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束の間小説

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以前なるべく一日一本投稿していたもの。 ほんのすこし読みたいのに、本一冊は重すぎる、と思っている人に。 束の間の小説を贈ります。 あなたの京都になれなくても、あなたの箱庭になり…
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2024年2月の記事一覧

頭痛のしない音はないんだった。

耳に異物をつけたまま、各駅停車に揺られる。 再生リストをしばらく眺めて、頭痛のしない音楽…

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冬の息、意外と

白い、暑い、湿っぽい。 喉を焼き切るような冷たさ。 君の亡霊は地平線の向こう側を走っている…

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駅前の明るい階段をのぼってた。神殿へと続くらしい。どろどろに酔って足元がふらふらしてた。…

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ひとりごと

ひとりごとを集めたゴミ箱がある。 あちこちの通学路の排水溝に蹴った石たちが、流れ流れて薄…

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初めましての場所

 どこかであった気がするとか、そういうのは置いておいて、ただ新鮮な風をそのままにスカート…

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いつも。

寂しい。それ以外の感情はあるんだけど、ごった返していて、引っ越したばかりの部屋に積まれた…

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夜を歩く胎児

生まれてからこんなにも経ったのに、まだ生きている心地がしない。 私の中に眠っている胎児の私がいて、まだ生きたくないと丸まっている気がする。その胎児のために羊水を温かくして、栄養を供給して、陽の光を浴びる。自ら生きている感覚が欠如している。 私は私自身をお腹に抱えた妊婦だと思えば許されるだろうか。すぐに傷つく感情も、感傷も、頼ることも、忘れることも。 今日も街を歩く。みんな自分を生きている。張った胸に生命が燃えている。みんなの背中がどんどん遠ざかっていく。地を浮遊している

束の間小説 3本

生きていたとして。あなたが生きていたとして。ずっと胸の奥がえぐられるように傷んだとして。…

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いきをすういぞんしょう

これで人生終わりにする。 ビルの隙間に沈むのも終わりにする。 わざと喫煙所のちかくを通っ…

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音声入力

私はもうここにはいない いていいはずがない だってあの時 消えたんだもの あの時 死にたい思…

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ああ忘れちゃった

夢がインクに沁みて、そのまま雨に流れた。紙は溶けて霧散した。夢だったと思う。それは確かに…

3

わたしの園

わたしの園はなるべく飾りたいと思う。チョコレートだとか花壇だとかがたくさんあるお庭がいい…

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夕焼けに透かした秘密

少し待ってほしい。横断歩道の真ん中で夕陽を見ていて。引っ越し業者も賃走のタクシーもきみに…

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殺傷

真面目に信じてたあなたのこと信じてた愛してた胸ぐら掴んで震度5強で揺すりたいほど愛してた。キスがとどかなくてもよかったどこかに家の鍵を落とした夜中に探し回ったあなたは震えてた寒かった血が出た白い車が赤いサイレンを鳴らして来て鍵が見つかってよかったねってきみは笑わなくてあとはお察しの通り。