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舞台 「怪奇星キューのすべて」 観劇レビュー 2023/08/05


写真引用元:南極ゴジラ 公式Twitter



写真引用元:南極ゴジラ 公式Twitter


公演タイトル:「怪奇星キューのすべて」
劇場:北千住BUoY
劇団・企画:南極ゴジラ
脚本・演出:こんにち博士
出演:ユガミノーマル、瀬安勇志、藤井優香、端栞里、和久井千尋、瀬戸璃子、九條えり花、揺楽瑠香、古田絵夢、TGW-1996、こんにち博士、ミワチヒロ
期間:8/3〜8/6(東京)
上演時間:約2時間30分(途中休憩10分)
作品キーワード:SF、ホラー、舞台美術、難解、体験型演劇
個人満足度:★★★☆☆☆☆☆☆☆


2020年春に劇団化した若手劇団である「南極ゴジラ」の演劇作品を初観劇。
「南極ゴジラ」はこんにち博士さんが作演出を務める劇団で、劇団員は9人+1台の構成。2022年の佐藤佐吉祭では、「最優秀作品賞」「最優秀賞演出賞」など5部門での受賞がある。
今回の上演は、普段関西で活動している彼らが東京で上演する2度目の公演となっている。

今回の物語は、「こわい星」を舞台にしたSFホラー演劇。甘電池(ユガミノーマル)と森山ボンド(瀬安勇志)とUB(藤井優香)の三人の宇宙飛行士は、月でのミッションを終えて地球に帰ろうとしていた。
しかし、地球からは月の影になってしまって見ることのできない場所から救難信号を感知する。
彼らはその救難信号に引き寄せられるかのようにして、信号が発信される方向へと向かう。
そして彼らがたどり着いた星は、衣、食、住、怖と「怖い」という感情が非常に重要視される世界。
この「こわい星」を脱出するためには、K-1グランプリという最も怖いネタを披露して優勝して宇宙船を得ることでしか帰還出来る道はないというもの。

北千住BUoYという銭湯の跡地を劇場にしたユニークな会場にふさわしい、変わった演出が多数用意されていて、今まで経験したことのない観劇体験を沢山堪能した。
まず、世界観として非常に1980年代の古いSF映画の世界に潜り込んでしまったかのような演出が好きだった。
照明もなにやら怪しい色の黄色やブルーやらが至るシーンで見受けられて、舞台空間の作り方は非常にセンスを感じられて良かった。
その他に、上演するステージが複数用意されていて、上演中に客席を移動する時間があって、そこで観客が移動することによって再び劇が再開するというかなりユニークな演出があった。目新しい観劇体験という意味では挑戦的で良いのだが、それによって集中力が途切れて没入感は下がってしまうので、なかなか作品に引き込まれづらい部分は私の好みとしては合わなかった。
また、それによって客席を何度も移動するので、シーンによっては見えにくいシーンも沢山あって、そこに対してもストレスが溜まってしまった。

役者陣のキャラクター設定は濃ゆいのだが、脚本がちょっと咀嚼できなくて、もう少し解釈を観客が想像しやすい形で上演された方が面白く感じたように思う。
前半の昔のSF映画のように得体のしれないシーンが連発するのは良いのだが、そこがもう少し伏線として回収された方がより楽しめたと思う。

ただ、生演奏としてそういった楽曲を演奏できてしまうレベルの高さ、得体の知れない舞台空間をしっかりと統一感ある形で作り上げる演出力は素晴らしいもので、たしかに演劇創作者としての実力を痛感した。

新しいことに挑戦しまくっていて、上手くいっているものとそうでないものが混在していて、結果私個人としては満足度は下がってしまったが、沢山挑戦して失敗して唯一無二の演劇団体として成長していって欲しいと思う。
これからの活躍が楽しみな劇団である。

写真引用元:ステージナタリー 南極ゴジラ「怪奇星キューのすべて」より。(撮影:松下奈央)





【鑑賞動機】

「南極ゴジラ」という若手劇団が注目を集めているのは、昨年から聞いていて、再び東京で上演してくれる機会がやってきたので、一体どんな作風で演劇を上演するのだろうと楽しみにしながら観劇した。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

甘電池(ユガミノーマル)と森山ボンド(瀬安勇志)とUB(藤井優香)は宇宙船に乗っていた。月でのミッションを終えて地球に戻ろうとしていた所だったが、月の裏側、ちょうど地球からは見えない場所から謎の救難信号を確認する。三人は叫びながらその救難信号は何なのかと会話する。どうやらその救難信号は、400万年前のソビエト連邦のスプートニク9号によるものだと言う。そして彼らは叫びながら、その救難信号が発信されている方向へと向かってしまう。

プールのような水が溜まったエリアから顔を出す甘電池。どうやらこの星は、窒素と酸素と二酸化炭素が8:1:1で構成されていて、人間が吐き出す空気の構成割合と近く、人間が息ができるくらいの空気があった。そこには、湯気(九條えり花)というポセイドンのような格好をした住人がいた。甘電池は、今自分が這い上がってきた水場がプールであることを湯気から知らされる。
そして、そのプールから森山も顔を出す。そして森山もやっとの思いで地上に這い上がってくるが、すぐさまプールに住んでいたカッパのような茶色い怪物に襲われ、再びプールに引き摺り込まれてしまう。
最初森山とカッパのような怪物の存在に気が付かなかった甘電池だったが、湯気に教えられて気がつき森山を助ける。
どうやら湯気も甘電池たちの味方ではなく、刺股のようなものを使って湯気は甘電池たちを攻撃しようとするが、誤って刺股の電気ショックみたいなものを自分で喰らってしまって自滅する。

ここで観客は別の客席に移動して、上演が再開する。

甘電池と森山が歩いていると、向こうから一人の女性がやってくる。エレクトリカルパレード(瀬戸璃子)と名乗るその女性の後ろには、どうやら宇宙船があるようである。甘電池たちは一刻も早くこの星を脱出したいので、その宇宙船が欲しいと言う。しかしエレクトリカルパレードは、この世界が「怖い」という感情が極めて重要視される世界で、K-1グランプリという怖い話を争うグランプリで優勝しないと手に入らないのだという。エレクトリカルパレードは、そのK-1グランプリでずっと優勝し続けてきて、宇宙船を持っているのだという。
その頃、砂漠で倒れていたUBは起き上がり、ずっと彷徨っていた。そこへ、野球のキャッチャーのような格好をした女性を見かける。こんな砂漠にキャッチボールをする野球選手なんていないだろうと、自分は夢を見ているのだと錯覚するが、そうではないようで、そこからキャッチボールをしている女性である焚火(端栞里)による怖い話が展開される。そしてそれと同時に、甘電池と森山の前にいたエレクトリカルパレードによる怖い話が同時進行で描かれる。

ここで再び観客は別の客席に移動して、上演が再開する。

この星では、衣・食・住・怖と言われるくらい怖いという感情が生活において重要であった。
誰も座っていない、非常にガランとした食卓が広がっている。そこには、顔に白い紙を一枚つけてまるでキョンシーのようになった男性が一人座っている。
そこに甘電池と森山はやってくる。そして食卓に座って食事を始める。
一方、UBは焚火を旅の仲間に迎えて街を目指す。UBたちは、ガソリンスタンドのようなものを発見する。牛乳のガソリンスタンドである。UBは、ケロッグをその牛乳のガソリンスタンドに当てて、牛乳を注ごうとするが出ない。
そこへスタイン(和久井千尋)というホルスタインと人間が混在したような怪人がやってくる。彼が、その牛乳のガソリンスタンドに牛乳を補給する。そしてUBと焚火たちはケロッグを食べ始める。
一方で、甘電池と森山は同じ食卓に座っていると、ビニール(揺楽瑠香)というピアニストがやってきて、この屋敷はここに白い紙で顔を隠しているマッド先生(TGW-1996)の屋敷であり、彼は目医者であるという。ビニール自身は、そのマッド先生にスカウトされたのだと。
マッド先生は起きて、いきなり甘電池を襲い、自分が今まで座っていた席に座らせる。そして、大きな注射で彼をブッ刺そうとする。目医者なのに注射はしないだろと甘電池はツッコミを入れる。次に、甘電池に視力検査でよく使う検査用の眼鏡をかけさせられる。そして、彼の背後には例の気球がくっきり見えたりぼやけたりする映像が映し出される。しかし、そこには男性の姿も映っていて、その男性が徐々に近づいてくる。そして消えたと思った次の瞬間、その黒い男性が甘電池の目の前に現れて、彼は絶叫する。

ここで再び観客は別の客席に移動して、上演が再開する。

UBと焚火は、さらにスタインを仲間に加えて街を目指す。そこへ頭にテレビを乗せたナショナル(古田絵夢)が現れる。彼女もUBたちと一緒に街を目指す。
甘電池と森山は、エレクトリカルパレードに言われたようにK-1グランプリで優勝してこの星を脱出するべく、怖い話が書ける脚本家を探していた。そこへ、浮藤翔太(こんにち博士)という冷蔵庫に閉じ込められた脚本家に出会う。甘電池たちは、彼に怖い話の脚本を書かせる。しかし、冷蔵庫の中にいる浮藤は途中途中凍ってしまって手が動かなくなってしまう。その度に森山はドライアイスみたいな煙を浴びせる。
いよいよK-1グランプリが開かれる。進行は、π(ミワチヒロ)という男がしている。エレクトリカルパレードと甘電池たちは怖い話を披露する。そして甘電池たちは見事優勝し喜ぶ。
しかし、喜ぶのも束の間どこからともなく男性の声が聞こえてきて、周囲が真っ暗になってしまう。

ここで幕間に入る。その間に、再び観客は別の客席に移動する。

400万年前にこの星にやってきたソビエト連邦の9号は、その39年前に生まれた。9号(端栞里)は、学校でいじめられていた。ある日、髪の長い女性も学校で孤立していたので、髪の毛を触ったら触るなと非常に怒られた。そこから、9号は怖いという感情に対して敏感になった。9号は髪の長い女性と賭け事をした。もし賭け事に負けたら髪を触ったことを言いふらすと言われる。
学校の授業では、シャトルランをやっていた。9号はやっとの思いで「ドレミファソラシド」と鳴り終わる前に向こう側にたどり着いていた。しかし体力も限界でギブアップした。

9号(ミワチヒロ)は大人になって、ソビエトの軍隊に入団していた。しかし、そこでも孤立してなんの成果もあげたことがない凡人だった。その頃、ソビエトは初めての有人宇宙旅行を計画していた。アメリカがやってのけたので、ソビエトとしても負けてはいられなかった。
9号は、ソビエトが打ち上げる宇宙船のパイロットとして抜擢された。ソビエト連邦で初めて月面に着陸できるという功績を残せることを胸に刻んで、9号を乗せたスプートニク9号は宇宙へと飛び立った。
しかし、月面に着陸後そこから帰れなくなってしまい。その星に留まった。そして、彼がずっと心のうちに抱えていた「怖い」という感情を最重要とする世界を作り上げた。

甘電池たちは車に乗って、K-1グランプリの会場から逃げていった。そして一同は車から降りると、手に入れた宇宙船を目の前にして、この宇宙船には一人しか乗れないことを知り、誰が地球に帰るかを話し合うことになる。甘電池は自分は地球に帰りたいという。なぜなら自分は強運の持ち主だったから。一方でUBはこの星に留まると言う。
他のこの星の住人たちはと伺うと、彼らはもうすでに死んでいると答える。そしてナショナルが、ブラウン管の中に花を詰めて棺桶みたくしたいというので、早速皆でナショナルの葬式をすることになる。
葬式で皆は着替えて踊る。そして甘電池は宇宙船に乗ってこの星を後にしようとする。しかし、何かが邪魔して宇宙船は進まない。そして星の住人たちが宇宙船を押して上演は終了する。

第一幕は、ぼんやりとストーリーは分かるのだけれど、そのあまりにも突飛すぎるシナリオと登場人物の連続で、一体何をみさせられているのだろうと思った。もう少し、第一幕で登場したキャラクターの設定を活かして伏線回収して欲しかったかなと思った。
また第一幕は、席移動の時間が多かったので没入感も少なくて、それが満足度を個人的には下げられた気がした。面白い演出を入れてきていると思うが、逆効果な部分も多々あった。
個人的には、第二幕のスプートニク9号が宇宙に飛び立つまでのストーリーは好きだった。なんで「怖い」という感情を重要視するようになったのか、9号に凄く感情移入出来てなんか好きだったし、席も固定されたので引き込まれた。
ただ、ラストで甘電池が地球に戻ろうとするが、そこと9号との対称性を上手く描いても良かったのかなと思った。ずっと恵まれてきた甘電池と恵まれなかった9号。対照的なので、そこをもっと上手く脚本に落とし込んでも良かったのではと個人的には思った。

写真引用元:ステージナタリー 南極ゴジラ「怪奇星キューのすべて」より。(撮影:松下奈央)



【世界観・演出】(※ネタバレあり)

スタンリー・キューブリック監督の世界といったら良いのか、1980年・90年代のSF映画の空間にいるような、あの頃しか描かれることがなかった特有のSF映画の世界観にずっと浸っているような感覚だった。観劇しているというよりは体験している感覚に近かった。それくらいアトラクション要素の多い演劇だった。ただその新感覚な演劇体験は、逆効果な部分もあって私の満足度を下げてしまっている要素も複数あった。
ここでは、そのような世界観・演出について、舞台装置、衣装、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていこうと思う。

まずは、舞台装置から。
銭湯の跡地を劇場にしたというユニークな北千住BUoYという劇場だが、そんな特殊な劇場を上手く活かしていて、確かにこんな演劇は北千住BUoYでないと絶対に出来ないよなと感じさせるくらい遊び倒していた。
客席エリアは劇場内に3箇所ある。また、今まで客席として使われていた場所がシーンによってはステージの一部にもなったりするといった、完全に客席とステージが分かれているような劇場では決して出来ないことを成し遂げていた。
まず序盤シーンでは、北千住BUoYの入り口を入って左手に平台が敷かれていて、そこにパイプ椅子や持ち運びできるミニ椅子が置かれていて、客席となっていた。その向かい、つまり序盤シーンでステージとなるエリアには、銭湯の面影を残した湯船があるのだが、そこを舞台装置の一部と見立ててプールとして扱っていた。そのステージの上手側には生演奏をする奏者たちと、観客が移動するときに劇場内でアナウンスをするラジオパーソナリティの方がいた。
次に観客が移動する客席は、北千住BUoYの劇場内の奥にあるエリアで、ここでも平台の上にパイプ椅子が置かれていた。またミニ椅子は観客自身が自分で持ち運んで座るルールになっている。この客席は、北千住BUoYの奥側から入り口側を見る形で配置されている。先ほどの客席エリアはステージの上手奥側に位置しており、生演奏者とラジオパーソナリティは、同じく上手側に位置している。ここでは、エレクトリカルパレードや焚火が登場するシーンが繰り広げられたり、第二幕が上演されたりした。客席とステージの境界部分には、白い綿のようなものを地面に沢山貼り付けた舞台美術が置かれていた。ここからの客席の眺めは、北千住BUoYの空間を遠くまで見渡せる位置になっているので、奥行きを上手く活かした演出が光っていた。例えば、出演者全員が一列になってシャトルランをやったり、遠くからエレクトリカルパレードがやってくる感じも、奥行きと照明演出を上手く活かしていて立体感のある演出が面白かった。だがしかし、どうしても客席によって見えずらいシーンが出来てしまったりする点が難点だった。特に何も知らずに下手側に座ってしまった私は、観客の頭でエレクトリカルパレードと甘電池、森山とのシーンが見えづらかったりした。そこは何を取るかだと思うが、もう少し動線を工夫して欲しいと感じた。
食卓のシーンでは、再び観客は席を移動して、今度は一番最初のシーンで座っていたエリア(平台が置かれている所)の後方になった。食卓があって、それを三方位に囲うようにしてパイプ椅子が置かれていた。ここも、最前列と2列目の席で若干段差があるものの、2列目に座った私は最前列の観客の頭で見えないシーンがあったので、ここももっと工夫して欲しかった。食卓は、まるで廃墟のような感じで準備がされていてそのまま時間が経ってしまった感じの印象があった。それが世界観と合っていた。また、上手側にはスタインが補充する牛乳のガソリンスタンドがあった。さらに、下手側にはピアノが置かれていてそこでずっとビニールが演奏していた。
次にK-1グランプリのシーンに移るのだが、そこでも観客は移動して、今度は一番最初に座っていたエリアで、逆向きにパイプ椅子が配置されているので、そこに座った。つまり、北千住BUoYの湯船のエリアを背にして、食卓などが置かれたエリアをステージとして観劇した。そのシーンでは食卓は片され、先程まで客席として使っていたエリアをK-1グランプリのステージに変貌させて、しっかり飾り付けしてレッドカーペットを敷いて上演された。ビニールが演奏するピアノは上手側に位置している。そこでK-1グランプリが催された。
第二幕は、エレクトリカルパレードが登場するシーンと同じエリアでずっと観劇していたので、眺めはそのシーンと変わらなかった。
北千住BUoYでないと絶対に実現できない演出を盛り込んでいて、かつ1980年代のSFっぽさを作り上げている点は素晴らしいのだが、客席を何度も移動することによってどうしてもシーンがぶつ切りになってしまうので、また移動時間に数分は要するので、その演出は個人的にはハマらなかった。第一幕と第二幕の間で切り替わるなら問題ないのだが、ちょっと移動が多かった印象だった。その分、移動のなかった第二幕は没入感あったけど。また、席によって見えにくいシーンが多々あるのはストレスだった。観劇というよりは体験という部分を重視している作品に感じたので、全部を見ようとしなくても良いのだとは思うが、観劇者のスタンスとしてその場で起こっていることはストレスなく目撃したいので、そういった演出部分は今後もっと調整していって欲しいと感じた。

次に衣装について。
衣装は世界観にぴたりとはまっていてとても良かった。決して豪華で金かけているという訳ではなく、ドンキホーテで買い集めてきたみたいなのと、作り物が多いと思うのだが、その独創的なセンスに惹かれた。
特に好きだった衣装は、スタインの衣装。あの腹部に牛の乳がついているホルスタインと人間が混在したような怪物感が良かった。またビニールのどこかヴァンパイアみたいな格好も好きだった。落ち着きがあるのと怖いけれどもどこか可愛らしさがあって魅力的だった。
あとは、全体的に最後にナショナルの葬式で着ていたラメ入りの衣装が好きだった。そんな衣装にまとって優雅に踊る彼らも素敵だった。
一番センスを感じるなと思ったのが、9号を演じる人物が、頭に鋼で出来た球体の被り物をしていたこと。9号だけあんな被り物をしていて、彼がクラスの中でマイノリティであるというのがどこからともなく伝わってきてグッときた。9号に感情移入しやすいようなそんな演出に感じた。また、今後宇宙飛行士になるという未来を示唆しているようにも感じ、宇宙飛行士のヘルメットにも見えなくなかった。
そのほかでは、生演奏の奏者が囚人服のような衣装だったのも面白かった。

次に映像について。
映像は私が記憶している箇所だと一ヶ所で、マッド先生による視力検査を受ける甘電池のシーンで、遠くに気球が見えるあの例の映像が投影されていた。ただ、私が座った客席の位置的に見えにくくてそれが勿体なかった。

次に舞台照明について。
本当に舞台照明も格好良くて、自分が1980年代のSFの世界に迷い込んでしまったかのようなそんな世界を作り出していた多くは、この照明演出によるパワーが強かったと思う。
真っ青に劇場全体を照らす照明や、真っ赤に照らす照明、真っ黄色に照らす照明、真緑に照らす照明、紫に照らす照明、その奇抜な色彩が1980年代のSFっぽく感じられて、映画『トータル・リコール』や映画『ブレードランナー』などを思い浮かべてしまった。
また、劇場の奥行きを活かしたステージに対して、向こう側に誰かいるという気配を上手く演出するために照明を上手く使っていたのも良かった。

次に舞台音響について。
音響こそハイクオリティでとんでもなく素晴らしかった。世界観にぴたりとハマっていて、こういった効果音や音楽を見つけてこれる、作曲して流せるってすごい才能だと思う。
まず客入れ中に流れていた宇宙船で通信を撮り続けているような環境音がとてつもなく格好良かった。これから宇宙系SFが始まるとワクワクした。そして、冒頭のシーンの宇宙船が救難信号に引きづられて着陸しようとするあの爆音がすごいインパクトがあって好きだった。ひたすら「ゴー」といっていて、「こういうのがまさに観たかった!」と叫びたかった。
生演奏も素晴らしい。囚人服の人たちが演奏している添える感じのBGMが、また優しいメロディに聞こえてほんわかした。SF且つホラーなのだけれど、怖いことはなくてそこには役者陣のキャラクター性の他に生演奏が持つほんわかした音楽があったと思う。
ビニールのピアノも好きだった。あのメロディでどことなく屋敷っぽさが出る。そして、これは私だけかもしれないけれど、マッド先生に甘電池がピアノのメロディを聴きながら恐怖するシーンが、スタンリーキューブリック監督の映画『時計仕掛けのオレンジ』を彷彿させられた。『時計じかけのオレンジ』では、ベートーベンの第九が主人公のトラウマになってしまうが、それとおんなじ匂いをこのシーンでどことなく感じた。
終盤の葬式のシーンでみんなで踊るときの優雅な音楽も良かった。こんなに音楽のバリエーションがあるのに、世界観として一貫しているのが凄い。
また、効果音に関してだが、ナショナルが喋るとエコーがかかっているのもなんか良かった。どこかあのブラウン管が宇宙飛行士のヘルメットにも見えてくる。まるでヘリウムを吸って声が変わってしまったかのような独特な喋り方が良かった。
あと特殊だなと思ったのが、観客がラジオを持ち込めて、周波数を「8.11Hz(たしか)」にすれば音楽が流れる仕掛けになっているということ。おそらくこれは、音響を3Dにしたかったのかなと思う。舞台空間が今回の作品は3Dなのであらゆる場所にスピーカーを置きたいが置き切らないので、こういった仕掛けも用意していたのだと思う。面白いなと思った。
また、ラジオのパーソナリティによるラジオもほのぼのとして良かった。この音声も、今作をホラーのように感じずに観劇させてくれた要因な気がした。

最後にその他演出部分について。
衣装、舞台照明、舞台音響といったスタッフワークは非常に世界観の統一が取れていて、唯一無二な宇宙空間とSFを演出出来ていたと思うが、体験型の演劇にさせるのか従来の観劇スタイルにするのか、そのどっちつかずな感じが、私のフラストレーションだったのかもしれず、途中途中移動を挟む演出や見えにくさといった物理的な障害はもっと再考の余地があったと思う。
大好きだったシーンでいえば、冒頭の役者たちが輪になって手を繋いで叫ぶことで宇宙船が緊急状態になったシーンを演出していたシーン、あそこは凄くインパクトがあって面白かった。エレクトリカルパレードが向こう側から登場する感じも好きだった。劇場の奥行きを活かした演出だった。マッド先生によって甘電池が視力検査を受けるシーンの男性が近づくホラーもお気に入りのシーンだし良い演出だった。シャトルランのシーンで、9号がどんどんついていけなくなる感じも彼に感情移入出来て良かった。ラストのナショナルの葬式と着替えてダンスのシーンも良かった。
また、最後甘電池が宇宙船に乗って帰るときの宇宙船が台車のようになっていて、そこに白い球体が取り付けてあったのもユニークで可愛かった。

写真引用元:ステージナタリー 南極ゴジラ「怪奇星キューのすべて」より。(撮影:松下奈央)



【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

おそらく学生演劇から立ち上がったという劇団だと思うので、まだ演技に関しても荒削りな部分は見受けられたように思うが、自分たちの好きな演劇を好きな形で伸び伸びとやっている楽しさはこちらも感じ取れた。
特に印象に残った役者についてみていくことにする。

まずは、甘電池役を演じていたユガミノーマルさん。
スポーツ刈りで日焼けしているので、高校野球球児のような出立のユガミさん。こういった1980年代の洋画にありそうなSFホラーの作品だから、勝手にウィル・スミスとかを連想してしまって、非常に世界観にハマっていた。
特に印象に残っているのは、スタンリー・キューブリック監督映画のように、思い切り「ウアーーー」と叫んで怖がる演技が好きだった。映画『時計じかけのオレンジ』で主人公が第九を聴き、目薬を入れながら虐待シーンを見させられたときにそれがトラウマになって恐怖するシーンがあったが、それを連想するくらい世界観とシチュエーションが似ていた。あとは、スタンリー・キューブリック監督映画の『2001年宇宙の旅』で、主人公の宇宙飛行士が木星付近にあった異次元空間に吸い込まれていくの、あのドアップで恐怖する映像を思い浮かべたりした。とても昔のSFっぽさがあって凄く良かった。
あとは、個人的には9号と性格が正反対で、自分の運の強さみたいなものに自信に満ち溢れている感じも良かった。

次に、エレクトリカルパレード役を演じた瀬戸璃子さんも良かった。
脱力感があって、且つ彼女にしか持っていない特殊なキャラクター性が「こわい星」の住人らしさを醸し出していた。個人的にはあの存在感がツボだった。そしてモノローグにどこか説得力がある。なぜか聞き入ってしまう謎の魅力があった。
あとは彼女の声も良かった。ちょっと甘ったるい(良い意味で)感じが、SFホラーの世界なのに怖さを緩和してくれた感じがあって良かった。
そしてラストのダンスも好きだった。

ナショナル役を演じていた古田絵夢さんも演技が好きだった。
古田さんも瀬戸さんと近くて、あのほのぼの感のあるホワホワしたボイスが印象的だった。
またナショナルのキャラクター設定も良くて、ブラウン管を棺桶と見立てて花に埋め尽くされながら葬式をしたいという独特な願望も面白かった。

ビニール役を演じた揺楽瑠香さんも良かった。
まずピアノをあそこまで弾けるのが凄い。あそこのシーンであの曲を流すという演出も素晴らしいのだが、優しいメロディでピアノを弾く姿も観劇のうちだった。
またあのヴァンパイアみたいな格好が好きだった。非常に揺楽さんに似合っていた。そして喋り方も落ちいていて威厳があった。もっと出番があっても(特に後半)いいのになと思った。

πと9号役を演じたミワチヒロさんも良かった。
πではどちらかというとはっちゃける感じのキャラクター設定だったが、9号は孤独な男性なのでずっと下を向いていて物凄いギャップだった。しかし、私的には9号の役の方が好きだった。
あの下を向いて項垂れている感じが凄く良くて、なんか非常に自然と彼に視線がいってしまうし感情移入してしまう。自分も子供の頃友達が少なかったので、そんな昔の自分を見ているように思えたからなのかもしれない。あの内向きで優しそうな存在感が堪らなく好きだった。

写真引用元:ステージナタリー 南極ゴジラ「怪奇星キューのすべて」より。(撮影:松下奈央)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

「南極ゴジラ」というまだ結成まもない若手劇団は、昨年王子小劇場で上演された『地底探検』では「ダウ90000」の蓮見翔さんをアフタートークに呼んだり、今年(2023年)上演された悪い芝居の新作公演『逃避奇行クラブ』では、ユガミノーマルさん、端栞里さん、瀬安勇志さんが出演するなど、この1年でかなり活動フィールドを広げている人気急上昇中の劇団である。
「SFホラー」というジャンルを聞いて私は観劇したのだが、たしかにSF要素は強めで、1980年代、1990年代のSF映画、例えば『トータル・リコール』『ブレードランナー』『インデペンデンスデイ』あたりを想起させられたり、スタンリー・キューブリック監督作品(例えば『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』)を連想させられた。一方でホラーかというとそこまで怖いシーンはなく、どちらかというとホラーをコメディっぽく演じているので、まったく恐怖することはなかった。
一方で、今作は観劇というよりもむしろ体験型の演劇だとも思った。というか、前半は体験型演劇であり、後半は一般的な観劇する演劇という感じだろうか。
とにかく予想を色んな意味で超えてきたので、間違いなく忘れることのない観劇体験にはなったのだが、満足度としてはそこまで高くはなかった。その理由について、脚本の軸と演出の軸で私の感想を記載していく。

まずは脚本について。正直脚本で主張したいメッセージはよく分からなかったし刺さらなかった。台本を買っていないので、台本を買って読み直せばもうちょっと理解度は増したのかもしれないが、少なくとも観劇によってストーリーを理解しながら楽しめたということはなかった。
まず第一幕については、三人の宇宙飛行士である甘電池と森山ボンドとUBが「こわい星」に誤って着陸してしまい、甘電池と森山は、星の住人であるエレクトリカルパレードからここを脱出したかったらK-1グランプリで怖い話で優勝して脱出用の宇宙船を確保して脱出するように言われ、浮動翔太という脚本家に出会って台本を書いてもらって、見事K-1グランプリで優勝する。一方、逸れてしまったUBは、焚火やスタインといった旅の仲間を見つけて街を目指し、K-1グランプリに挑戦する甘電池たちに出くわす。こんな大まかなストーリーラインは分かったのだが、湯気やマッド先生やビニールはなんだったのか分からないし、ただこの星では「怖」という感情が重要視されているということを示すエピソードなだけになってしまって、もう少し後半で伏線を回収したり、キャラクターの設定を深掘りしてほしかった。
これだけだと、ただただ作者がやりたいエピソードを盛り込んだだけに見えてしまった。おそらく、この作品ではありとあらゆるバリエーションの「怖い」エピソードを扱っているのだと思う。序盤のプールからいきなり怪物が出てきて森山をさらってしまう怖さと、視力検査の気球の画像を見るときの怖さって全く別のベクトルな気がしている。きっと、様々な観客に色んな怖いを体験させるためにこのようなシーンを入れたのだと推察した。
ただ、それはそれでエピソードとして独立なのは良いのだが、もう少し最後で伏線として繋がる様に脚本を描いて欲しかったかなと思った。それが繋がって初めて、色々と各シーンの解釈が出来るので個人的には面白さが倍増したと思う。

第二幕の9号がなぜ星にやってきたのかの件は非常に引き込まれた。一番好きなエピソードだった。9号の孤独心とソビエトという国に利用されてしまう悲劇は、心を動かされた。
しかし、終盤の甘電池が地球に戻ろうとするシーンや、ナショナルの葬式のシーンは、演出的には面白かったが、脚本としては全体とどう繋がってくるか分からなかった。三人の宇宙飛行士以外はみんな死んでいて、きっとこの星はお化け屋敷的な機能を果たしているのだと思うが、やっぱり伝えたいメッセージが分からなかった。

次に演出について。
様々な特殊な演出を入れ込んでくること自体は挑戦的で良いのだが、特に前半の15分単位で座席移動する体験型演劇の演出は個人的にはハマらなかった。せっかく物語に没入しているのに、そこで集中力を冷めさせてしまうのは勿体なかった。
また客席も、パイプ椅子の置かれ方的に通路がなくてパイプ椅子を跨ぐことでしかいけない席があったりと動線としても問題はあったかなと思う。これは制作に対する感想にもなるかもしれないが。
そして一番気になったのが、やはり席からの舞台の見え方。これが一番苦しかった。どうしても見えにくいシーンは席によっては多々あって、それはストレスだった。メインで話している役者が、観客の影になってしまったり、劇場の柱で見えないシーンが何ヶ所もあったので、そこはストレスになった。
あとは、世界観的に狙っている部分もあるからどうしようもないかもしれないが、舞台空間の衛生面が全体的に気になった。ちょっと途中で気分が悪くなりそうなこともあって、もっと衛生面に気を遣って欲しかったかなとも思った。さすれば、もっと客層の幅は広がるかなと思った。
ラジオ持ち込みは発想としては面白かったが、果たして必要だっただろうか。自分が持ってきたラジオから音が出たら面白いし、これはおそらく色々な箇所から音が聞こえるという演出を狙ったものに思えるが、下手すればノイズがうるさかったりして事故るのでリスキーかなと思った。
あとは、お金もあまりないと思うので、致し方ないかもしれないがもう少し舞台美術は手作りっぽさを無くして欲しかった。学芸会で作った様なクオリティだったので、もうちょっと綺麗に作って欲しかったかなと思う。

色々注文を書いてしまったが、間違いなく演劇センスが非常に高い集団であるし、舞台空間の作り方のセンスは本当に抜群だったし唯一無二の団体だと思っている。これだけの人材を揃えて、関西から東京に来てしまうというのは天才だと思う。
ただ、普段観劇している作品をベースに考えると、以上のようなことが気になったので、私の意見は一感想と思って、参考にするもしないも勝手だが、もっと素晴らしい演劇作品を作っていって欲しいと思う。
非常に今後の活躍が楽しみな劇団で観劇できて良かった。

写真引用元:ステージナタリー 南極ゴジラ「怪奇星キューのすべて」より。(撮影:松下奈央)

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