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舞台 「プラトニック・ボディ・スクラム」 観劇レビュー 2023/02/11


写真引用元:FUKAIPRODUCE羽衣 公式Twitter


写真引用元:FUKAIPRODUCE羽衣 公式Twitter



公演タイトル:「プラトニック・ボディ・スクラム」
劇場:本多劇場
劇団・企画:FUKAIPRODUCE羽衣
プロデュース:深井順子
作・演出・音楽:糸井幸之介
出演:深井順子、鯉和鮎美、キムユス、新部聖子、浅川千絵、田島冴香、平井寛人、村田天翔、岩田里都、宇田奈々絵、奥山樹生、中井宏美、日髙啓介、澤田慎司、伊藤晶子、西田夏奈子、土屋神葉、岡本陽介、牧迫海香
公演期間:2/9〜2/12(東京)
上演時間:約2時間10分
作品キーワード:音楽劇、ダンス、ラブストーリー
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆



女優深井順子さんによって2004年に設立され、作・演出・音楽を糸井幸之介さんが手掛ける団体「FUKAIPRODUCE羽衣」を初観劇。
「FUKAIPRODUCE羽衣」は、「妙ージカル」という独特なオリジナル楽曲を製作して舞台演劇を上演する団体として知られており、2008年には東京芸術劇場との提携公演である芸劇eyesに選出されたり、2012年には「CoRich舞台芸術まつり!2012春グランプリ」を受賞している。
今作は、「FUKAIPRODUCE羽衣」としては第27回公演として、本多劇場では2度目の新作公演の上演となった。

今作は「人体」をテーマにした「妙ージカル」。
日本の劇団羽衣が下北沢の本多劇場で演劇を上演し、そこに海外アーティストたちも加わって劇中劇が繰り広げられるというもの。
しかし、黄色いタイツを身にまとい頭にとさかのような被り物をした謎の存在(土屋神葉)が忍び込んできて、彼らが劇団羽衣の上演に介入してくる。果たして、その謎の存在は天使なのか悪魔なのかというもの。

劇中にはいくつかの劇中歌、いわゆる糸井幸之介さんが作詞・作曲した「妙ージカル」が登場し、まるでミュージカルに近い形で歌と音楽で物語が進行していく。
まさにこの「妙ージカル」という言葉が言い当てている通り、独特の曲調の音楽と歌とダンスパフォーマンスが脳内でリピートされるくらい癖になる楽曲で素晴らしかった。
イメージとしては、ちょっと違うけれどEテレの子供向け番組(例えば「おかあさんといっしょ」のような)に登場しそうな、あるいは「妖怪ウォッチ」の楽曲に近いような、聞いて歌って踊るだけで元気になれるような楽しい楽曲たち。
これらを考案できる糸井さんの才能は素晴らしかったし、これらの楽曲に合わせて歌って踊れる役者の方々も皆素晴らしかった。

当初の口コミだと、演劇を賛美するような作風と聞いていて、過去観劇した悪い芝居の『愛しのボカン』のような観劇側にアウェイを喰らわせられるような作品かと身構えていたが、決してそんなことはなく演劇関係者として携わっていなくても、彼らが発揮するエネルギーを存分に浴びることが出来て非常に楽しかった。

ストーリーは決して脈絡のあるようなものではなかった(悪い意味ではない)けれど、歌と音楽とダンスパフォーマンスと、そしてなんと言っても役者陣の圧倒的な熱量と演劇をしている時の多幸感によって、観客側も十分に満たされた。
インスタグラムで土屋神葉さんの姉の土屋太鳳さんも観劇されていて、「なぜ東京だけなんだろう... 大阪とか、海外でも演じてほしいし観てほしい」と投稿されていたが、まさにその通りで様々なエリアでロングラン上演して多くの人に今作の素晴らしさを堪能して欲しいと感じる作品だった。

写真引用元:ステージナタリー FUKAIPRODUCE羽衣 第27回公演「プラトニック・ボディ・スクラム」より。(撮影:金子愛帆)


【鑑賞動機】

「FUKAIPRODUCE羽衣」の「妙ージカル」は以前から気になっていた。それは、YouTubeチャンネルである「CoRich舞台芸術!チャンネル」の「劇トクッ!」でクロムモリブデンの森下亮さんが、「FUKAIPRODUCE羽衣」の「妙ージカル」を激推ししていたから。
今回は、「FUKAIPRODUCE羽衣」の新作公演を本多劇場で上演するということで、かなり前(昨年夏くらい)から大々的に告知されていたので、きっと力を入れて創られているのだなと思い観劇を決めた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ステージに役者が次々と登場し、発声練習やアップを始める。どうやらこれから演劇公演の本番が始まるようである。スペイン人の画家であるサワダリ(澤田慎司)は、床面のペンキを塗り直している。
役者たちのアップが終わると、日本の劇団羽衣の劇団員たちは円形になって集合する。劇団の主宰であるフカイ(深井順子)は、いよいよ自分たちの劇団が下北沢の本多劇場で演劇公演をすることになったことに歓喜する。公演タイトルは「人体」であると言う。
また、今回の上演では客演に人気俳優のヒダカ(日髙啓介)が出演すると、劇団員の前で紹介する。また海外からは、スペイン人の画家であるサワダリ、イタリア人の詩人のマサコーニー(伊藤昌子)、アメリカ人のミュージシャンのニティナカーナー(西田夏奈子)が来ていることを紹介する。海外から来た3人は、今作の「人体」の舞台美術や劇作、音楽を担当している。
一方、劇場の外には何やら劇団羽衣の様子を覗く者たちがいた。それは、黄色いタイツのような格好をしてとさかのような被りものを被った謎の存在(土屋神葉)とその手下(岡本陽介、牧迫海香)だった。彼らは真っ暗になった劇場に入ってきて、客席側からステージ上に登っていった。

ヒダカが演じる人体ケイスケは、パジャマのような姿でフカイ演じるDr.ジュンコーに、体の不調で診察を受ける。そこで人体ケイスケは検査を受けることになるが、それによって人体ケイスケの人体はむくむくと動き出す。そして劇中歌「人体診療力」がかかる。骨役、脳神経役、内蔵役、筋肉役、皮膚役の劇団が登場して曲に合わせて踊る。
一方、マサコーニーは劇作の執筆に負われていた。ダンテの神曲は若い頃に読んだが難しすぎて挫折し、自分はその程度の人間なのかと自身の実力に愕然としながらも、ダンテの神曲を超える傑作を生み出してやると執筆を続ける。そして劇中歌「ルネサンスダイアリーNo.1」が流れる。

人体ケイスケとDr.ジュンコーは水夫になって、船で海を渡ろうとする。「ジュンコーのマドロスさん」が劇中歌として流れる。他の劇団員たちが船となり波となって海を船で渡る光景が演出される。
そこへ、海賊船が現れる。その海賊船の船長は、どうやら謎の存在のようである。海賊船に乗った海賊たちによって人体ケイスケとDr.ジュンコーの乗った船は占領されてしまう。
ここで一時「人体」の上演が休止し、ニティナカーナーが劇団員たちを褒め称える。フカイに対しては、40過ぎにもなってよくここまで歌って踊れると、若手劇団員たちを褒め、そして中堅の劇団員たちも褒める。しかし、ニティナカーナーには同じ場所にいた謎の存在と手下たちは見えていなかったようであった。
果たして、この謎の存在は一体何者なのか、この日本の劇団羽衣にとって天使となるのかそれとも悪魔となるのか。

人体ケイスケとDr.ジュンコーは2人でイチャイチャしていた。その後、人体ケイスケは昔からジャニーズに憧れていて、自分もオーディションに応募したけれど何も音沙汰がなかったと告白する。
そんな人体ケイスケの夢を叶えるがために、Dr.ジュンコーはローラースケートの靴と衣装を用意した。人体ケイスケはローラースケートを履いて、テレビ現場へと出向く。そこでは、ニティナカーナーが厳しいプロデューサーを演じていた。人体ケイスケを含めた若手俳優たちに2度挨拶させ、台本が頭に入っていないことを叱りつけた。
ここから「テレパシンドローム」が流れて、人体ケイスケを中心に楽曲が披露される。人体ケイスケとDr.ジュンコーの仲の睦まじさが感じられる。

サワダリが登場し、彼は闘牛場で牛を殺す。劇中歌「人生、語る〜にゃ!」が演奏される。
その後、サワダリはバルで昼から酒を飲む。サワダリはバルで知り合った男(格好は謎の存在)と仲良くなる。話ははずんで関係良好のまま別れようとした時、サワダリはその男にピストルで撃たれる。サワダリは、そのまま胸を押さえて苦しそうに倒れる。そしてサワダリは、なぜ自分を撃つのだと問いかける。謎の存在は、実は自分は先ほど闘牛場で殺された牛であり、今では闘牛場で牛を殺すことは法律によって禁じられていることを伝える。

日本の劇団羽衣の劇団員たちは全員ステージ上へ登場し、その中心にはニティナカーナーがいて、劇中歌の「Platonic Body Scrum」を歌い始める。
劇中歌は途中途中中断しながら、日本の劇団羽衣の劇団員たちの過去のエピソードが挿入される。銭湯から帰る大家さんの後を、大家さんにばれないように後をつける劇団員、大家さんが年をとって年々歩くのが遅くなっているから、ばれないように後をつけることがどんどん難しくなっていると言う。他には、劇団に入団して若い頃は主宰に沢山叱られた話など。
人体ケイスケとDr.ジュンコーは付き合っていた。人体ケイスケは、朝ドラに出演することが決まって大喜びだった。しかし同じ売れない舞台役者だったDr.ジュンコーにとっては複雑な感情だった。次第に人体ケイスケは朝ドラの稽古がメインとなっていき、Dr.ジュンコーと距離を置くようになる。そしてDr.ジュンコーも、人体ケイスケではなく売れない役者同士で話が合い惹かれ合ってしまう。
ある日、人体ケイスケとDr.ジュンコーは喧嘩する。Dr.ジュンコーは、人体ケイスケが朝ドラに出演して、自分のことはどうでも良いと思っているのでしょ?と追及する。人体ケイスケは必死でそれを否定する。
人体ケイスケとDr.ジュンコーの間の子供を名乗る謎の存在がやってくる。彼は必死に僕だよと言い張ってくるのだけれど、人体ケイスケとDr.ジュンコーは首を傾げていて、詐欺なのではないかと怪しむ。しかし謎の存在は「僕は僕だとしか言わない。

マサコーニーは深夜にようやっと脱稿して疲れ果てる。鏡の前に行ってマサコーニーは自分の姿を見るが、目にはくまが出来ていて皮膚も疲れ果てているようだった。
マサコーニーは診察にかかると、皮膚1(新部聖子)と皮膚2(岩田里都)がやってきて、「さよなら人体」が流れる。
そしてそのまま、日本の劇団羽衣の劇団員たちがやってきて、音楽に合わせてパフォーマンスを繰り広げる。

激情のステージと客席の明かりが灯り、暫くしてから客席側から謎の存在とその手下たちが現れる。そしてステージ上に登って姿を消す。ここで上演は終了する。

はっきり言ってストーリーは、次から次へと意味不明な展開が巻き起こるのだが、とにかく「FUKAIPRODUCE羽衣」ワールドに誘われて思う存分堪能出来たから文句なかった。そしてなんとなく観劇していると、「FUKAIPRODUCE羽衣」のこれまでの長年の苦労も劇中に取り込んで消化しているように感じた。一緒に小劇場演劇をやっていたメンツが売れてしまったり、劇団の主宰に叱られたり、大変なことは沢山あったけれど、今こうして演劇を存分に出来ているから幸せだと、そんな多幸感を感じられるような舞台演劇で素敵だった。
そして、自分は演劇関係者ではなく一観劇者だけれど、決して置いてきぼりにされることはなくて、一緒に楽しむことが出来たから凄く安心して観ていられた。「悪い芝居」の近年の作風もちょっと「FUKAIPRIDUCE羽衣」のテイストに近く、演劇人万歳な風潮があるのだが、「悪い芝居」の作風はもっと演劇に対するエゴが強くて置いていかれやすい。一方で、今作は凄く観客も楽しめるような作風に仕上がっていたので安心して観る事が出来た。

写真引用元:ステージナタリー FUKAIPRODUCE羽衣 第27回公演「プラトニック・ボディ・スクラム」より。(撮影:金子愛帆)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

噂に聞いていた糸井幸之介さんが作・演出・音楽を手掛ける「妙ージカル」の独特な世界観は、非常に他の演劇団体では類を観ない素晴らしいものだった。
舞台装置、映像、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
舞台装置は数は多くなく、ステージの後方に巨大な壁画が一枚、存在感を出して大きく立てかけられている。そこにはまるでメキシコの絵画といったら良いのだろうか(でもフリーダ・カーロといったらちょっと違う)、そんな印象を受ける油絵だった。一枚一枚のベニヤと思われるものを沢山敷き詰めて一枚の絵画にしているようであった。非常に世界観を上手く醸し出していて、その絵画のインパクトだけでも、たしかに舞台装置といったら十分だった。
それと、床面にも一枚のカラフルに塗られた絵画のような装飾があったようで、客席からだと上手く見ることはできなかったのだが、サワダリが物語序盤で塗り直していたので、そこにも絵画があったと推測出来る。私は最前列で観劇していたのだが、床面にうっすらとカラフルな地面が見られたので、なにか敷かれていたようだった。

次に映像について。
映像は物語序盤の、謎の存在とその手下が日本の劇団羽衣が一致団結して本多劇場で演劇を上演しようとしている様子を窺うシーンで、映像で謎の存在たちが登場していた演出。個人的には、謎の存在たちその後客席から登場するシーンまで何のことだかさっぱり分からなかった。映像も、背後がスクリーンでなく壁面なので見えにくかったし、無くても良かったのでは?と思う(一生懸命製作して下さったスタッフさんすみません)。

次に衣装について、衣装は本当に素晴らしいなとつくづく感じながら見ていた。
日本の劇団羽衣の劇団員たちは、皆何かしら人体の一部を模したようなグニャグニャなタイツと装飾を身にまとっている。これが、凄くNHKの「ストレッチマン」の妖怪に出てきそうな怪物感があって好きだった。1980年代・1990年代の特撮みたいなクオリティの怪物がグニャグニャとダンスをしていて、こんな舞台作品は観たことがなかったので凄く新鮮だった。
また、謎の存在の黄色いタイツととさかのような被り物も好きだった。ああいった衣装デザインは、どこから着想を得るのだろうか。こういった衣装を考案出来る、衣装担当の竹内陽子さんは素晴らしかった。
また、サワダリ、マサコーニー、ニティナカーナーといった海外アーティストの衣装デザインも素敵だった。特に、サワダリのあのザビエルのような衣装デザインが個人的には好みだった。

次に舞台照明について。
照明も様々な色のスポットがカラフルに使われていて、本当にミュージカルを観ているような印象だった。
個人的に好きだったのは、「ジュンコーのマドロスさん」の楽曲中と、「さよなら人体」の楽曲中のダークな照明。全体的に紫がかった照明で、あのダークで不気味な感じが、音楽も相まってどことなく人体の中のように感じられて面白かった。
あとは、黄色や緑に輝く照明も楽曲に合わせてあって、非常に豪華で明るいシーンもあった。
さらに、ステージの上手、下手あらステージ中央に向かって入れる照明や、客席側の照明も使って、ステージにとどまらず客席を活かした演出も凄く面白かった。最前列で観劇していると、客席後方で何が起きているかが分からず、一部楽しめなかった点もあるが。

そして舞台音響について。
音楽はなんといっても糸井幸之介さんが作られた「妙ージカル」の楽曲たち。Eテレの「おかあさんといっしょ」や「妖怪ウォッチ」のような、誰もが踊りだしたくなるようなリズミカルで独特な楽曲が脳内をリピートしている。特に好きだった楽曲は、「ジュンコーのマドロスさん」。「Owa Owa Owa・・・Ah・・・Oi」のような水夫を思わせる掛け声と、ダンスと曲調が非常にリズミカルで、観ている側としては凄く心地が良かった。ずっと観ていたいと思ったし、自分のテンションがぐんと上がったのも個々だった気がする。また、「テレパシンドローム」も非常に「テレパシー」の歌詞が度々登場して好きだった。一緒に踊りだしたくなるくらいだった。「Platonic Body Scrum」は、ニティナカーナー役を演じる西田夏奈子さんの歌唱力が光っていて素敵だった。
メロディでいくと、終盤の「さよなら人体」のラストの劇団員たちが酔ったように踊っていた曲調が凄く体内のような感じを受けて好きだった。
それ以外だと、サワダリが撃たれた銃声といった効果音が印象に残った。

最後にその他演出について。
今作は劇中劇ということで、公演パンフレット(無料)も、表面に劇中劇での公演タイトルである「人体」と出演キャスト、そして裏面に本公演のタイトル「プラトニック・ボディ・スクラム」と出演者という形で、二重構造になっている演出が面白かった。一体どこからが劇中劇で、どこからが劇なのかが一瞬分からなくなってしまう。だからこそ、現実と舞台空間の世界の境界線が薄くなっていて、よりライブ感を感じられたのが良かった。
そういった意味では、客席側もしっかり舞台空間の一つとして利用した点も大きいかもしれない。あそこまで客席まで役者を登場させて上演した舞台は他にないかもしれない。そのくらい、本多劇場そのものがステージといった印象を受けた。
あとは、作品の中で「FUKAIPRODUCE羽衣」の昔の劇団の思い出を盛り込んで作品に仕上げている点も、日本の劇団羽衣と「FUKAIPRODUCE羽衣」を上手くリンクさせていて、より劇中劇の二重構造が面白いものになっていた。演劇に対する愛も感じられるし、人々に活力を与えてくれるエネルギーを与えてくれた。

写真引用元:ステージナタリー FUKAIPRODUCE羽衣 第27回公演「プラトニック・ボディ・スクラム」より。(撮影:金子愛帆)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

本当に役者陣の素晴らしさにはずっと胸を打たれていた。今作は演技だけではなく、歌とダンスもあるので、皆汗だくになりながら必死で動き回っている姿にエネルギーをもらった。
特に印象に残った役者を紹介していく。

まずは、「FUKAIPRODUCE羽衣」を主宰し、劇中でも日本の劇団羽衣を主宰するフカイ役を演じた深井順子さん。深井さんの演技を観ることは初めて。
深井さんは本当に演劇を愛していらっしゃる方なんだなというのが凄く伝わってきた。最前列で観劇していたので、キャスト一人ひとりの表情がよく見えたのだが、本当に深井さんは演じている時、踊っているとき、歌っているときが楽しそうで、その楽しさがにじみ出ていた。こんな演劇をやっていたらきっと楽しいのだろうなとしみじみ思った。
深井さん自身は凄く小柄で華奢なので、彼女が飛び跳ねたり歌ったりするだけでも愛おしい感じがする。凄く応援したくなるキャラクターだった。
そして、カーテンコールでも中央でスクラムを組みながら挨拶する姿も満遍の笑みに凄く多幸感が得られた。

次に人体ケイスケ役とヒダカを演じた日髙啓介さん。日髙さんは、2021年10月にロロの『Every Body feat. フランケンシュタイン』で演技を一度拝見している。
特に好きだったのは、ジャニーズになりたいとローラースケートを履いて「テレパシンドローム」を歌うシーン。凄く輝いていて楽しそうで、こちらまで楽しくなった。「テレパシー」という歌詞の叫び声が脳裏に焼き付いている。凄く良かった。

次に、謎の存在役を演じた土屋神葉さん。土屋さんは、なかなか若くてイケメンな男性役者だなと感じながら観ていたが、終演後に調べてみたらまさか土屋太鳳さんの弟さんだったとは、たしかに顔は言われてみれば似ていた。
まずなんと言っても非常に声が高い。そして本多劇場という広々とした劇場空間によく響いていて素敵なボイスをお持ちの役者さんだなと感じた。
今回は、謎の存在という難役だったが、考察でも書くがちょっと最後までどういったポジションの役だったのか分かり兼ねたが、爽やか過ぎて怪しい感じは上手く出ていたので、そういった点では違和感はなかったと思う。
非常にユニークな衣装を身にまとって、かなり存在感のある踊りと演技をされていたので演技が上手くないと務まらない。そこを完璧に熟していて土屋さんは素晴らしかった。もっと舞台で観てみたいと思った。

あとは、ニティナカーナー役を演じた西田夏奈子さんも素晴らしかった。
欧米にいそうな貫禄のある女性アーティストといった印象だったが、なんといっても「Platonic Body Scrum」での歌声が素晴らしかった。公演のタイトルにもなっているが、やっぱり一番の見せ所のシーンだったと思うので、一番オーラの強い西田さんに歌ってもらうというのは理にかなっていた。
あとは、若手俳優に対して厳しくダメ出しする感じもキャラ的に似合っていて好きだった。

最後は、サワダリ役を演じた澤田慎司さん。
澤田さんのあの片言の話し方と、身体のあの動きが独特で目が釘付けになった。凄く観客の視線を惹き付ける役者であったように思う。
上手く説明は出来ないけれど、サワダリが今作の中で一番好きなキャラクターだった。あの独特な存在感が良かったのかもしれない。

写真引用元:ステージナタリー FUKAIPRODUCE羽衣 第27回公演「プラトニック・ボディ・スクラム」より。(撮影:金子愛帆)



【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、初めて「FUKAIPRODUCE羽衣」の公演を観劇した私が思ったことをつらつら書こうと思う。

私としては期待以上に今作を楽しむことが出来て大満足だった。クロムモリブデンの森下さんが「FUKAIPRODUCE羽衣」の「妙ージカル」を激推ししていて、一体どんな団体なのだろうと半信半疑だったが、いざ観劇してみて非常に楽しむ事が出来た。
普段は会話劇系を好んで観るタイプの人間なので、考えるな感じろ系の舞台作品には苦手意識があった。「FUKAIPRODUCE羽衣」も考えるな感じろ系の舞台だと思っていて、多少敬遠している部分もあった。しかし、そんな私でもストーリー度外視で非常に満喫出来た。これなら熱量を浴びるだけでも十分楽しめると。
また、今作の口コミでは演劇賛美のような、今までの演劇での苦労を皆さん知って下さいみたいなものが全面に押し出された舞台だと感じていて、それと同系統の「悪い芝居」の『愛しのボカン』は個人的にはハマらなかったので、自分は楽しめないんじゃないかと思っていた。

演劇をやっていての苦悩を作品にぶつけることは、演劇関係者であればたしかに代弁してくれている感じがして観ていて気持ちが良いかもしれないが、演劇関係者ではない観劇者にとってはちょっと蚊帳の外な印象を受けて引いてしまう。別に、演劇をやっている人間だけが苦労している訳ではないし、それを中心に据えられると尻込みしてしまう。そこに演劇人たちのエゴも強くて「悪い芝居」の作風は個人的には乗れなかった。
しかし、「FUKAIPRODUCE羽衣」は同じ演劇人たちの苦悩と賛美の内容なのに、そこまでエゴは強くないので、演劇に携わっていない人間にも楽しめる。おまけにミュージカル仕立てで音楽が多くを占めるのでというのもあるかもしれない。
そしてなんといっても役者全員が楽しそうに演じているから、自分たちが面白いと思ってやっているものには、凄く観客としても惹かれるし楽しいと感じる。そういった点が私が今作に没入出来た要因だと思う。

一つ気になるのが、謎の存在の存在である。日本の劇団羽衣の外にいて、「人体」という公演の製作に全く携わっていないけど、劇中に乱入してくる連中。劇中でも、彼らは天使なのか悪魔なのかという曖昧な紹介のされ方で結論は出されていないが、自分なりに考察してみよう。
まず謎の存在は、海賊船に乗って人体ケイスケたちの船に乗り込んできたりと、どちらかというと日本の劇団羽衣の邪魔をする立場の行動が目立つ。さらに、サワダリを彼が闘牛場の牛を殺して法律違反をしたが故にピストルで撃ったり、人体ケイスケとDr.ジュンコーの子供を名乗ったりして排除されている。
つまり謎の存在は、演劇活動を進めていく上での妨げとなるものや、牛を殺すことが法律違反になったからという新しいルールに縛られる存在ということになる。これは私の解釈だが、謎の存在はサブスク動画だったりと最近になって登場した、演劇と競合となりうるコンテンツのメタファーかなと思う。
演劇人たちは、時代の流れによって新たに出現したインターネットなどの便利なコンテンツに押されて、徐々に活動のフィールドは縮小している。そういった演劇の妨げになる存在なのではないかと思う。

そんな存在がいても、演劇人たちはずっとずっと苦労をしてきて、でもこうやってエネルギーを放出してお客さんに堪能してもらって素晴らしいものなのだという演劇へのこだわりと愛を凄く感じた。
これからもずっと演劇は劇場に有り続けて欲しいし、どんな時代でも逆風と戦ってほしいものである。

写真引用元:ステージナタリー FUKAIPRODUCE羽衣 第27回公演「プラトニック・ボディ・スクラム」より。(撮影:金子愛帆)


↓日髙啓介さん過去出演作品


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