多い感じがあって、私は中途半端に感じてしまって前作の方が圧倒的に好きだった。

しかし、そう感じてしまうこと自体もこの作品の演出なのかなと思う。
序盤に劇場の支配人である森元さんが、彼がステージから捌けた後に役者が登場したら生真面目な芝居が始まり、そうでなければふざけたものがはじまると話していて、結果後者だった。
そのため、そもそもこの作品は生真面目で観客の評判を気にした作品として創ってはおらず、コロナ禍もあってずっと我慢してきたふざけたい感情を、ここぞとばかりに放出した作品ですよと宣言しているように感じた。
その放出が、おじさんの性欲の発散ともリンクしていて、やりたい放題の作品として仕上がっていたのかなと思った。
まさに「萎れた花の弁明」だったと感じた。

下ネタ要素もかなり多い作品なので、観客によってはドン引きしてしまう内容だと思う。
ただ、大爆笑できるシーンも多々あって、特にラストは個人的にも好きだったので、下ネタを気にしないコント好きの方にはおすすめしたい演劇作品だった。

写真引用元:ステージナタリー 城山羊の会「萎れた花の弁明」より。




【鑑賞動機】

前作の『温暖化の秋 -hot autumn-』がとても面白い会話劇だったので、山内ケンジさんが創作する演劇作品は積極的に観たいと思ったから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ステージ上で「三鷹芸術文化センター」の支配人である森元隆樹(森元隆樹)が挨拶をする。コロナ禍以降、特に娯楽性の高い演劇は控えるようにしていたと。それは、生真面目な芝居の方が観客の評判が良かったり、政府も文系よりも理系の方に教育的に注力していたりと、世間的にも生真面目なものを評価する傾向があるからだと。
今回の上演は、支配人がステージから捌けた後に役者が登場すると生真面目な物語に、支配人が捌ける前に役者が登場するとふざけた物語になると支配人は言う。そうしているうちに、木原(岩谷健司)がステージ上に登場する。木原は、支配人に対して性欲のことについて話題を振る。木原は最近性欲が溜まっていて、この国は性欲大国なのではないかと言う。支配人はそれを否定する。
そこへ、「三鷹芸術文化センター」の新米職員の佐藤オサム(岡部ひろき)がやってくる。オサムは、劇場に中国人からクレームが入ったと言う。支配人は劇場へ戻ってクレーム対応する。オサムと木原は初対面なので名刺を交換して自己紹介する。木原はオサムの口の聞き方に違和感を覚えることがあるものの、徐々に打ち解けていく。木原はオサムに性欲のことについて話を振る。この国は性欲大国なのではないかと言うが、オサムはピンと来ていない。オサムは性欲と聞いて、大学時代の先輩を思い出して話をする。風俗ライターをやっている女性だと。
そんな中、支配人がクレーム対応をしていた中国人の王[ワン](岡部たかし)と陳[チン](J.K.Goodman)がやってくる。どうやら中国人の彼らは汚染水排出に対する抗議を間違えて「三鷹芸術文化センター」に入れてしまったらしく、そのお詫びに来ていた。彼らは何やら中国語で会話をし、その会話の途中に「三鷹」や「靖国神社」などのキーワードが出てきたが、内容はよく分からず、そのまま劇場の奥へ入っていってしまった。オサムもその後に続いて対応した。

「三鷹芸術文化センター」の壁面が真っ二つに開かれて、ラブホの一室が登場する。そこのベッドに木原はいる。木原は電話をかけて店員に来てもらうように言い、全裸になって白いローブに着替える。木原は、机の引き出しに閉まってあった聖書を取り出し、パラパラと眺める。
部屋に望月・カオリ(石黒麻衣)がやってくる。望月は、どうやら昨日からこのラブホで勤務を始めたばかりで、昨日のお客さんには散々なことを言われたと言う。そして、先日からこの店は健全店になったので、あくまで出来ることはマッサージだけであると言う。
望月が木原のマッサージを始めると、木原は布団の中で大きく勃起をし始める。望月は驚く。木原は、気持ちよくなってしまったので射精がしたく、指圧をして欲しいと懇願する。しかし望月は、健全店になってしまったので、そのようなことは出来ないと頑なに拒否する。木原は、指圧すれば3倍の金額を支払うと伝えるが、それでも望月は射精させることを拒絶する。
どうにもならなくなった望月は、神に祈りを捧げる。すると、イエス(朝比奈竜生)が現れる。望月はイエスの前で、健全店なのに指圧などを求めてくる客がいると訴える。イエスは、何を迷っているのだ、望月はどうしたいのだ、世間には風俗店なんて沢山あると言っている。金が欲しいならやっても良いのではないかと。望月はイエスに抱きつく。
その光景を見ていた木原は、望月に話しかけて今誰と話してたんだと聞く。すると、望月は指圧をしても良いと木原の要求を受け入れることを伝える。しかし、木原の陰茎はもう小さくなってしまっていた。望月はその様子を見て、射精するはずだった精液はどこにいってしまったのかと木原に問う。木原は、陰茎がしぼんでしまったからまだ体内にあるという。

そんな中、外から佐藤オサムがやってくる。オサムは望月を見て、久しぶりと挨拶する。望月はオサムの父の離婚相手であったが、実の母ではない。オサムは、中国人の対応をしている間に木原が望月と出会っていて、二人が知り合いだったことに驚く。木原は、実は望月とは先ほど初めて会ったことを告げる。オサムはよく理解していなかったが、それを受け入れる。オサムは木原が聖書を手にしていることについて言及する。木原は自分は牧師なのだと嘘をつく。
オサムの携帯電話に電話がかかってくる。相手は父親のようである。今父親は吉祥寺にいるらしい。しかし、電話を切るとオサムの目の前に父の佐藤シゲオ(岡部たかし)が現れる。オサムは、なんで吉祥寺にいると嘘をついたのかと追及する。シゲオは、望月と木原を見て、この二人はどういう関係なのだと追及する。木原は守秘義務があると誤魔化す。オサムも、深く聞き込むのは良くないと言う。
望月は、子供の保育園の迎えがあるからと、この場を立ち去ろうとする。その時望月は気絶してしまう。救急隊員がやってきて、彼女を運ぶ。救急隊員の一人はイエスであり、望月はイエスに縋り付く。そのまま望月は運び出される。シゲオもその場を去る。

木原とオサムが残った所に、ウエダスミコ(村上穂乃佳)がやってくる。ウエダは、オサムの大学時代の先輩で風俗ライターをやっていた女性である。ウエダはオサムに久しぶりと挨拶し、近況を語る。
そこへ、支配人の森元(J.K.Goodman)がやってくる。木原は支配人が先ほどと違う顔をしていることに驚き、マスクを外したからだと言う。
シゲオが戻ってくる。ウエダはシゲオの元に駆け寄って、お待たせと言って二人で会話を始める。オサムはその光景を見て愕然とし、どういうことなのかとシゲオを問いただす。シゲオは、昔オサムが大学時代のサークルでウエダを紹介してくれて、そこから付き合うことになったのだと言う。ウエダは、別に誰かと付き合っている訳でもなかったからOKだったと言って、今は既にお腹に赤ちゃんもいると言う。オサムはシゲオの言動に呆れてしまってベンチでずっとむしゃくしゃしている。シゲオとウエダがここにやってきたのは、二人がここで待ち合わせをしていたからだった。
そこへ、アヤノ(原田麻由)がやってくる。アヤノはオサムの実の母であり、オサムの最近の仕事状況などを聞こうとするが元気がないようである。そして、もう一つのベンチにはシゲオとウエダが座っているのを見て、シゲオはまた新しい女性、しかもオサムの大学時代のサークルの先輩に手を出したことに気づき、呆れる。アヤノは、シゲオが年をとっても色々な女性と再婚して子供を作れて逆に尊敬してしまうと皮肉を言う。
支配人の森元は、オサムに劇場に中国人がいるから少しだけ対応して欲しいと言う。オサムは体調が悪いから帰りたいと言う。支配人は、今日は早めに上がっても良いからその前に中国人の対応をして欲しいと言う。アヤノは、仕事で忙しくすれば気が紛れるかもと元気付ける。オサムは劇場へ入っていく。シゲオもウエダもその場を去る。

アヤノと木原の二人きりになる。アヤノは、あなた本当に牧師ですか?と聞く。はいと答えた木原は、この後ミサがあるからこれで失礼しますと二人は別れる。アヤノはその場を去る。木原は電話をする。それは、例のラブホへの連絡だったのだが、その電話に出たのはアヤノですぐにステージに戻ってくる。
アヤノは嬉しそうに、やっぱりハラキさんだったのですねと木原のことを言って親しくする。どうやら、アヤノはラブホの店員であり、いつも木原がハラキという名前でお世話になっていたのであった。木原は、この前新しく入った望月という女性に相手してもらったが、ここは健全店になったから指圧など出来ないと言われたとアヤノに告げる。アヤノは、健全店なんて建前なのにあの新人は...と望月のことを言う。
そこへ望月がやってくる。アヤノは木原が、あなたをもう一度指名してラブホに行きたいと言っているのだから行ってちょうだいと言う。望月は、子供が...というがアヤノは養育費を稼げるチャンスだと言う。新人なのに早速指名してもらえる客を作れたのは凄いと。
そこへ中国人の陳が酒を持ってやってくる。これは中国の酒だから乾杯して飲もうと言う。陳とアヤノと木原と望月は酒を貰って飲み始める。

すると、再び「三鷹芸術文化センター」の壁面が真っ二つに開かれて、シゲオとウエダの二人が寝室で横になっているシーンが展開される。その光景を、陳とアヤノと木原と望月は酒を飲みながら眺めている。
ウエダは妊娠中で、この間までつわりもあったにも関わらず、シゲオがしばらくやってないからやろうと懇願してくることに頭を悩ませていた。アヤノは外でその光景を見ながら呆れた口調で呟いていた。ウエダは、仕方ないから指圧だけすると言ってくれ、シゲオは無邪気に喜ぶ。
しかし、シゲオの陰茎はなかなか立たなかった。玄関のチャイムが鳴る。ウエダはAmazonが来たのだと言って、玄関まで取りにいく。その間に、シゲオの陰茎が立ち始める。
ウエダが戻ってくると、勃起しているのを見て、続きをやろうと掛け布団を退ける。すると、シゲオの陰茎は、オサムの顔になっていた。ウエダは驚く。どうやらそれは、イエスがずっと何か唱えていたかららしく、これはシゲオの罰でこうなってしまったと呟く。
ウエダはオサムの頭を撫でることで、シゲオの陰茎を愛撫することになる。オサムは気持ちよさそうにする。
ここで上演は終了する。

本当にしょうもない話だなと思いながら観劇していたが、まず公共施設でここまでの下ネタを連発した物語を見せてくる「三鷹芸術文化センター」の攻め方が凄いなと感じた。何度も、ここは公共の劇場だよなと目や耳を疑うシーンがいくつもあって、その意外性が凄くよかった。
ただ、個人的には攻めるならもっと攻めて欲しかったかなと思った。もっと大爆笑を狙っても良いシーンは沢山あって、笑いが起きないシーンは今作の場合だと、ちょっと蛇足というか間延びしているように感じてしまって、そこで集中力も削がれてしまったので、例えばイエスがぶつぶつ言うシーンとか、望月が微かな声で呟くシーンとか、ちょっとそういう静かなシーンも沢山あって、だからこそ笑いが途中途中冷めてしまって、感情的にアクセルがそこまで入り切らなかったのが自分は勿体なく感じた。
私はコロナ禍に入って、性欲を我慢しているみたいな感覚にはなっていないので、あまりこの脚本のテーマに共感は出来なかったが、風俗に行き着けていた親父とかはきっとそんな思いだったのかなと思う。コロナで風俗行けなくて、性欲を発散したい欲求で爆発しそうみたいな。
それを、コロナ禍で思うように上演出来なかった演劇業界とも掛け合わせていて、なかなかロックな演劇スタイルだと感じた。

写真引用元:ステージナタリー 城山羊の会「萎れた花の弁明」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

前作の『温暖化の秋 -hot autumn-』とは異なり、非常に下ネタ要素が多くて、会話劇として完成されているというよりは、人間関係がドロドロしていて人間の業のようなものを感じた。
舞台音響はカラスの鳴き声とチャイムくらいしかなかったので、舞台装置、舞台照明、その他演出の順番で見ていく。

まずは、舞台装置から。
劇場に入って驚かされるのは、観客たちが劇場に入るまでに通ってきた「三鷹市芸術文化センター」の入り口がステージ上に綺麗に再現されていること。ステージを下手から上手まで一面にパネルで「三鷹市芸術文化センター」の壁面を再現し、上手側にはしっかりと「三鷹市芸術文化センター」の文字が据え付けられている。下手側と上手側に一つずつ3人ほど座れるベンチが置かれていて、下手側にはバスの停留所がある。綺麗に劇場がミニチュアのように再現されていて面白かった。
さらに驚くべきは、「三鷹市芸術文化センター」の壁面が真っ二つに分かれて左右に移動出来るという点。そして、その奥には、ラブホもしくはシゲオとウエダの家の寝室が仕込まれている所である。ベッドが一台置かれていて、そこで木原やシゲオが寝そべって掛け布団をかけることで勃起してしまう。その横には服を掛けるスペースがあったり、奥側には扉があって空間全体は洋風である。ベッドの手前には聖書がしまってあった小さな木造の引き出しが置かれている。
そして、舞台装置ではないが目を引いたのが、なんと言っても木原の立った陰茎の巨大さである。おそらく50センチ以上あったのではなかろうかというくらいの長い陰茎の作り物が強烈だった。おそらく、空気を入れて膨らませられるようになっていたのではないかと思う。文字通り、萎れたり膨らんだりする陰茎で面白かった。大人がこんなことを劇にするって、なかなか演出的に攻めていて面白かった。

次に舞台照明について。
舞台照明も、大きく変化があったのは1箇所だけで、日が暮れたシーンの舞台照明である。物語終盤で、木原とアヤノが実はラブホで顔馴染みで親しくしていると望月が現れるシーンで、徐々に照明が夕方になっていくのが物語の終盤を感じさせられた。そろそろ終わるんだなと思った。
格好良かったのは、「三鷹市芸術文化センター」の装飾が、夕暮れになって影を落とす感じが好きだった。

最後にその他演出について。
なんと言っても一番驚かされたのは、最後のシーンでシゲオが勃起したと思ったら、布団の中からオサムの顔が出てきたというシーン。結果的にシゲオでなくオサムがウエダに愛撫される形になって、オサムはめちゃくちゃ良かったなと思うが、イエスもこんな罰をシゲオに与えるなんて上手いなと感じた。たしかに、陰茎の形からしてそれはまるで人の体の首から上に例えられるし、発想として好きだった。
序盤に登場した二人の中国人も好きだった。実際に劇場に中国人から間違いのクレームがあったのだろうか、何をベースに創作されたシナリオなのか気になった。中国語を話しながら、時々「三鷹」とか「靖国神社」とか日本語が登場するのが個人的にツボだった。
ラブホのシーンからシームレスに劇場の前のシーンに切り替わるのも、空間を無視していて良かった。これは演劇ならではの手法だなと思う。実際には空間が地続きじゃないはずだから、ラブホで木原と望月が一緒にいたところを、劇場から出てきたオサムが目撃出来るはずがないのだが、そこを違和感なく上演出来ちゃうのが演劇の凄みだよなと思った。また、ラストのシーンでシゲオとウエダの二人でイチャイチャするシーンを、他の4人が覗き見するという構造も、演劇だから成立し得るシチュエーションで面白かった。シーンの途中途中で、アヤノや陳がツッコミを入れていて面白かった。なんとなく『テラスハウス』を見ている番組の出演者のような立ち位置に感じた。
細かい描写だが、陳が酒をみんなの分持ってきて、乾杯しようとするが誰もコップを乾杯してくれずに飲み始めてしまうあたりが、日本人と中国人の違いだなとも思った。日本人はコップをリアルに交わさない。欧米の人は出会うとハグするが、日本人はお辞儀するんみたいに、日本人の控えめな国民性が出ていた。
あとはやっぱり前説で、森元さん本人が本人役をやって上演がスタートするあたりが好きだった。あの前説からのイントロからして、生真面目な物語にはなるまいと思う。非常にふざけた作品に仕上がっていて、性欲を発散させるかの如く、演劇人たちが我慢してきた悪ふざけが炸裂していた。

写真引用元:ステージナタリー 城山羊の会「萎れた花の弁明」より。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

前作の「城山羊の会」の『温暖化の秋 -hot autumn-』と比較すると、テレビなど演劇領域以外でも活躍している役者は少なかったが、それでも味のある方が多く、特に私は初めて拝見する俳優が多かったので、色々発見もあって楽しませて頂いた。
印象に残った俳優についてここでは記載する。

まずは、木原役を演じた岩谷健司さん。岩谷さんの演技は、「城山羊の会」の前作の『温暖化の秋 -hot autumn-』と、2023年3月に上演されたナイロン100℃の『Don't freak out』で演技を拝見している。
言い方は非常に良くないのだが、いかにも性欲が溜まってしまった中年のオヤジという感じが凄く味があって良かった。こういう感じのオッサンたちが風俗とかに性欲を発散しに通っているのだろうなと思った。
基本的に他の登場人物は、ある程度肩書きとか家族関係とか分かるのだが、この木原という人物だけ何をしている人物なのか分からなかった。他の登場人物は牧師だと勘違いしているが違うので。序盤で、オサムと名刺交換していた時に何か言っていたか忘れてしまったが、凄く身元不詳の男に感じた。
けれど、スーツを着て金を持っていない男性には感じられないので、何かしらの肩書きは持っていそうだなとは思った。仕事を真面目にしているかは知らないが、そして家族がいるかも分からないが、凄く正体不明のオッサンで、そこが非常に良い塩梅で気味悪く感じられて良かった。
でも性欲を発散できていないと考えると、妻はいないのだろうか。それか妻はもう年取ってしまってそういうことを出来ない年頃になってしまったのだろうか。ちょっとそこに、年をとった男性の寂しさを垣間見られた。

次に、佐藤オサム役を演じた岡部ひろきさん。岡部さんは、ハイバイ『ワレワレのモロモロ2022』(2022年7月)、劇団普通『風景』(2023年6月)で演技を拝見している。
今まではどちらかというとまだ大人になっていない子供役というイメージが強かった岡部ひろきさんだが、今作では劇場の新米職員という肩書きで大人を演じていたことが新鮮だった。大学時代の先輩だったウエダにも恋心を募らせていたが、それを言葉にしてこなくて父親に取られてしまって悔しい思いをする感じが、とてもピュアな印象を受け、岡部ひろきさんのキャラクター的にもしっくりきてはまり役だった。
ラスト、シゲオの陰茎としてオサムが登場したのはびっくりしたが、大好きだったウエダに頭を撫でられる姿が大爆笑ものだった。あのウエダに撫でられた時の表情が最高だった。そういうことに慣れていない童貞っぽさを感じさせられたし、体をくねらせるあたりも良かった。稽古風景とかどんな感じで進行しながらやってたんだろうと考えると、色々と想像してしまって笑ってしまう。
今後のご活躍が楽しみな俳優である。

佐藤オサムの父親である佐藤シゲオ役を演じていたのは、岡部ひろきさんの実父である岡部たかしさん。岡部たかしさんの舞台での演技拝見は、『温暖化の秋 -hot autumn-』のみだが、最近ではテレビドラマ『ハヤブサ消防団』に出演されるなど多方面で活躍されている。
本当にシゲオのキャラクターとしてのクズっぷりが凄すぎてびっくりしてしまうほどである。アヤノと結婚してオサムを産み、その後離婚して望月と再婚して子供を産み、また離婚をしてウエダと付き合って子供を身篭らせるという野良犬、野良猫のような話みたいである。実際にそんな男性っているのだろうか?(そこまでの男性はなかなかいないと思うが)
特に演技として素晴らしかったのは、ラストシーンでウエダにセックスしてと甘えるシゲオ。あのクズっぷりが凄く好きだった。何回父親やっているんだよとツッコミたくなるくらい、妊娠に関して知識もないし、自分の本能だけで女性に甘えてくる、良い大人が完全な子供であるあたりが凄く好きだった。それを完璧に演じられる岡部たかしさんの演技が素晴らしい。
あとは、『ワレワレのモロモロ2022』で岡部ひろきさんが、自身の役者を目指すことになった実話を物語にして上演していたくだりがあったのだが、そのストーリーに登場する岡部ひろきさんの父親が物凄くダメ男で、しばらく実家に帰ってこなくて不倫していたみたいな話だったのだが、それって岡部たかしさん自身がそういう男性だったという理解で良いのだろうか。となると、岡部たかしさんとこの佐藤シゲオというキャラクターも少し重なるところがあるということだろうか...。

オサムの大学時代の先輩のウエダスミコ役を演じた村上穂乃佳さんも良かった。
村上さんの芝居も初めて拝見したが、凄く清楚で上品な女性で、且つそういった役柄を演じられていてハマり役だった。ラストの佐藤シゲオとの寝室でのシーンは、なんでこんな清楚な女性がこんなクズなおじさんの奥さんになるんだと、私自身も腹立たしかった。このあと、シゲオが再び不倫して離婚される運命があると考えられると非常に可哀想だなと思ってしまう。

あとは、望月・カオリ役を演じた劇団普通の主宰の石黒麻衣さんが印象的だった。まず、石黒さんも役者をやるのだと意外に思った点と、キャラクターとしてしょうがないのだが、声がちっちゃいので、かなりの長尺のシーンで耳をすましながら観劇するのは、私個人的には間延びしているように感じてしまった。
イエス役を演じた朝比奈竜生さんもそうで、キャラクター的に囁くような役柄なのだが、割と長いシーンでこの望月とイエスの会話が続くので、個人的にはこのシーンはもっと尺を縮めて作品全体としてテンポよく進めて欲しい節はあった。

写真引用元:ステージナタリー 城山羊の会「萎れた花の弁明」より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今年、2023年に三鷹市芸術文化センター星のホールで観劇した作品は全部で4作品だったが、「劇団アンパサンド」の『地上の骨』といい、「城山羊の会」の『萎れた花の弁明』といい、公共劇場であるにも関わらず、非常にぶっ飛んだ芝居が一番多かったように思えた劇場だった。そんなことを許容してくれる、公務員の森元隆樹さんの懐の大きさを痛感させられた。
今作の開演序盤で森元さんのアナウンスに、コロナ禍以降娯楽性の強い作品は控えていたと言っていて、たしかに昨年星のホールで観劇した作品は、コメディだったものの知性を感じさせる内容が多かったように思えた。
しかし、『地上の骨』もそうだったが、今作も含めてなかなか公共劇場ではやりづらいような攻めた内容を演劇作品として上演していてびっくりさせられた。そして森元さんの前説は、直接的ではないけれどそんなぶっ飛んだ内容を上演しますので、お許しくださいみたいなニュアンスにも聞こえた。そして、それは今作のテーマそのものだったように思える。
ここでは、「コロナ禍」をキーワードに今作のメッセージ性を考察していこうと思う。

2023年は、2020年から昨年までと比較して、コロナ禍は終わった訳ではないけれど、だいぶコロナ以前の暮らしに戻りつつある一年だった。民間IT企業の多くも在宅勤務からオフィスに出社して勤務する形態に戻りつつあるし、祭りやイベントといった大人数が集まるイベントも今年から再開したものも多いと思う(隅田川花火大会など)。
それ故に、コロナ禍で自粛して肩身の狭い思いをしてきた人々がその鬱憤を晴らそうとする傾向も確かにあると思う。劇中で登場する、歌舞伎町の近くの公園で立っている人が増えたという描写があるが、あれはまさに伏線で、コロナ禍によって人々が抱えたストレスを発散させようとし始めていることのメタファーとも捉えられる。

それでいうと、木原がラブホで指圧を求めてきたり、シゲオが再び若い女性に手を出して妊娠させてしまうことも、自分の我欲を我慢出来ずに発散させたい意志の一つの現れでもある。
男はしょうもない生き物である。いくつになっても、自らの性欲ややりたいことをやれないと気が済まない。我慢は出来ない。それに加えて、社会的に我慢してきた期間が長いので、それを発散させたい気持ちはより一層強いのである。
これは、年齢を重ねた男性ほど顕著なのだろうか。コロナ禍によって我慢してきたことは沢山あって、コロナ禍に入った当初はそれを発散させたい(別に性欲ではなく)意志はあったものの、時間が経つにつれて発散させなくてもなんとかなるかと思うことも多々あったから、結果的にコロナ禍が落ち着き始めてから何かを発散させようと爆発することが私はあまりなかった。私と同年代の人々と話をしても、特に発散させたいという気持ちはなさそうに思える。それは、家庭を持っていたり定職についていたりと、安定した生活を送れているからかもしれないが。

2022年11月に上演された「城山羊の会」の『温暖化の秋 -hot autumn-』では、まだ時期的にマスク着用する人々も多くて、それによって周囲の人々がみんなマスクの有無に敏感で、声量とかそういうことに対しても他者に気を遣う様子を会話劇として緻密に描いていて素晴らしかった。もちろん、会話劇のクオリティとして素晴らしいというのもあるが、そんな作品を上演したタイミングも的確で、世間がコロナ禍があまりにも長かったことによって、マスクなしで大声で騒ぐことに慣れていなくて、そういった心理描写を上手く描いている点が素晴らしく、これぞ演劇という今世間的に流れている時間軸に敏感な芸術だからこそなし得る演出だったように思えた点が、前作の魅力の一つでもあった。
今作も、前作ほど秀逸ではないように感じたがやはりそうで、一年前よりは対面で人と話すことに多くの人々が慣れてきた。しかし、コロナ禍があまりにも長かったので、それによって溜めてきたストレスというのは確実にあって、それをどう発散させるかというストーリーで、現実世界と「城山羊の会」の作品は同じ時間軸を歩みながら作風を変化させていくのが凄く素晴らしかった。

それを踏まえると、「城山羊の会」の来年の新作公演がどんな感じで上演されるのかが楽しみである。どうやら「城山羊の会」の次回公演は2024年12月に新作公演を予定していると告知があったが、まだどこの劇場で、誰をキャスティングして上演するかは未定である。
でも、『温暖化の秋 -hot autumn-』(2022年11月)、『萎れた花の弁明』(2023年12月)の流れでいくと、2024年年末の新作公演も2024年のコロナ禍を経た世間の情勢を反映した作品にはなりそうである。
そう考えると「城山羊の会」の次回公演も今から楽しみになってきている私がいる。


↓城山羊の会過去作品


↓岩谷健司さん過去出演作品


↓岡部ひろきさん過去出演作品


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