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いきをすういぞんしょう

これで人生終わりにする。

ビルの隙間に沈むのも終わりにする。

わざと喫煙所のちかくを通ってニコチンの煙を吸うのもやめる。
コートのポケットに手をつっこんでアウトサイダー少年のフリをするのもやめる。
窓を開けて冬のをかぐのもやめる。

きのうお医者様に診断書をもらった。あの世行き。呼吸依存症だって。やってきたのは最果ての病棟。まず手術台。肺を取り除いた。手が震えた。麻酔から覚めて、まだ肌がぼうっと張ったまま、水色のマスクをした医者につかみかかった。お前の肺をよこせよ。何平然としらばっくれてんだよ。医者は無表情にゴム手袋を外して、そのうち治りますよ、といった。
胸にずっと閉塞感があって、肺の代わりに詰め物を入れられたことを知った。不安は運命みたいに戸を叩いた。後頭部に常にナイフがいるような。

永い入院生活の末に、私は復帰した。
やっぱりね、と医者が笑ったので、お前もいずれな、といっておいた。
おかげで胸のあたりが静かな湖面みたく凪いでいた。

もらったお金は雨乃よるるの事業費または自己投資に使われるかもしれないし食費に消えるかもしれない