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舞台 「明後日のガラパゴス」 観劇レビュー 2023/10/08


写真引用元:ホチキス 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「明後日のガラパゴス」
劇場:新国立劇場 小劇場
劇団・企画:劇団ホチキス
脚本・演出:米山和仁
出演:前川優希、赤澤燈、齋藤陽介、小熊樹、片山陽加、乾りさこ、内村理沙、山本洋輔、加藤良輔、小玉久仁子、校條挙太朗、井俣太良、山﨑雅志(声の出演)
期間:10/4〜10/9(東京)
上演時間:約2時間(途中休憩なし)
作品キーワード:テレビ制作会社、劇中劇、家族、ヒューマンドラマ
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆


米山和仁さんが脚本・演出を務める「劇団ホチキス」の公演を初観劇。
「劇団ホチキス」は団体公式HPによれば、1997年に米山さんが愛知県立芸術大学在学中に旗揚げし、2003年から活動拠点を東京へ移転。
その後、米山さんはそれまで11年間勤めていたパナソニックを退職して、2015年に劇団を法人化し、「株式会社劇団ホチキス」として活動を続けている。
今回の上演は、そんな「劇団ホチキス」の第47回公演であり団体として初めての新国立劇場での上演となる。
最近「劇団ホチキス」の名前は至るところで耳にし、米山さん自身も劇団以外のプロデュース公演でも2.5次元舞台などを中心に演出して活躍されているので観劇することにした。

物語は、テレビ制作会社の内側とその制作会社が放送している国民的人気アニメ「アサッテさん」を描いた劇中劇となっている。
テレビアニメ「アサッテさん」を放送するテレビ制作現場では旧態依然とした組織体制が敷かれていおり、若手の新米脚本家の磯崎新(前川優希)はベテランで大御所の脚本家の箱田真澄(井俣太良)に叱られるなど年功序列が強く、周囲の人間はイエスマンばかりで若手脚本家も次々と辞めている始末だった。
テレビアニメ「アサッテさん」の視聴率は右肩下がりで視聴者も徐々にテレビから離れていっている最中、先日Twitterを買収して「it」というサービスに名前を変えたアメリカのIT企業の社長が日本にやってくるという。
そして、そのIT企業の社長は「アサッテさん」に目をつけ始めるが...というもの。

ストーリーは非常に分かりやすくて且つ最近の世の中のトレンドも上手く組み込んでの脚本だったので、物凄く一般ウケはするだろうなと思った。
テレビ制作現場の旧時代的な意思決定や忖度が、作品自体をつまらなくしているというのはこの劇中からもよく分かり、だからこそ新米脚本家の若い才能が奮闘する姿が魅力的に感じられて良かったし、その部分が作品をより面白くしていたように感じた。
IT技術の発達による日常の変化をアニメの世界に盛り込むことによって、そこには私たちの日常生活に根差した「あるある」と、それがアニメの世界に登場してしまうという滑稽さによって面白さが増していると感じた。
内容が分かりやす過ぎるので私個人的にはもう一捻り欲しかったと感したが、「劇団ホチキス」の作風の一つだと思うのでこれはこれで良いのかなと思った。

あとは出演者の個性を上手く活かした演出が多くて、出演者のことをよりよく知っている観客が作品を楽しみやすくなっているという作品作りも見受けられた。
これは2.5次元舞台を中心としたエンタメ演劇には共通する面白さかもしれない。
例えば、宮城一郎役を演じる加藤良輔さんのナルシストぶりが非常にコミカルで観客にウケていたり、前川優希さん演じる磯崎新のポジティブな主人公っぽさが溢れる姿も観客に好意的にウケていたように思えた。
だからかもしれないが、あまり俳優のことも団体のこともよく知らない私は、若干アウェイを喰らった部分もあって上手く楽しめなかった部分もあった。

良くも悪くも、最新トレンドまで含めた分かりやすく誰にでも共感の出来る脚本の設定と、俳優推しだったり出演者の個性を熟知していればより楽しめるようなファンサービスの強い作品に感じられた。
事前内容を全く知らない私のような初見はもしかしたらアウェイを喰らうかもしれないが、エンタメとして演劇を満喫したいという方には老若男女お勧めしたい(観客は圧倒的に若年層女性で埋め尽くされていたが)作品だった。

写真引用元:スマートボーイズ




【鑑賞動機】

「劇団ホチキス」という団体名と、米山和仁さんというお名前はよく聞くようになって気になっていたから。今年(2023年)4月に上演された劇団ホチキスの前回公演である『播磨谷ムーンショット』(@池袋あうるすぽっと)も非常に評判が良かったのと、初めて今作で新国立劇場で上演するとのことだったので、勢いのある「劇団ホチキス」の演劇作品を観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

日付アサッテ(小玉久仁子)は国民的人気アニメ「アサッテさん」の主人公で、30年以上もテレビで放送されている。
そんな「アサッテさん」を放送するテレビ局では、四人の脚本家がこの「アサッテさん」の脚本執筆を担当していた。それは、新米脚本家の磯崎新(前川優希)、中堅脚本家の三井政恵(乾りさこ)、中堅脚本家の重光茂幸(山本洋輔)、そしてベテランで大御所の脚本家の箱田真澄(井俣太良)である。しかしテレビ局は旧時代的な組織構造で年功序列が強く、若手の脚本家の磯崎はいつも現場で叱られていた。こういった組織体質によって、過去に若手の脚本家は何人も辞めていた。
テレビアニメ「アサッテさん」は、もちろん脚本家だけで制作される訳ではなく、制作プロデューサーの矢野浩介(校條挙太朗)や監督の大林慎也(齋藤陽介)も制作に関わっていて、磯崎は旧時代的な組織構造について相談するが聞き入れてくれなかった。

ある日テレビ局では、脚本家とプロデューサーと監督で脚本を読み合わせる会議が開かれる。4人の脚本家の脚本が読み比べられる。
そこで、一話の「アサッテさん」が劇中劇で登場する。磯崎新は暦ムカシに、磯崎のアシスタント的ポジションの伊東遼太郎(赤澤燈)は日付カコに、大林慎也は日付キョウに、三井は暦コトシに、保険の営業をやっていた二階堂幸は暦イマ(内村理沙)に、箱田は暦昨年になる。
暦ムカシは、なかなか家事を手伝ったりなどの労働をしてくれない。そこで暦昨年は1労働1円として何か良いことをしたら1円をあげるとムカシに約束する。すると、ムカシは周囲の人たちに親切をしたりと労働をするようになる。昨年からは労働の対価をもらい、コーラをお裾分けして深夜に飲むなどのことをムカシはする。
この脚本で「アサッテさん」は放送され、この脚本を書いた箱田は持ち上げられる。

テレビアニメ「アサッテさん」には脚本創作の過程で破ってはいけない三原則があった。一つ目はITを進化させないこと、二つ目は恋愛要素を入れないこと、三つ目は家族設定を変えないことだった。
近日、TwitterはアメリカのIT企業の社長に買収されて「it」になった。その社長である「it」が日本にやってきて、このテレビ局にも目をつけていると言う。なんとかアメリカのIT企業の社長にも受け入れられるような「アサッテさん」を放送しなくてはならない。そこで、磯崎は伊東と協力して三原則の一つ目を破って、ITを進化させた「アサッテさん」の脚本を書く。
ここから「アサッテさん」の作品に移行する。暦ムカシはスマートフォンで決済をしてカレンダーから宅配をして食べ物を運んできてもらう。
また、メリーさんを扱ったホラー作品の脚本も書き、ムカシのスマホにメリーさんからの着信が入る。そして暦家にメリーさんがやってくる。
このストーリーでの「アサッテさん」も視聴者にはウケる。

テレビ局に「it」を運営しているIT企業の社長it(小玉久仁子)がやってくる。今やっているテレビアニメ「アサッテさん」はつまらないので今すぐ廃止にしたいと申し出てくる。
それは大変だと、今すぐに社長を宥めるような「アサッテさん」の脚本を書くことになる。磯崎は三原則の二つ目にあたる、恋愛要素を入れないという掟を破って執筆する。
そして磯崎は、「アサッテさん」の劇中に恋愛要素を絡めた物語を放送し成功する。

最近脚本チームからベテラン脚本家の箱田が姿を消していたことに気が付く一同。磯崎は箱田を探しに箱田の家に向かう。
すると箱田は自宅におり、「アサッテさん」がなぜ創作されたのかについて話をする。「アサッテさん」のモデルとなったのは、箱田の奥さんであり30年前の若い頃に亡くなってしまっていた。そんな悲劇があったことで、箱田は自分の亡くなった妻をモデルにした「アサッテさん」というアニメを作った。最初はすぐに打ち切りになって長くは続かないだろうと思っていたが、人気が出て国民的アニメとなり今まで続いてしまった。だからこそ、そんな思い入れのある「アサッテさん」を現代風に改変されることに納得がいっていなかったようであった。
磯崎は箱田を入れてもう一度みんなが、家族一丸となるような「アサッテさん」を作ろうと奮起する。箱田も同意して最後はみんなが家族になるような「アサッテさん」の物語を放送する。
ここで上演は終了する。

ストーリーを読めばわかる通り、国民的人気アニメ「アサッテさん」は「サザエさん」をモチーフにして創作された作品である。
劇中劇という形で、テレビ局の脚本家たちの人間ドラマと、「アサッテさん」の作品の劇中劇パートで上手く切り分けながら進める物語構成は、観客を飽きさせないような工夫があって好きだった。
また、旧時代的なテレビ局の組織構造によって若手が活躍出来ないというのも非常にリアリティがあるし、そういった構造が変革を起こして変わるという流れが時代にも合っているような気がして面白かった。若手は若手で辛さがあることを描きながら、ベテランはベテランで苦悩していてストーリーが描かれている点に万人ウケしやすいポイントがある気がした。また、Twitterがイーロン・マスクによって買収され「X」になったというニュースも反映していて、イーロン・マスクをモデルにしたとされる「it」というアメリカのIT企業の社長も態度がデカくて傲慢な感じも良かった。日本はずっと昔ながらの体裁を保ってきたが、外的圧力によって変革せざるを得ない状況に陥っているのは、今作の「アサッテさん」も今の日本も同じで、そういった部分が共通するからこそ、今の観客にも響く脚本だったのかなと思う。
ただ、個人的には特に終盤はもっと踏み込んで欲しかったというのが感想。登場人物が沢山いてそれは良いのだが、俳優としてのキャラクター部分にインパクトが持っていかれすぎていて、この作品上ではどういった人物か、どういった立ち位置なのかが不明瞭な登場人物が多かった気がした。プロデューサーとか監督とか、声優とか保険の営業とか沢山登場するが、彼らの役回りが劇中だとはっきりしていなくてそこが個人的に勿体なく感じた。だからこそ、ラストで全員が家族みたいなオチも説得力が弱かった気がして、多種多様な立場職種の人が一緒になるという意味合いにしたいのであれば、もっと登場人物の立ち回りがバラバラの方が良いのではと思った。
あとは純粋に脚本にもう一捻り欲しかった。分かりやすさ重視でいくのなら今回の脚本なのかもしれないが、色んなジャンルの舞台を観てきた身としては少々物足りなかった。でもこれは好みだと思う。

写真引用元:スマートボーイズ


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

「劇団ホチキス」の作風と呼ばれるケレン味のある演出と、全体的にカラフルでポップな世界観はエンターテイメントとして非常に多くの人に親しみやすい構成になっていたと思う。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
下手側にテレビ制作会社の脚本を議論するための会議用の机と椅子が用意されていて、基本的にはここで脚本家たちは議論していた。ステージ中央には円筒形の台のようなステージがあり、アサッテは基本的にそのステージでパフォーマンスをする機会が多かった印象である。一段高くなった台のようなステージは、上手側にも用意されていて、序盤で磯崎がプロデューサーの矢野や監督の大林と出会うシーンもそこで描かれていた気がした。そして舞台セットは全体的にカラフルで、黄色の舞台セットや青い舞台セット、黄緑の舞台セットなど、まるでステージ全体が遊具のような楽しい感じが溢れていた。
また、「アサッテさん」の劇中劇のシーンになると、ステージ上手から下手に敷居のようなレールがあって、そこに沿って舞台装置パネルが移動出来て、アサッテさんの家の全体像をパネルとして出現させたりと大掛かりなセットが特徴的だった。そのパネルが移動することによって、ステージ全体の印象も変わってくるので世界観作りとして効果的だったように思う。

次に映像について。
まず、登場シーンで登場人物の名前とキャストの名前を併記する形で映像で説明が入るのは良かった。私は出演キャストの名前と顔が一致していなかった方が多かったので、その映像説明によってだいぶ助けられたので良かった。
あとは、劇中のストーリーの重要部分を映像で演出する点が優れていた。たとえば、Twitterが買収された「it」というサービスになったという件や、箱田の妻が若い時に亡くなったというのを仏壇を映像で投影していて分かりやすかった。

次に舞台照明について。
舞台照明はとにかく派手だった。一番印象に残っているのは、アサッテさんが一人でステージに立っているシーンで、複数の白いスポットライトが左右に動きながらアサッテさんを照らしていた演出。そういう照明演出が多くてユニークだった。
あとは、全体的に眩しい感じの照明が多く(といっても悪い意味ではなく演出として効果的であるという意味で)それが作風とも合っていたように感じて良かった。

次に舞台音響について。
まずはオリジナル楽曲が用意されている点に驚いた。「劇団ホチキス」って毎公演その作品に合わせてオリジナルの楽曲を作詞・作曲するのだろうか。まるで「劇団鹿殺し」や「劇団☆新感線」みたいで素晴らしかった。曲調も凄く軽快で楽しい感じの楽曲が多くて、明るい気分で観劇出来て好きだった。
あとはケレン味ある演出が多かったので、その演出が入るごとに効果音が流れるのだが、「劇団☆新感線」のような時代劇とかであればフィットするのだが、今作のような現代劇だとちょっと演出として合っていないような感じがした。安っぽい感じになってしまう演出のように思えた。

最後にその他演出について。
小道具についてだが、スマートフォンが非常にサイズとして大きくて、観客にわかりやすく表現するという点で良かった。コーラとかも非常に実物より大きくて、アニメだとそういう演出もよくあるし、それを舞台で体現していて良かった。
あとは、アサッテさんの頭に被っている3つの団子からなる髪型も良かった。サザエさんに似せている部分もあると思うが、ああいった強烈なビジュアルで物語に引き込むのも良いなと思った。

写真引用元:スマートボーイズ


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

「劇団ホチキス」でお馴染みのメンバーに加えて、2.5次元界隈で活躍する俳優が多く、個人的には勢いで突っ走っている俳優が多いなという印象だったが、それぞれの個性を確立していて観客にもウケていたので良かったのではないかと思う。
特に気になった役者さんについて記載していく。

まずは、若手脚本家の磯崎新とテレビアニメ「アサッテさん」の劇中劇で暦ムカシを演じていた前川優希さん。前川さんは、私は観劇したことないがMANKAI STAGE『A3!』でお馴染みの2.5次元俳優さん。
若い人なら誰もが共感するのではという、若手だからといって頑張っても上の世代から評価してもらえず、いつも叱られてばかりいる脚本家。でも情熱があってポジティブだからこそめげずに「アサッテさん」を良くしようと奔走する姿が素晴らしかった。
外見的なパッと見は正義を貫く主人公という感じがしなかったのだが、観劇しているうちに物凄く物凄く主人公を感じてきてハマり役だと思えた。

次に、伊東遼太郎役であり「アサッテさん」の中では日付カコ役を演じた赤澤燈さん。赤澤さんも同じくMANKAI STAGE『A3!』でお馴染みの2.5次元俳優さん。
伊東のキャラクター性はクールで参謀的な一面が凄く良かった。磯崎のように熱くなることはなく、頭脳を使って冷静に磯崎を支える感じが魅力的だった。
また服装も黒っぽい感じで仕事出来る感があって好きだった。

今作で一番目立っていたのは、日付アサッテ役を演じた小玉久仁子さん。小玉さんは「劇団ホチキス」に初期の頃から所属・出演している役者さんのよう。
開演と共に登場するアサッテさんだが、まず被りもののインパクトもそうだが、あのパワー溢れる迫力が国民的人気アニメっぽくて良かった。エネルギッシュで勢いがある感じがハマり役だった。
また、物語中盤からTwitterを買収したアメリカのIT企業の社長役としても登場するが、黒い衣装を身に纏っている以外は被り物も含めて外見はアサッテさんと同じなのだが、演技の迫力が違って邪悪な感じが凄く見ていて面白かった。

個人的に好きなキャラクターだったのが、持流祐介役とカレンダー役を演じていた小熊樹さん。
あまり俳優さんに詳しくないので間違っていたら申し訳ないのだが、小熊さんはUberEatsの配達員などを演じられていた方だと認識している。あのクールな感じが凄くよくて、凄く難しいことを卒なく引き受けてこなしてしまうあたりが格好良くて好きだった。他の登場人物から無理難題を要求されてもさらっと仕事をしてしまい、過去に経験があるのでのような決め台詞でクールに振る舞う姿が良かった。

声優の月山恵美役と「アサッテさん」で昨日やよい役を演じた片山陽加さんも良かった。
片山さんは以前企画演劇集団ボクラ団義の『鏡二映ラナイ女 記憶二残ラナイ男』(2021年4月)や『ハンズアップ2022』(2022年3月)で2度演技を拝見しているが、凄く存在感の強いインフルエンサー的な大人っぽい女性役になっていて新鮮に感じた。
たしかにスキャンダルとか多そうな声優という印象があって役にハマっていた。演技も良かったので、もう少し物語の中心人物的なポジションで見てみたいと思った。

あとは、ベテラン脚本家の箱田真澄役を演じた井俣太良さん。井俣さんの演技拝見は初めてだが、劇団少年社中の創立メンバーなのだと後から知った。
物語前半は、ベテランで組織頂点に立つような人物で嫌な感じがあったのだが、終盤で箱田は若くして妻を亡くしていて、それでアニメのモデルを妻とした「アサッテさん」を執筆していたと分かってから、凄く好感の持てる持てるキャラクターで好きになれた。そしてそれって、今の日本社会に昔から残っているものの多くに共通していることのような気がする。その文化やシステム、構造を作った人の思い入れがあったりしてなかなか変革出来ないものって結構多くて、そういったものが新しい時代の到来を阻んでいたりする。そういった意味で、箱田が「アサッテさん」に抱いている思い入れや愛着というのは、今の日本社会(日本だけに限らないけれども)に普遍的で、だからこそ多くの人に刺さる内容だと思った。

写真引用元:スマートボーイズ


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

初めて「劇団ホチキス」の舞台作品を観劇したが、非常に客層が若年層女性で埋まっていて驚いた。でもよくよく調べてみたら当然で、主役を務める前川優希さんや赤澤燈さんがMANKAI STAGE『A3!』によく出演されているので、『A3!』ファンの多くが「劇団ホチキス」を観にきているのだろうなと感じた。
ただ、今作が女性向けかというとそういう訳でもなく、男性である私でも作風の好みはあるとはいえ楽しめる作品だったので、もっと様々な客層に観て欲しい作品だとも感じた。
ここでは、初めて「劇団ホチキス」の舞台を観た感想をつらつらと書いていく。

ストーリーは誰にでも分かりやすくて、観劇初心者でも入り込みやすい内容だったかなと思う。その上、最近の世の中のトレンドもしっかりと含まれている点も興味深かった。その最新のトレンドといっても世の中には色々あるが、割と観劇好きな方が敏感なトピックを盛り込んでいるような気がした。

例えば、旧時代的なテレビ局の組織構造問題。若手はベテランに叱られて相手にされず、周囲はベテランに対してイエスマン。こういった組織構造は日本の至るところにある。そして、そういった組織構造が仇をして問題になることが昨今は多い。演劇業界や芸能界隈では、ハラスメントが至る所で告発されて問題になっているのは、こうした組織のトップに立つ人間と若手との力関係によるものが多いと思う。だからこそ、そういった今の日本のエンタメ業界の事実を脚本に取り入れることで、多くの観客にもこういった事実を認識してもらいたいという姿勢を感じた。
性加害までいってしまうと犯罪レベルなので、年功序列が強くて若手が活躍しづらいくらいの今作の設定だからこそ、ベテランを処罰するまではいかず組織的に改革していって健全にしていくという平和的解決であるのなら、私は今回の脚本に対して違和感は感じられなかった(たしかに、過去に若手が何人も辞めているという描写はあるものの、パワハラまではいっていない気がしていて、上下関係が強くて活躍出来ないという苦しさから辞めてしまっていると思われるから違和感は感じなかった)。
そこから、今まで「アサッテさん」の創作で守り続けてきた三原則を破って(これって組織的にはかなりの改革)アニメとして新しい成功をしていく姿は、いってしまえば理想でしかないが、親しみやすい物語としては綺麗なまとめ方なのかなと思う。
その三原則には、箱田の強い思い入れがあったが、時代と共にその思い入れというのはこれから変わりゆく時代に対して足手纏いになる存在にもなりうる。そこをトップの人間が理解して受け入れていくという物語には、綺麗事だけれど多くの組織が見習っていかなければならないエッセンスがあるように感じた。

あとは、Twitterがイーロン・マスクのX Corp.に買収されてXというサービスになった。この最新のニュースも普段観劇している人ならTwitterをやっている方も多いと思うので、彼らにも非常に身近なニュースを取り込みながら作品作りしている点にも面白さがあった。
アサッテさん役を演じる小玉久仁子さんが、劇中でイーロン・マスクに該当するIT企業の社長役もやっていて面白かった。

「サザエさん」は日本人にとっては、日曜夜にテレビで昔からやっている超国民的に人気アニメ。そんな「サザエさん」にスマートフォンや恋愛要素などが入ってきてしまったら驚きだが、これをあと50年と続けていくとどうなるのだろうか。テレビを見る人たちもみんな、「サザエさん」の時代を知っている人が少なくなっていると思うので、今までの作風を貫くのは難しいのかもしれない。
でも「サザエさん」の作風を変えるとなると30歳の私でも抵抗があるので、視聴者からの反発も多い気がする。そうなると打ち切りとかになるのかな、寂しい。

時代は変わっていくものだから、長く愛されてきた作品や文化が古くなってしまうというのは当然起こりうる。それをアップデートしていく柔軟性というのはどんな世代を生きている人間にも肝に銘じておかないといけないし、重要なのだと改めて感じた。

写真引用元:スマートボーイズ


↓片山陽加さん過去出演作品


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