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舞台 「三文姉妹」 観劇レビュー 2023/01/27


写真引用元:T-works 公式Twitter


写真引用元:T-works 公式Twitter


公演タイトル:「三文姉妹」
劇場:下北沢「劇」小劇場
劇団・企画:T-works
作:久馬歩(ザ・プラン9)
演出:チャーハン・ラモーン
出演:是常祐美、丹下真寿美、原田樹里
公演期間:1/24〜1/29(東京)、2/4〜2/5(愛知)、2/9〜2/12(大阪)、2/22〜2/23(福岡)
上演時間:約1時間30分
作品キーワード:姉妹、会話劇、笑える
個人満足度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆



女優・丹下真寿美さんとプロデューサーの松井康人さんの2人で立ち上げたプロデュースユニット「T-works」の舞台作品を初観劇。
「T-works」は、ハイレベルな脚本家、演出家、俳優を集い、高水準の舞台製作を目指していると、公式HPには書かれている。
過去には、劇団チョコレートケーキの古川健さんが脚本を担当し、文学座の高橋正徳さんが演出を担当し、出演者には演劇集団キャラメルボックスの阿部丈二さんや辰巳琢郎さんなどを迎えての公演(『愛する母、マリの肖像』2020年)を上演したりなど、実力ある演劇人を起用するプロデュース力の高さを誇る。
今回は、「T-works」としては5回目の公演であり、脚本にはザ・プラン9の久馬歩さんを迎え、演出にはチャーハン・ラモーンさんを迎えての新作公演になる。

物語は、父親の帰りを待つ三姉妹の話。三姉妹たちは双六やダウトをしながら、明日帰ってくるはずの父親を待っている。
長女のウタ(是常裕美)は次女のテル(丹下真寿美)や三女のハナ(原田樹里)から、ダウトで彼女の嘘を読まれやすい性格をからかわれながら仲良く過ごしている。
彼女たちはそれぞれに恋い焦がれる男性がいて、そんな男性との結婚を夢見ていたが、実はこの三姉妹には秘密があったというもの。

3人の女優の演技や、手作り感があって親しみを感じられる舞台セットは素晴らしかったのだが、脚本はどうも私の感性には合わなかったというのが率直な感想。
公演の公式HPには、「三姉妹の物語にしたのですが、自分自身兄との2人兄弟なので、姉妹とはどういう会話をするのか想像しながら、楽しく書かせてもらいました。」とあったが、まさに男性がイメージした美化された想像上の三姉妹の像が舞台上にあるだけで、個人的にはリアリティを伴わないなと感じた。
女性は皆結婚を望むものみたいな、古い価値観だけが残っていて、それ以外に特に面白い要素を感じず、脚本の内容的に希薄に感じてしまって拍子抜けだった。出演者が20歳前後の大学生くらいの年齢であれば、まだ観ていられたかもしれない。しかし、よい大人が今作品の三姉妹を演じてしまうとしっくり来ない箇所が目立った印象だった。
また、舞台に引き込まれなかったせいか、「劇」小劇場という小さな劇場で、役者たちの甲高い声でキャッキャする日常会話に置いていかれ、あまり自分自身は乗り気になれなかった。
ストーリーも分かりやすく、演技も素晴らしかったのだが、そういった側面が個人的には受け付けなかった。

ただ周囲の観客には3人の女優のファンの方が多かったらしく、非常に温かくて面白いシーンではしっかり笑いが起きていて、役者目当てで演劇を堪能している方も多かった印象。
そういった観客にとっては、面白く感じられる舞台作品なのだと思う。

写真引用元:ステージナタリー T-works「三文姉妹」より。


【鑑賞動機】

「T-works」は企画力の高いプロデュースユニットとして以前から興味を抱いていた。そして今回は、脚本にザ・プラン9の久馬さんが担当されていたので、面白いコメディ作品として仕上がるのかなと楽しみになったので観劇することにした。
丹下真寿美さん自身も、以前江古田のガールズの『12人の怒れる女』で演技を拝見して素晴らしいと感じたので、プロデュースユニットとしても役者としても楽しみだった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

とある廃墟のような古びて散らかった家の中、長女のウタ(是常裕美)と次女のテル(丹下真寿美)と三女のハナ(原田樹里)の3人が、黒いフードを被りながら双六をしている。双六のマスには、どうやら様々な命令が書かれているらしく、そこに止まったらその指示に従って行動しなければならない。ウタは、マスに止まる度にそのマスに書かれた命令に従った。筋トレをしたりなど。
そして、ウタが「スタートに戻る」のマスに止まってしまったので、一度双六は中断する。テルは、なんで「双六」と書いて「すごろく」と読むのだろうと尋ねる。するとウタは、2つのサイコロを振って、2つとも6だったら凄いから「すごろく」というのだと説明する。

姉妹たちは、とある昔のラジオを見つけてスイッチを入れる。すると、ラジオから数年前の火事についてのニュースが流れてくる。家には3人の幼い娘が花火をしていて、それによって火事が発生。3人の娘はその火事で死亡した。その火事は、父親の不注意であったとしてその父親は逮捕されてしまった。
ラジオからのニュースが終わると、三姉妹は明日しばらくぶりに父親と再会出来ることを楽しみにしていた。本当はあの火事の原因を作ってしまったのはウタだったとウタは自分でつぶやく。
テルはついに、今付き合っている先生として勤めている男性と結婚することを話す。それを明日再会出来る父親に伝えるのだと。先生である彼氏は、いつも仕事から帰ってくると職場の愚痴ばかりだと嘆く。そして今どきそんな先生いるのというくらい熱血な先生なのだと言う。

三姉妹たちは、今度はダウトを始める。複数回ダウトをするが、いつもウタは妹たちにダウトと言われて負けてしまう。なぜそんなに見破られるのかを妹たちに尋ねるウタ。すると、ウタが嘘を付いてカードを出すときは腕を回してから出すからだと言う。
しかし、ウタが次からはそうしないようにカードを出していても、妹たちには見破られてしまいダウトと言われて負けてしまう。妹たちは嘘が顔に出やすいウタを終始からかっていた。

次は三姉妹の彼氏の話になる。テルは、先生として働いている男性と結婚することになっており、ウタはとあるキャラクターに恋をしていた。そのキャラクターはイケメンとかではなく、太っちょなスーパーヒーローのような筋肉質な男だった。
一方ハナは、誕生日に窓から紙飛行機を飛ばしてくるような男が好きだった。ウタもテルも、そもそも窓を開けっ放しにしておくのは危険だと言いつつ、誕生日なのに紙飛行機だけ飛ばしてくる男はやめた方が良いと言う。しかしハナは、その紙飛行機に「I LOVE YOU」の文字が書かれていて、それにときめいているようだった。
ウタとテルは、ハナの言っている彼氏というのは本当に存在するのだろうかと疑う。そこからハナは自分のことを語りだし、そんな彼氏はいるはずがないと言い、だって三姉妹は全員火事で死んでしまったのだからと言う。

暗転

夜、窓の外から車のヘッドライトが差し込んでくる。そして何かが捨てられる。
隠れていた三姉妹が、車が通り過ぎたことを確認して出てくる。そこには雑誌が捨てられていた。その雑誌には、廃墟に棲み着く三姉妹の亡霊についての記事だった。三姉妹が住んでいるこの家は、心霊スポットとして周囲の人たちからは人気で噂されているようだった。

三姉妹たちはお菓子を食べ、飲み物を飲み干したあとで、明日久々に会う父親に自分の成長した姿を見せたいがために、白いドレスに着替え始める。
ハナは、結局自分の彼氏の情報の矛盾を突き止められ、彼氏の職業をスパイと言って追い詰められてしまった。三姉妹は白いドレスに着替えて楽しく過ごした。ここで上演は終了。

父親の帰りを待っていた三姉妹というのは、実は数年前に火事によって亡くなっていた三姉妹の幽霊だったということで、幽霊のまま三姉妹たちは成長してしまったので、現実世界の男性とは関係を築くことは出来ず、そんな結婚だったり男性と付き合うことを夢見て想像してくらす哀れな女性たちの物語だった。
個人的には、この脚本のポイントがそこだけしかなくて、それだけで90分もたせるのは非常に希薄な物語に感じてしまったのが勿体なかった。それに加えて、そんなに三姉妹というのは純粋なものなのかなと感じてしまった。というのは、男性と付き合って結婚してというある種テンプレートのような歩みに対して、そこまで希望を抱くものなのかと疑ってしまったから。これが出演者がもっと若くて20歳にならないくらいの学生であったらまだ観られたかもしれないが、正直良い大人の女性が、こんなにキャッキャしながら結婚や恋愛を想像するものなのかと思って、話の展開についていけなかった。
あとは単純に、三姉妹がただ駄弁っているシーンが多くて、役者推しで観に来た訳ではなかった私にとっては合わなかったのが残念だった。

写真引用元:ステージナタリー T-works「三文姉妹」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

非常に手作り感のある舞台装置と、効果的な照明・音響演出が印象的だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ一面が三姉妹の住む廃墟の家になっていた。
一番下手には窓が設置されていて、その外から車のヘッドライトが差し込むシーンがある。先ほど触れたように、車のヘッドライトは心霊スポットだと思って訪れた人々であろう。そしてこの窓は、カーテンコールでは3人の役者の捌け口になっている。
その上手側には、デハケが一つあって、そこから捌けて登場する役者たちは皆白いドレスに着替えていた。その捌け口の手前側には一つの食卓があって、三姉妹たちはそこでお菓子を食べたり、飲みのもを飲みながら駄弁ったり、序盤のシーンでは双六をやっていた食卓である。
さらにその上手側には、奥側にはダウトを3人でしていた空間があって、その手前側にはダンボールなど様々なものが散らばったスペースがあった。
全体的に今まで自分たちで持っていた私物を持ち寄って家を再現したような、かなり生活感のある廃墟といった印象を受けた。廃墟の家の壁も凄く手作り感のあるような温かい印象を受けるつくりがあって、可愛らしい舞台装置だと感じられた。

次に舞台照明について。
特に印象に残っているのは、序盤で三姉妹たちがラジオで数年前の火事についてのニュースを聞いている最中に、ストロボのような明かりで速い速度で点滅させながら三姉妹たちに当たっていた照明。不気味なオーラを上手く醸し出した演出で印象に残った。
あとは、窓の外から車のヘッドライトが差し込むような照明の当て方が上手いと思った。本当に窓の外に車がいるような感じで、ライトが奥から手前へ移動してくる移動の仕方と照明の色彩まで素晴らしかった。
一番下手の天井近くのパネルに設置されていた無数の豆電球のような明かりも、非常に手作り感を感じさせてくれて好きだった。

次に舞台音響について。
舞台音響で印象に残ったのは、ラジオから流れるニュースの音声。凄くラジオっぽさを上手く音声で再現していて、あの不気味さが好きだった。
特に音楽が劇中流れるようなことはなかったと記憶している。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

三姉妹を演じた女優全員素晴らしかった。全体的に、やっぱり3人とも非常に仲が良さそうで、だからこそ素に近い形で楽しんでいる様子を演技として拝見出来たような気がする。
3人しかいないので、全員について触れていく。

まずは、ウタ役を演じたシバイシマイの是常祐美さん。是常さんの演技は、江古田のガールズの『12人の怒れる女』で一度拝見している。
黒縁メガネをかけていて、決して劇中では美人とは呼べない不器用な感じの女性役を演じるのだが、だからこそ親しみを感じやすいキャラクターだったように思える。特に、ダウトで負け続けるシーンのウタのからかわれる感じは非常に印象に残ったし、好きだった。
あとは、ラストはウタも白いドレスに着替えて父親に自分の晴れ姿を見せたいというピュアな願望が表れていて、そのシーンも印象的だった。

次に、テル役を演じた丹下真寿美さん。丹下さんの演技も江古田のガールズの『12人の怒れる女』で一度拝見している。
三姉妹の中で、テルが一番賢い感じがする姉妹だった印象。設定上は先生と付き合っていてもうすぐ結婚という段階。どちらかというと長女のウタよりも次女のテルの方が姉妹を取りまとめている感じがした。

最後に、ハナ役を演じた演劇集団キャラメルボックスの原田樹里さん。原田さんの演技は、キャラメルボックスの復活公演『サンタクロースが歌ってくれた』で一度拝見している。
原田さんの演技も凄く純粋さが伝わってくる演技だと感じた。そして少し天然な感じも好きだった。例えば、イメージしている彼氏が結局職業をスパイとしか説明出来なくなってしまって嘘がバレてしまうあたりは特に好きだった。
あとは凄く原田さんの笑みも素敵だった。本当に三姉妹で話すこと、そして彼氏を想像して白いドレスに着替えるところ、凄くそれを心から楽しんでいる感じがあってそれが小劇場だったからこそ観客にまで物凄い近い距離感で伝わってきた。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは今回の舞台作品全体を通して自分なりに感じたことを考察する。

「はやく起きた朝は...」というフジテレビ系列の、磯野貴理さん、松居直美さん、森尾由美さんが出演しているトークバラエティ番組がある。かなり昔からやっているこの番組は、3人の女性たちがひたすらフリートークを繰り広げる番組なのだが、私は今回の『三文姉妹』を観劇してそれと同じ感覚を受けた。
「はやく起きた朝は...」に関しては、それはそれで良い番組だと思っていて、テレビなので映像ということで距離感もあるし、お三方のファンも楽しみにしている番組として成功していると思う。
しかし、『三文姉妹』に関しては、非常に小さな小劇場であるに加え、ザ・プラン9の久馬歩さんが脚本を担当しているということもあって、私としてはキャストの演劇が観たいという理由ではない理由で観劇していた。
しかし、ちょっと脚本内容が姉妹を美化し過ぎていてリアリティに欠けているように感じたのと、どうしても90分間ただのフリートークのようなラフな会話が続くような展開にはちょっと飽きてしまった。おまけに、小劇場なので乗れないと観客はおいていかれた感じを強く受けるので、キャストたちがいくら面白おかしく笑っていても乗れないとちょっと苦痛だった。
あとは、これを20歳手前の大学生などが上演するのならまだ観られたかもしれないけれど、30歳超えの良い大人がこういった三姉妹を演じている点にも違和感を抱いた。

三姉妹いたら、仲良くやる姉妹もいると思うけれど、少なくとも父親の帰りを待っているようなあそこまで純粋な女性には成長しないような気がする。もしくは、子供のときに火事で死んでしまったという設定なのだから、一切外の世界との交流が出来ない訳なので童心のまま大人になったからあのような成長の仕方なのかもしれないとも考えたが、それでも違和感は払拭出来なかった。
三姉妹の物語を作るのであれば、もう少し脚本を書くときに姉妹というのをリアルにするために取材とかして欲しいし、この三人のそれぞれのキャラクター性の違いをもう少し深堀りして描いてくれればもっと楽しめたと個人的には思う。ちょっと物足りなかった。


↓是常祐美さん、丹下真寿美さん過去出演作品


↓原田樹里さん過去出演作品


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