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舞台 「サンタクロースが歌ってくれた」 観劇レビュー 2021/12/26

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【写真引用元】
キャラメルボックスTwitterアカウント
https://twitter.com/caramelbox2019/status/1460495849495035905/photo/1


公演タイトル:「サンタクロースが歌ってくれた」
劇場:サンシャイン劇場
劇団・企画:演劇集団キャラメルボックス
作・演出:成井豊
出演:多田直人、畑中智行、阿部丈二、森めぐみ、林貴子、石森美咲、木村玲衣、山本沙羅、原田樹里、関根翔太、岡田さつき、筒井俊作
公演期間:12/11〜12/12(兵庫)、12/22〜12/26(東京)
上演時間:約120分
作品キーワード:ミステリー、コメディ、ラブストーリー、クリスマス
個人満足度:★★★★★★★★☆☆


日本の演劇界を代表する演劇集団キャラメルボックスの公演を初観劇。
実は成井豊さんの脚本、演出作品の観劇自体も初めて。
キャラメルボックスの存在は随分昔から知っていて一度は観劇してみたいと思っていたけれど、2019年5月に活動を休止してしまってから観劇のタイミングが合わず、今回復活公演が行われると聞いて迷いなく観劇することにした。

復活公演で上演された演目は、劇団の代表作であり且つクリスマスシーズンにピッタリの「サンタクロースが歌ってくれた」。
物語は、クリスマスイブの日にOLのゆきみ(森めぐみ)が友達のすずこ(林貴子)を映画に誘ったものの定刻を過ぎても現れなかったため、一人で「ハイカラ探偵物語」を観ることになるが、その映画に登場する怪盗「黒蜥蜴」がどうやら銀幕の外へと飛び出して(映画の世界から現実世界へ飛び出して)しまったらしいという展開に。
映画に登場する人物たちも銀幕を飛び出し、ゆきみと共に怪盗「黒蜥蜴」を追うという物語。

私が観劇したのが東京公演の千秋楽(大千秋楽)ということもあって、大勢のキャラメルボックスファンの熱狂の中の観劇ということもあったせいか、ステージと客席が一体となった盛り上がりに圧倒され、ファンたちの温かさを非常に感じさせられる観劇体験だった。
本当にファンの方たちが温かくて、キャストたちが今作の名場面や見どころを披露する度に拍手喝采が巻き起こっていた。
復活公演ということもあって、ラストの方では観客からのすすり泣きも絶えなかった。
舞台/演劇は観客が揃って初めて作品として完成するという言葉を聞いたことがあるが、今回の観劇はまさにそれを実感した体験となった。
感染症拡大による緊急事態宣言の発令で、舞台の延期が余儀なくされたり無観客での上演ということもあったが、やっぱり演劇は有観客でやってこそということを改めて思い知らされた。

作品としてもサスペンス、コメディ、ラブストーリーといった様々な要素を多く取り入れたエンタメ性に飛んだ内容で面白く、なんと言ってもキャスト陣の演技力の高さとアドリブ力に驚かされた。
そしてみんな面白い個性を持っていらっしゃる。
特に警部役を演じた阿部丈二さんは印象に残っていて、ほとんどストーリー進行の上で重要な役割を果たしていないのに、馬鹿げた言動ばかりしているから一番目立っていた。
とても好きなキャラクターだった。
そして芥川役を演じた多田直人さんのイケメンだけれどイジりたくなってしまうキャラクター性も好きだった。

これは舞台を観たことがない人にとっても十分楽しめる作品だと思うので、舞台好きにはもちろんのこと観劇初体験の人にもオススメしたいくらい素晴らしい作品だった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458401/1726928



【鑑賞動機】

日本を代表する演劇集団キャラメルボックスの復活公演だったから。これだけ観劇しておいて、キャラメルボックスを観たことがない、成井豊さんの作品に触れたことないはちょっと恥ずかしかったので、迷いなく公演チケットを予約した。
期待値は非常に高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

クリスマスイブの日、恋人のいないOLのゆきみ(森めぐみ)は映画「ハイカラ探偵物語」を一緒に観ようと、同じくOLで友達のすずこ(林貴子)に電話をかける。寝巻姿で電話に出るすずこは、居もしない彼氏とイチャついているかのような演技をしながら電話越しでゆきみと会話する。そしてなかなか映画を一緒に観ようと返事をくれないすずこ。そこでゆきみは映画観た後に食事を奢ることを提案すると、すずこは態度を変えて映画を観に行くことに賛成する。

ゆきみが観てみたいと言っていた映画「ハイカラ探偵物語」とは、次のようなストーリーだった。
大正時代のクリスマスイブ、華族(近代日本の貴族階級の一族)である有川家の家宝である宝石「ラインの雫」を午前0時に盗むと、怪盗「黒蜥蜴」から予告状が届く。慌てた有川家の奥様(岡田さつき)は、警視庁から警部(阿部丈二)を呼んだが非常に頼りにならない警部だった。そこで、有川家の令嬢であるサヨ(石森美咲)は友人のフミ(木村玲衣)に、彼女のフィアンセである小説家の芥川(多田直人)に探偵役をお願い出来ないかと相談する。芥川は快くその依頼を引き受け小説家志望の太郎(畑中智行)と共に有川家へと向かった。

ゆきみは待っても待ってもすずこがやって来ないことに腹を立てていた。映画上映開始から10分が過ぎてもすずこはやって来なかったため、ゆきみは一人で映画館へ入ることにする。
映画は、丁度序盤のクライマックスに差し掛かる所だった。有川家に警部、芥川、太郎などが集まっていた。午前0時に怪盗「黒蜥蜴」が現れるとのことだったので、「ラインの雫」が盗まれないようにと箱を9つ用意して、今屋敷にいる9人が一つずつ持って本物の「ラインの雫」がどこに入っているのか探しにくくする策を講じた。
午前0時になったその時、屋敷は真っ暗になってしまう。一堂はまさか、この策すらも怪盗「黒蜥蜴」は見破っていたのかと慌てる。そして辺りが明るくなる。箱の数を数えてみると、9つあった箱が8つになっていることに気がつく。一堂はまんまと怪盗「黒蜥蜴」に策を見破られ、「ラインの雫」が盗まれてしまったことに衝撃を受ける。屋敷の中に怪盗「黒蜥蜴」が紛れ込んでいたのだと。
色々な人物が怪盗「黒蜥蜴」なのではないかと疑いをかけられる中、メイドのミツ(原田樹里)がこの部屋からいなくなってしまっていることに気がつく。あのメイドのミツが怪盗「黒蜥蜴」だったかと急いで捜索するが、部屋の扉は締め切りになっていたためどこから逃げ出したのか謎であった。

そこで芥川は、ミツは「ラインの雫」を持って銀幕の外へ飛び出したのではないかと言う。銀幕の外には一人の女性(ゆきみのこと)もいるし、彼女とも接触して銀幕の外へ飛び出してミツの行方を追ってみようと言う。ゆきみはいきなりの展開にビックリ仰天する。
一堂は何やら怪盗「黒蜥蜴」からと思われる暗号を見つける。その暗号をモールス信号で解読すると、どうやら「監督」という言葉が浮かび上がって来たので、きっとミツは映画「ハイカラ探偵物語」の監督の元へ向かったのだろうと推測した。
芥川、太郎、そして警部は銀幕の外へ飛び出してミツを追うために監督の元へ向かう。芥川、太郎は問題なく銀幕の外へ出られたものの、警部だけまるで窓ガラスにぶつかるかの如くすんなりとは飛び出せなかった。3人はゆきみと共に、ミツが向かったであろう監督の元へ向かうために劇場を去る。

一方、すずこは30分くらいの遅刻で映画館の近くにやってきていた。その時、映画館の中からミツが飛び出して来るのを見かける。すずこは彼女がメイドのミツであるということを知らない。すずこは一冊の本を興味深く眺め、読み上げる。それは、映画「ハイカラ探偵物語」の原作となる小説であった。
ミツはすずこにその小説の犯人を聞く。すずこは犯人はメイドのミツであることを告げる。そして、すずこはこの小説はあまり好きではないと答える。
犯人がミツであることを聞いたミツは、顔色を変えて急いでその場を走り去った。

映画の中の有川家の屋敷では、フミが芥川に対して恋心を抱いており、ずっと彼のことについてサヨとメイドのハナ(山本沙羅)と奥様で話をしていた。
そしてそんなに芥川のことが好きであるのなら、いっそ銀幕を飛び出して芥川を追いかけたらよいのではということになり、フミ、サヨ、ハナも銀幕の外へと飛び出して芥川を追うことになる。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458401/1726927


芥川たちはタクシーでミツを追うことにしようと言うが、警部がボケたことばかりしていて一向に進まない。
そんな中、芥川はなぜミツが監督の元に向かったかを推理しながら、怪盗「黒蜥蜴」というのはミツではなく誰か別に黒幕として存在するのではないかと疑い始める。そしてその黒幕は、ミツが監督に会うことを妨害するはずなのではないかと。
芥川たちはミツを発見する。その時、太郎がミツをしっかりと拘束し、自分が本物の「黒蜥蜴」であることを告げる。ミツは映画が上映される度に何度も何度も死ぬ運命にあることが嫌だった。しかもそれは、黒幕である太郎が本物の「黒蜥蜴」であるということがバレないために。そのため、ミツは監督の元へ向かって脚本を書き換えてもらうようお願いをしに行こうとしたのである。
しかし太郎にとっては、脚本を書き換えられて自分が「黒蜥蜴」であるという設定に変更されることを嫌って、ミツの監督訪問を阻止しようとしたのである。

その頃、ゆきみは監督(筒井俊作)の家を訪れていた。監督はサンタクロースの格好をしていた。息子には自分がサンタクロースなのだと告げていて、外には沢山のプレゼントを詰め込んだクレーン車があるようだ。
そこに監督の妻(岡田さつき)もやってくる。妻はゆきみを見て、女優としての素質がありそうだと褒める。ゆきみは監督の元にミツが来ていないかと尋ねるが見ていないと言う。
そこへすずこも監督の家の元にやってくる。ゆきみとすずこがばったり会ったことでゆきみは怒りがこみ上げてすずこと取っ組み合いを始める。その光景を見て妻は、人の家で喧嘩するのでないとキツく叱りつける。

監督の家を去って芥川たちの元に向かったゆきみとすずこだが、芥川はミツを連れた太郎が総武線に乗り込んで去ってしまう光景を目の当たりにする。ホームの向こう側であった。太郎は電車の窓に「TV」という暗号を残して去っていく。
警部は太郎たちを追いかけようと電車に乗り込むが、乗り込んだ電車は東西線であったため太郎たちが向かった先とは別方向に向かってしまった。なんとか戻ってこようと電車の中を逆走するが叶わなかった。
芥川は太郎の残した暗号の「TV」から、彼らが「テレビ明後日」のテレビ局に向かったと推測して向かうことになる。

芥川とフミが会う。
フミは芥川とお互い蜘蛛の巣を眺めながら語り始める。そしてフミは芥川に思いを伝える。

芥川たちはあと20分で太郎を見つけて映画の世界へ連れ戻さないと存在が消えてしまうということで、急いで太郎とミツの捜索にあたる。テレビ明後日のテレビ局からやってきたテレビ局員の関根(関根翔太)も加わって捜索にあたる。
なんとか彼らを見つけ出す。そしてサヨが「ラインの雫」をミツから受け取る。
映画館へと引き返し全員でギリギリ銀幕の中に戻っていく。映画の中で留守番していた奥様と巡査(関根翔太)はいい感じだったようだが、皆が戻ってきたことで迎え入れる。
そして、銀幕の外でゆきみとすずこは別れを告げる。芥川は最後にこう言う。「僕が本物のサンタクロースだ」と。ここで物語は終了する。

ストーリー後半は展開が早すぎて追えていない箇所もあったが、雰囲気は上記のようだったかなと思う。
太郎という小説家志望が後の江戸川乱歩になるという設定だが、最初の「ラインの雫」が盗まれるシーンは江戸川乱歩の「怪人二十面相」のあらすじにも似ていて楽しかった。「怪人二十面相」では、やはり麻布にあるお金持ちの邸宅に宝石を盗む予告状が届いて、午前0時ぴったりに怪人二十面相が盗み出すという設定だったので、お金持ちの家と、宝石と、午前0時にという点が似ていた。もちろん、成井さんが江戸川乱歩の「怪人二十面相」から今作の着想を得ているとは思うが、太郎という後の江戸川乱歩を登場させることで、この「ハイカラ探偵物語」を機に「怪人二十面相」が誕生したんだということを暗示してくれるような作品であることが素敵だった。凄く江戸川乱歩をリスペクトしているようにも感じられたし、成井さん自身が日本文学が大好きなのだろうなという印象も受けた。
芥川という小説家を登場させているということは、芥川龍之介の「羅生門」や「蜘蛛の糸」と関連するエッセンスもおそらく今作にあると思うのだが、如何せん私がその2つを読んだことがないため、そこまでは追えなかった。
また役者が、物語中の登場人物で呼ばれたり本名で呼ばれたりと、物語の世界と現実の世界を行ったり来たりする台本も素敵だった。それが加わることによって、ある種登場人物としてのその人を観ているというよりは、俳優としてのその人を観ている感じにさせられるので、役者に対して親近感が湧いた。「多田は1円単位で割り勘する男」とか、畑中や関根が登場したりなど、俳優としてのその人がそのまんま登場していて楽しかった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458401/1726932


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

非常にエンターテインメント性に飛んだ舞台演出で、特に照明、音響の迫力に圧倒された。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出の順番で見ていくことにする。

まずは舞台装置から。
巨大なパネルが一枚ステージ背後に置かれているのみで、ステージ上は広々していて俳優たちが自由に駆け回れる、動き回れる舞台空間の使い方だった印象。その巨大なパネルの装飾は、中央に大きな時計盤のような羅針盤のような円状のオブジェが存在し、その背後のパネルは大正時代の豪華な屋敷の障子を模したような碁盤の目のような模様の入った装飾だった。そして、上手側と下手側両方にデハケが存在していた。ミツがいなくなってしまったシーンで、扉は閉ざされたままだったという箇所で使われたデハケである。
もちろんパネルの装飾としても素晴らしかったのだけれど、サンシャイン劇場という大きなステージ上に特に込み入った舞台装置を置くことなく、ステージ一面を使いながら役者を動き回らせる舞台空間の使い方って素敵だなと感じた。野田秀樹さんが主宰するNODA・MAPや、杉原邦生さんが演出する作品が割と役者を動き回らせる系の芝居を創作する印象があってステージ上を目一杯使う感じだと思っていたが、キャラメルボックスもそんな劇団のうちの一つなんだなと感じた。

次に衣装。
後述する舞台照明や舞台音響、そして今作のフライヤーもそうなのだが、全体的に1990年代のレトロっぽさを感じさせる演出が詰め込まれており、衣装も例外ではなかったかなという印象である。
まず印象に残ったのが警部の衣装で、あのスーツの感じとか、髪型と、そして特に髭の生やし方が明らかにイマドキ風ではなく古風なオーラを感じさせる辺りが好きだった。ちょっと夏目漱石っぽい感じ、とても突拍子もないことばかりするけれど、凄くレトロ感溢れた衣装に魅力を感じた。
ゆきみとすずこの2人に関しても、こちらは時間軸で言えば現代を生きる女性なのだが、どことなく冬のレディースファッションの感じが1990年代っぽさを思わせる。メイクとかもちょっとイマドキではなく、少し昔の1990年代の感じがあるような気がしたのは気のせいだろうか。スマホを使っているし、マッチングアプリの話もしていたのでそこは2020年代って感じがするのだが、ファッションは1990年代を感じた。でも違和感はなくて、作品自体が1990年代のものだからなんとなくストーリー的な部分でハマっているように感じたのだと思う。うまく言語化出来ないけれど。
また、サヨとフミの着物姿も美しかった。ここは凄く大正時代という感じを想起させる衣装で素敵だった。
また監督のサンタクロース姿も似合っていて印象的だった。

次に舞台照明。
照明は色とりどりのカラフルな演出が加えられていて、まるで劇団四季のミュージカルのような豪華な舞台空間を堪能している感覚を覚えた。
映画館内の「ラインの雫」が盗み出されるシーンでの照明演出は、割と青っぽいものが多かったかなという印象。青くてちょっと暗い感じがシーンにピッタリと合っていた。
後は音楽に合わせて照明が変わる演出は本当にミュージカルのようなエンタメ要素たっぷりの豪華な演出だった。
あとはスポットが当てられるシーンが多かった気がする。銀幕の外へ飛び出す時のシーンで、そのキャストや銀幕の外に飛び出した手だけスポットが当たるみたいな演出で。やはりステージが広いから役者がポツンと立っているシーンが割と多くて、そのときにキャストにスポットを当てていたシーンが多かった印象。

そして舞台音響。
クリスマスを題材とした作品ということで、クリスマスソングが多く使われていた。ちょっと曲名までは把握していないが、おそらくそうだったと思われる。そしてその音楽も、1990年代のJ-POPといった印象でレトロっぽさを感じさせる演出が好きだった。
その他の効果音としては、銀幕の外へ出るときの効果音と、電車の音と、スマホの電話の音くらい。とにかくクリスマスソングの比重が大きかった印象。
あとは前説で、西川浩幸さんが声の出演をされていた。キャラメルボックスファンからは大きな歓声と拍手が上がっていた。

その他演出については、まず一番印象に残ったのは、警部を演じた阿部丈二さんが間違えて東西線に乗ってしまって必死に電車の中を逆走する時の演技。背後の照明の当て方によってまるで電車が走っているかのような演出の中で、警部が必死で前進しようとしてもどんどん電車の進む方向へ流されていってしまう演技が非常にコミカルで好きだった。その逆走の仕方も色んなパターンがあって、例えば単純に走り込んで逆走したり、電車の吊り革に掴まって逆走したりと、バリエーションがあるのが面白かった。素晴らしい名シーンだと思う。このシーンが終わった後に拍手喝采が起きていた。
あとは、最近追加したと思われる内容を台詞にしてしまうというアドリブ力の強さも感じた。序盤のシーンで、すずこが「錦鯉の長谷川」を話題にしていた台詞があって、先日M-1グランプリで優勝したコンビをいち早く台詞に加えられてしまう瞬発力が素晴らしかった。おそらく兵庫公演ではまだM-1の決勝は行われていなかったので、東京公演のみの台詞差し替えだったのだと思う。
あとは最後のシーンで、芥川が「僕が本物のサンタクロースだ」的な台詞を発した後に、スクリーンが降りてきて「The end」と映像が投影される演出も印象に残った。その「The end」の映像もクリスマスっぽさがあって好きだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458401/1726933


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

キャラメルボックスの復活公演ということで、キャラメルボックスに所属する劇団員のみで挑んだ今作であったが、キャスト一人ひとりの演技力はもちろん高いのだけれど、非常にキャストたちの仲の良さというものを存分に感じ取ることが出来て、だからこその勢いと迫力が舞台全体から放出されていた感じがあって、とても活気に満ちた舞台作品に感じた。
これはキャラメルボックスというカンパニーだからこそ出せる圧と熱気と迫力を感じた。
特に印象に残ったキャストについて見ていく。

まずは、芥川を演じた多田直人さん。多田さんの名前は以前からずっと聞いたことがあったが、演技を拝見するのは今作が初めて。
とてもイケメンなので、キャラメルボックスファンからの支持も凄まじいものだった。彼が芥川役として登場するシーンでの拍手喝采は、それだけ彼のファンが多いということもあると思うし、頷けるだけの演技力の高さと格好の良さを感じた。
イケメンなのだけれどクールという感じではなくて、「多田は1円単位で割り勘する男」とか凄くいじられるキャラでもあって非常に好感度のもてるキャラクターだった。
またカーテンコールでの仕切り方が非常に上手い。こんなに終演後の切り盛りが上手い俳優を初めて観た。さすがはキャラメルボックスの公演という感じだった。

次に、警部役を演じた阿部丈二さん。演技拝見はもちろん初めて。
本当にずるい俳優だなと思った。こんなに何もストーリーに貢献していない役なのに目立てるってことがあるのだろうか。今作のことを思い出すと絶対に頭に警部役の姿が最初に思い浮かんでしまう。そのくらいインパクトが強くて面白いキャストだと思った。
銀幕の外へ飛び出す時に一人窓ガラスにぶつかったようになって気絶するあたり、タクシーを呼ぶシーンでひたすらボケるあたり、例の東西線逆走の下り、そこからの髪グシャグシャで帰ってくる辺りなど、面白いシーン満載で非常に素晴らしい俳優だった。

太郎役を演じた畑中智行さんも演技拝見は初めて。今作のキャスト陣の中で一番クールな役者・キャラクターだったかなという印象。なんとなく序盤からこの人「黒蜥蜴」怪しいなと勘付いていたが、想像通りだったという結末。
凄く落ち着きがあって、風貌も相まってどっしりと構えた感じの印象に好感が持てた。

OLに役を演じた、ゆきみ役の森めぐみさんとすずこ役の林貴子さんは、自分の中で今回最も素晴らしいと思ったキャストかもしれない。
彼女らの会話、やり取りは本当にエネルギッシュで元気一杯で観ていて凄く元気を貰えた。これだけ大きな声で叫んだりはしゃぎ回れたら、そりゃ気持ち良いだろうなとずっと思っていた。
森めぐみさんは、凄く普通のOLを演じてるといった感じで、だけどマインドは物凄くピュアだから安心して観ていられた。
林貴子さんはどちらかというとコメディよりの、笑いを取りに行く女優といった感じ。序盤の寝巻姿でのエア彼氏とのイチャつきとか、錦鯉の長谷川の下りとか、笑える要素てんこ盛りで素晴らしい女優だった。
ピュアなゆきみとお笑い担当のすずこというバランスが丁度良かった。

女学生役を演じた、フミ役の木村玲衣さんとサヨ役の石森美咲さんも好演が光っていた。石森さんはUzumeの「マトリョーシカ」で1度演技を拝見していて、その時非常に素晴らしい女優だと思っていたので、キャラメルボックスでこうして再び演技が観られて幸せだった。
フミ役の木村さんのキャラクターは、イケメン芥川に恋する乙女といった感じ。あの透明感があって透き通るような演技に完全に魅了された。特に印象に残ったのは、芥川とフミの2人きりのシーン。蜘蛛の巣の会話や気持ちを伝えるシーンは本当に心動かされた。
一方、サヨ役の石森さんのキャラクターはというと、フミとは対照的でお転婆娘の役。体を張った演技や男勝りな言動が多くて、「マトリョーシカ」の印象から見るとちょっと意外だったけど、またそれが良かった。違う一面を楽しめた。ただ千秋楽だったせいかだいぶ声を枯らしていた。きっと復活公演ということで気合が入りすぎたのかななんて想像するのも面白かった。

最後に、監督役を演じた筒井俊作さん。アンタッチャブルの山崎に似た印象。
太っちょな体型を活かしたネタと演技が面白かった。サンタクロースの格好をしているのに、やたらと動き回って喋り続ける姿が滑稽だったし、仰向けからジャンプして立ち上がる「跳ね起き」に失敗する姿や、監督の妻にちょっと湿っぽいと言われる辺りも非常に面白かった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458401/1726930


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

演劇集団キャラメルボックスのカンパニーの仲の良さと、キャラメルファンの温かさを存分に感じさせられた観劇体験だった。これが日本の演劇界を代表するキャラメルボックスなのかと、なんて良いカンパニーなんだとつくづく感じた。
演劇はお客さんが揃って初めて作品として完成すると言われるけれど、これほどこの言葉に合った観劇体験を今までしてきたことがなかった。そのくらいキャラメルボックスという存在を形作る上で、ファンの存在って不可欠だと感じさせられた。
今回は私が観劇中に体験した、劇団員とファンの温かさを感じたエピソードについて書いていこうと思う。

まずは前説でキャラメルボックスの看板俳優である西川浩幸さんが声の出演として登場する。そこで客席から歓声と拍手があがった。キャラメルボックス初期の頃から在籍している俳優さんなので、ファンの間でも凄く親しみのある俳優さんなのだと思う。プチサプライズ的に声の出演として登場したので、特に西川さんファンにとってはこの上ない喜びだったのだろう。

劇中で、「ハイカラ探偵物語」のあらすじをゆきみが説明するシーンがあるが、そのときに芥川を演じる多田直人さん、太郎を演じる畑中智行さん、警部を演じる阿部丈二さんが登場する際に、やはり客席から拍手が巻き起こった。まるでアイドルのようである。考えてみれば、今まで主要キャストの登場シーンで拍手が起こることって観たことがなかった気がする。そのくらいファンから愛されているということでもあり、皆この「サンタクロースが歌ってくれた」という演目をよく知っているから、ここであのキャストが登場すると推測出来るから、待ってましたとばかりに拍手をするのだと思った。
そこには、キャストが愛されているというのももちろんあるのだが、この演目が何度も上演されていて愛されているという部分もあると思っていて、だからこそ登場シーンにみんなで拍手をする文化というものが生まれたんじゃないかと思っている。非常にキャラメルボックスの歴史の長さも感じさせる登場シーンで凄く好きだった。
そして名場面ごとに拍手喝采が起きるのである。警部が東西線に間違えて乗ってしまって逆走するシーンや、それ以外にも拍手が起こるシーンってあったと思う。それもキャラメルボックスファンは物語の内容を熟知しているので、その名シーンをこうしてまた生で観れたという感動に拍手をしているのだろう。

そしてカーテンコールである。カーテンコールでは、キャスト全員が客席に向けて挨拶をしていた。その時に仕切りをしている多田さんはとてもイケメンで格好良くて面白かった。そして、キャストがアドリブで面白おかしいことを言っても周囲がカバーしてくれる優しさと仲の良さも本当に素敵だった。結構カーテンコールの役者の挨拶ってしどろもどろになりがちなので、あそこまで終演を迎えた役者たちだけで上手く会話を回すのは至難の業だろう。それくらい慣れていて、仲が良いからこそ出来るカーテンコールなんじゃないかと思う。

このファンの温かさと劇団員の仲の良さって、やはり長い年月をかけて築き上げてきたものだと思った。そう考えると、2019年5月のキャラメルボックスの突然の活動休止が、ファンにとってどれほど辛く悲しいニュースであったかが思い知らされる。
キャラメルボックスが復活公演を果たすことが出来て改めて本当に良かったと思っているし、これからも日本の演劇界を牽引していくような劇団として活躍していって欲しいと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458401/1726929


↓石森美咲さん過去出演作品


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